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第2.5章 -王都学園入学まで 来るべき時に備える-
115.自覚
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良く晴れたそよ風が気持ちいい日、今は街の外れにある公園に子ども達と両家のお母様方で訪れている。
私はつい先日知ったのだが、この広大な敷地を有する公園には男爵を中心に隠居生活を楽しむ元職人さん達が手慰みに小さな子達が楽しめる遊具を設置していて、一部だが所謂アスレチック施設になっていた。
都市になりはしたが、気楽に庶民が楽しめる施設が少ないバジル領にとって、無料で時間が潰せて楽しめる貴重な場所となってるようだ。
この公園内には墓地も併設しており、昔からバジル領民にとって先祖家族が安らかに眠り、近所等周囲との憩いの場となっている。
ベンチや木陰を作る大木、休憩所になるウッドデッキ等も増えており、小さい頃初めて訪れた時よりとても過ごしやすく変化していて興味深かった。
アスレチック部分を差し引いてもスペースに余裕がある公園内には、色んな花々が植えられ目にも楽しい。バジル領に自生していない種類もあるから、恐らくは外来から輸入されたものも植えてあるのだろう。
子ども達はアスレチックに、大人達は花園にそれぞれ夢中で…見ているだけで微笑ましいくらい平和な風景だった。
────リリーナは現在、アスレチックを満喫するエディ達から離れシャルを傍に置き一人ベンチに座っていた。
キース達が採ってきてくれた特玉のお陰で、健康な体を手にしたが…これまで同年代と比べあまり運動してこなかったことが祟り、一人だけ早々に体力の限界が来た。
勿論優しいエディ達は付き添おうとしたのだが、折角”セシル達がバジル領に来ているのだから”と断った。「私はお兄様達が来るまで先に”クレープ”を味わっておきますわ!」と言って納得させた。
この公園にはクレープを始め軽食の屋台がいくつかあり、美味しい物が食べられることもこの公園の人気の理由の一つだ。
特に最近バジル領で流行っているアイスクリームと果物とクリームを、薄い生地で巻いた”クレープ”が人気で今日の目的のメインと言っても過言ではない。
本当は子ども達がアスレチックで遊んでいる間、隣接された霊園に訪問しているお母様達の帰りを待って皆で食べる予定だったが…一人手持ち無沙汰で待っているよりは先に食べていた方が皆気を遣わなくて良いだろう。
従者が買ってきてくれるのを待ちながら、アスレチックを楽しむエディ達を見つめる。
お兄様ったら…明らかに年上だろう地元の青年と、”野生児コース”で競争して楽しんでらっしゃる。
(本当、エディって前から思ってたけど人外よね。やっぱエルフの血のせいかしら?)
うぅ~ん、そうかもしれないね。ナーデルもあの年代の子と比べたら明らかに身体能力良さそうだし。
リベアと話しながら、(たしかに、特徴が強く出てないだけでお兄様達もエルフの子孫だもんなぁ)と納得する。
因みに”野生児コース”とは、男爵達が面白半分で作った超人用障害物周辺の事だ。
主に非番の兵士達や地元の肉体自慢用となっており、子どもで遊んでいる者など見たことが無いらしい。
汗を流しながら楽しんでいるお兄様は置いといて、セシルお姉様もこういったアウトドアが好きというのは意外だった。
てっきりお母様達に着いて行くか、私と一緒に先に休憩するかと思ったら…存外気に入ったらしく「私もう少しここで体を動かしますわ!」とキラキラした笑顔で言われた。
本日は動きやすいように、普段着ているドレスではなくパンツスタイルに身を包んでいるセシルお姉様は、いつもよりカッコよく見えた。
私も同じ様な服装をしているはずなのに、この差は何なのか…。
