異世界喫茶店の黒い殺し屋

42神 零

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EPISODE 02・爆発的芸術と称する変態

02

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1996年11月31日 12:30
リーパーside


 ヤクをぶっ潰した後のエイルだが、大した変化はない。客も今まで通り少ないし、落ち着いたこの空間をぶち壊すバカもいない。


「レナ。これ持って行って」

「はーい」


 でも最近、ちょっと変わったことがふたつある。

 ひとつはレナが手伝ってくれるようになったということ。

 最初こそリフィアはそんな事しなくていいと言っていたものの、「パパとママが働いてるなら私も働く」なんて言い出したんだ。

 …まぁ、パパってのは十中八九、俺の事なんだろうが、その時のリフィアの反応ったらありゃしねぇ。


「え!?パ、パパ!?ち、違うよ!この人は私の命の恩人で_」


 みたいなこと言いながら咄嗟に思いついた言い訳を並べていたのは笑えたな。

 まぁ、そんなこんなで同じように働くことになったレナの担当は運搬作業。慣れてきた頃合いで別作業もやってもらうらしい。

 で、ふたつめは…


「お邪魔します」

「いらっしゃい。今日もいつもので?」

「はい」


 前に依頼してきたアキラがよく来店してくるようになったこと。

 奴はここの珈琲の味が気に入ったらしく、週の休日でここに来る。

 わざわざ上層界から下層界に来るなんてご苦労なこったな。


「で、そっちの調子はどうなんだ?」

「いやぁ…ちょっとまだ新しい仲間との出会いが無いですね…。今はひとりで頑張ってます」

「おぅ、諦めるなよ。まだ若いんだからな」


 俺なんざもう三十過ぎちまってる。まだまだ未来があるだけ若いもんってのが少し羨ましくなる。


「そんなレージさんはどうなんです?」

「働きながら勉学中。相変わらず文字が読めないんでね」


 まぁ裏の仕事もやってるけどな。こんな公な場所で言えたようなもんじゃない。


『続いてのニュースです。昨日深夜頃、最上層界アズガルドのシンボルであるユグドラシルタワーが謎の大爆発を起こしました。被害者は三十名が重症、三名が死亡しました。現在、爆発の原因を調べ_』

「ほーん、物騒だな」


 世間話に少し盛りあがっていると、備えてあったテレビからそんな情報が飛び込んできた。

 勉学のおかげで上層界まであるってのは知ってたが、そのまた上の界層があるのは初知りだな。

 というよりユグドラシルっつったが、どう見ても東京都庁のそれにしか見えない。地下街暮らしからすりゃ程遠い世界だよ、まったく。


「なぁアキラ。ユグドラシルってなんだ?」

「簡単に言えば国家政治会みたいなものですね。実際に行ったことがないんで詳しいことはよくわかりませんが、あれがあるおかげで現在の文明が築き上げられた…とか、資料で見た事あります」


 つまりあれがあるから現代に近い文明が確立された…ってことか?難しい話は頭が痛くなる。


「まぁでも黒い噂は耳にしますね。裏でヨトゥンと繋がってるとか…」

「まーたヨトゥンか。ゴキブリみてぇに出てくるなおい」


 行く先々にその名前が出てきやがる。いい加減聞き飽きたっての。


「しかも専属の殺し屋がいるって話も聞きます」

「殺し屋?」


 まぁ、そこまでクソでけぇ組織なら殺し屋のひとりやふたりいてもおかしくないって思ってたが、まさか本当に俺以外に殺し屋がいるなんてな。


「はい。相当腕利きのある殺し屋のようで、マスクを付けている、とかなんとか…」

「ほーん、マスクねぇ」


 俺はそんなもん要らねぇな。あったところで邪魔でしかない。

 顔を隠すなんていくらでも方法あるだろ。例えば仕事着の帽子とかな。


「…で、それどっから聞いた話だ?」

「え?」


 まぁそれはともかく。噂を聞いただけ、と言えば話が出過ぎてると思い、俺は咄嗟にそう問いを投げてみた。

 するとアキラは少し目を泳がせたあと…


「…フギンさんから」

「まーたあいつか。いくら取られた?」


 またかと半分呆れながら、別の問いを投げると、アキラは苦笑いしながら指を三本立ててきた。

 …オーケー、三万か。


「ほらよ、受け取れ」


 丁度よく、手元に現ナマがあるのでそいつを渡しておく。


「え!?受け取れませんよ!!」

「口止め料だ。それに外道狩りは俺の仕事なんでね。あんたは帰って自分の出来ることに専念しな」

「け、けど…」

「けども何も無い。変に首を突っ込むな。下手すりゃ死ぬぞ」

「………」


 少し圧を込めて言ってやると黙りしやがった。

 でもまぁ、言いたいことはわかる。どうせその殺し屋が生きてるかもしれないから何とかしたい…的なやつだろ?

 そりゃまぁ、だって信じていた友人が外道との取引を目の当たりにしたんだ。外道を恨むのにゃ十分すぎる。

 けど残念ながらこいつと俺とは住む世界が違う。これ以上面倒事に首突っ込まれても困るし、何よりこいつには真っ当に生きて欲しい。俺からのささやかな願いだ。


「パパー?なんのお話してるの?」


 なんて思っていたら、配り終えたレナが上目遣いで俺にそう言ってきた。

 仕事出来て偉いな。俺なんか駄べりながらじゃねぇと作業が進まないのに。


「あぁ、夜に仕事が出来ちまってな。帰り遅くなる」

「それなら頑張ってね!私、家で留守番する!」

「おーよしよし、偉いぞ」


 血は繋がってないがよく出来た娘だ…。子を持つってのはこういう気分になるのか。

 帰りにクッキーでも買ってやろう。リフィアにも世話になってるし。
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