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第2章 -少女期 復讐の決意-

101.はじめまして”エルフ”

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 イーサンの尖った耳を見たリリーナは、次々に舞い込む展開に着いていけず…本気で頭が痛くなるところだった。

 というか、この人は何故私に”エルフ”と名乗ったのだろうか。
 大昔にいなくなったとされる”エルフ”は、人間達の間では”神様”という認識でその単語すら知られていないというのに…。

 いつの間にか先程の位置に戻りゴーグルも布も戻していたイーサンを見ながら疑問に思う。
 ───少し、話をする必要があるみたいだ。


 「ちょっとイーサンさんに内緒のお話が…」と何とか(本当に大変だったが)誤魔化して、皆にある程度距離を置いてもらいイーサンとコソコソと話をした。


 「あ、あの…”エルフ”というのは?」

 「おっと…失礼。こっちじゃもう”エルフ”何て呼ばれてないのか…あぁ、だからララちゃんも”訳の分からないことを”って言ってたんだね。
 ごめんごめん、でも僕達の血を引いてる君だったら知ってるとばかり思って…ついつい使っちゃった。」

 なるほど。良かったぁ~、無いとは思うけど同じ転生者だったり異世界トリップ勢かとばっかり…。
 じゃあ、この人は本当にこの世界のエルフで、わざわざ!北大陸からこちらに下って来たという事になる。

 「もしや…お母様の一族から聞いたことのある、”神様”…でございますか?」

 「あぁ、そういえばこっちではそんなことになってるんだったっけ?あー、何というか。君が思う”神様”という尊い存在なんかじゃなくて、俺達は”エルフ”と呼ばれる種族なんだ。
 まぁ魔法が使えたり長命だったりするから、人間から見ると”神様”みたいに映っちゃうかもしれないね。でも安心して、そんな大したもんじゃないからさ。」

 「そ、そうだったのですね…。あ、あの!でしたら、貴方は北大陸からこちらにいらしたのじゃなくて??東と西の行き来よりも大変な道のりだったことでしょう…。その、何故北大陸を出られたのか聞いても?」

 「なるほど、何となくは聞いてるんだね、良かった。んーー、まぁ人間が行き来するのは死んじゃうだろうけど、エルフだと…それなりに大変だけど人間ほどじゃないから大丈夫だよ。
 よく聞いてくれたね!!北から出てきた理由はね…

 ───堅っ苦しい狭いエルフの世界から出て、自由に生きたいと思ったからさ!!」


 今はゴーグルで見えないが、恐らく綺麗な黄色を益々輝かせているのが見える程、言い切ったイーサンは全身にエネルギーが漲っているようだった。

 「いやぁ、北大陸は本当田舎というか自然しか無くてね!狩りをしては魔法で寒さ対策して、畑仕事したらまた魔法使って…正直30年もいたら飽きて来ちゃってさ!こんな雪ばっかのとこじゃない、昔エルフが住んでた場所が気になって気になって!!
 だってさ、エルフの昔からの本や絵本には”四季”っていう季節?の事も書いてあるし、色んな植物や生き物が出てきて…子どもの頃からこの目で見るのが夢だったんだ!
 折角の長い人生、一度くらい思い切ったことしたい!と思ってね。」

 「そうだったのですね…私としては、未知の土地と言われる北大陸のお話の方がワクワクしますけれど…イーサンさんもこの様に私達の大陸の話で心躍っていたのですね。
 ───初めて”エルフ族”の方にお会いできて、本当に光栄です。この縁も、モレッツ商会のお陰ですね。彼等とは、北方地方で出会ったと聞きましたが…旅の途中だったのでは?」

 
 興奮気味になっていたイーサンを落ち着かせるように、お茶を勧めながら話題を振る。
 …向こうから見守っている(特にシャルとハヤト)面々からの圧が凄い…。
 シルバがいるから~大丈夫よ~とアピールするように、シルバを撫でることも忘れない。


 
 「あぁ、そうそう。何だか胸糞悪い奴等に、胸糞悪いことされてたんで問答無用で倒したら雇ってくれることになったんだ。いやぁ、俺の目的地である”バジル領”の人達と知って速攻でOK出したよ。
 ふふふ、なぜバジル領が気になってたかって?それはね、妖精達が噂してたんだ。」

 「あら、妖精さんが…ですか?」


 あ、もしかして私が妖精の声聞こえるのってエルフの血引いてるから?
 (そういえばそうね。転生特典のおまけだと思ってたけど、それが原因みたい。)

 なるほどねぇ~。あれ、まさか!リ、リベアの声ってあの人にも聞こえたり…?
 (あぁ、ないない。妖精とも私の意志で会話出来るのよ?エルフでも私の声は基本リリーにしか聞こえないから安心しなさい!)



 「あ、妖精の存在は知ってるんだね?…それもそうか、エルフの血が濃いんだったら妖精くらい見えるよね。
 そうそう、妖精達に勧められたんだ。”バジル領は魔素がいっぱいで心地良い”とか”コアスの森にエルフの子孫が暮らしてるよ”とか。でも一番の理由は”バジル領にはたーーーーっくさん美味しい物や珍しい物がある”って聞いたからだけどね!」