すばしっこいナーデルを相手に、まるで舞う様に障害物を物ともせず涼しい顔で追いかけるセシルお姉様が、ちょっと羨ましく思う。
・・・あれ?そういえば、グレンがいないな??と、先程まで見えていた人物をキョロキョロと探していると、後ろの方から声が聞こえてビックリした。
「リリー、気分はどう?飲み物も買ってきたから、クレープと一緒に飲んで。水分補給も大事だって体術の先生が言ってたから。」
「まぁ!グレン、わざわざごめんなさい。嬉しいわ!私レモン水好きなの!ありがとう!」
まさかこんな風に気遣ってくれたなんて…!とリリーはニコニコ笑顔でお礼を言った。
手放しの感謝に、グレンもふにゃりと笑って嬉しそうだ。
ちょうどいいタイミングで従者がクレープを持ってきてくれたので、グレンにも分けて二人で味わう。
「ん~~~♪美味しい!今季のブドウもとっても美味しいわね!ザインに報告しとかなくちゃ♪」
「うん!本当だ!クリームとかなくても、とっても甘くて美味しいね!このアイスクリーム…何だか普通のバニラ味じゃないね?ちょっと酸味…?チーズに近いのかな…?でもブドウの甘さを引き立ててとっても美味しい…!」
「多分”ヨーグル”という新しい乳製品を使ってるんじゃないかな?ザインが前作ってくれたヨーグルパフェに味が似てるから。あぁ!私達だけの分じゃなくて、皆の分も買ってきて!お母様達が帰ってきたら、お母様達の従者達が交代して食べれるように、今の内に皆食べときましょうよ!」
残って護衛してくれるシャルとハヤトとグレンの従者の分もお願いして、ウキウキしながらまたクレープ屋に向って行く従者を見送りグレンとベンチに座りながらおやつタイムを堪能する。
「っふぅ、知らないうちに喉乾いてたみたい。レモン水が沁みるわぁ~。グレン、ありがとう!グレンは本当に昔から優しいわね!いつもみんなの事を気にかけてくれて…絶対グレンが1番に気が付くわよね。」
「いや、そんな…僕なんか…そんなこと、ないよ。リリーの方が!!僕が不安だったり心配してる時真っ先に声かけてくれる。僕なんかが優しいなら、リリーはその10倍優しいし天使だよ!!本当に…僕の方こそ、いつもありがとう。」
俯くグレンの顔は少し赤くなっているのだが、リリーナからは見えない。
ただ単に照れているグレンだったが、顔が見えないお陰でリリーナはそれはそれは深刻そうにグレンの様子を受け止めていた。
そう、そうだよね…。プレデビュタントの時に知ったけど、グレンは”ヤツ”の幼馴染だったんだもんね。
分かる、分かるぞグレン…君の今まで受けたであろう苦しみは…!!!
話の通じない、というか聞きもせずにやりたい放題して注意したら何故か周りから悪者扱い…!!しかもその状況を見て本人は嘲笑い悲劇のヒロインぶる!!!
虐めっ子のレッテルを張った私から、気に入ったものもそうでもないモノも全部全部奪っていくあの忌まわしき天敵!!!
まぁ今世では前世ではなかった”貴族”というステータスに胡坐をかき、初っ端から本性丸出しで周囲が味方に付くことは無かったみたいだが。
恐らく幼い頃から”ヤツ”にネチネチと否定され続けてきたんだろう。
そうじゃなきゃ皆に愛されるグレンの様な良い子が、「僕なんか」など自分を蔑む言葉を口にするはずがない。
思い返してみれば、初対面の時グレンは酷く怯えていた。
”ヤツ”と同年代で同性である私が怖かったのだろう…、その姿から見ても相当嫌味を言われていたと分かる。
リリーナは勝手に同士の様な気持ちになり、俯きながら顔の熱をどうにか逃がそうとしているグレンの両手をガッ!と握り、顔を近づけながら励ました。
「そんな事ないわ!!!グレン、「僕"なんか"」だなんて悲しい事言わないで!!グレンは私が出会った人達の中でもとびきり優しくてカッコイイ、素敵な男の子だわ!!
