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EPISODE 03・処女の血を啜る女
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1996年12月17日 00:30
「ちっ…化け物め」
ミズガルドから北西に位置する森の中、ポツンと佇む豪邸でリーパーは苦虫を噛み潰したよう顔をしながら対峙する。
相手はカミラの護衛にして最愛の息子・クルースニク。底無しの食欲旺盛で、食えるものを見つければ地の果てまで追いかけてくるという異常者だ。
リーパーの身長は約175cmに対し、クルースニクは脅威の245cm。腹回りに至っては150を上回っている。
そんな圧倒的な巨漢を誇るクルースニクから放たれるタックルは恐ろしく、壁と衝突するだけで大きな穴を開けてしまうほどの威力を誇るとされる。
(あの脂肪…弾丸による致命傷も期待出来なきゃ刃物も通さねぇだろう。だからといって体術戦に持ち込めば押し負けちまう)
故にリーパーは苦戦していた。異常とも呼べる体格差相手はこれが初めてだからだ。
確かにリーパーは仕事柄、多くの人間を相手にしてきた。元プロボクサーのチンピラだったり、快楽を求めて殺人を繰り返すイカれた殺人鬼など、その人種は様々である。
だが今回ばかりは違う。今回の相手は次元が違いすぎたのだ。
なによりリーパーが一番恐れているものが…
(それになんなんだこいつは。さっきから頭に鉛玉ぶち込んでるのに死ぬどころか倒れれやしねぇじゃねぇか)
彼の言う、耐久値にある。
リーパーは短期決戦として、相手の眉間に何発も鉛玉をぶち込んでいるにも関わらず、対するクルースニクはこれと言った反応も見せず、リーパーに攻撃を続けてくるのだ。
大きさ、破壊力、俊敏性…そして驚異的なタフネス…どれを取っても地球にいた頃のそれとは比べ物にならないほどのもので、どう殺そうか、リーパーは肉切り包丁の猛攻を回避しながら考えていた。
(とにかく場所が悪い。広いところへ出りゃ少しはやりやすくなるか…)
そして特にこうと言った作戦も思い付かず、取りあえずと言わんばかり、リーパーはロビーのような広い場所へ向かうべく、振り抜かれた肉切り包丁をナイフ一本で弾き返した。
大きさが異なるものの、それを意図も容易く弾き返すところからして、リーパーの握ってる握力が尋常じゃないとも言える。
「マアアアアアァァマアアアアァァァァ…」
「当たり前だが、話し合いの通じる相手じゃねぇよな!」
大きな隙を晒したクルースニクに対し、リーパーは苦笑いをしながら壁に向かって跳ぶと、その勢いのまま壁を蹴り、一気に高く飛び上がった。
高さにしてクルースニクの頭部まで達したところでありったけの蹴りを一閃する。
残像が残るほどの速度と、人間の頭蓋骨を粉砕するほどの威力を誇るリーパーの蹴りはクルースニクの頬を捉え、受けたクルースニクは唸り声を上げながら巨体を揺らした。
「ボウウウゥ!!」
轟音と衝撃が薙ぎ払い、地鳴りを鳴らしながら倒れたクルースニクは倒れ込み、土煙を巻き上げながら壁をぶっ壊した。
(致命傷なんて期待しちゃいねぇ。今のうちに体勢を整えて…)
だが、あくまでこれは逃げ道を作るためだけの時間稼ぎ。それを理解した上での行動を取ったリーパーはすぐさまその場を後にしようと踵を返し…
「ブオオオオォォォォッ!!!」
…たところで、土煙の中からクルースニクが飛び出してきた。
「おいおい、マジか_」
「オオオォォォオオォオォォォ!!」
予想外の復帰の早さに、呆気に取られていたリーパーにクルースニクのタックルが炸裂。
「が…っ!!」
まともにくらったとはいえ、ギリギリで体の芯を外したリーパーは辛うじてその命を繋いだものの、勢いの止まらないクルースニクのタックルによって壁を強打し、骨の何本か骨折する羽目になる。
