転生した復讐女のざまぁまでの道のり 天敵は自分で首を絞めていますが、更に絞めて差し上げます

はいから

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第2.5章 -王都学園入学まで 来るべき時に備える-

117.閑話 それぞれのその後

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 Side マシュー


 「ほぅ…バジールに続き”コンポート”か。随分と楽しそうなことを…。これは”タンジ”の名でも何か作るべきか?」

 バジル領に訪問したショーンからの手紙を読み、そう呟いた。

 手紙にはやれ「本場のピザは信じられないくらい旨かった!」だ「ポートマンの名を付けた料理をうちの子とバジル家の子達で発明したんだぜ?いいだろ!」だの・・・それはそれは楽しそうな文面が連なっていた。

 勿論後半は仕事や周囲の情報共有がしっかり書かれてはいたが、他と明らかに熱量が違う。
 「見ているだけで腹がすくような文を書きよって…」と恨み言を言うくらい許してほしいものだ。


 「あら、ショーン様からのお手紙ですか?その様に眉間に皺を寄せて…また何か問題でも?」

 傍で息子をあやしていた妻が、その可愛らしい小さな眉を垂らしながら心配そうに尋ねてきた。
 
 「ふ、いや。心配するようなことなんて何もないさ。」
 否定しながら、バジル家のことが書いてある部分だけ妻に手渡し読ませる。


 「あら、まぁまぁ。ふふっ!随分と楽しそうですわね!お話には聞いていましたが、ポートマンとバジルの方々は本当に仲が良いですね。ぜひ私達も、貴方と仲の良い皆様に会ってみたいですわ!
 それに───憧れのバジル領にとっても行きとうございます!文章を見ているだけでお腹がなりそうでしたわ!」

 「そうだな。───この子がもう少し大きくなったら、その時は皆で一緒に行こう。あそこは真新しい物も多いが、中々美しい情景も広がっている。舌だけでなく目も楽しいぞ。」

 「まぁ!貴方がその様にお褒めになるなんて…益々楽しみだわ!ねぇ、」

 「ぅ?ぁ、ぁぷぅ~、ぅっ!」


 チョンチョン、とその柔い頬を突かれた赤子はキョトンとした顔で母の顔を見つめ返していた。


 「そうだな・・・ポートマン家にもバジル家にも、心優しく聡明な兄姉がいるからな。大きくなって、お前も遊んでもらおうな。」

 マシューが赤子の鼻先を突くと、ムズムズと動いた後大きくくしゃみをした。


 豪快なくしゃみに、母と父は揃って笑いだし…何とも穏やかに時が流れていった。
 

 






 Side タクト


 「おい!!種草の在庫はどこだ?!」「あぁ、場所が足りなくなって1番倉庫の右奥スペースにこの間移動した!」「輸送用の馬車が途中事故にあったってよ!代わりの馬車手配してくれ!」「待て!モレッツ商会の分が最優先だからな!!間違ってもそっちから出すんじゃねぇぞ!!」「んなこたぁ分かってる!!当たり前の事叫ぶなうるせぇ!」「スパイス乾燥第2弾終わったぞ!第3弾のヤツ持ってこい!」


 日に焼けた男達が、事務所の中を叫びながらあちこち駆けまわっている。
 数人いる女達は何やら事務作業に没頭したり、腕いっぱいに束ねた葉を持ち急ぎ足で運んだりしている。


 ここは旧:美食の姫モンブ国支店、現:モレッツ商会モンブ国支店である。

 オーナーのヒューが掴まり、すぐに売りに出され従業員一同路頭に迷っていた。
 そもそもこんな辺境で何もない国の店など、国内はもとより国外でも買う者などどこにもいなかった。


 ────俺の、俺達の恩人であるモレッツ商会の人達以外は。


 給与も貰えぬまま路頭に放り出されてしまった俺は、藁にも縋る思いで恩人であるモレッツ商会に手紙を書いた。
 あの時お願いされた、モンブ国を始めとする南方の地域に生息する植物や生き物について、耳にする噂話などの情報提供の手紙に”職を失ってしまった。モレッツ商会の面接を受けさせてください。”と一言。


 手紙を出して数週間後、手紙の返事ではなく…あの人達は直接ここに来て今の事務所を即金で購入し、元々雇われていた人全てと雇用を結んでくれた。

 「いや、ちょうど南方の拠点を増やそうと思ってたところだったのさ。」とあたかも偶然条件が合っていたからだと言っていたが…俺は知っている。
 
 今南方事業で主軸となるスパイスや薬草の採取を考えれば、廃れた採掘場くらいしかないこの国よりもっと適した所が合ったはずなんだ。
 それでも、一度一緒の時を過ごした…しかも俺達が助けられただけの縁を、モレッツ商会の人達は大事に思ってくれたんだ。