他人を思いやる心が人一倍強くて、努力家で、色んな事を吸収しようと勉強熱心で…!!受けた善意には必ず感謝することを忘れない、私の尊敬する人よ。そんな大好きなグレンが、自分を卑下するのは悲しいわ…。どうか、グレンが大好きな私達の為にもそんな悲しい事これから言わないで?」
グレンは、折角引いてきた熱がぶり返し───今度は顔だけでなく、握られた手から体中が真っ赤になった。
そして、リリーナの潤む瞳が光に反射してキラキラと光っているのを間近で見ながら、
”あぁ、好きだな。僕は、リリーが…大好きだな。”
と思った。
暗い、鬱々とした気持ちで溺れていた僕をヒョイッと掬い上げて、キラキラして楽しい気持ちで包み込んでくれた、この心優しく美しい天使の様な女の子。
外見なんて関係なく、どんな姿の僕でも変わらず仲良くしてくれた。
リリーと話すといつもあったかい気持ちになって、でも段々と心臓がよく動くようになっていった。
他のバジル家の人達と話す時も、王都で会う他の令嬢達と話す時とも違う。
リリーが近くにいる時だけ、幸せでウキウキするけど反対に変な汗かくし何故かドキドキして…。
ずっと分からなかった。でも、そっか。僕はリリーに恋してたんだ。
グレンは自身の恋心に気づき、反射的に自身の手を握るリリーの手をギュウッと握り返した。
キョトン、とするリリーナを見て(可愛いなぁ)と思いながら、その真っ赤に染まった顔を笑顔に変える。
────その笑顔は、今までリリーナが見てきた中で一番幸せそうな笑みだった。
「ありがとう、リリー。うん…大好きなリリーに、悲しんで欲しくないし。これからは、もっと自分に自信を持ってみるよ。本当に、ありがとうリリー。大好きだ。」
普段ちょくちょく天然な事を言うグレンだが、聞いてる方が恥ずかしくなるような言葉が出てきてリリーナも思わず真っ赤になってしまった。
「そ、そう!そ、それは良かった!・・・あ!あの!クレープも食べたことだし、食後の運動としてお散歩でもしましょうか!!あっちの花園はまだ見てないし!!」
「ふふ、リリー真っ赤だ。可愛い。…うん。そうだね、そうしよう。リリーが行くなら、どこでも着いて行くよ。さぁ、お手をどうぞ、お姫様。」
この照れてしまった状況をどうにかしたくて散歩に誘ったのに、追撃するように歯の浮くセリフが出てきてリリーナはドギマギしてしまう。
しかも、グレンの様な美少年が言うのでとても様になっており、ツッコミも出来ない。
リリーナは何故かグレンの方が見れず、ずっと花ばかり眺めていた。
隣のグレンは、花など目に入らないと言わんばかりに、横の美しい華を見つめていた。
一部始終を見ていたシャル・ハヤト・グレンの従者は互いに顔を見合わせ、一様に(((マジか…)))と目で訴え合った。
遠目で二人手を繋いで散歩する様子を見たセシルが、3人にどうなってあの様な状況になったのか、事細かく聞くのであった。
私はつい先日知ったのだが、この広大な敷地を有する公園には男爵を中心に隠居生活を楽しむ元職人さん達が手慰みに小さな子達が楽しめる遊具を設置していて、一部だが所謂アスレチック施設になっていた。
都市になりはしたが、気楽に庶民が楽しめる施設が少ないバジル領にとって、無料で時間が潰せて楽しめる貴重な場所となってるようだ。
この公園内には墓地も併設しており、昔からバジル領民にとって先祖家族が安らかに眠り、近所等周囲との憩いの場となっている。
ベンチや木陰を作る大木、休憩所になるウッドデッキ等も増えており、小さい頃初めて訪れた時よりとても過ごしやすく変化していて興味深かった。
アスレチック部分を差し引いてもスペースに余裕がある公園内には、色んな花々が植えられ目にも楽しい。バジル領に自生していない種類もあるから、恐らくは外来から輸入されたものも植えてあるのだろう。
子ども達はアスレチックに、大人達は花園にそれぞれ夢中で…見ているだけで微笑ましいくらい平和な風景だった。
────リリーナは現在、アスレチックを満喫するエディ達から離れシャルを傍に置き一人ベンチに座っていた。
キース達が採ってきてくれた特玉のお陰で、健康な体を手にしたが…これまで同年代と比べあまり運動してこなかったことが祟り、一人だけ早々に体力の限界が来た。
勿論優しいエディ達は付き添おうとしたのだが、折角”セシル達がバジル領に来ているのだから”と断った。「私はお兄様達が来るまで先に”クレープ”を味わっておきますわ!」と言って納得させた。
この公園にはクレープを始め軽食の屋台がいくつかあり、美味しい物が食べられることもこの公園の人気の理由の一つだ。
特に最近バジル領で流行っているアイスクリームと果物とクリームを、薄い生地で巻いた”クレープ”が人気で今日の目的のメインと言っても過言ではない。
本当は子ども達がアスレチックで遊んでいる間、隣接された霊園に訪問しているお母様達の帰りを待って皆で食べる予定だったが…一人手持ち無沙汰で待っているよりは先に食べていた方が皆気を遣わなくて良いだろう。
従者が買ってきてくれるのを待ちながら、アスレチックを楽しむエディ達を見つめる。
お兄様ったら…明らかに年上だろう地元の青年と、”野生児コース”で競争して楽しんでらっしゃる。
(本当、エディって前から思ってたけど人外よね。やっぱエルフの血のせいかしら?)
