異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 03・処女の血を啜る女

02

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1996年12月16日 22:30
リーパーside


「ということで、ツテを紹介してくれねぇか?」

「お、おい...いきなりだな」


 喫茶店による仕事を終えた俺は、一通り目を通した資料を手にフギンの元へ立ち寄った。

 元々かなりの情報があるので、今回の件に関してはフギンの出番は無いかなと思ったんだが、そうと問屋は降ろさねぇらしい。

 こいつは少しお喋りだが、腕利きの情報屋故に、顔の幅が広い。だから闇医者やら運び屋のスキーやら、協力者が多い。

 それを元に、こいつを頼ることにした。当然だが、チップも払うつもりだ。


「しかしまぁ、女ねぇ...」


 で、今回はツテの中にとびきりの女が居ねぇかどうか尋ねてみた。

 別に女遊びがしたいってわけじゃない。どうも奴らは若い女を中心に攫っている。

 まぁ要するに囮だ。当然助けるし、指の一本すら触らせねぇ。


「俺のツテにゃ、リフィアさんぐらいしかいねぇぞ」

「...どうやらあんたも女運がねぇみたいだな」

「一緒にするんじゃない」


 冗談のつもりで言ったのに食い気味で否定された。ひでぇなおい。

 それは置いといて...俺が求めてる条件に見合った女がいるかどうかと、フギンは記憶を絞るように首を傾げていると...


「ツテは居ねぇが...シェヴンという場所にでも足を運んだらいいんじゃねぇか?」

「シェヴン?」


 何やら店の名前らしいワードを出してきた。

 聞いた事ねぇが、それが俺が求める若い女とどう接点があるんだ?


「あぁ、簡単に言えばバーだな。綺麗な姉ちゃんと酒を嗜める、男のオアシスのような場所だ」

「要はキャバクラだな?」

「まぁ、そんなところだ」


 確かにキャバクラなら若い女の一人ぐらいいるだろうが...少し問題がある。


「そりゃわかったが、外道をぶっ殺したいから協力してくれって素直に聞いてくれるもんじゃねぇと思うんだが」


 今からやらせようとしてるのは囮のそれでしかない。つまり、その女には少し怖い思いをしてもらうことになっちまう。

 だからそう易々と受けてくれる嬢が居るとは到底思えないんだが...。


「そこは安心しろ。仲間の話によりゃ、お前さんのように表向きは接客業をしつつ、裏で外道を狩る女が居るんでな」

「なに?」


 おいおい、そんな都合のいいような奴いんのか?てっきり俺だけだと思ってたんだが...。


「そいつの名前は?」

「あぁ、名前は確か...」


 ...結局その女が誰なのか問いを投げてみたところ、フギンの口から出された名前に、俺は思わず「マジかよ...」と呟いてしまった。

 だってお前、その名前ってあれじゃねぇかよ。先日のボマーと言い、他の連中までここに来てやがるのか...。


「まぁいい。取り敢えずそいつに会ってくるわ」

「場所は中層界スヴァルトだ。頑張れよ」

「おう」


 とにかく情報が掴めたので、フギンにチップを渡すと、中層界へ向け、足を運んだ。




・・・




・・









 中層界スヴァルト・キャバクラ シェヴン

 夜中近いってのに金やら酒やら女やら、右を見ても左を見てもギラギラしてやがるこの地下街に、目的であるシェヴンっつー場所を見つけた。

 看板が置いてあったんでここで間違いない。てか黒とピンクを強調した店って、悪趣味だな、おい。


「いらっしゃいませ。キャバクラ・シェヴンへ」


 なんて思いながら入店してみると、カウンターのボーイが俺を見るなり礼儀正しく頭を下げてきた。

 店内はともかく、場所の治安の割には店員の礼儀作法はちゃんとしているようだ。


「指名したいんだが...」

「はい、どの女の子がいいですか?」


 と、言ってみると、ボーイはカウンターに置いてあるモニターを弄ると、多数の女の子の顔が写った写真を見せつけてきた。

 フギンの言う通り、確かに写真だけ見れば美形の華揃いだが、今回ばかりはこいつを指名しなきゃならねぇ。

 ...しっかし本当にいたんだな、この世界に。こんな水商売して何してんだ?


「えっと、この...ローズちゃん?っつーの、頼める?」

「ローズちゃんですね、分かりました。少々お待ち下さいませ...」


 しかもローズって...そっちの名で通してんのか。まぁここが異世界だからそっちの名前で名乗れりゃ色々都合がいいんだろうけども。

 とはいえ、ボーイも対応してくれてるようなんで、普通に通れそうだな。


「お待たせ致しました。それでは案内させて頂きます」

「おぅ」


 なんて思ってると、カウンターから出てきたボーイが俺の案内を始めてきた。

 店内は地球に居た頃と差程変わらない様子で、仕事終わりの冒険者らしい男達がお嬢と大量の酒に囲まれながら楽しそうに雑談してやがる。

 ...思い出すな。あのクソジジイと無理矢理飲みに行った日を。


「お客様、こちらローズちゃんとなります」


 勝手に過ぎた過去の思い出に浸かっていると、案内が終わったようで、視線をふと上にあげる。




「いらっしゃいませ。私、ローズと.........」

「よぉ、久しぶりだな」

「.........」


 あ、目合わせたら固まっちゃった。

 まぁそりゃそうなるだろうな。なんたってこいつは俺がいた組織の一員、言わば同僚だからな。

 しっかしまぁ、随分とこれまたハレンチな格好を...。嫌でも視界に谷間が写っちまう。お化粧もバッチリってか?


