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EPISODE 01・薬に溺れた男
02
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1996年10月08日 16:25
リーパーside
エイルの店員兼リフィアの家族になった俺は、翌日に早速仕事を始めた。
慣れない喫茶店用のエプロンを巻き、次々とやってくる食器たちを丁寧に洗い始めた。
仕事とは言え、初日は軽い食器洗いから、慣れてきた頃合いで接客と珈琲の淹れ方など教わる予定だ。
「いらっしゃ…」
元々生業としていた殺しとは程遠い仕事でどこか斬新さを感じる中、新たな客が来店してきたようで、呼び鈴を耳にした瞬間に挨拶を交わしたものの、思わず言葉を切ってしまった。
やってきたのはこのニヴルに来るにゃ若すぎる青年。年齢はせいぜい16歳ぐらいで、何故かボロボロになっていた。
が、何より目を引いたのは背中に背負った巨大な剣…より、彼の瞳だ。
何があったのか知らないが、死んだ魚のような目をしている。ありゃ何かしら恨みのある人間の目だな。
「…なんですか?」
「あ、いやなんでもない」
ちょっとガン見しすぎたか、俺の存在に気付くと青年は「話しかけないで欲しい」と目で訴えるように口にしてきた。
変に模索しない方がいいんだろうが、ああいう目をした人間は何をするのか分かったもんじゃない。
例え、それが殺しに発展してもおかしくない。恨みってのは怖いもんだな。
「いらっしゃい。ここに来るのは初めて?」
「まぁ…そうですね」
なんて思っていたら、店長ことリフィアが挨拶を交わした。
流石長年ここを務めてることだけあって、人との接待が上手い。俺じゃ真似出来ない。
「じゃあ…この珈琲を」
「はいはーい。ちょっと待っててね」
注文のオーダーが入ると、リフィアは元気よく珈琲を作り始めた。
「…なぁ、あんたなんだろ?凄腕の処刑人ってのは?」
「んあ?」
俺と客人が残された、僅かな間。その隙に客人が奇妙なことを言い始めた。
視線は合ってないが、言葉の矛先からして俺だとわかるが…
「その情報をどこで?」
「外で座ってるホームレスに話し掛けられて…お前さんのような死んだ魚のような目をした人間はこの店にいる黒髪の男に相談すればいい、なんて言われ、ここへ…」
「…フギンめ」
あの野郎、いい商売になると思って俺をダシにしたな?
てかなんだよ処刑人って。外道しか殺さねぇぞ俺は。
「で、処刑人だか料理人だかなんだか知らんが、俺になんの用で?」
出来ることなら話を手短にして欲しい。ここはただの喫茶店だ、取引をするような場所じゃない。
「頼む。俺の友人を助けて欲しいんだ」
「友人?」
まだ注文が来ていないカウンターの上で頭を下げる客人。
確かに手短にして欲しいといったが、そんな初っ端から結論を言われてもだな…。
「…まぁ聞くだけ聞いてやる」
けどここまでされちゃ無視出来ない。俺だってそこまで鬼畜じゃない。
場所はあれだがこいつの話を聞くことにした。
「あぁ、俺は元々しがないパーティの一人だったんだが、あるきっかけで追い出されたんだ」
「ほーん、それで?」
パーティってのがよくわからんが、要は団体みたいなもんか。多分。
「その中に、ユーキって奴がいてさ。そいつドラッグに手を出してるみたいで…」
「あー、つまりヤク厨をケアして欲しいと?」
「殺して欲しいんだ」
「なに?」
確かに、相手がヤク厨である以上俺が出来ることなんて何も無いが、どうしてそこで殺しに発展すんのかわからない。
助けて欲しいっつってんのに殺すたぁ、ちょっとびっくりしちまったぜ。
「詳しいことはわからないが、似たようなドラッグを服用した人間なら見たことがある。それで風に聞いた噂だが、治療法が確立されていない上、最期には呼吸困難で死に絶える…。友人として、そんな死に方を見届けることなんて出来やしない!」
「そこで俺に頼み込んできた、と」
そう訊ねると無言のまま首を縦に振る青年。表情からして事態は深刻らしい。
しかしまぁ、恐ろしいドラッグもあったもんだ。最期には呼吸困難で死ぬとか、俺だったら嫌だね。
でも裏を返せば、そうなっても構わないってぐらいの副作用のようなもんがあるってことだ。じゃなきゃ使用者の数が増えるわけもない。
んで、今度の相手はドラッグっつーことは…受け取るやつも居りゃ、渡す奴もいる。つまり裏に誰かが潜んでる可能性があるっつーことになるな。
