男神に駆られた魔王様

みつや

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 目の前でなんかよくわからないことを言っているアヴィスに、即死魔法をぶっ放って天界への移動魔法をかけるとすぐさま城に戻った。

 
「こっっっわ」


 何あれ。新手のドッキリかなんかか? だとしたらあれを考えた神は頭おかしいのではないだろか。まだ自身の心臓がばっくんばっくんしているので、椅子に縋るように座るとまだ幾分かマシになった。


 外の時間はこんなにもゆっくりと進んでいるのに、俺の心臓はその倍はあるような気がする。何か重い感情を吐き出してしまいそうなのに、あいつの顔を見るとそれが全部引っ込んでしまう。嗚呼最悪だ。

 頭が痛い。

 呼吸が苦しい。

 肺が潰れそう。

 こうなったのも全部あいつの所為だ。ほんとアヴィスに会うとろくなことがない。だから嫌いなんだ。


「もーラヴィーチったら、酷いなぁ」


 ひゅっと心臓が縮まった感覚で、さっきみたいに急いで声のする方へ首を向けるとそこにはやっぱりアヴィスがいて、にこにこと微笑んでいる。


「な、んで、お前、帰ったんじゃ……」

「僕が? まさか。まだ目的を達成してないしね」


 品の良い靴を音を立てて歩きながらアヴィスはゆっくりと、確実に俺に近づいてくる。


「ふふ、ラヴィーチ捕まえた」

「っ痛」


 アヴィスが掴む腕が火傷したように熱い。俺は痛みに弱いのに、アヴィスはそれを知ってて掴んでる。解放して欲しくて、即死魔法とか殺戮魔法とかが混じった混合魔法の呪文を唱えようと口を開くと、出てきた言葉は詠唱じゃなくて、卑猥なリップ音だった。

 静かな空間に、一方だけが求める音がこだまする。


 それでも唇にふに、と当たる感触と押さえ付けられた手とかが痛くてそのアンバランスさに目眩がしてくる。熱くて焼けそうで、痛くて、少しだけ気持ち良くて。何も分からない感情に涙が溢れる。


「ラヴィーチってさ、女神より反応可愛いよ。ねぇラヴィーチ、やっぱり俺と一緒に行こう?……それとも、このまま痛いままにしたい? ラヴィーチの回復魔法はいつまで持つかなぁ。それよりもさ、僕と天界に行って気持ちいい事でもしよう?」


 微笑む姿は神なのに、言ってることは悪魔に近くてなんだか笑えてくる。


「誰がお前みたいな奴と行くかよ」

「……そっかー残念だな、僕あんまりラヴィーチに酷いことはしたくなかったんだけど、ラヴィーチが悪い子ならしょうがないよね」


 Restraint magic拘束魔法。そうアヴィスが詠唱すると、大きな魔法陣から太い鎖が伸びて俺をぐるぐると拘束した。その太い拘束がさながらアヴィスの執着みたいで、背筋がゾッ凍るような感覚になる。


「ラヴィーチ、今度こそ捕まえた。鎖がぎゅーってさ、まるで僕に抱きしめられてるみたいじゃない?……じゃあさ、行こうか」


 天界へ。その言葉と共に俺の意識は遠のいていった。



 夕暮れに置いていかれそうになって、慌てて走っても追いつけないのでいつの間にか俺は闇に捕まっていた。頬が風を切るような感覚は堕ちるときと今で二回目になるのに、全く慣れない。それでも薄らと目を開けると、俺はアヴィスの腕の中だった。



「お目覚めかな。おはようラヴィーチ。今魔界を抜けた所だよ……あ、ほらラヴィーチってさ魔界じゃないと息ができないし、それに僕が触っていると拒絶みたいに火傷しちゃうから、僕ラヴィーチのこと神にしちゃった」

「……は?」

「ごめんね、起きてるときに神になった方が一緒に喜べたのに……あ、でもねまだ見た目とかは魔族のままだからさ、これから僕とゆっくり神になる瞬間を過ごそう?」


 俺を姫抱きにしたまま言うこいつの頭はやっぱりおかしいのではないだろうか。魔族を、魔王をよりによって忌み嫌う神にしたなんて。だがまだ外見がそのままならば、俺はまだ魔族に戻れる。その為には一刻も早く魔界に、城に戻らなければ。

 そうと決まればアヴィスの腕の中でジタバタと暴れ回り、黒い翼を羽ばたかせながら帰る。今の俺の中ではその考えしかなかったし、帰りたかった。アヴィスという神を俺はよく知っている筈なのに、今はよく知らない怖い神にしか思えなかった。


「……ラヴィーチってさ、僕を怒らせる天才だよね」

「っえ、」

 
 再び拘束魔法に、今度は転送魔法を唱えたアヴィスの顔は恐ろしいほどに微笑んでいて、大きな魔法陣から出た鎖はまた俺を捕まえに絡んでくる。それの締め付けが苦しいのは、俺の偶然かそれとも必然か。

分からない感情を押し止めながら、迫りくる口づけにただ黙って目を閉じた。









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