私と玉彦の暗闇の惨禍、或いは讃歌

清水 律

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これからも

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「澄彦さん。お願いがあります」

「はい、どうぞ」

「私と玉彦に長期休暇を下さい」

「賭けに勝ったらいいよ」

「賭けの内容は何ですか?」

「比和子ちゃんが決めて良いよ」

「ありがとうございます」

「うんうん」

「私が決める代わりに澄彦さんが先に賭けて良いですからね。私は残った方に賭けます」

「ほほう。面白いね」

「では賭けの内容は……」

 私は辺りをぐるっと見渡す。
 そして集まっていた稀人四人と玉彦を石段に座らせる。
 ついでに式神の黒駒に伏せをさせる。

「さてここに正武家当主の澄彦さんがいらっしゃいます。大変心が広く、意地悪なんて絶対にしません」

「うわっ、比和子ちゃん……。もしかして」

 腕組みをして余裕だった澄彦さんが俄かに慌てだした。
 気が付いたってもう遅いもん。

「だから私と玉彦が長期休暇を願えば良き父親で当主の澄彦さんは快く叶えてくれます。では澄彦さん。私と玉彦が長期休暇を下さいと言ったら、澄彦さんは何というでしょうか? 諾でしょうか? 否でしょうか?」

「……」

「澄彦さん」

 詰め寄った私に澄彦さんは目を閉じて権謀術数を張り巡らせる。
 諾に賭ければ、澄彦さんは長期休暇を叶えなくてはならない。
 そして否に賭け、私の質問に否と答えれば賭けには勝つ。
 けれど稀人の面々を前にしてそんな卑怯なことをすると当主としての面目が丸潰れだ。
 ケツの穴が小っちゃいと思われる。

「……息子よ。お前の嫁はとんでもないぞ」

「……承知しています」

 澄彦さんは腕組みをして空を仰いだ。

「そうだよなぁ。新婚旅行だって行かせてやれてないもんなぁ……。でもなぁ……」

「月子さんに旅行のお土産はお饅頭が良いと言われました」

「……諾に賭けます」

「じゃあ私は否で!」
 
 万歳をした私に、石段の面々が拍手をした。

「策士澄彦破れたり!」

「狡い、比和子ちゃん。男の矜持に関わることを賭けるなんて。しかも駄目押しに月子とか」

 口を尖らせた澄彦さんはいじけて足元の小石を蹴った。
 私は万歳のままの姿勢で澄彦さんの前に立って、そのまま澄彦さんに抱き付いた。
 深呼吸すると煙草の匂い。お父さんと同じ煙草を吸っている澄彦さんの匂い。

「えっ!?」

「比和子!」

「ありがとう、お義父さん」

「……狡い。狡いよ、比和子ちゃん。でも、ありがとう。……光一朗の分も僕に甘えるんだよ? 家出だっていつでもしていいからね」

 澄彦さんはそう言って私を強く抱きしめる。

「息子はどうでも良いけど、やっぱり娘は可愛い」

 少しだけ涙声で澄彦さんはそう呟きながら笑った。
 そしてその後ろで澄彦さんを引き剥がそうと石段から立ち上がった玉彦が見えた。

 このあと成敗と称して親子喧嘩が勃発することが予想できたけど、私はそのままでいる。

 私に再び家族と呼べる人たちがここにいる。
 玉彦も澄彦さんも。
 稀人のみんなも私の家族なんだ。
 正武家という名の下に揺るがない絆が出来た。

 もう二度と失わないために、私は流れが視え始めた次の段階へと進み始める神守の眼を静かに閉じた。

 ちなみに後でそのことが澄彦さんにバレて、賭けはいかさまだと指を差されたのは言うまでもない。
 この眼を利用して宝くじでも買おうかと本気で迷った私に対して、罰当たりなことを考えるなと玉彦は呆れた。

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