そうして二枚、三枚と壁を破ったところで大広間に出たようで、リーパーの体は宙へと吹き飛ばされた。
「リ、リーパー!?」
部屋の中にはローズが居た。服装に返り血を浴びてるところからして仕事をあらかた終えたところなのだろう。
そんなローズが驚く中、宙へ放り投げ出されたリーパーは空中で体勢を取ると、床へ着地し、両足に力を込めて勢いを殺した。
「ちっ…馬鹿力かよ」
「ちょ、ちょっと!!大丈夫なの!?」
「あぁ、骨の何本か逝っただけだ。問題ない」
「大ありよ!!」
舞い上がる土煙を睨むリーパーに対して軽いツッコミを入れるローズ。
「ママァ!!ママママァァァ!!」
二人の先には巨大な肉切り包丁で土煙を払い、その醜い姿を現したクルースニクの姿が。
「なにあれ!?キモっ!!」
「文字通り化け物だ。ローズ、ちょっと協力してくれ」
「ま、まぁ…こりゃ仕方ないわね。うん、仕方ない仕方ない…異世界だもんね」
「何を今更…来るぞ!」
異世界だからと自己解釈するローズにリーパーが軽いツッコミを入れると、クルースニクは手に持っていた肉切り包丁を二人目掛けて縦へ一閃振るう。
錆びれたその肉切り包丁は館の床に縦長の傷跡を残すものの、二人には直撃せず、リーパーは右へ、ローズは左へと回り込んだ。
「えいやぁっ!!」
深々と刺さった包丁を引き抜こうと、隙だらけのクルースニクに攻撃を仕掛けたのはローズ。
手に持つ棘付きの鞭を振るうと、クルースニクの膝周りに巻き付き、そのまま転倒させようと引っ張り始めた。
「ンアアアアアアアッ!!」
「お…っも…!!」
だが体格差も相まってか、棘付きの鞭が膝にくい込んでいても効果が薄く、鬱陶しいと感じたクルースニクは包丁を引き抜くと、ローズへ視線を向け、攻撃を仕掛けようと包丁を振り上げた。
「どこ見てんだよ!!」
そこへリーパーが駆け付け、床を蹴って高く飛翔すると、先程と同じように回し蹴りを放つ。
「ボオオォォォォッ!!」
相も変わらず効果が薄いが、膝が巻かれている為か、衝撃を緩和しきれず、巨体を揺らして床へと倒れ込むクルースニク。
地鳴りと共に体勢を崩したクルースニクは立ち上がろうともがくものの、体型と体重が邪魔をしているのか、なかなか上手く立ち上がれない。
「銃じゃ死なねぇなら、こいつでどうだ!!」
そこへリーパーの追撃。
狙いは倒れ込んだクルースニクの眉間…ではなく、天井にぶら下がっている蝋燭が灯るシャンデリアの付け根部分。
狙いを定め、引き金を引き、撃ち出された弾丸はその付け根へ命中すると、支えを失い、重力に任せて下へと落下する。
大きなシャンデリアの先にあるのは横たわる巨体…クルースニクの肉体だった。
「ヴオオォオオオォォオオォォ!!!」
そこからは悲惨の一言に尽きる。
何せ落ちてきたシャンデリアに直撃したクルースニクは、備えられていた蝋燭の火に引火してしまい、生きたまま火だるまにされてしまったからだ。
流石に熱に対する耐性が付いてないようで、瞬く間に火だるまになると、苦しそうな咆哮を上げ、ジタバタと体を動かした。
それでも火は消えず、寧ろクルースニクが発する風圧により勢いの増した火はやがて炎となり、周囲のものを巻き込みながら燃え始めた。
そんな中、クルースニクは焼かれ続ける。気が付けば彼の周囲から肉が焼ける音と共に、焦げ臭い異臭が放たれていた。
「汚物は消毒に限る」
「うわぁ…」
次第に動きが鈍くなるクルースニクに対し、リーパーは鼻で笑い、ローズはあまりの悲惨な光景にドン引きしていた。
そしてクルースニクはというと…
「マ……マ………!マ、マァ………!!」
最期の最期まで自分を育ててくれた母を呼び続けたものの、その声量も小さくなり…
「………」
