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第2章 -少女期 復讐の決意-

102.閑話 Side罪人 罪人の処遇

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注意!
残虐表現あります。
苦手な方はスルーして下さい。




 
 Side ヒュー

 暗い鉄格子の中で、ヒューは足を抱え恐怖に震えていた。
 
 この場所は正確には分からないが何処かの古城跡だろうと、この薄暗い地下牢の広さから推測する。
 思い出すのも悍ましい、拷問まがいの尋問をダイスから受けたヒューは早々に情報を吐いてここに収監された。

 今はいないが、同じ牢に見るからに粗野な輩数人と押し込められ”処刑されるのだろう”と思いながら鬱々と過ごしていたが…。
 いくらか経ったある日、牢から出された時”とうとうその時が…”と絶望したが───本当の絶望というモノを、その数時間後に知った。


 ギイィィーーーーーッと音がしてビクッとなりながらその音の方を見ると、数日前に向かいの牢に収監されたピラカンサ家の当主達が、警備している者に拘束されながら牢から出るところだった。


 「クソッ!ぞんざいに扱うなこの平民がッ!!今に見てろ、島流しされてもこの恨み、いつか返しに来てやるからな!それまでせいぜい呑気に”腑抜けた王国”でも守ってろバァーーーカッ!!!」

 当主のアセビが何やら喚いているが…何も知らないその姿は、憐みを通り越していっそ愉快だった。
 あの甘々貴族達は、あれ程の事をやっておいて”島流し”程度の罰だと思っているらしい。
 勿論、未開の地である南大陸への島流しはその道中も危険だし、運よく島に着いた所で先に島流しにあった”極悪人”共に殺されたりカモにされたりするかもしれない。

 だが……その方が絶対に、確実にマシであったに違いない。


 心の中で(そんな口を利いてられるのも今の内だボンボンめが)など薄暗く悪態をついていると、ガシャンッとヒューの牢も開けられた。

 同牢の者達はまだ帰ってきていない……まさかっ!!!


 「あ、あぁぁぁああ!い、嫌だ、嫌だ!助けて、助けてくれえええぇぇぇぇええ!!」

 喚きながら拘束してくる手を払いのけ抵抗を見せるが、まるで子どもを相手にしているかの様に簡単に捕まった。

 
 ヒューは絶望に染まったまま、せめてもの抵抗で力を抜き移動しにくい様、時間をたっぷりかけながら連行されて行くのだった。



 ◇



 Side アセビ


 ボキッ! という5回目の嫌な音が全身の骨を通って自分の耳に聞こえたと同時に、5回目の悶える様な痛みと患部の熱さがアセビを襲った。


 「ああああぁぁぁぁあああああ!!!!い、痛いっ!!!痛いいいいいいいいぃぃぃいいい!!!たす、たすけて!助けてくれえええぇぇぇぇええ!!」

 体をドタバタ暴れさせ、痛みを胡散させようとするが上に圧し掛かった影者のせいで全く効果がない。


 「はい、えぇっと。もし捕まえた曲者が情報を吐かない場合は、こうして1本ずつ指を折っていくというのが拷問の基本です。後日やりますが、骨を折る前に1枚ずつ爪を剥いでいくというのも基本になります。
 どっちかってぇと、素人っぽい方が爪から、それなりに経験積んでそうだったら指からいった方が経験上早いと思います。あ、あくまでも自分の肌感なんで、正解は無いです。順にやっていっても大丈夫だし。
 今回は講義2回目の人と初回の人がいるのと、爪を剥ぐ器具が他で全て使用中の為指折りをしてるだけですので。急いでる時とか器具がない時は指折りの方が早いですよ。」

 アセビの上に乗っている者…バジル家の影の者が、数人の少年~青年達に教えている。

 「どけ!!どけぇぇぇぇええ!!!貴様ッ!!情報はもう吐いたというのにこの仕打ち!!!罪人への、ましてや貴族罪人に対して過剰な尋問・拷問は法で禁止されているはず!!!
 離せっこんなことをして、ただで済むと思うなぁぁぁあああ!!!」


