私と玉彦の暗闇の惨禍、或いは讃歌

清水 律

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番外編 鈴木和夫のお話

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 晩ご飯が終わり、オレは一人ぽつんと部屋にいる。 

 一週間ぶりに彼女と会った玉様は一緒に帰って来たオレには目もくれずに、彼女と二人きりを満喫しているようだ。 
 さっき襖の向こうを確認したが、婆さんはもう見張りに立ってはいなかった。 
 探検へ行こうと思っていたけど、玉様と比和子ちゃんから夜中は歩き回らない方が良いと何度も釘を刺された。 
 比和子ちゃんの言い方は待ち針程度の釘だけど玉様のは五寸釘だ。 
 屋敷を出て山道を下り、村へは絶対に出るなというのである。 
 言われなくとも真っ暗な道を下る勇気はない。 
 でも駄目だと言われれば言われるほど行ってみたいと思うのは人間の好奇心というものだろう。 
 オレは最低限の持ち物、財布とスマホをパンツのポケットに入れてのそりと行動を始める。 

 まずは懐中電灯をゲットしなくてはならない。 
 部屋を捜し回ったがここには無いようだ。 
 もし今、大地震とか災害があったらどうするんだ。 
 屋敷の防災対策に不満を持ちつつ、オレは廊下を進む。 
 流石にトイレはこの向こうだからうろちょろしているのを見つかっても何も言われないだろ。 

 それにしても人気のない屋敷である。 
 襖が閉められた部屋を恐々覗くとオレのところと同じく色気のない部屋ばかりだ。 
 途中電気が点いている場所を通り過ぎれば、そこは台所で男の人が何かしていた。 
 見間違いでなければ包丁を研いでいた。 
 淡々と腕を動かす仕草に足を止めて背中を眺めていると、オレの気配を察知したのか振り向いた。 
 オレは慌てて廊下の壁にへばりつくように隠れる。 

 こんな時間に男が台所で包丁を研ぐって。 
 玉様の家の料理人にも見えないし、何者だ。 
 いや、普通に考えて家の人か。 
 すっかりこの不気味な屋敷の雰囲気に飲まれて、見るもの全てが怪しくなってしまっている。 
 台所になら懐中電灯があるような気がしなくもないが、人がいるので諦めた。 

 そこからそろりそろりと進み、ほんわりと湿気がオレの鼻を擽った。 
 柑橘系の湯気の香りだ。 
 さっき比和子ちゃんに案内された風呂場が近い。 
 玉様用とその他用は別にあり、オレは勿論その他用を使う様にと言われている。 
 風呂場の前を通りかかると入浴中の札がぶら下げられており、オレは再び足を止めて耳をそばだてる。  

 可愛らしい鼻歌が聞こえて、男の声が何か言うと歌が変わる。 
 どうやら二人で曲名当てっこをしているようだ。 
 なんというリア充。オレも服を脱いで乱入したい。 
 実家で彼女とお風呂とか、親に知られたら悶絶ものだ。 
 つーか普通一緒に入らないだろ。ここはラブホか。 
 沸々と嫉妬心が沸き上がるが、ここはグッと堪える。 

 ここに二人がいるということはオレに監視の目はない。 
 気を付けなければならないのは婆さん二人のみだ。 
 ちなみにここへ来てから玉様の家族に一度も会っていないのが気に掛かる。 
 兄弟はいないという話しだったから、父ちゃんと母ちゃんはいるのだろう。 
 一人息子が帰って来ておかえりと出迎えても良さそうなものだが。 

 ……玉様にも色々あるんだろう。こんなデカい家だしな。もしかしたら玉様の母ちゃんは既に亡くなっていて、後妻が収まっているのかもしれん。そして父ちゃんはそっちに肩入れをして玉様には構っていないのかもしれん。だからせめて金や物を与えているのかもしれん。 

 オレは最大限の思い遣りとスルースキルを発揮し、風呂場前を通過した。 
 で、それからぐるぐると屋敷内を探検するが懐中電灯が見当たらない。 

 その内スマホの明かりでも何とかなるかと思って、今度はオレのスニーカーがある玄関へと向かったのは良いが、玄関が、見つからねぇ! 
 玉様方面の部屋を出て、外廊下と呼ばれるとこを通過し、再び色んな部屋がある場所を通れば玄関に辿り着くはずが、オレは外廊下にすら到着出来ずに彷徨う羽目になった。 
 なんだここは。新手のアトラクションか!しかもホラー系の! 
 歩けど歩けどあるのは襖と部屋のみで、人様の屋敷で遭難しそうになっていたらピロリンとオレのスマホが鳴った。 
 玉様がオレを捜してくれているのかと思ったが、玉様の連絡先を知らないことに気が付く。 
 いつも御門森か須藤と連絡を取り合っていて二人に言えば玉様にも話は繋がるしたいして気にしてはいなかった。 
 そもそも玉様がスマホをいじっているのを見たことがなかった。 
 半べそになりながらスマホの画面を見れば御門森からのメッセージがあって、正武家屋敷三か条が書かれていた。 

『正武家家人の言うことは絶対』 

『上守にちょっかい出すな』 

『案内人の婆さんには逆らうな』 

 二番目と三番目は大丈夫。 
 でも初っ端の一番目はもう手遅れだ。 
 震える指先で御門森に電話をし、オレの現状を伝えれば向こう側で鼻で笑ったのが判った。 
 それからオレの現在地を聞いた御門森は部屋までナビをしくれた。 

 やっぱり持つべきものは口が悪くても優しい友達だ(二回目)。 

 部屋へ帰る途中の御門森の話によれば、オレはあともう少しで外廊下には到着出来た様である。 

 しかしそこには分かれ道があり、離れと呼ばれる玄関がある方へと進めば問題は無いが、玉様の父親の母屋というところへ足を踏み入れたが最後、無事では帰られなくなっていただろうと言われてオレは何を大袈裟なことをと思った。  


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