 
 あんなに慈悲深く、心優しい気持ちの良い人達の力に少しでもなりたい!役に立ちたい!胸を張って一緒に働いて仲間になりたい!!と俺達は必死に働いた。

 元々この辺では破格の給料を受け取っていたが、南方事業は大きく当たり今や昔の廃れたモンブ国は…いや、南方の国々は見る影もない程活気にあふれている。


 「副所長!!こちら最終の確認お願いします!確認後OK出たら最終便に乗せれるので至急でお願いします!」
 
 「分かった!今確認します!!」

 
 事務員に声をかけられたタクトは、頭をすぐ様切り替え清書された書類を隅々まで確認していく。


 初めに雇った中で圧倒的に頭がキレ文字も読めたタクトは、モレッツ商会から派遣された所長の次点となる副所長に任命された。
 自分の様な若輩者がいいのだろうか…?と不安だったが、反対意見も無かったので揉めることなくすぐに決まった。


 重くのしかかる責任を感じつつも、「副所長だからいつか本店があるバジル領に出張出来るよ!」と嬉しい言葉を聞いたので頑張っている。
 


 タクトは忙しさに目が回りつつも、憧れのバジル領を目標に、楽しそうに生き生きと働いていくのだった。









 Side テレサ


 太陽の綺麗な日差しが差し込む良く晴れた日、後宮にある美しいガーデンテラスにそれはそれは美しい金髪金瞳の女性が優雅に座っていた。

 その腕には、透き通る様な金色の光沢が美しい腕輪があり、慈しむようにそっと手を添えられていた。


 「あ!!母上!!こんなところにいたんですね!また勝手に…!メイド達がいるとはいえ、そうあちこち行かれては心配します!体調が良くなってまだ日が浅いんですからっ!もう少し安静にしてください!」

 顔立ちがよく似ているルーカス王子が、困り怒った様に女性の元へ駆けてきた。

 「あら、ルーカス。今日も元気そうね。私なら大丈夫よ、人生で一番体調が良いんだもの…!折角自力で歩けるようになったんだから、自分が行きたいところに足を運びたいのよ。
 ふふふっ!やっぱりココはいいわね…このガーデンテラスは私の一番のお気に入りの場所なの。
 あぁ…また来れるようになったなんて、本当に夢のよう…。」


 息子の頭を撫でながら、それはそれは嬉しそうに話す母親にルーカスは口を閉じた。



 そよ風にキラキラと光る金髪を靡かせるこの美女こそ、長年病(遺伝)に苦しんでいた側妃テレサである。
 
 ここ数年は特に症状が酷く、余命幾ばくかと言われていたが、特玉の腕輪により見る見るうちに回復していった。
 固形物も問題なく食べれるようになり、まだまだ痩せているが歩けるほどになっていた。
 医者からも短時間の散歩は問題ないだろうと言われているのだが、長年瀕死の状態を目にしてきた国王陛下やルーカスは気が気でなく…大分過保護になっている。

 本当はもっと色んな所まで出歩きたいのだが、テレサも長年心配かけたことを理解してるのでちょっと目を離している隙に散歩に行く程度に止めている。
 
 
 
 「そんなことより、ルーカス。何だか楽しそうだったじゃない?もしかしてまたバジル家の子達からお手紙が届いたのかしら?」

 「!!そう、そうなんだ母上!!この間グレン達がバジル領に遊びに行くって言ってただろう?行けなかった俺の為にグレンが手紙を書いてくれたんだ!その中にエディとリリーとナーデルの手紙も入ってて!!なんと!皆でポートマンの名を付ける料理を開発したらしいんだ!!コンポートといって、果物を甘く煮た誰でも食べやすい料理なんだって!入ってたレシピを料理長に渡しておいたから、今日食べれると思う!それに”クレープ”っていう食べ物がバジル領で流行ってるらしくて・・・・」



 嬉しそうに手紙の内容を話してくれる息子の姿に、思わず笑みがこぼれる。



 文字通り命懸けで生んだ息子がこの様に立派に大きく育ってくれて、家族思いの優しい子に育ってくれたことが涙が出る程嬉しい。
 少し前までは”いつまでこの子の成長を見守られるか”と悲しくなっていたのに・・・本当に、夢の様だ。

 テレサは今一度、自分を救ってくれたこの腕輪と、腕輪を齎してくれた者達に心から感謝する。


 特にバジル家の方々。
 実際に調達してきたモレッツ商会を始め、私と同じ体質にも関わらず躊躇うことなく救ってくれたリリーナ・バジルというお嬢さん。
 別の特玉と呼ばれるモノが手に入ったと聞き、心底安堵した。そのような心優しい未来ある若者が、私のせいで苦しんだままでなくて本当に良かった。


 この腕輪のこと以外にも、身内以外には心を開かないルーカスと仲良くなり、あの子の世界を広げてくれた。



 本当に、どれ程感謝を伝えても足りないくらい。
 

 この思いがけずに広がった明るい未来を、今まで貰った優しさを皆に返していこう。

 テレサはまだまだ楽しくお喋りを続ける愛しい息子を抱きしめながら、そう誓った。

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