やがて火が発する音に掻き消され、文字通り真っ黒になったクルースニクは動かなくなってしまった。
「ちっ…化け物め」
ミズガルドから北西に位置する森の中、ポツンと佇む豪邸でリーパーは苦虫を噛み潰したよう顔をしながら対峙する。
相手はカミラの護衛にして最愛の息子・クルースニク。底無しの食欲旺盛で、食えるものを見つければ地の果てまで追いかけてくるという異常者だ。
リーパーの身長は約175cmに対し、クルースニクは脅威の245cm。腹回りに至っては150を上回っている。
そんな圧倒的な巨漢を誇るクルースニクから放たれるタックルは恐ろしく、壁と衝突するだけで大きな穴を開けてしまうほどの威力を誇るとされる。
(あの脂肪…弾丸による致命傷も期待出来なきゃ刃物も通さねぇだろう。だからといって体術戦に持ち込めば押し負けちまう)
故にリーパーは苦戦していた。異常とも呼べる体格差相手はこれが初めてだからだ。
確かにリーパーは仕事柄、多くの人間を相手にしてきた。元プロボクサーのチンピラだったり、快楽を求めて殺人を繰り返すイカれた殺人鬼など、その人種は様々である。
だが今回ばかりは違う。今回の相手は次元が違いすぎたのだ。
なによりリーパーが一番恐れているものが…
(それになんなんだこいつは。さっきから頭に鉛玉ぶち込んでるのに死ぬどころか倒れれやしねぇじゃねぇか)
彼の言う、耐久値にある。
リーパーは短期決戦として、相手の眉間に何発も鉛玉をぶち込んでいるにも関わらず、対するクルースニクはこれと言った反応も見せず、リーパーに攻撃を続けてくるのだ。
大きさ、破壊力、俊敏性…そして驚異的なタフネス…どれを取っても地球にいた頃のそれとは比べ物にならないほどのもので、どう殺そうか、リーパーは肉切り包丁の猛攻を回避しながら考えていた。
(とにかく場所が悪い。広いところへ出りゃ少しはやりやすくなるか…)
そして特にこうと言った作戦も思い付かず、取りあえずと言わんばかり、リーパーはロビーのような広い場所へ向かうべく、振り抜かれた肉切り包丁をナイフ一本で弾き返した。
大きさが異なるものの、それを意図も容易く弾き返すところからして、リーパーの握ってる握力が尋常じゃないとも言える。
「マアアアアアァァマアアアアァァァァ…」
「当たり前だが、話し合いの通じる相手じゃねぇよな!」
大きな隙を晒したクルースニクに対し、リーパーは苦笑いをしながら壁に向かって跳ぶと、その勢いのまま壁を蹴り、一気に高く飛び上がった。
高さにしてクルースニクの頭部まで達したところでありったけの蹴りを一閃する。
残像が残るほどの速度と、人間の頭蓋骨を粉砕するほどの威力を誇るリーパーの蹴りはクルースニクの頬を捉え、受けたクルースニクは唸り声を上げながら巨体を揺らした。
「ボウウウゥ!!」
轟音と衝撃が薙ぎ払い、地鳴りを鳴らしながら倒れたクルースニクは倒れ込み、土煙を巻き上げながら壁をぶっ壊した。
(致命傷なんて期待しちゃいねぇ。今のうちに体勢を整えて…)
だが、あくまでこれは逃げ道を作るためだけの時間稼ぎ。それを理解した上での行動を取ったリーパーはすぐさまその場を後にしようと踵を返し…
「ブオオオオォォォォッ!!!」
…たところで、土煙の中からクルースニクが飛び出してきた。
「おいおい、マジか_」
「オオオォォォオオォオォォォ!!」
予想外の復帰の早さに、呆気に取られていたリーパーにクルースニクのタックルが炸裂。
「が…っ!!」
まともにくらったとはいえ、ギリギリで体の芯を外したリーパーは辛うじてその命を繋いだものの、勢いの止まらないクルースニクのタックルによって壁を強打し、骨の何本か骨折する羽目になる。
そうして二枚、三枚と壁を破ったところで大広間に出たようで、リーパーの体は宙へと吹き飛ばされた。
「リ、リーパー!?」
