8 / 51
第一章 さいかい
7
しおりを挟むようやく辿り着いたお祖父ちゃんの家の垣根を覗き込む。
縁側から見えた茶の間では、少し遅い朝食の最中だった。
お祖父ちゃんとお祖母ちゃんがいて、光次朗叔父さんと夏子さん。そして希来里ちゃん。
「おじいちゃーん!」
私は飛び跳ねて手を振った。
すると辺りをきょろきょろして、玉彦と、頑張って飛び跳ねながら垣根から顔を出す私に気がついてくれた。
垣根を回り玄関へと向かうと、そこには一同勢揃い。
みんな変わりなさそうで安心した。
夏子さんにお母さんからの紙袋を渡して、また後で遊びに来ると伝えてお祖父ちゃんの家を出る。
もう少しゆっくりしていたかったけど、そうも出来ない事情がさっき澄彦さんからのメールで告げられた。
どうやら小百合さんのお父さんがお昼前に正武家を訪問するらしい。
玉彦はともかく、私の出番は確かなのでそれまでには帰らなくてはならない。
お祖父ちゃんの家から五百メートル。
そこには今風の一軒家が建っている。
ここは亜由美ちゃんの家。村で出来た初めての女の子の友達。
玄関チャイムのボタンを押すと、しばらくして奥からはーいと返事がある。
そしてドアが開かれ、そこには亜由美ちゃんがいた。
朝早くだったし、アポなしの訪問だったから、パジャマ姿の亜由美ちゃんは私を見て固まった。
「ひっ、比和子ちゃん!?」
「亜由美ちゃん、久しぶり~! 遊びに来たよっ! って今は顔出しに来ただけで、あとでゆっくり来るよ」
「ええぇ~! 言ってくれればもっと準備したのにー。それにしても比和子ちゃん、垢抜けたねー」
「ありがと。でも亜由美ちゃんも変わったねー」
あの頃の亜由美ちゃんは、三つ編みでちょっとそばかすがある素朴な感じの女の子だったけど、高二になった亜由美ちゃんは、栗色のボブで、眉のお手入れもしっかりしていて。
すっぴんなのは朝だからしょうがない。顔を始めに全体的にほっそりしている。
化けたな!ってレベルの変わりようだった。
「そんなことないない! ちっとも変わらんよー」
うん。話し方だけは変わってない。
亜由美ちゃんは私の後ろを覗き込み、玉彦にも挨拶する。
高校も一緒だからなのか、いたって普通だった。
前は少し、いやかなりビビってた。
そして私の耳に囁く。
「玉様、美しくなっててびっくりせんかった?」
「した。引いたわ!」
男子に美しくって使うのは嬉しくないかも知れないけど、亜由美ちゃんの言葉のチョイスは合っている。
私の反応に彼女は笑い出し、しばらく会話にならなかった。
亜由美ちゃんに次の約束をして、私たちは須藤くんの家に向かう予定だったのだけれど、歩いて向かうには時間と距離に無理があって午後から行くことにした。
でも玉彦があまりいい顔をしない。
どうしたのかと聞けば、須藤くんとは今部活のライバル関係なんだそうだ。
だからってそんな顔されてもねぇ……。
「ちなみに部活、何してるの?」
私はアルバイトをしているので、部活をしている暇はない。
女子高生は何かとお金が掛かるのだ。
「弓道だ」
「弓道……」
そうだ。須藤くんのお母さんも中々な腕前だったし、須藤くんも凄かった。
きっと彼の家は、その特殊な事情から弓の扱いには慣れている。
「いつから始めたの?」
「高校に入学してから。必ずどこかの部に所属しなくてはならなくてな。そう言えば午後からは部活で須藤は家に居ない」
「え、玉彦は行かないの?」
「優先順位というものがある」
言われてなんだかむず痒くなる。
玉彦も澄彦さんも、私を『そういう』風に扱ってくれてるけど。
お付き合いしましょう、わかりましたっていう儀式がまだない。
これだけお互いあからさまだから、今さらって思うかもしれないけど大事なことで。
惚稀人だからではなく、しっかりはっきりとした自信が欲しかった。
「どうした」
「いや、弓を引く須藤くんは凛々しいんだろうな、と」
思わず変な返しをしてしまって、玉彦はむすっと黙り込む。
なんてわかりやすいやつ。
「観に来るか?」
「え?」
「午後から」
「いや、私部外者だし」
「誰も気にしない。夏休みで教師もそんなにうるさくはないだろうし、そもそも来ていない」
「えー……。いいの?」
「良い」
私はしばらく考えて、やっぱり止めておくことにした。
だって、南天さんの言葉を思い出したから。
高校は山の向こうだって。
そうしたらかなり遠いもん。
正直、面倒だ。
玉彦にそう伝えると、残念そうにしていた。
ちょっと笑える。
きっと自分の凛々しい姿を見せたかったんだろうな
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる