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番外編 鈴木和夫のお話
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しおりを挟む「あら~。三郎さん。どこの子だー?」
「おぉ~。玉彦様の紹介でな~」
「正武家様の~? これまたあおっちょろいなー」
「まー猫の手も借りたいとこだしな。はっはっは」
オレはどうやらひ弱で、手は猫の手らしいことを初めて知った。
朝ご飯が終わって着替えを渡されたオレは、大人しく作業着に着替えた。
それから御門森が迎えに来て、玉様の家からすぐの立派な田舎の日本家屋に連れて来られた。
玉様の家は映画のセットのような造りだったが、ここは生活感が溢れた家だった。
日本人なら一度は思い浮かべる田舎のお爺ちゃんの家だ。
緑の垣根に囲まれ、玄関先で鶏が走り回り、縁側はオープン。
家の前に停められた軽トラと赤い軽自動車が妙に浮いて見えた。
そこは馬か荷車が良かった。
夏が近いこの季節、もう既にかなり気温は上がっていたが身体に吹く山からの風は冷やりとしている。
これならば今日一日何とか頑張れそうだ。と思ったが、動けば暑くなるもので、オレは指示された空のプラスチックの青いカゴを十個納屋に運んだところでHPは半分になっていた。
納屋の中では緑の葉物野菜をおばさんたちが詰めカゴに並べて、満タンになったカゴを比和子ちゃんの叔父さんが軽トラに運んでいく。
明らかにあっちの方が重いのに軽々と二個持ちで積み込んでいく姿は格好が良かった。
とりあえず午前中の休憩ということで、縁側で振舞われた麦茶は超美味かった。
おばさんハーレムにちやほやされていたら、オレの人気を奪うやつが現れた。
そいつは縁側に座っていたオレにドロップキックをかましてきた。
振り向くと赤いTシャツに白いハーフパンツの日本人形が底意地悪そうにニヤリと笑う。
あと十年もすればストライクゾーンに入るが、いくら可愛くてもオレはロリコンではない。
それに問答無用でドロップキックっておかしいだろ!?
「き、君はどこの子かな?」
拳骨を落としたい気持ちを押さえ、精一杯大人の余裕を持って頑張って笑って聞くと、その子は腕組みをしてオレを見下ろした。
若干見下ろした感じだったが、オレには遥か高い崖から見下されている気分になった。
「上守希来里」
「上守? じゃあ比和子ちゃんの?」
「いとこだよ。下僕め」
「げっ、下僕!?」
こんな小学低学年の子供から大よそ出て来ない言葉が出て来て、オレは二の句が出てこなかった。
希来里はオレの膝に爪先を乗せると、ふふんと何故か誇らしげに笑う。
いとこと言うか、どちらかと言えば玉様と比和子ちゃんの子供だと言われた方がしっくりくるんだが。
口の悪さと不遜な態度。
あまりの仕打ちに固まっていれば、おばさんハーレムは皆微笑んでいるだけで注意をしない。
皆、この可愛らしい姿にすっかり絆されて騙されている。
「い、嫌だなぁ。オレは下僕じゃないよ?」
女王様の奴隷になりたいと思ったことはあっても、下僕になりたいと思ったことは無い。
奴隷と下僕の違いは分からないが、下僕はご褒美がもらえなさそうだ。
「だって稀人さまじゃないんでしょ?」
「まれびとさま?」
「村の人じゃないんでしょ?」
「まぁ確かに」
「仕事してない人なんでしょ?」
「違う。そこは違うぞ。一応学生だ」
「でも玉ちゃんのお屋敷でタダでご飯食べようとしてお姉ちゃんに成敗されて負けたんでしょ?」
「成敗!?」
「食い逃げ泥棒だから罰が当たってお祖父ちゃんのとこ来たんでしょ?」
やべぇ。ぐうの音も出ねぇ。
押され気味になったオレはハーレムに助けを求める視線を送ったが時すでに遅し。
彼女たちはオレが玉様の家で何かをやらかしたと察知して、そそくさと休憩を切り上げた。
え、何この嫌われ方。あからさま過ぎない?
