異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 03・処女の血を啜る女

06

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1996年12月17日 00:40
リーパーside


 ふぅ…一時はどうなるかと思ったが、なんとかなった。

 奴の脂肪分を利用しての焼死を狙ってみたんだが、案の定上手くいったな。

 こいつが一体何なのかわかんねぇが、流石に火には勝らなかったようで、亡骸になって横たわっている。

 この様子じゃ、起き上がることなんてねぇだろうよ。


「な、何をしてるのよ!!起きなさいよ!!」

「あ?」


 そんな真っ黒焦げな死体を眺めていると、エントランスにある踊り場から声がした。

 振り返ると、そこには焦った様子で叫んでいるカミラの姿が視界に写った。

 あぁ、そうだったな。外道ってのはどいつもこいつも自分がピンチになると他人任せになるよな…こいつもその一人か。


「誰か…!!誰かいないの!!私を守りなさいよ!!」

「もう諦めろ。どのみちあんたは俺たちから逃げられやしねぇ」

「くぅ…っ!!って、あれは…」


 そう言ってやると苦虫を噛み潰したような顔をする奴だったが、その最中に何かを見つけたようで、ふと我に返るとそちらの方向へ視線を向け、走った。

 まだ何か隠し玉でもあるのかと警戒していたが、どういう訳か奴はエントランスに備えてあった大きなタンスに手を掛けると、そのまま勢いよく戸を開いた。


「っ…!!」


 するとどうだろうか。中に居たのはハンガーに掛けられた衣服の間に隠れていた、一人のメガネ男がしゃがんでいたんじゃねぇか。

 どうも怯えてる様子だったが、カミラはそんなもんお構い無しに男を引っ張ると、無理矢理俺たちの前に出してきた。


「ちょっとあなた!!早く殺しなさいよ!!」

「な、何を言ってるんだ!!無理に決まっている!!」


 カミラの無理難題な要求に丁重にお断りする男。

 …いや待てよ。こいつの顔って確か資料に…。


「おい待て。あんた、もしかして…オリビアちゃんの親父か?」

「えっ?オ、オリビアをご存知で…?」


 あー、やっぱり。そうかそうか、こんなところにいやがったか。


「何?知り合い?」

「依頼者の元旦那だ。今は浮気してるらしいぜ?」

「うわっ、サイテー」


 俺と男とのやり取りが気になったのか、隣にいたローズは俺に質問を投げてきたんで答えてやると、ゴミを見るような目で男へ視線を向けた。


「ち、違う!!違うんだ…!!私はただ、攫われた女の子たちを救うためにここへ_」

「なに?そんな言い分通用すると思ってんの?」

「ぐぅ…っ!」

「………」


 浮気やらそういう話に口うるさいローズは更に男を問い詰め、対する男はローズの威圧に圧倒されて小さくなる。

 …だがこいつ、どうやら嘘はついてないらしい。


「まぁ待て、ローズ。どうもこいつは嘘をついてないみたいだ」

「リ、リーパー?何適当なこと言ってんの?証拠でもあんの?」

「あぁ、ゆっくり話したいが…その前に」


 俺はそこまで言い切ると、銃を構えて引き金を引いてやった。


「うぐぅっ!?」


 閃光のように弾き飛んだ弾丸は今のうちに逃げようと背を見せていたカミラの肩に命中。狩人が狙った獲物を逃がすとでも思ったか?


