異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 02・爆発的芸術と称する変態

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1996年11月31日 23:45
リーパーside


 裏口からユグドラシルタワー内部に侵入した俺は、手に持つ拳銃を握りしめ、気配を殺して爆発地点へ目指す。

 内部構造は巨大な会社だということもあってか、凄まじい数のパソコンが置かれていた。まぁ地球でもよく見かける光景だな。

 当然内部は無人。社員は避難済らしく、生気を感じられないほどの静寂がこの空間を支配していた。

 通電していないため、エレベーターも使えないので、仕方なく階段を使って上がっていると、どこか吹き抜けているようで、冷たい風が俺の肌を刺激してきた。


「ここか」


 そう思った俺は、扉の僅かな隙間から吹いてくる風を頼りに、ドアノブに手をかけて開くと、そこにはお馴染みの光景が目に映る。

 あの巨大な穴だ。散乱した瓦礫片にヒビが入って使いもんにならなくなったパソコン...そんで、微かに香る焦げ臭い火薬の匂い。

 検察でもクソもねぇが、多分ここで誰かと誰かが争ったんだろうよ。散らばってる多くのパソコンが原型を留めすぎている。

 逆に穴に近く転がってるパソコンは木端微塵で原型をとどめてねぇ。


「そして極めつけは...」


 なんと言っても周辺の壁だ。爆発で生じたものとは異なる穴がいくつも残ってる。

 こいつは弾痕だな。しかも穴の大きさからして人殺しに向いてるやつ。


「...内部抗争?いや、それにしたっては...」


 どう見ても殺り合ったようにしか見えず、最初こそ内部抗争という言葉が出てきたが違和感がありすぎる。

 そもそも、こんな大衆が知る施設の中でそんなことするか?ヨトゥンだって巨大な組織を作り上げるぐらいだ、そこまで馬鹿じゃねぇだろ。


「...てことは第三者の誰かが?」




「おーおーおーおー!誰かと思えば、やっぱテメェだったか!!」

「っ!!」


 突然背後から声がした。

 やや遅れて、俺は拳銃を抜き取り、振り返りざまに照準を合わせると、その先には防火性の銀色のコートを羽織り、ガスマスクを取り付けた男が突っ立っていた。


「その声...あんたまさか...」


 俺は構えを解かないまま目を丸くした。

 いや、馬鹿な。いくら異世界だからってなんでもありってわけじゃねぇだろ...でもなんでこいつがここに居るんだ?


「久しいな、リーパーちゃん!!」


 俺が驚いてる間に、男は顔に取り付けたガスマスクを取ると、素顔を晒してきた。

 奴の顔は酷い火傷の跡が残り、皮膚の大半が爛れている。

 ...間違いない。その特徴的な顔付きは...


「ボマー...?ボマー、なのか?」


 地球にいた頃の過去、同じ組織に所属していた殺し屋の一人、ボマーだった。


「カッカッカ!!そんな驚くことあるかね!?まぁでも無理はねぇよな...なんだって俺は一度死んじまってるからよぉ!!」


 そう言って笑うボマーは外したガスマスクをもう一度取り付けると、彼が愛用している落書きされた手榴弾を指でクルクルと回し、遊び始めた。

 そうか...あの爆発はこいつが原因か。それならあの大規模な爆発にも納得が行く。


「おいボマー。何故あんたがこの世界に?」


 まぁ何にせよいい機会だ。俺と似たような境遇でここに来たのなら何かしらの情報が持てるかもしれない。

 そう思った俺は銃を...構えたまま、奴に問いを投げた。


「あぁ?まー、色々あったんだわなぁ。死んだと思ったら...えーっと、ムスペル?っつー組織に拾われちまってよぉ」

「そこで専属の殺し屋になったわけか...」

「そんな所だな!!カッカッカ!!」


 ヨトゥンとは別の組織の名前を口にしたボマーは嬉しそうに笑った。

 ムスペルだぁ...?聞かねぇ組織だが、こいつを雇うってことはそっちもそっちでマトモじゃねぇのは確かだ。

 なんせこいつはターゲットを爆殺しては写真に収めるヤベェ奴、言い換えるなら変態だ。

 聞いたところによると「アート集めが趣味」とか言いやがった。趣味が悪ぃな。


「...で、そのムスペル専属の殺し屋が何故ここに?どうもカンドーの再会がしたいからってわけじゃねぇようだが」


 まぁ、どうしてここにボマーが居るのかよく分からんが、仲良く話し合ってる場合じゃねぇようだ。

 さっきから鼻につくんだよ...クソみてぇな火薬の匂いが。


「あーん?んなもん決まってんだろーよぉ」


 対してボマーは手に持っていた手榴弾をクルクルと回し、手のひらでキャッチをすると、親指で安全ピンを抜き取り、俺へ投げ飛ばしてきた。

 すかさず俺は爆弾が地面に着弾する前に、弾丸を発射させ空中で撃ち抜いた。


_ドオォンッ!!


 途端、轟音と熱気と共に拡散した手榴弾の破片が飛び散り、中から黒い煙が部屋中を支配する。


「テメェを...リーパーちゃんを殺すためだよぉ!!」


 その煙の中から現れた奴は不釣り合いな大きさを持つ耐火性のグローブを付けた手で俺を鷲掴みにしようと襲いかかってきた。


「っと!!」


 立ち昇る黒煙の中、俺は奴の伸びてきた腕を回し蹴りで引き剥がすと、ナイフを構えて腹を引き裂こうとするものの、ボマーは距離を取って回避。

 同時に、奴のはめていたグローブから、どういう訳か粉末状の火薬が散りばめられ...


