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第2章 -少女期 復讐の決意-
109.閑話 Side天敵 リリーナの復讐 -3-
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Side アイリ
アイリは今、忌々しいグリーゼがあの時着ていた古くダサいドレスを着て、苦々しい表情で家庭教師による授業を受けていた。
勿論、隣にはアイリのその姿に満足そうに笑うグリーゼがいる。
結局あの後アイリの部屋に届いたダサいドレスを放置していたが、義父であるジョオンから「せっかく君の為にグリーゼが送ってあげたのに…言いたいことは分かるね?」と圧力をかけられ、それも無視していたら部屋中の服が全て無くなりこのドレスしか着るモノがなくなってしまった。
その日の朝会った瞬間に爆笑し始めたグリーゼに噛みついていたが、あの女は忍者かと思う程よく人の気配を感じ取り、ジョオンに”義姉を虐める義妹の姿”をまんまと見せつけることになった。
朝食時には、延々と義父から説教を聞く羽目になったし…。
しかしどれ程癇癪を起こしても、真摯に訴えても、泣きついてもあの義父はアイリの言葉を受け入れることは無かった。
明らかに自分よりも見目も生まれも劣っている二人に、虫けらの様に扱われることに我慢出来なかった。
しかし今ヒューの様に言う事を聞く使用人もいなければ、二人にどうこう出来る力もない……。
アイリはどうにも出来ない鬱憤を自分の部屋のモノを壊すことで発散していたが、一向に片づけられる気配が無い為早々に止めた。
せめてあのムカつく顔を見なくていい様にと、自室にずっと引き籠っていたが…それすら出来なくなった。
引き籠って数日経ったある日、義父が訪ねてきた。
「アイリ、君が外に出ないからグリーゼが心配しているよ。ずっと君を案じて泣いているあの子が可愛そうだと思わないかい?」
「ふんっ!思わないわよ!このバカ親がっ、あの女の演技だって気づきもしないで!本当アンタの目腐ってんじゃない?冗談はその顔だけにしなさいよブサイク!!
アイリはあの女がいる限り、絶対に部屋から出ないから!!アイリを部屋から出したいならあの女を家から出しなさいよ!!」
「・・・はぁ、アイリ。君は本当に我儘で悪い子だね?君は、元は伯爵令嬢の娘だったかもしれないが、今はただの”庶民の犯罪者の孫娘”だよ?身の振る舞いには気を付けたまえ。
私の可愛い娘を家から出すなんてありえないし、出すとしたら君の方かな?勉強も満足にしていないし…。」
「え?!?!家から出してくれるの?!?!いいわよ、私出てやっても!!あの女がいない分家の方がよっぽどマシじゃない!!」
「ふ、ぐふふふっ!!!!面白い事を言うね!!君なんかをなぜ分家に置かないといけないんだい?君を送る先なんて、修道院しか無いに決まってるじゃないか!!
あぁ、僕達は北方の厳しい人里離れた寒さ厳しい修道院を昔から支援していてね、送るとしたら近場の修道院じゃなくてそこになるかな?まぁ、勉強も出来ないんじゃ学園にも恥ずかしくて入学させられないし…ちょうどいいかもしれないね?お爺様の罪を、一生かけて懺悔するといいよ。」
その義父からの話の”おかげ”で、アイリは自室に籠るのも止め顔も見たくない女と合同の授業も受けるようになった。
因みに、悪魔は大変満足そうに爆笑していた。
そして、アイリに対して本当に虫程の情も無い事が分かった義父の機嫌を損ねない為に、嫌々このダサいドレスも定期的に義父に見せるように着用している。
その度にニヤニヤニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべ絡んでくるあの女が、毎回毎回忌々しいが…背に腹は代えられない。
何とかしてこの屋敷で権力を持たなければ…!!
しかし味方も金も無い今…アイリが出来ることなんて…いや、待てよ?ヒューに頼んだアイリのお店があるじゃない!!!
そうよ、そうだった!!アイリの”美食の姫”という大繁盛しているお店が!!
伯爵家の財産は没収されても、アイリ個人の財産だもの!まだアイリのモノのままよね???
もし没収されてても…流石に南方の田舎他国に出店した店までは知られてないでしょう…!!あぁ、そうよ!まだアイリは終わりじゃなかったわ!!!
アイリは伯爵家にいた時、婆やから聞いたような話をしている家庭教師を気にも留めずに”どうすればあの女を蹴落とせるか、これからどうやって店の状況を確認するか”を考えていた。
やっと授業が終わり、次の家庭教師が来るまでの休憩時間。
お茶を飲みながらニタニタと笑う女が嫌でも視界に入り、舌打ちをして威嚇する。
「何見てんのよブス、アンタみたいなブスに見られたらブスが移るわ!見ないでくれる??」
「ぷっ!あははっ!!本当面白い、アンタずーっと思ってたけど…自分が”美人”だと勘違いし過ぎじゃない?さっきの授業聞いてた?先生が優しく”調子に乗るな”って言ってあげてたのに…本っ当、おバカなのねぇ~??アッハッハッハ!!!」
後ろに控える従者と目線を合わせながら、嘲笑うグリーゼとクスクス隠さず笑う従者達が癇に障る。
「何よ?!?!アンタ、アイリが自分より可愛いからって嫉妬してんの?!?!可哀想に、強制的に綺麗だってそこの従者達も言わされてるんでしょ??ああーぁ、本っ当!ブスは性格まで醜くて嫌になるわっ!!!」
最高に見下した、嘲笑った嫌な視線を寄こしたのに…益々笑いこける奴等に痺れを切らした。
「いったい何なのよ?!?!?!ブスが気でも狂ったんじゃないの?!?!?!そんなにアイリをブサイク女に仕立て上げたいわけ?!?!アンタの顔は整形で治っても、その腐った性格は一生そのままでしょうね!!!!」
「ふ、ふふふっ!!もう、止めて頂戴、笑い死んじゃうわっ!!
滅茶苦茶面白かったから特別に、教えてあげるわね?今までも絶対教えてもらってたと思うけど…何だか聞いてなかったみたいだから、今回はよーーーーく聞くのよ?ふ、ふふふっ。
この世界、この国では特に”色素が薄い”ことが尊ばれてるのは、流石に知ってるでしょ?だから黒髪黒目や褐色の肌である異民族が虐げられるという風潮があったわ。今では大分緩和したけどね。
だから貴族階級では”薄い色”を持つ子孫を生もうと、色素の薄い者を配偶者として求めてきた…だから高位貴族になればなるほど色素が薄い容姿だし、それがステータスになっていったわ。
────なのに、アンタのその気持ち悪い色は何??
高位貴族の中の高位貴族である公爵家と、伯爵家の血を受けたはずのアンタが…そんなに濃い色素を持って、そして”今まで見たこともない不気味な色”を持って生まれてきたのよ?
確かに顔立ちだけ見れば、アンタは見目の良い部類に入るかもしれない。
でもね?それ以上に”色素の薄さ”が尊ばれる私達から見たら、アンタのその顔立ちなんて目に入らないくらい”醜く”見えるのよ!
────お分かりいただけた?アンタの実父を見てみたいわぁ…お義母様の間男なんでしょ?アンタは会った事あるの?よっぽど汚らしい色を持ってたのね…お義母様の趣味が分からないわ、本当。」
「は・・・・・は?」
アイリはグリーゼの言ってる意味が理解できなかった。…否、理解したくなかった。
確かに、今思うと幼い頃から母親には「何故その様な色彩を…!」とよく言われていた。
でもまぁアイリ自身が望んだ外見だったので、実の父母と違うことは仕方ないだろうと気にも留めていなかった。
むしろ(そこは神様が気を利かせて同じような色を持った親にするべきだった)と不満さえあった。
婆やからも確かに、”濃い色彩を持つ者は下賤で、奴隷や労働力として多く使われる”と教えられた。
その時は自分が聖女という立ち位置になった時の知識として、覚えておかないとと思っただけだった・・・まさか、アイリのことも言っていたのか?