うぅ~ん、そうかもしれないね。ナーデルもあの年代の子と比べたら明らかに身体能力良さそうだし。
リベアと話しながら、(たしかに、特徴が強く出てないだけでお兄様達もエルフの子孫だもんなぁ)と納得する。
因みに”野生児コース”とは、男爵達が面白半分で作った超人用障害物周辺の事だ。
主に非番の兵士達や地元の肉体自慢用となっており、子どもで遊んでいる者など見たことが無いらしい。
汗を流しながら楽しんでいるお兄様は置いといて、セシルお姉様もこういったアウトドアが好きというのは意外だった。
てっきりお母様達に着いて行くか、私と一緒に先に休憩するかと思ったら…存外気に入ったらしく「私もう少しここで体を動かしますわ!」とキラキラした笑顔で言われた。
本日は動きやすいように、普段着ているドレスではなくパンツスタイルに身を包んでいるセシルお姉様は、いつもよりカッコよく見えた。
私も同じ様な服装をしているはずなのに、この差は何なのか…。
すばしっこいナーデルを相手に、まるで舞う様に障害物を物ともせず涼しい顔で追いかけるセシルお姉様が、ちょっと羨ましく思う。
・・・あれ?そういえば、グレンがいないな??と、先程まで見えていた人物をキョロキョロと探していると、後ろの方から声が聞こえてビックリした。
「リリー、気分はどう?飲み物も買ってきたから、クレープと一緒に飲んで。水分補給も大事だって体術の先生が言ってたから。」
「まぁ!グレン、わざわざごめんなさい。嬉しいわ!私レモン水好きなの!ありがとう!」
まさかこんな風に気遣ってくれたなんて…!とリリーはニコニコ笑顔でお礼を言った。
手放しの感謝に、グレンもふにゃりと笑って嬉しそうだ。
ちょうどいいタイミングで従者がクレープを持ってきてくれたので、グレンにも分けて二人で味わう。
「ん~~~♪美味しい!今季のブドウもとっても美味しいわね!ザインに報告しとかなくちゃ♪」
「うん!本当だ!クリームとかなくても、とっても甘くて美味しいね!このアイスクリーム…何だか普通のバニラ味じゃないね?ちょっと酸味…?チーズに近いのかな…?でもブドウの甘さを引き立ててとっても美味しい…!」
「多分”ヨーグル”という新しい乳製品を使ってるんじゃないかな?ザインが前作ってくれたヨーグルパフェに味が似てるから。あぁ!私達だけの分じゃなくて、皆の分も買ってきて!お母様達が帰ってきたら、お母様達の従者達が交代して食べれるように、今の内に皆食べときましょうよ!」
残って護衛してくれるシャルとハヤトとグレンの従者の分もお願いして、ウキウキしながらまたクレープ屋に向って行く従者を見送りグレンとベンチに座りながらおやつタイムを堪能する。
「っふぅ、知らないうちに喉乾いてたみたい。レモン水が沁みるわぁ~。グレン、ありがとう!グレンは本当に昔から優しいわね!いつもみんなの事を気にかけてくれて…絶対グレンが1番に気が付くわよね。」
「いや、そんな…僕なんか…そんなこと、ないよ。リリーの方が!!僕が不安だったり心配してる時真っ先に声かけてくれる。僕なんかが優しいなら、リリーはその10倍優しいし天使だよ!!本当に…僕の方こそ、いつもありがとう。」
俯くグレンの顔は少し赤くなっているのだが、リリーナからは見えない。
ただ単に照れているグレンだったが、顔が見えないお陰でリリーナはそれはそれは深刻そうにグレンの様子を受け止めていた。
そう、そうだよね…。プレデビュタントの時に知ったけど、グレンは”ヤツ”の幼馴染だったんだもんね。
分かる、分かるぞグレン…君の今まで受けたであろう苦しみは…!!!