「おい女。逃げられると思ってんのか?」

「あ、あぁ…待って…!!私は、まだ死ねないのよ…っ!!」

「んなこと知らねぇよ。依頼されてる以上、あんたを殺さなきゃならねぇわけだし」


 灼熱に似た激痛を受けたカミラは肩に手を当てながら逃げようとするも、ようやく自分の命が狙われていることを理解したようで、恐怖のあまり腰を抜かしてしまった。

 上手く動けない彼女の前に、俺はゆっくりと足を運んで、奴との距離を詰めると髪の毛を掴み、無理矢理視線を合わせてやった。


「わ、わかった!!あなたを奉仕する!!いえします!!何でもします!!」


 引っ張れながらも奴は懇願の念を押し、俺にそう言ってきやがった。

 必死の形相のそれは嘘をついてるわけでもなく、本気で俺と性行為をして許しを乞うつもりらしい。


「そうか…何でもします、ねぇ」

「え、えぇ!!貴方様の為ならば、私は喜んで股を_」


 そこで奴の言葉が途切れ、苦痛に歪むような呻き声に変わった。

 まぁ、無理もねぇか。何せ奴の心臓部にナイフの刃をぶち込んでやってるからな。


「るせぇよ、誰がババアの股に興味あんだコラ?」

「かぁ……っ、あぁ…!」

「上手く騙してるつもりだろうが、あんたからは加齢臭がムンムンしやがる。化粧だか処女の血だか知らんが、いい加減人を騙すのも大概にしろよな?おい」


 そう言い残すと、俺は刺していたナイフを引き抜き、そのまま鳩尾目掛けて蹴りを放つ。

 そうするとカミラはくの字で吹き飛ばされると壁にめり込み、程なくすると力尽きたのか、糸が切れたマリオネット人形のように動かなくなった。

 だが、異変が起きたのはここから。何も喋らなくなった死体になった途端、奴の髪の毛が白へ変色する他、体の至る箇所に目立つシワが浮き出てきた。

 これが本来の姿って訳か…若さと美しさを求め続けた人間の末路ってのは揃いに揃って老け顔になるっつー話はよく聞くが、まさかここまでひでぇもんだとはな。


「さてと…おい、旦那」

「ひっ…!!」


 本来の目的を達成したところで、俺は背後に立つ旦那に振り返らないまま話しかける。

 すると奴は何を思ったのだろう、見なくても分かるぐらいのオーバーリアクションをしながら俺へ視線を向けてきた。

 なに、殺すつもりはねぇよ。そんぐらいでビビるんじゃねぇっつの。


「あんたが何故依頼者を裏切ったのか、深い事情を聞くつもりはねぇ。…ただ、あんたのやってることは結局依頼者を余計に悲しませるだけだ」

「い、依頼者って…」

「あぁ、あんたの妻だ。娘を取り返して欲しいと頼まれてな…」

「そ、そうか…無事、だったのか…」


 そういうと、男は力が抜けてしまったようで、その場でへたり込んでしまった。


「え、なに。なんなの?」


 そんな彼を眺めていると、隣で突っ立っていたローズがコソコソと俺の耳を打ってきた。…まーだ疑ってんのか、こいつめ。


「スパイごっこでもしてたんだろうよ。オリビアちゃんを助けるためだけに」

「はぁ?でも浮気って_」

「浮気はしてねぇよ。じゃねぇと、あんなもん大事にしねぇだろ」


 イマイチ理解できてないローズに、俺はあるものに向けて指を指して話してやった。

 向けられた指先にあるのは男の薬指。そこには妻から貰ったであろう指輪がハマっていた。


「…なるほどね」


 それを見たローズはやれやれと言わんばかりにちょっとした溜め息を付く。誤解が晴れて何よりだ。


「さて旦那さんよ。こいつを持って外に置いてあるトラックに向かってくれ」


 それはともかく、俺たちはまだやる仕事が残っている。片付けるにはこいつを巻き込む訳にはいかないんで、俺は旦那にあるものを渡してやった。


「こ、これは…!?どうして、あなたが…?」


 渡したのは依頼料として貰っていた妻の指輪。女運のねぇ俺には必要のないものだ。


「まぁ、色々あってな。それよりもここからとっとと離れた方がいい」

「し、しかしオリビアが_」

「俺たちがなんとかする。死んだら死んだでその時だがな…」


 さて、生きていればいい話なんだが……。
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