異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 03・処女の血を啜る女

03

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1996年12月16日 23:10
リーパーside


 それからテキトーにローズと酒を交わしながらだべっていた俺は、店の外へ出て、指定された場所で待機している。

 周囲は何の変哲もないコンクリの壁に囲まれている上、外とは違って天井もあるんで人目に付かれることはねぇだろうな。


「待たせた?」

「あぁ、十分ぐらいな」


 で、待つこと十分。先程までのハレンチの姿はどこへやら、いつもの見慣れた仕事用のドレスの格好でやってきたローズに軽い挨拶をする。

 口を閉じてりゃ美人なんだけどな。これみて振り向かねぇ男はそうそういねぇだろうよ。


「それで、敵の情報は?」

「あぁ、こいつを見てくれ。依頼者が独自で集めたものだ」


 そう言うと、俺は茶封筒から二枚の写真を取り出し、ローズに見せてやった。

 内一枚はターゲットのカミラと、もう一枚は蝙蝠の刺繍を付けた黒服の紳士風の男性。


「…この女は?」

「カミラ夫人。幼子やら処女やら集めて何かしてるようだが、どうせまともなことじゃねぇ。で、写真にいる男は奴らの部下っつーか召使いっつーか…まぁ、分かりやすく言えば客引きしてる輩だな」

