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第四章 おまいり
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しおりを挟むスズカケノ池へ行った翌日、朝から私はお祖父ちゃんに説教をされていた。
それは朝ご飯を食べ終わって、午前中の課題をやっつけてしまう為二階へ上がる時に、玄関チャイムが鳴ったのが切っ掛けだった。
朝から誰だろうと思い、階段の途中から顔を出して玄関を窺っていると、対応している夏子さんの陰に見知った姿が見えた。
那奈と那奈のお兄ちゃんと、首にタオルを巻いて作業着を着ているのは多分二人のお父さん。
お父さんはしきりに夏子さんに頭を下げていて、庭で作業をしていたお祖父ちゃんが何事かと三人の後ろから現れる。
それから少しして私が呼ばれた。
もう覚悟は出来ていた。
彼らは私にスズ石を返しに来たのだ。
私は那奈のお兄ちゃんからスズ石を受け取り、ポケットに入れる。
玉彦の言う通りになったなぁ、と感心していると三人が帰ったあとお祖父ちゃんは鬼の形相を私に向けた。
「お前、スズカケノ池へ行ったんか! あれ程ダメだと釘を刺しておいたのに!」
うわぁ~……。
「と、いう訳で。しばらく外出禁止になったわけよ……」
私は玉彦のお屋敷の台所のテーブルに突っ伏した。
隣には右腕にボールを抱えて卵白を一生懸命泡立てる例のちょんまげ頭の玉彦。
いつもと違うのは、そこに夏休みが始まった御門森くん、いや、豹馬くんが居ること。
御門森くんと呼ぶと、無駄に南天さんも反応してしまうので、豹馬くんと呼ぶことになった。
「それは災難でしたね」
南天さんが気の毒そうに突っ伏している私の後頭部を慰めてくれる。
「自業自得と言うのだ」
玉彦は豹馬くんにボールを押し付け、両腕を伸ばして一伸びする。
渡された豹馬くんは何事も無かったかのように、泡立て始めると不思議そうに首を傾げた。
「で、なんで玉様の屋敷には来れたの?」
「それがねぇ、良く解かんないけど玉彦のとこだけ許可が下りたのよ」
「ここだけとは、お前の日頃の行いが悪いからだな」
ふふん、と玉彦は鼻で笑う。
日頃の行いって、私ここに来てまだ日が浅いんですけど。
私は二人に言わなかったけど、実はこの件に関して南天さんが一役買ってくれていた。
あの日、この屋敷で夕ご飯を食べて南天さんに家まで送ってもらった時、彼がお祖父ちゃんにしばらくは何があるかわからないから屋敷には通う様にと言ってくれていたのだ。
さっき南天さんに、何があるかわからないって何かあるかもしれないのか聞いてみたら、飄々と「嘘も方便です」とニコリと言った。
果たしてお祖父ちゃんに言ったことがそうなのか、私に言ったことがそうなのか真相は闇の中だ。
ともあれ私はこうして何にもない家から、出られている。
それはありがたいことだった。
「玉様の屋敷から出ちゃいけないの?」
「どうして?」
突っ伏していた顔を横に向け、豹馬くんに視線を合わせる。
「このあと昼が終わったら、みんなで山へ行くんだ。八月の祭りの為に山で集めるものとかあって」
「お祭りかぁ」
私は初日に見た大きな赤い鳥居がある神社を思い浮かべた。
小さな村にしては立派な神社で、そこはお祖父ちゃんに行くことを禁じられていなかった。
「何集めるの?」
「神様に捧ぐ木の実とか」
「ふーん。玉彦は? 一緒に?」
「俺は行けない。祭りには参加させられるが」
私は玉彦が屋敷から出歩かないと思っていたので山の件は納得したけど、お祭りに参加すると聞いて驚いた。
「玉彦でも外に出るんだ!」
「当たり前だ! お前、俺を座敷童か何かと勘違いしてるだろう!」
「まぁその髪形だし? 否定は出来ないよね」
「これはっ! 元服の儀が終わった後、改められるはずだったのだ」
「じゃあなんでいまだにその頭なのよ」
「髪を落とす役割は、父と決まっている」
玉彦は小さく呟いて、ストレートでサラサラな髪を握り締めた。
そこで私は澄彦さんがここに居ないから、そのままなんだと理解した。
それにしても澄彦さんは一体どこへ行っているんだろう。
ここに来てまだ一度も会えていない。
「でも玉彦のイメージはもうそれで決まっちゃったから、私はその髪形もアリだと思う」
「別にお前にアリだと言われても嬉しくない」
ぷいっとちょんまげを揺らして横を向いた玉彦が小さな子供のように見えて、私は笑ってしまった。
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