彼女たちの背中に手を伸ばしても届くはずもなく、リーダー格のおばさんが振り向いて汚物を見る目つきをする。
「次代様のお客人じゃなくて盗人か。しょうもない!」
「えええぇぇ……」
次代様って誰だよ。玉様のことかよ。
打ちひしがれたオレは縁側に寝そべるように倒れこんだ。
なにここ。 閉鎖的過ぎない?
「ぐっはっ!」
背中に痛みが走り腕を回すとさっと逃げて行く。
希来里に足蹴にされたのだ。
コイツがばらさなければオレはハーレムの主だったのに!
おばさんばっかだけども。
一言文句を言ってやろうと勢いよく起き上がる。
部屋を見渡すともう希来里の姿は無く、玄関のガラガラというドアが開く音が聞こえて奴が靴を履いて飛び出してきた。
逃げるつもりか、このやろー!
二三歩追い掛けると、希来里は垣根の向こうから現れた人影にぶつかり動きを止める。
誰だか知らんがいい仕事をしてくれた。
大股でそこに向かえば、影の主は中学生くらいの少年で抱き付いた希来里の頭を撫でていた。
いかにも優等生風の優男で、でもどこか誰かを思い出させる。
「こんにちは」
「あっ、こんにちは」
挨拶には挨拶で返さなければならない。挨拶は基本だ。
声変わり中のようで少しだけ擦れた声の少年は御門森竜輝です。と名乗る。
御門森。こんな珍しい名字は滅多にない。
「つーことは、豹馬の」
「甥に当たります」
「甥っ子……」
「父は南天と申します。昨晩お会いになられたかと」
「昨日?」
玄関から出てきた男か、包丁を研いでいた男か。
玉様をアイツ呼ばわりしたスーツの男はたぶん、玉様関係者だ。
ということは包丁の方か。
会ったというか見たというか隠れたというか微妙な感じだけど、まぁ存在は知っている。
「はい。正武家様のお屋敷に詰めております」
「で、その息子がどうしてここに?」
「はい。鈴木さんがこちらで困らないようにと父から言いつかり、参りました。遅くなりすいません」
竜輝はオレに頭を下げると、これからお仕事だからと希来里の背中を押して家の中に戻るように促した。
「手伝ってくれるの?」
「はい。今日は部活も休みですし、身体を動かしたいと思っていたので」
よく解らんが、包丁の人はきっと良い人だ。
そして偏見を持たないリベラルな少年もきっと良い子だ。
そもそも論だがなんだって玉様の家でちょっとやらかしたくらいでこんな扱いを受けるのか意味が解らん。
おばちゃんたちに理由を聞こうにももうそんな仲良くなれる雰囲気でもないし、比和子ちゃんのお爺ちゃんや叔父さんは忙しそうだし構ってくれなさそうだし。
希来里にいたってはあからさまにオレを見下してる感満載で聞く気にもならない。
つーか小学低学年に真剣に質問したところで正確な答えが返ってくるとは思えない。
だったらこの御門森の甥っ子に聞いた方が的確な答えを返してくれる気がするんだ。
「あのよ……」
意を決して口を開けば、竜輝は腕まくりをしてオレの横を通り過ぎた。
あれ? え、ちょっと待って。
慌てて背中を追い掛けると竜輝はオレが一つずつ運んでいた青いカゴを軽々と三個重ねて持ち上げ、運んでいく。
「鈴木さん。早く運ばないと皆さんお困りですよ」
「あ、はい」
後で聞けばいいか。時間はまだある。
そう思ってオレは休憩を終わらせて作業に励んだ。
しかし、夕方になり精も根も尽き果てたオレは竜輝の帰宅にも気が付かず、御門森のお迎えを待っていた縁側でうつらうつらと眠りこけ、気が付けば布団の中に居り、目を開けると見知らぬ天井がそこにあった。
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