「う、嘘よ……だって、アイリは美少女で、可愛くて…この髪も瞳も、アイリが好きな可愛いキャラから…嘘、嘘嘘嘘嘘!!!!!信じないわよっア、アンタ!!アイリを騙すつもりね?!?!」
「ぷっ!!!嘘って…!!本当に誰にも教えられてなかった訳?!面白すぎでしょ!!!
まぁ、腐っても(笑)公爵令嬢だったわけだし、誰も言えないかぁ~??ふ、ふふっアンタを騙したりするのも面白そうだけど、今言ったことは全部本当よ。
だってこの国で一番尊い王族は、色素の薄さでも頂点じゃない?銀髪に金色の瞳だもの。それに、アンタが見てた周りの貴族達の中に、濃い色彩を持った人がいた?そんな人、愛人でない限りいないでしょうよ!」
嘘嘘嘘嘘嘘、だって…アイリが、アイリが望んだのは!
可愛くてスタイルが良くて、どんな男でも恋しちゃう美少女で!!
(顔立ちは美しくしてやったし、髪の色も瞳の色も望み通りにしてやった)
何でも望めば手に入るお金持ちで!!
(お前はただ”公爵令嬢に”と望んだだけだ。その通りの出自にしてやった)
将来は王子様とか貴族の幼馴染が、アイリをかけて争っちゃう様な!!!少女漫画のヒロインみたいなお姫様だったのに!!!!
(そんなの俺は知らないね~、何せ望んだ事は全て叶えた。それ以外はお前の責任だ。)
顔を青ざめ、ブツブツと現実を否定し続ける人形の様になったアイリを、面白そうに見つめるグリーゼ…と悪魔。
更に追い打ちをかけるように、グリーゼが話しかける。
「あ、そうそう!この間商人に聞いたけど、アンタの名前で使用人が所有してた食堂?何か都市外れの領と田舎の他国に持ってたらしいわね?あれどっちも買い取られたらしいわよ?
田舎の他国の方は絶対買い取り相手なんか現れないだろうと思ってたのに、何と”あの”モレッツ商会が買い取ったんですって!しかも、新しい商品の生産に関わってるから相当稼いでるらしいわよ?
食堂だった頃より、ずーーっと稼げるし雇い主は優しいし…その周辺も発展させてくれるから滅茶苦茶歓迎されてるそうよ?元の雇い主の悪評が出回る程度には♪
それに────アンタ、あのバジル家のご令嬢に無礼を働いたらしいじゃない?
モレッツ商会がバジル家の御用達なこともあって、アンタとリリーナ様がよく比べられて話題に上がるそうよ。
不気味な容姿で乱暴者卑しい情婦の様な没落したアイリーン、春の女神の様に美しく分け隔てなく接する優しい天使の様なリリーナ様。
あぁ、しかも!ルーカス王子はリリーナ様に随分ご執心みたいよ。それからアンタの幼馴染だっけ?グレン・ポートマン様も仲が良いと聞いたわ。
何だか本になれそうな程、何もかも違うんですもの!笑っちゃうわね!!!」
どんどん顔が変わっていくアイリーンに気づき、煽る様に次々に情報を与える口は止まらない。
自分が望んだもの全てを持つ女が、あの気に食わない田舎者だと……???
しかもアイリの”美食の姫”を、奪った???王子も幼馴染も、全部全部全部全部……!!!