「頼む!!金は無いが、頼れるのはあんたしか居ない!!」
「………」
まーた危険な仕事になりそうだが、もし渡す側のアホがいりゃそいつは外道に違いない。
だったらやることはひとつ。
「わかった。受けてやる」
「ありが_」
「ただし、あんたは俺を処刑人と知った上で依頼してきた。それで、あんたは俺に何をくれるんだ?」
そう言ってやると、鉄砲をくらった鳩のような顔をする青年。
金がねぇっつった時点で察して欲しいと言わんばかりの顔だな、おい。
でも裏社会ってのはそうなんでも筋が通るほど甘くねぇ。
前のフギンが言ってた通り、この社会に生きる連中は生きるのに必死なんだよ。
「別に金が欲しいってわけじゃないし、金なんてごもっとも。俺が言ってんのはあんたが一番大切にしてるもの。それを引き出せたら依頼を受けてやる」
「俺の…一番大切なもの…」
「こいつは重い取引だ。俺に依頼するってことは殺人罪に加担する意味を指す。そういう覚悟をここで示して欲しい」
それが俺と取引をする際の最大の条件だ。そう無闇矢鱈と人を殺す趣味なんざないし、それをやっちまうと殺人鬼の他ならない。
だから俺はこうやって依頼者に問いを投げるわけだ。…リフィアは命の恩人なんで、あれは論外だが。
「なら…これを」
と、少し悩んだ挙句答えが出たようで。青年は背負っていた獲物を手に掛けると、そのまま引き抜いて俺に渡してきた。
渡ってきたのは身丈ほどのある大剣。それによくみりゃところどころ刃こぼれした跡が見受けられる。
剣とかそういうのは詳しくないから言うのもあれだが、何となく歴戦を生き抜いたものだということだけは分かった。
「あの友人を…ユーキを助けられるのなら悪魔にだって魂を売ってやる。その覚悟でここまで来た。だから頼む…あいつを止めてくれ」
渡された剣をまじまじと見つめていると、目の前にいた青年は念入りを込めて俺に頭を下げてきた。
「…オーケイ、わかった。確かにあんたの覚悟、見届けさせてもらった」
「と、と言うことは…」
「あぁ、受けてやる。明日ここにまた来てくれ」
「ありがとう…ありがとうございます!」
さーて…流れで依頼を受けちまったが、丁度いい暇つぶしになるだろうな。
「おーい!レージくーん!食器溜まってるよー!」
「はいよー」
その前に、仕事を片付けないとな。
リーパーside
エイルの店員兼リフィアの家族になった俺は、翌日に早速仕事を始めた。
慣れない喫茶店用のエプロンを巻き、次々とやってくる食器たちを丁寧に洗い始めた。
仕事とは言え、初日は軽い食器洗いから、慣れてきた頃合いで接客と珈琲の淹れ方など教わる予定だ。
「いらっしゃ…」
元々生業としていた殺しとは程遠い仕事でどこか斬新さを感じる中、新たな客が来店してきたようで、呼び鈴を耳にした瞬間に挨拶を交わしたものの、思わず言葉を切ってしまった。
やってきたのはこのニヴルに来るにゃ若すぎる青年。年齢はせいぜい16歳ぐらいで、何故かボロボロになっていた。
が、何より目を引いたのは背中に背負った巨大な剣…より、彼の瞳だ。
何があったのか知らないが、死んだ魚のような目をしている。ありゃ何かしら恨みのある人間の目だな。
「…なんですか?」
「あ、いやなんでもない」
ちょっとガン見しすぎたか、俺の存在に気付くと青年は「話しかけないで欲しい」と目で訴えるように口にしてきた。
変に模索しない方がいいんだろうが、ああいう目をした人間は何をするのか分かったもんじゃない。
例え、それが殺しに発展してもおかしくない。恨みってのは怖いもんだな。
「いらっしゃい。ここに来るのは初めて?」
「まぁ…そうですね」
なんて思っていたら、店長ことリフィアが挨拶を交わした。
流石長年ここを務めてることだけあって、人との接待が上手い。俺じゃ真似出来ない。
「じゃあ…この珈琲を」
「はいはーい。ちょっと待っててね」
注文のオーダーが入ると、リフィアは元気よく珈琲を作り始めた。
「…なぁ、あんたなんだろ?凄腕の処刑人ってのは?」
「んあ?」
俺と客人が残された、僅かな間。その隙に客人が奇妙なことを言い始めた。
視線は合ってないが、言葉の矛先からして俺だとわかるが…
「その情報をどこで?」
「外で座ってるホームレスに話し掛けられて…お前さんのような死んだ魚のような目をした人間はこの店にいる黒髪の男に相談すればいい、なんて言われ、ここへ…」
「…フギンめ」
あの野郎、いい商売になると思って俺をダシにしたな?