「シャアアァッ!!」


 奇声と共に、指を鳴らす。

 直後、指と指の間から生まれた摩擦熱が着火源となり、連なって粉末状の火薬は連鎖反応を起こして大爆発を起こした。

 火薬の原理は知らねぇが、指先に火打石を仕込んでやがるな?


「うおっ!」


 威力がデカすぎるためか、地面はズダズダにぶっ壊れ、俺たちふたりは強制的に下へと落下。

 恐らく二階分落ちたところで勢いは止まり、衝撃で土煙が舞い上がった。


「そういやテメェ、てんびん座だよなぁ!?朝の番組で言ってたぜ!!頭上に注意ってな!!」


 体勢を整えた俺はすかさず声のした方向へ視線と銃口を向けると、穴の空いた天井からいくつもの手榴弾が降ってきた。

 どう考えても回避出来る量じゃないと踏んだ俺はそのまま引き金を引き、降ってきた手榴弾全てを撃ち抜いた。


「どわぁっ!!」


 爆発に巻き込まれたボマーは攻撃を受けたような声を上げるが、衝撃波を受けただけであってほとんど無傷。

 それを知った俺は崩れた足場を利用し、跳びながらボマーのいる階まで到達すると、ナイフで奴の喉を_


「ちぃっ!!」


 掻っ切ろうとしたところで、奴は苦虫を潰したような顔をしながら腕を振るう。

 そうするとグローブから火薬が放たれ、俺は咄嗟に構えを解き、片腕で両目を守りつつ、鳩尾狙いで蹴りを放つ。


「うぐぅっ!!」


 前は見えなかったものの、火薬の匂いが幸に転じた。あれが無臭だったら絶対に当たらなかったぜ...。

 で、手痛い一撃を食らったやつはガスマスク越しで胃液を撒き散らし、無理矢理距離を剥がされると息を整えるためか、マスクを一旦脱ぎ捨て、呼吸を繰り返す。


「わ、忘れてた...。てんびん座のラッキーアイテムは煙幕。つまり、裏を返せばてんびん座の奴に煙幕ってのはご用心って訳か?」

「御託はいい。何故俺を狙う?」


 火薬が付着した今、拳銃は使えない。なのでナイフ一本構えた俺はゆっくりと近付きながら奴に質問を投げた。


「カッ、知らねぇよ...ただ、殺し屋をやってる以上、依頼されちまったら仕方ねぇだろうが」

「ほーん、ムスペルが俺を?」

「あぁ...まぁな」


 で、こんな答えが返ってきた。

 しかしまぁ、おかしな話だ。俺はヨトゥンに喧嘩を売ったってのに、何処の馬の骨なのか知らねぇ組織にまで命を狙われている上、情報まで漏洩している。

 んで、そのムスペル所属のヒットマンことボマーは誰かの依頼で俺を殺しに来た、と...。

 おいおい、勘弁してくれよ。さすがに二つの組織に狙われちゃめんどくせぇって。


「そもそも、今回の爆発はテメェをおびき寄せるためだけにやったんだよ。テメェは俺と同じ殺し屋だけど、外道狩り専門だろ?」

「だから何も関係の無いこのクソデカタワーを爆撃し、外道の仕業だと見せかけ、おびき寄せた...そういうことか?」

「半分正解だ」

「あ?」

「元々、ヨトゥンとムスペルの仲はクソと言っていいほど悪い。暴対法のねぇこの世界だからこそ、目と目が合えば殺し合いに発展する。それぐらいの仲だ」


 なんか素直に情報を提供してきた。同僚によるせめてもの情けってやつか?泣けるね。


「でもよぉ...リーパーちゃん。俺ぁ正直どーでもいいんだよ。ムスペルが勝とうが、ヨトゥンが勝とうが、んなもんどっちでもいい」


 なんて思ってると、ボマーは防火性のコート裏から三つの手榴弾を指に挟んだまま取り出し、もう片方の空いた腕でガスマスクを装着し、身構える。

 まだやるってか?肋骨の数本は折ったはずだが元気なこったな...。


「今はただ...テメェが弾け飛ぶところが見てぇんだよ!!」

「ほーん...それまたなんで?」

「だってよぉ!!考えてみろよ!!テメェほど強ぇ人間はそうそう居ねぇ!!そんな奴がぶっ飛んでるところを写真で収められるなんざ、最高じゃねぇか!!」


 と、ガスマスク越しで汚らしい笑みをこぼすボマー。

 おい、何がとは言わんが妄想して勃ってんぞ。気持ちわりぃな、変態が。


「相変わらずキメェ主観だな。あんたとは到底話が合わねぇよ」

「ヒャヒャヒャ!!いいから弾けろよォ!!リィーパァー!!」


 第二ラウンドか...しゃーねぇ、とことん付き合ってやる。

 そう思い、身構えた瞬間だった...。




「動くな!!」

「っ!?」


 俺とボマーの間に誰かが割り込んできやがった。

 声のした方向へ視線を向けると、そこには白を強調した兵士のような格好をした武装集団が入ってきやがったんだ。
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