「リリーナ・・・・バジル・・・・!!!!!」
鬼の様な形相で恨み言を呟くように、忌々しい女の名前を呟く。
度重なるストレスと怒りと妬みと嫉み、そして絶望に耐えきれずアイリは発狂した。
アイリは今、忌々しいグリーゼがあの時着ていた古くダサいドレスを着て、苦々しい表情で家庭教師による授業を受けていた。
勿論、隣にはアイリのその姿に満足そうに笑うグリーゼがいる。
結局あの後アイリの部屋に届いたダサいドレスを放置していたが、義父であるジョオンから「せっかく君の為にグリーゼが送ってあげたのに…言いたいことは分かるね?」と圧力をかけられ、それも無視していたら部屋中の服が全て無くなりこのドレスしか着るモノがなくなってしまった。
その日の朝会った瞬間に爆笑し始めたグリーゼに噛みついていたが、あの女は忍者かと思う程よく人の気配を感じ取り、ジョオンに”義姉を虐める義妹の姿”をまんまと見せつけることになった。
朝食時には、延々と義父から説教を聞く羽目になったし…。
しかしどれ程癇癪を起こしても、真摯に訴えても、泣きついてもあの義父はアイリの言葉を受け入れることは無かった。
明らかに自分よりも見目も生まれも劣っている二人に、虫けらの様に扱われることに我慢出来なかった。
しかし今ヒューの様に言う事を聞く使用人もいなければ、二人にどうこう出来る力もない……。
アイリはどうにも出来ない鬱憤を自分の部屋のモノを壊すことで発散していたが、一向に片づけられる気配が無い為早々に止めた。
せめてあのムカつく顔を見なくていい様にと、自室にずっと引き籠っていたが…それすら出来なくなった。
引き籠って数日経ったある日、義父が訪ねてきた。
「アイリ、君が外に出ないからグリーゼが心配しているよ。ずっと君を案じて泣いているあの子が可愛そうだと思わないかい?」
「ふんっ!思わないわよ!このバカ親がっ、あの女の演技だって気づきもしないで!本当アンタの目腐ってんじゃない?冗談はその顔だけにしなさいよブサイク!!
アイリはあの女がいる限り、絶対に部屋から出ないから!!アイリを部屋から出したいならあの女を家から出しなさいよ!!」
「・・・はぁ、アイリ。君は本当に我儘で悪い子だね?君は、元は伯爵令嬢の娘だったかもしれないが、今はただの”庶民の犯罪者の孫娘”だよ?身の振る舞いには気を付けたまえ。
私の可愛い娘を家から出すなんてありえないし、出すとしたら君の方かな?勉強も満足にしていないし…。」
「え?!?!家から出してくれるの?!?!いいわよ、私出てやっても!!あの女がいない分家の方がよっぽどマシじゃない!!」
「ふ、ぐふふふっ!!!!面白い事を言うね!!君なんかをなぜ分家に置かないといけないんだい?君を送る先なんて、修道院しか無いに決まってるじゃないか!!
あぁ、僕達は北方の厳しい人里離れた寒さ厳しい修道院を昔から支援していてね、送るとしたら近場の修道院じゃなくてそこになるかな?まぁ、勉強も出来ないんじゃ学園にも恥ずかしくて入学させられないし…ちょうどいいかもしれないね?お爺様の罪を、一生かけて懺悔するといいよ。」
その義父からの話の”おかげ”で、アイリは自室に籠るのも止め顔も見たくない女と合同の授業も受けるようになった。
因みに、悪魔は大変満足そうに爆笑していた。
そして、アイリに対して本当に虫程の情も無い事が分かった義父の機嫌を損ねない為に、嫌々このダサいドレスも定期的に義父に見せるように着用している。
その度にニヤニヤニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべ絡んでくるあの女が、毎回毎回忌々しいが…背に腹は代えられない。
何とかしてこの屋敷で権力を持たなければ…!!
しかし味方も金も無い今…アイリが出来ることなんて…いや、待てよ?ヒューに頼んだアイリのお店があるじゃない!!!