 お茶目にウィンクをしたイーサンだったが、生憎ゴーグルのせいで披露出来なかった。


 「ちょっと半信半疑だったけど、驚いたよ。北大陸には及ばないが、噂の通り魔素濃度が高い。それにコアスの森には馴染みの魔物もいたし…温暖地方バージョンの故郷みたいで興奮した!
 それに何と言っても───食べ物が美味しすぎる!!!!聞いたよ、あの”アイスクリーム”も”マヨン”も”タレ”も、君達が作ったんだって?!?!もう本当、食べた瞬間雷に打たれた衝撃だった!!食べ物は正直北大陸の方が美味しくてさ、食が合わな過ぎて帰ろうと思ってたのに…!!妖精達の言葉を信じて良かった!!本当に美味しすぎる!!!
 あぁ、俺もうこの土地から離れられないよ…。良かった、モレッツ商会に拾ってもらって。彼等の出張に着いて行って旅が出来るし、旅中もバジル領の美味しいご飯が食べられる…!!!最高だ!!」


 物凄い熱量で、しかもめちゃくちゃバジル領を絶賛してくれてるので「あの、もう少し小さな声で…」とは流石に言えなかった。
 まぁ聞こえてたとしても…バジル領の食の愛を叫んでいるだけなので大丈夫だろう。
 ・・・心なしかシャルとハヤトの圧が減った様に感じた。


 「そ、それは…お口に会って良かったですわ。そんな豊かな食文化が広がっているバジル領の中でも、バジル家の料理長であるザインの料理は格別ですので…機会があれば、是非。
 今日は生憎ザイン作のお菓子ではありませんが、いつもララを始めモレッツ商会の方にもおやつを作ってくれてますので、また遊びに来てくださいね。」

 「うわ、そうなのかい?!あの料理よりも…???ぜ、絶対に付いて来るようにダラスさんに掛け合おう…。
 まてよ…ねぇリリー。君魔素コントロールはある程度出来てるみたいだけど、魔法は全然だろ?良かったら、僕が講師として教えてあげようか?
 勿論、モレッツ商会の護衛が無い休日?の時になるけど。報酬はそのザインって人の料理でどう?あ、あとコアスの森に自由に入るのってバジル家の許可が必要なんだろ?その許可も欲しいなぁ。」

 「え、ええええぇぇ!!!い、良いんですか?!?!え、まほ、魔法の?講師?!?!」


 願ってもない申し出に、リリーナは有頂天になる。
 それもつかの間、”「いやいや待て待て自分、ビークールだ」”と心を落ち着かせる。


 (良かったじゃない!これでお婆ちゃんになる前に魔法使えるかもよ!)

 うん、いや…それは良かったんだけどね?一番重要なこと聞かないとやん!!


 「あの…イーサンさん。申し出は本っ当に嬉しいのですが…。その、魔素コントロール?というのは”お祈り”の事ですかね?お恥ずかしながら、最近知りまして…昔よりは大分良くなりましたが、まだ体調は全快じゃないんです。
 今、屋敷の者達が遠方に”特玉”を探しに出てくれているので…魔法の授業は、その特玉が手に入って体調が万全になったらでお願いしてもよろしいでしょうか?」

 「?????あぁ、精神統一は最近し始めたんだね?えっと、別に俺は良いんだけど…。
 何で君の為に”特玉”をわざわざ”遠方”にまで行って採ってくる必要があるの?庭に埋まってるヤツは採っちゃいけないヤツなのかい?」

 「・・・・・はい????????」

 もはや目が点になっているリリーナは、口を開けてイーサンを見つめてしまう。

 
 「え、に、庭に?”特玉”?え、いや…?私はてっきり…草をイジって体調が良くなるのは、そういう特性がある植物があるのだとばっかり…。」

 「えぇ?そんな植物聞いたことないなぁ。もしかしたら世界の何処かにあるかもしれないけど、この前庭を見た時にはそれっぽいものなかったよ?比較的若い植物ばっかだったし。
 俺も驚いたよ~、ここの庭に降り立った瞬間魔素が体内から抜けていくからさぁ~。”まさか罠か?!?!”とか思ったけど、俺がエルフだって皆知らないはずだしね。

 で、よ~く観察してみたらある範囲の地面にそういうスポットがあってさ。多分大昔に物凄い強い大獣を埋めたんだろうね。昔特玉を持った獣を埋めてた土地と同じ感じがしたから間違いないよ。
 バジル家は強いって聞いてたけど、大昔のご先祖からその強さは変わらなかったんだね~、いや感心したよ。
 君が草イジリして体調良かったのって、そのスポットにいたからじゃない?」

 「そ・・・・そうなのぉ・・・????」


 というか…早く気づけよ私!!!そしてもっと早くに出会いたかったイーサン!!!
 キース達が危険を承知で採りに行ってくれたのに…無駄骨じゃん!!!!

 (はぇ~、そんなことあるのねぇ~。ごめんねリリー、私特玉の気配とか分かんなくてさぁ~。)


 とうとう耐えきれず頭を抱えたリリーナに、控えていたシャル達も我慢出来ずに駆け寄る。


 「リリーお嬢様!大丈夫ですか?!?!もしやお加減が…!!!」

 「すぐに部屋に戻りましょう。今ドリトン先生を呼んできます。」

 「リリーお嬢様、大丈夫ですか???私達のことは気にせずにお休みください!イーサン、お話はまた今度ね!」

 「だ、大丈夫です!!ちょっと、自分の未熟さに悶えていただけですので!!!本当、元気いっぱいよ!!」




 何とか騒ぐ周りを宥めたリリーナは、イーサンに”「お父様が帰還したら、相談してみます。あと…そうなったら、貴方の事や貴方のお話をお父様にしたいのだけれど…いいかしら?」”と話すと、快くOKが返ってきた。


 「バジル家は信用して大丈夫そうだと判断したよ。妖精達から好かれてるしね。あと…寒冷地帯じゃないのに全身覆うこの恰好、中々辛くてね。どっちみちモレッツ商会の人達にも明かす予定だったから大丈夫さ。」


 リリーナは、切実に!ガンディール達の帰りを待つのであった。

 
 
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