てかなんだよ処刑人って。外道しか殺さねぇぞ俺は。
「で、処刑人だか料理人だかなんだか知らんが、俺になんの用で?」
出来ることなら話を手短にして欲しい。ここはただの喫茶店だ、取引をするような場所じゃない。
「頼む。俺の友人を助けて欲しいんだ」
「友人?」
まだ注文が来ていないカウンターの上で頭を下げる客人。
確かに手短にして欲しいといったが、そんな初っ端から結論を言われてもだな…。
「…まぁ聞くだけ聞いてやる」
けどここまでされちゃ無視出来ない。俺だってそこまで鬼畜じゃない。
場所はあれだがこいつの話を聞くことにした。
「あぁ、俺は元々しがないパーティの一人だったんだが、あるきっかけで追い出されたんだ」
「ほーん、それで?」
パーティってのがよくわからんが、要は団体みたいなもんか。多分。
「その中に、ユーキって奴がいてさ。そいつドラッグに手を出してるみたいで…」
「あー、つまりヤク厨をケアして欲しいと?」
「殺して欲しいんだ」
「なに?」
確かに、相手がヤク厨である以上俺が出来ることなんて何も無いが、どうしてそこで殺しに発展すんのかわからない。
助けて欲しいっつってんのに殺すたぁ、ちょっとびっくりしちまったぜ。
「詳しいことはわからないが、似たようなドラッグを服用した人間なら見たことがある。それで風に聞いた噂だが、治療法が確立されていない上、最期には呼吸困難で死に絶える…。友人として、そんな死に方を見届けることなんて出来やしない!」
「そこで俺に頼み込んできた、と」
そう訊ねると無言のまま首を縦に振る青年。表情からして事態は深刻らしい。
しかしまぁ、恐ろしいドラッグもあったもんだ。最期には呼吸困難で死ぬとか、俺だったら嫌だね。
でも裏を返せば、そうなっても構わないってぐらいの副作用のようなもんがあるってことだ。じゃなきゃ使用者の数が増えるわけもない。
んで、今度の相手はドラッグっつーことは…受け取るやつも居りゃ、渡す奴もいる。つまり裏に誰かが潜んでる可能性があるっつーことになるな。
「頼む!!金は無いが、頼れるのはあんたしか居ない!!」
「………」
まーた危険な仕事になりそうだが、もし渡す側のアホがいりゃそいつは外道に違いない。
だったらやることはひとつ。
「わかった。受けてやる」
「ありが_」
「ただし、あんたは俺を処刑人と知った上で依頼してきた。それで、あんたは俺に何をくれるんだ?」
そう言ってやると、鉄砲をくらった鳩のような顔をする青年。
金がねぇっつった時点で察して欲しいと言わんばかりの顔だな、おい。
でも裏社会ってのはそうなんでも筋が通るほど甘くねぇ。
前のフギンが言ってた通り、この社会に生きる連中は生きるのに必死なんだよ。
「別に金が欲しいってわけじゃないし、金なんてごもっとも。俺が言ってんのはあんたが一番大切にしてるもの。それを引き出せたら依頼を受けてやる」
「俺の…一番大切なもの…」
「こいつは重い取引だ。俺に依頼するってことは殺人罪に加担する意味を指す。そういう覚悟をここで示して欲しい」
それが俺と取引をする際の最大の条件だ。そう無闇矢鱈と人を殺す趣味なんざないし、それをやっちまうと殺人鬼の他ならない。
だから俺はこうやって依頼者に問いを投げるわけだ。…リフィアは命の恩人なんで、あれは論外だが。
「なら…これを」
と、少し悩んだ挙句答えが出たようで。青年は背負っていた獲物を手に掛けると、そのまま引き抜いて俺に渡してきた。
渡ってきたのは身丈ほどのある大剣。それによくみりゃところどころ刃こぼれした跡が見受けられる。
剣とかそういうのは詳しくないから言うのもあれだが、何となく歴戦を生き抜いたものだということだけは分かった。
「あの友人を…ユーキを助けられるのなら悪魔にだって魂を売ってやる。その覚悟でここまで来た。だから頼む…あいつを止めてくれ」
渡された剣をまじまじと見つめていると、目の前にいた青年は念入りを込めて俺に頭を下げてきた。
「…オーケイ、わかった。確かにあんたの覚悟、見届けさせてもらった」
「と、と言うことは…」
「あぁ、受けてやる。明日ここにまた来てくれ」
「ありがとう…ありがとうございます!」
さーて…流れで依頼を受けちまったが、丁度いい暇つぶしになるだろうな。
「おーい!レージくーん!食器溜まってるよー!」
「はいよー」
その前に、仕事を片付けないとな。
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