そうよ、そうだった!!アイリの”美食の姫”という大繁盛しているお店が!!
伯爵家の財産は没収されても、アイリ個人の財産だもの!まだアイリのモノのままよね???
もし没収されてても…流石に南方の田舎他国に出店した店までは知られてないでしょう…!!あぁ、そうよ!まだアイリは終わりじゃなかったわ!!!
アイリは伯爵家にいた時、婆やから聞いたような話をしている家庭教師を気にも留めずに”どうすればあの女を蹴落とせるか、これからどうやって店の状況を確認するか”を考えていた。
やっと授業が終わり、次の家庭教師が来るまでの休憩時間。
お茶を飲みながらニタニタと笑う女が嫌でも視界に入り、舌打ちをして威嚇する。
「何見てんのよブス、アンタみたいなブスに見られたらブスが移るわ!見ないでくれる??」
「ぷっ!あははっ!!本当面白い、アンタずーっと思ってたけど…自分が”美人”だと勘違いし過ぎじゃない?さっきの授業聞いてた?先生が優しく”調子に乗るな”って言ってあげてたのに…本っ当、おバカなのねぇ~??アッハッハッハ!!!」
後ろに控える従者と目線を合わせながら、嘲笑うグリーゼとクスクス隠さず笑う従者達が癇に障る。
「何よ?!?!アンタ、アイリが自分より可愛いからって嫉妬してんの?!?!可哀想に、強制的に綺麗だってそこの従者達も言わされてるんでしょ??ああーぁ、本っ当!ブスは性格まで醜くて嫌になるわっ!!!」
最高に見下した、嘲笑った嫌な視線を寄こしたのに…益々笑いこける奴等に痺れを切らした。
「いったい何なのよ?!?!?!ブスが気でも狂ったんじゃないの?!?!?!そんなにアイリをブサイク女に仕立て上げたいわけ?!?!アンタの顔は整形で治っても、その腐った性格は一生そのままでしょうね!!!!」
「ふ、ふふふっ!!もう、止めて頂戴、笑い死んじゃうわっ!!
滅茶苦茶面白かったから特別に、教えてあげるわね?今までも絶対教えてもらってたと思うけど…何だか聞いてなかったみたいだから、今回はよーーーーく聞くのよ?ふ、ふふふっ。
この世界、この国では特に”色素が薄い”ことが尊ばれてるのは、流石に知ってるでしょ?だから黒髪黒目や褐色の肌である異民族が虐げられるという風潮があったわ。今では大分緩和したけどね。
だから貴族階級では”薄い色”を持つ子孫を生もうと、色素の薄い者を配偶者として求めてきた…だから高位貴族になればなるほど色素が薄い容姿だし、それがステータスになっていったわ。
────なのに、アンタのその気持ち悪い色は何??
高位貴族の中の高位貴族である公爵家と、伯爵家の血を受けたはずのアンタが…そんなに濃い色素を持って、そして”今まで見たこともない不気味な色”を持って生まれてきたのよ?
確かに顔立ちだけ見れば、アンタは見目の良い部類に入るかもしれない。
でもね?それ以上に”色素の薄さ”が尊ばれる私達から見たら、アンタのその顔立ちなんて目に入らないくらい”醜く”見えるのよ!
────お分かりいただけた?アンタの実父を見てみたいわぁ…お義母様の間男なんでしょ?アンタは会った事あるの?よっぽど汚らしい色を持ってたのね…お義母様の趣味が分からないわ、本当。」
「は・・・・・は?」
アイリはグリーゼの言ってる意味が理解できなかった。…否、理解したくなかった。
確かに、今思うと幼い頃から母親には「何故その様な色彩を…!」とよく言われていた。
でもまぁアイリ自身が望んだ外見だったので、実の父母と違うことは仕方ないだろうと気にも留めていなかった。
むしろ(そこは神様が気を利かせて同じような色を持った親にするべきだった)と不満さえあった。
婆やからも確かに、”濃い色彩を持つ者は下賤で、奴隷や労働力として多く使われる”と教えられた。
その時は自分が聖女という立ち位置になった時の知識として、覚えておかないとと思っただけだった・・・まさか、アイリのことも言っていたのか?