部屋の中にはローズが居た。服装に返り血を浴びてるところからして仕事をあらかた終えたところなのだろう。
そんなローズが驚く中、宙へ放り投げ出されたリーパーは空中で体勢を取ると、床へ着地し、両足に力を込めて勢いを殺した。
「ちっ…馬鹿力かよ」
「ちょ、ちょっと!!大丈夫なの!?」
「あぁ、骨の何本か逝っただけだ。問題ない」
「大ありよ!!」
舞い上がる土煙を睨むリーパーに対して軽いツッコミを入れるローズ。
「ママァ!!ママママァァァ!!」
二人の先には巨大な肉切り包丁で土煙を払い、その醜い姿を現したクルースニクの姿が。
「なにあれ!?キモっ!!」
「文字通り化け物だ。ローズ、ちょっと協力してくれ」
「ま、まぁ…こりゃ仕方ないわね。うん、仕方ない仕方ない…異世界だもんね」
「何を今更…来るぞ!」
異世界だからと自己解釈するローズにリーパーが軽いツッコミを入れると、クルースニクは手に持っていた肉切り包丁を二人目掛けて縦へ一閃振るう。
錆びれたその肉切り包丁は館の床に縦長の傷跡を残すものの、二人には直撃せず、リーパーは右へ、ローズは左へと回り込んだ。
「えいやぁっ!!」
深々と刺さった包丁を引き抜こうと、隙だらけのクルースニクに攻撃を仕掛けたのはローズ。
手に持つ棘付きの鞭を振るうと、クルースニクの膝周りに巻き付き、そのまま転倒させようと引っ張り始めた。
「ンアアアアアアアッ!!」
「お…っも…!!」
だが体格差も相まってか、棘付きの鞭が膝にくい込んでいても効果が薄く、鬱陶しいと感じたクルースニクは包丁を引き抜くと、ローズへ視線を向け、攻撃を仕掛けようと包丁を振り上げた。
「どこ見てんだよ!!」
そこへリーパーが駆け付け、床を蹴って高く飛翔すると、先程と同じように回し蹴りを放つ。
「ボオオォォォォッ!!」
相も変わらず効果が薄いが、膝が巻かれている為か、衝撃を緩和しきれず、巨体を揺らして床へと倒れ込むクルースニク。
地鳴りと共に体勢を崩したクルースニクは立ち上がろうともがくものの、体型と体重が邪魔をしているのか、なかなか上手く立ち上がれない。
「銃じゃ死なねぇなら、こいつでどうだ!!」
そこへリーパーの追撃。
狙いは倒れ込んだクルースニクの眉間…ではなく、天井にぶら下がっている蝋燭が灯るシャンデリアの付け根部分。
狙いを定め、引き金を引き、撃ち出された弾丸はその付け根へ命中すると、支えを失い、重力に任せて下へと落下する。
大きなシャンデリアの先にあるのは横たわる巨体…クルースニクの肉体だった。
「ヴオオォオオオォォオオォォ!!!」
そこからは悲惨の一言に尽きる。
何せ落ちてきたシャンデリアに直撃したクルースニクは、備えられていた蝋燭の火に引火してしまい、生きたまま火だるまにされてしまったからだ。
流石に熱に対する耐性が付いてないようで、瞬く間に火だるまになると、苦しそうな咆哮を上げ、ジタバタと体を動かした。
それでも火は消えず、寧ろクルースニクが発する風圧により勢いの増した火はやがて炎となり、周囲のものを巻き込みながら燃え始めた。
そんな中、クルースニクは焼かれ続ける。気が付けば彼の周囲から肉が焼ける音と共に、焦げ臭い異臭が放たれていた。
「汚物は消毒に限る」
「うわぁ…」
次第に動きが鈍くなるクルースニクに対し、リーパーは鼻で笑い、ローズはあまりの悲惨な光景にドン引きしていた。
そしてクルースニクはというと…
「マ……マ………!マ、マァ………!!」
最期の最期まで自分を育ててくれた母を呼び続けたものの、その声量も小さくなり…
「………」
やがて火が発する音に掻き消され、文字通り真っ黒になったクルースニクは動かなくなってしまった。
応援ありがとうございます!
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