話の通じない、というか聞きもせずにやりたい放題して注意したら何故か周りから悪者扱い…!!しかもその状況を見て本人は嘲笑い悲劇のヒロインぶる!!!
虐めっ子のレッテルを張った私から、気に入ったものもそうでもないモノも全部全部奪っていくあの忌まわしき天敵!!!
まぁ今世では前世ではなかった”貴族”というステータスに胡坐をかき、初っ端から本性丸出しで周囲が味方に付くことは無かったみたいだが。
恐らく幼い頃から”ヤツ”にネチネチと否定され続けてきたんだろう。
そうじゃなきゃ皆に愛されるグレンの様な良い子が、「僕なんか」など自分を蔑む言葉を口にするはずがない。
思い返してみれば、初対面の時グレンは酷く怯えていた。
”ヤツ”と同年代で同性である私が怖かったのだろう…、その姿から見ても相当嫌味を言われていたと分かる。
リリーナは勝手に同士の様な気持ちになり、俯きながら顔の熱をどうにか逃がそうとしているグレンの両手をガッ!と握り、顔を近づけながら励ました。
「そんな事ないわ!!!グレン、「僕"なんか"」だなんて悲しい事言わないで!!グレンは私が出会った人達の中でもとびきり優しくてカッコイイ、素敵な男の子だわ!!
他人を思いやる心が人一倍強くて、努力家で、色んな事を吸収しようと勉強熱心で…!!受けた善意には必ず感謝することを忘れない、私の尊敬する人よ。そんな大好きなグレンが、自分を卑下するのは悲しいわ…。どうか、グレンが大好きな私達の為にもそんな悲しい事これから言わないで?」
グレンは、折角引いてきた熱がぶり返し───今度は顔だけでなく、握られた手から体中が真っ赤になった。
そして、リリーナの潤む瞳が光に反射してキラキラと光っているのを間近で見ながら、
”あぁ、好きだな。僕は、リリーが…大好きだな。”
と思った。
暗い、鬱々とした気持ちで溺れていた僕をヒョイッと掬い上げて、キラキラして楽しい気持ちで包み込んでくれた、この心優しく美しい天使の様な女の子。
外見なんて関係なく、どんな姿の僕でも変わらず仲良くしてくれた。
リリーと話すといつもあったかい気持ちになって、でも段々と心臓がよく動くようになっていった。
他のバジル家の人達と話す時も、王都で会う他の令嬢達と話す時とも違う。
リリーが近くにいる時だけ、幸せでウキウキするけど反対に変な汗かくし何故かドキドキして…。
ずっと分からなかった。でも、そっか。僕はリリーに恋してたんだ。
グレンは自身の恋心に気づき、反射的に自身の手を握るリリーの手をギュウッと握り返した。
キョトン、とするリリーナを見て(可愛いなぁ)と思いながら、その真っ赤に染まった顔を笑顔に変える。
────その笑顔は、今までリリーナが見てきた中で一番幸せそうな笑みだった。
「ありがとう、リリー。うん…大好きなリリーに、悲しんで欲しくないし。これからは、もっと自分に自信を持ってみるよ。本当に、ありがとうリリー。大好きだ。」
普段ちょくちょく天然な事を言うグレンだが、聞いてる方が恥ずかしくなるような言葉が出てきてリリーナも思わず真っ赤になってしまった。
「そ、そう!そ、それは良かった!・・・あ!あの!クレープも食べたことだし、食後の運動としてお散歩でもしましょうか!!あっちの花園はまだ見てないし!!」
「ふふ、リリー真っ赤だ。可愛い。…うん。そうだね、そうしよう。リリーが行くなら、どこでも着いて行くよ。さぁ、お手をどうぞ、お姫様。」
この照れてしまった状況をどうにかしたくて散歩に誘ったのに、追撃するように歯の浮くセリフが出てきてリリーナはドギマギしてしまう。
しかも、グレンの様な美少年が言うのでとても様になっており、ツッコミも出来ない。
リリーナは何故かグレンの方が見れず、ずっと花ばかり眺めていた。
隣のグレンは、花など目に入らないと言わんばかりに、横の美しい華を見つめていた。
一部始終を見ていたシャル・ハヤト・グレンの従者は互いに顔を見合わせ、一様に(((マジか…)))と目で訴え合った。
遠目で二人手を繋いで散歩する様子を見たセシルが、3人にどうなってあの様な状況になったのか、事細かく聞くのであった。
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