「う、嘘よ……だって、アイリは美少女で、可愛くて…この髪も瞳も、アイリが好きな可愛いキャラから…嘘、嘘嘘嘘嘘!!!!!信じないわよっア、アンタ!!アイリを騙すつもりね?!?!」
「ぷっ!!!嘘って…!!本当に誰にも教えられてなかった訳?!面白すぎでしょ!!!
まぁ、腐っても(笑)公爵令嬢だったわけだし、誰も言えないかぁ~??ふ、ふふっアンタを騙したりするのも面白そうだけど、今言ったことは全部本当よ。
だってこの国で一番尊い王族は、色素の薄さでも頂点じゃない?銀髪に金色の瞳だもの。それに、アンタが見てた周りの貴族達の中に、濃い色彩を持った人がいた?そんな人、愛人でない限りいないでしょうよ!」
嘘嘘嘘嘘嘘、だって…アイリが、アイリが望んだのは!
可愛くてスタイルが良くて、どんな男でも恋しちゃう美少女で!!
(顔立ちは美しくしてやったし、髪の色も瞳の色も望み通りにしてやった)
何でも望めば手に入るお金持ちで!!
(お前はただ”公爵令嬢に”と望んだだけだ。その通りの出自にしてやった)
将来は王子様とか貴族の幼馴染が、アイリをかけて争っちゃう様な!!!少女漫画のヒロインみたいなお姫様だったのに!!!!
(そんなの俺は知らないね~、何せ望んだ事は全て叶えた。それ以外はお前の責任だ。)
顔を青ざめ、ブツブツと現実を否定し続ける人形の様になったアイリを、面白そうに見つめるグリーゼ…と悪魔。
更に追い打ちをかけるように、グリーゼが話しかける。
「あ、そうそう!この間商人に聞いたけど、アンタの名前で使用人が所有してた食堂?何か都市外れの領と田舎の他国に持ってたらしいわね?あれどっちも買い取られたらしいわよ?
田舎の他国の方は絶対買い取り相手なんか現れないだろうと思ってたのに、何と”あの”モレッツ商会が買い取ったんですって!しかも、新しい商品の生産に関わってるから相当稼いでるらしいわよ?
食堂だった頃より、ずーーっと稼げるし雇い主は優しいし…その周辺も発展させてくれるから滅茶苦茶歓迎されてるそうよ?元の雇い主の悪評が出回る程度には♪
それに────アンタ、あのバジル家のご令嬢に無礼を働いたらしいじゃない?
モレッツ商会がバジル家の御用達なこともあって、アンタとリリーナ様がよく比べられて話題に上がるそうよ。
不気味な容姿で乱暴者卑しい情婦の様な没落したアイリーン、春の女神の様に美しく分け隔てなく接する優しい天使の様なリリーナ様。
あぁ、しかも!ルーカス王子はリリーナ様に随分ご執心みたいよ。それからアンタの幼馴染だっけ?グレン・ポートマン様も仲が良いと聞いたわ。
何だか本になれそうな程、何もかも違うんですもの!笑っちゃうわね!!!」
どんどん顔が変わっていくアイリーンに気づき、煽る様に次々に情報を与える口は止まらない。
自分が望んだもの全てを持つ女が、あの気に食わない田舎者だと……???
しかもアイリの”美食の姫”を、奪った???王子も幼馴染も、全部全部全部全部……!!!
「リリーナ・・・・バジル・・・・!!!!!」
鬼の様な形相で恨み言を呟くように、忌々しい女の名前を呟く。
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