「ふーん…要するにこいつらを釣ってこいって?」


 さっきの釣りの話がここに繋がると察したんだろう、俺が言う前に向こうから頼み事の内容を言ってくれた。


「報酬はパフェだ。どうする?」

「まぁ、別に?私も外道とか許せないから付き合ってあげるわ」


 そう言うと、ローズは「やれやれ仕方がない」と言わんばかり、肩を竦めて首を左右に振った。

 …こういった所は昔と変わんねぇな、こいつ。


「なんか言った?」

「いや別に」


 あと変に洞察力が高い。なんで俺が思ってることが読めるんだよ、こいつは。




・・・




・・









 さて、取引が成立したところで、俺たちは早速スヴァルトの商店街へ足を運んだ。

 依頼者の情報によれば、連中はここでよく女を引き込んでいるらしい。


「引き込みの内容はこうらしい。綺麗だから金を稼げる話でもしないか…とか」

「単純ね。そんなんで引っ掛かるのかしら」

「人間誰しも大金や美味い話になりゃ食い付いてくる。例えそれが怪しいとわかっていてもな。それに…狙ってんのは金に困ってる女ばかりだ」


 よく思い出して見りゃ、依頼者の姿はお世辞にもふくよかな生活とは言えない風貌だったな。

 そのオリビアって子も、親孝行やらなんやらしたいがために金の話に釣られて…。


「どちらにしても救いようのない連中ね。殺してやりたいわ」

「まぁ、殺してやってもいいと思う」


 対象外とは言え、奴らも外道に過ぎない。いたぶって口を割ってくれたとしても、騒がれて面倒事を引き起こされても困っちまう。


「それならさ、ここは私に任せてもらってもいいかしら?」

「ん?まぁお前程度ならミスの一つや二つしねぇと思うが…急にどうした?」

「気が変わったのよ。女の敵は徹底的に潰すのが私のやり方」


 直後、ローズが纏う空気が変わった。…こりゃ本気でブチ切れてんな、こいつ。


「別にいいが、面倒事は起こすなよ。後処理がめんどくさいからな」

「分かってるわよ。あと、これ渡しておくわ」


 そう言うと、ローズは懐から何かを取り出し、俺に渡してきた。

 渡されたものに視線を向けると、そこにはワイヤレスイヤホンのようなものが手のひらで転がっている。


「…なにこれ?」

「通信機よ。本来あの店で使うやつだけど、
パクってきちゃった」

「お前…そんなんでいいのかよ」

「いいのよ。店長少し間抜けだし」

「いやそういう問題じゃねぇだろ」


 でも通信機があるのは嬉しい誤算だ。これがありゃ行動がスムーズになる。

 それに大きさも申し分ない。これぐらいなら相手にバレにくい…つまり、通信越しで盗聴が出来るって訳だ。


「じゃあ行ってくるわ」

「はいはい、お気を付けて…」


 …まぁ、ローズ相手にお気遣いもクソもねぇな。なんだってこいつは…




・・・




・・







『君、可愛いね』


 それからテキトーに待つこと数分。通信機から聞き慣れない男の声が聞こえてきた。

 どうやら垂らした餌に、誰かが食い付いたらしい。


『あら、どうも』

『ちょっと兄さんと話さないか?なに、ナンパじゃないよ。君にとっていい話さ』


 そんな相手の男だが、ナンパじゃないと称して話を持ちかけてきた。

 ナンパじゃないって言ってるほどナンパのそれに変わりねぇが、初対面にも関わらず距離を詰めてくる話し方を聞く限り、何人か既に誘ってんな、こいつ。

 しかも1回だけじゃねぇ。相手に興味が湧くまで、何度も何度も話しかけてるんだろうよ。それなら嫌でも聞く耳持っちまう。


『…聞くだけ聞いてあげるわ。それで、要件は?』


 まぁ今回は目的が目的なんで、当然興味ありませんとかそんな回りくどいことなんかせず、率直に話を聞くことにした。


『お、話が早くて助かるよ。君さ、モデルとか興味無い?』

『モデル?』

『そうそう、モデル。写真に撮られるお仕事。君はただ指定された格好とポーズを取るだけでお金が入るのさ。どうだい?やってみない?』


 …なるほど、そう来たか。

 確かにローズのスタイルは抜群だ。それ故に関係を持った男どもの大半は性欲に意識を刈り取られるだろう。


『ふーん、モデル…ねぇ』

『悪くない話だろう?女の子は誰しも、憧れを抱く職柄だと思ってるよ』

『………ま、良いわ。付き合ってあげる』

『本当かい!?ありがとう、それじゃ事務所案内するから着いてきて』


 だからこそ奴らはこう思ってるんだろう。「か弱い女だから何しても許される」と。

 でも違う。違うんだ。こいつの場合はその考えも大間違いじゃ済まされない。


『お邪魔しまーす』


 なんて思ったら、向こうは事務所とやらに着いたのか、通信機越しからドアが開く音がした。


『それで、モデルの話って_』

『おい、今日の獲物はそいつか?』

『えぇ、どうでしょう?かなりの美人さんでしょう?』


 今度はさっきまで話してた男の他に、別のドスの効いた声が聞こえてきた。

 やり取りからして奴らのボスらしい。…さすがに黒幕のカミラとは違うらしいが。


『それにしても女も運がねぇな。美味い話に裏があるって言葉、知らなかったのか?』

『まぁまぁいいでしょう。こうなった以上、騙された自分を恨むべきですって』

『それもそうだな、がはははっ!』


 なんつー汚らしい笑い方してんだこいつら。まぁ、その余裕の態度もすぐに消えるだろうな。


『てことで女ぁ!好き放題やらせてもらうぜ!!』


 で、ボスらしい男は恐らく、いや絶対下半身に血を昇らせ、興奮した様子でローズに襲いかかろうと飛び込んできた。


_バチィンッ!!

『いっでえええぇぇぇ!?』


 が、次に聞こえてきたのは鋭い破裂音。

 ローズの持つ獲物が奴の体をぶっ叩いたようで、ボスらしい男の声は歓喜のものから悲痛のものに早変わりした。


『あら?知らなかったの?綺麗な花には刺があるって』

「…毒針の間違いだろ」

『聞こえてるわよ馬鹿』

「うぉっ!?」


 ひ、独り言をボヤいていたら返答してきやがった。

 思わず変な声を上げちまったが…残念ながら、俺の言った毒針ってのはあながち間違っちゃいねぇ。

 …いや、毒針の方がまだ優しいかもな。なんたって奴の持ってる獲物は…


『む、鞭!?て、てめぇ!!いつの間にそれを!?』

_バチィンッ!!

『ぶほぁっ!?』


 喚く男に対して鞭…正確には棘鞭をぶっ叩いて答えてやるローズ。

 音からすりゃ顔面にぶっ込んだんだろう。ご愁傷さまだな。


『や、やめっ_』

_バチィンッ!!

『ぎゃああああああああ!!』

『ねぇ坊や。誰の差し金でこんなことしてるのかしら?』

『ひ、ひいぃ……っ!!』


 戦闘、というより一方的な虐殺だな。

 だって聞こえてくるのは男の悲鳴にローズが扱う鞭がしなる音だけ。

 そりゃ誰だって泣きたくなるだろうよ。

 でもな、ローズはそんな甘くねぇんだよ。奴は敵から情報を聞き出すことに特化しているんだ。


『答えてくれたら助かるんだけど…どうする?』

『わ、わかった!!分かったから許してくれ!!』


 それに鞭ってのは痛すぎるんだよ。

 普通の鞭を使えば蚯蚓脹みみずばれで済むかも知れねぇが、奴の扱う棘鞭は相手の肉を食い込ませてから削ぎ落とす様な設計になっている。

 だから一回の攻撃につき、複数の傷穴が出来ちまう。そうなったら痛いで済むようなもんじゃねぇだろうよ。


『お、俺たちのボスはカミラって女で、奴は上層界にある森の中に拠点を_』

『えぇ、上出来ね。よく出来まし、たッ!!』

『があああああああぁぁぁっ!!』


 …トドメ刺しやがったな。

 まぁ元々見逃すつもりなんてねぇんだろうよ。

 それに助かるって話は自分が助かるだけあってそっちを助けるって意味じゃない。

 情報を聞き出すとはいえ、相変わらず性格の悪い女だな。まったく。


『ぐぅ…!来るな!!』


 と、ここで残ったボスが狼狽した様子でローズにそう言ってやった。

 状況からしてチャカでも抜いたんだろう。そういう場面は腐るほど見てきたからな。


_バァンッ!!

「あが……っ」


 だから俺は目の前にある扉を蹴破ると、そのまま引き金を引いてやった。

 撃ち出された弾丸は奴の眉間を捉え、頭に鉛玉をぶち込まれた奴はそのまま逝っちまった。

 言ってなかったが、テキトーにっつってもちゃんと後ろは着いてってる。当然、連中にバレないよう気配を消して、だ。


「あんた、来てたんだ。それなら手伝ってあげてもいいじゃない」

「いやまぁ…お前が楽しそうにしてたんでな。出るタイミングを失って…」


 しっかしまぁこれまたひでぇ。奴ら穴だらけじゃねぇか。


「とにかく、情報は聞き出せたわ」

「あぁ、上出来だ。…最後の弾丸ぐらい避けられたら、な?」

「あんたが異常なだけ。普通弾丸なんて避けられないわよ」

「ごもっとも」


 一応こんなんでもクソジジイに可愛がられたんでね。あの訓練はマジで死ぬかと思ったぜ……。
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