 先程から口うるさい”罪人”を見て、「はぁ、」とため息を吐く。


 「うるせぇなぁ……。ちょっと予定を変更します。”水責め”の講義をしますので、そちらの桶と布…あぁ、ありがとう。気が利くね。そういう先々の事を読めるっていうのも、影として仕える時役に立ちますよ。」

 そういうと、たっぷり水分を含ませた布をアセビの顔に押し付ける。

 「ヴ、ヴぅぁあ!!っっ!!!」

 「えー水責めというのは色々方法があります。桶に水を張って直に顔をつけるのも良いですが、水があまりない時とか手軽に早くやりたい時は、この様に水を十分に含ませた布で押さえつけると息が出来なくなり水責めと同じ効果があります。
 あまり慣れてないと、桶の方は加減が難しくてすぐ気絶させちゃったり死なせちゃったりするので…一人だったり、先輩がいない時はこっちの方がいいかもしれないですね。」


 講師の言うことを、熱心にメモしている者もいれば布を触ってどの程度の濡れ具合か確認する者、アセビの姿を観察する者など様々だ。
 今のところ皆熱心に学んでくれているので、安心した。

 初めの頃は模擬体を死んだような目で見続けたり、積極的に拷問に加わろうとしたりと大変だったが…徐々に良い傾向に変化している生徒達を見て”よしよし”と満足する。


 そう、この生徒達は今回の違法奴隷の件で保護された者・無理矢理暗殺者や影にさせられた者達だ。
 勿論その中でも精神的なケアを必要としない、身寄りのない者達だが。

 この子達は自ら今後も”影(or国の兵)”で生きていくと決断した者達で、今後は本人達の希望も聞いた上で、公爵家やバジル家等信用のおける貴族、もしくは国軍として職に就くことになっている。
 

 汚い大人達のせいで、悲惨な目にあったにも関わらず…こうして少しでも前を向いて頑張ろうと思ってくれているのだ。少しでもその手助けになりたい。



 などと考えていたら、すっかり抵抗の力が弱くなったアセビに気が付く。

 「おっと!言ってる傍から俺が失敗するところだった。」

 「ぶは、っっごほ、ごほ、はぁ、はぁ…」

 真っ赤にした顔を取り繕う暇も余裕もなく、冷や汗や涎など顔から垂らしながら必死に酸素を取り込む。


 「やっと静かになったな。…勘の悪いお坊ちゃんに教えてやるよ。1度しか言わないからよーーーく聞いとけ?
 お前を始めとする今回の件の主犯格は、皆国王陛下から既に刑が言い渡されてるんだよ。爵位と財産、領土の没収に加えてね?国外追放でも、島流しでも処刑でもない。
 ”王国の為にその身を差し出すこと”とね。具体的には、将来国の為に頑張って働く影や兵の為に、尋問や拷問の実験体になれっていう刑ね。」

 さっきまで真っ赤にしていた顔が、どんどんと青ざめていく様を見て無意識に講師も生徒も口角が上がる。


 「あと毒物の被験者とかにもなってもらうかもしれないけど…それまで生きてたらね?
 まぁ、今までお前等が”コイツ等(商品)”にやってきたことを、その身をもって知るが良いっていう刑みたいだよ。
 本当、国王陛下はお優しいよな…。あぁ、気づいてないだろうし、これからも気づかないだろうから言っとくと、コイツ等お前達の被害者だから。
 今まで散々こき使って散々虐げてきた奴等から、今までの分きっちり返されるんだぜ?覚悟しとけよ?
 安心しろよ、お前と一緒の刑の奴は結構いっぱいいるからさ。───まぁもう何人かいなくなったけど。
 実は数が多すぎてさ、本当は1日中やってやりたいんだが2時間くらいで回さないと全員に行き届かなくてさ。
 まっ!生徒の数も徐々に増えていく予定だから、それまでの辛抱だ。

 ───せいぜい、いつ呼ばれるか分からない恐怖に毎日震えとけよ。」
 
 
 「ひっっ!!!た、たすけ、たすけ!!」

 
 アセビの言葉は、さっきよりも水分を含んだ布に遮られ消えていった。


 
 アセビの叫びで聞こえなかったが、耳を澄ませると様々な野太い・汚い叫び声が聞こえる。
 


 アセビ達の地獄は、まだ始まったばかりだ。

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