「あ、あの...ローズちゃん?」

「あぁ、いいんだ。ちょっと昔の...な?」


 まるで岩のように固まったローズはさておき、俺はテキトーに奴の隣に座るとボーイを誤魔化した。

 キャストさんは無関係だ。変に巻き込まない方がいいだろう。


「酒はウイスキーでもいい。一応、ローズちゃんにも、な?」

「か、かしこまりました!」


 ちゃん、の部分を強く強調しつつ、ボーイに注文。するとボーイはそそくさとその場を後にした。

 さてと...彼も潔く行ってくれたわけだし...こいつを起こさねぇとな。


「おい、生きてるか?」

「な、なんでここに居んのよ...」

「そりゃこっちのセリフだ。お前こそ何してんだよ」


 ようやく正気に戻ったローズは俺に鋭く睨みつけてきた。怖いねぇ。

 どうせこの世界に来た経緯は俺と同じなんだろうが、これまたどうしてこんな水商売してんだこいつ。


「ま、まぁいろいろあったのよ。それで...あんたは?」

「似たようなもんさ。今は珈琲店を営んでる」

「あんたが!?珈琲店!?何それウケるんだけど!!」

「るせぇ!別にいいだろ!」


 そ、そんなに笑うことねぇだろ...。

 てか反応よ。昭和のギャルかテメェ。


「でも、完全に足を洗ったわけじゃなさそうね」

「何故そう言いきれる?」

「そりゃ、長年一緒に組んでたら分かるわよ」

「...まぁ、お互い様って感じだな。話を聞かせてもらったが、お前もどうやら...いや、ここで言うのはよそう」

「そうね、誰が聞いてるのかわからないし...」


 場所が場所だと言え、公共の場と変わりねぇし、むしろこういう店だからこそ裏と繋がってる連中がいるのかもしれない。

 だから目立たないように、表向きのレージとして接してるわけであって、手に持ってるスーツケースには獲物と仕事着が入っている。


「でも言いたいことはわかったわ。どうせあんたも狙ってるんでしょ?大物を」

「...まぁそんなところだな。今すぐ釣りに行きたいっつってもその前に、そいつを釣るにゃ餌が必要なんでね。休憩がてらここに来たわけだ」


 ということなので、あくまで俺たちは一般の客と一般のお嬢という関係で身の上話を始めた。

 当然こいつはただの雑談なんてもんじゃない。ローズのことだ、濁したって俺の言いたいことぐらいわかるだろうよ。


「...あー、餌ね。確かにそりゃ無いと魚の一匹や二匹釣れないわよ」


 で、案の定疑うことなく俺の猿芝居に付き合ってくれた。物わかりが早くて助かる。

 それに向こうから大物というカードが出てきたってことは、せいぜい俺が何かを狙ってることぐらいわかってんだろう。


「それで、どうしてこんなところに?魚釣りなら海とか行けばいいじゃん」

「それがよぉ、俺魚釣りとか初めてでさ。餌の選び方ってやつ?誰でもいいから教えてくんねぇかなって」

「べ、別にいいけど...なんでアタシ?」

「釣り、うまそうじゃん」


 特に男とか。


「.........ま、まぁ釣りは嫌いじゃない...わよ?」


 あやべ、シワ寄せてる。気に障っちまったか。


「...後でパフェ奢るから許せ」

「...フン」


 機嫌を損ねると後々面倒なので、ここは仕方なく耳打ちしてやると、知らんぷりされた。

 ...おい、笑ってんのバレてんぞ。嬉しいんだろおめぇ。


「お待たせしました、ご注文のカクテルです」

「あぁ、どうも」


 なんてやり取りをしていたら、ボーイがカクテルと水割り用のグラス二本を持ってきた。...やっぱこいつ飲む気か。


「と言うよりいいの?魚釣りの前に酒なんて飲んじゃって」

「いいんだよ。俺は意外と酔いに強いんだぜ?」

「...親父と飲み勝負して死にかけたのはどこのどいつかしら」

「やめろ、言うな」


 それにあのクソジジイは化物だ。比べちゃいけねぇだろ。


「まともかく、もう少ししたら俺は出るんで。良かったらここに来てくれよ」


 水割りで注いでるローズに、俺はある紙切れを渡してやった。

 注ぎ終えたローズはすぐに紙切れを拾い上げ、誰にもみられないように、尚且つごく自然な態勢を維持したまま内容に目を通した。


「...地図?ざっつ、ヘッタクソ」

「.........」


 い、言いたい放題言いやがって...後で覚えとけよこの女め。

 てか別にいいだろ。ちゃんと矢印と「ここ」って書いてるんだからよ。


「まぁいいわよ。本来店のルールでプライベートのお誘いはお断りだけど、私の意思であんたに付き合ってあげる」

「...パフェ食いたいだけだろ」

「何か言った?」

「いや空耳だ」


 まぁとりあえず協力してくれるようでなにより。あとはテキトーにだべって時間潰すとするか。

 連中が活動するのは23時が回ったところだ。その間だけは一般市民に紛れ込んでおく。
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