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第2章 -少女期 復讐の決意-

100.予想外な展開

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 衝撃のダイスの告白から、一夜明けた今もリリーナは信じられない気持ちでいっぱいだった。


 あの!バジル家過激派筆頭敵には血も涙も無い鬼畜の所業、残虐無慈悲でお馴染みのダイスが…。
 まさかのタイミングでの”結婚”カミングアウトに、あの場にいたお母様以外皆驚いていたが、ダイスとレイナが”そういう仲”だということは私達兄弟以外は知っていたみたいだ。



 「えぇぇぇぇえ!!せ、先輩っこんなタイミングで?!?!」

 「遂に本格的にレイナさんの尻に敷かれる時が…!!いや、今までも割と敷かれてたけど(ボソっ」

 「レイナさん!おめでとうございますっ!!やっと決心されたんですね!!」

 「おめでとうございます!レイナさん、色々と迷ってらしたからてっきり…嬉しいです!」

 「ふふふっ!ダイスさん、やっと”お父さん”って呼べますね!」


 等々…それまでの緊張感漂う雰囲気はどこへやら、ずーっとお祝いムードで騒がしかった。


 
 何と、レイナとダイスはかれこれ数年程前…獣人達がやってくる前からお付き合いを始めていたらしい。
 ダイス的には2年経ったくらいで結婚したかったようだが、「一度失敗していて貴方に申し訳ない…」だの「連れ子もいる女なんて…」だのとレイナが色よい返事をしなかったと。

 ダイスも長期戦を覚悟して、じっくりゆっくりとレイナの意志が固まるまでまっていたらしい。
 その間、お父様である男爵様と積極的に交流し、勿論カヨにも「君のお父さんになってもいいかい?」と聞いたり…とにかく、”あの”ダイスからは想像もつかない程丁寧に優しく外堀を埋めていったらしい。

 その甲斐あってだろう、カヨからレイナの様子について相談された男爵は、ガンディールには勿論個別にダイスにも手紙で連絡したらしい。
 お父様達はやはりすぐに動けないみたいで、ダイスが一足先にバジル家へと駆け付けてくれたようだ。


 いやはや…本当に驚いたが、二人の結婚もレイナの妊娠も本当におめでたいことだ。

 レイナの体調不良はアセビのせいだとばかり思っていたが、妊娠の影響もあったみたいだ。
 「妊娠中にあの様な心的ストレスが掛ったので、いつもよりもナイーブで鬱々とした考えから抜け出せなかったのではないか。」とドリトン先生も言っていた。

 なるほど…マタニティブルーと元夫のトラウマというダブルパンチでメンタルやられてしまったのか…。
 妊娠に気づいてなかったとはいえ、本当に母子共に何事もなく解決して良かったと心底思った。



 あまりにも騒いでたせいで、ルーカス王子も”何事か?!”と駆け込んできたのは悪かったなぁ~。

 (そりゃそうよ!!アンタ達、たかが恋バナで騒ぎ過ぎなのよ~~!!五月蠅過ぎてシルバ後半耳垂らして手で塞いでたわよ??)

 

 それは悪いことをしたな、と足元にいるシルバを謝罪の意味も込めて丁寧に撫でた。
 気持ち良さそうに享受するシルバに満足しながら、ルーカス王子のその後の様子を思い返して思わず笑みがこぼれる。

 偶々とはいえ、バジル家の危機を救ってくれた王子には感謝してもし足りなかったが、あろうことかお父様達が戻るまでバジル家に残ると言い出したのだ。

 「いやいやいや、ルーカス、流石にそれは申し訳ないし無理だよ。君一応王子だよ?早く帰らないと国王陛下もクリス王子も心配するって。」

 「そうです、王子。申し出は有難いのですが、バジル家の戦力も大分戻ってきましたし。私もエディもこの屋敷から離れないので、ご心配には及びません。

 それに──手下共はまだしも、ピラカンサ達は早々に中央へ投獄させた方がよろしいかと。」

 バジル家の地下牢と獣人達の拠点の牢に分けて投獄している者達を思い浮かべながら、エマは冷静にルーカス王子に声をかけた。
 
 
 「…う、そう…だが。──いや、分かった。すまない、俺の我儘だった、忘れてくれ。明日にでもピラカンサ共を連れて王都へ戻る。すまないが、残った者達の監視は引き続き頼んだ。」


 一先ず話はまとまったが、何故か煮え切らない様子のルーカス王子に疑問を持つが、リリーナはダラスから受け取ってから伝えたくてうずうずしていた事を話す為、ルーカスを手招きした。

 「???どうした、リリー。」

 「ルーカス王子、その…”例の件”で、秘密のお話があるのですが…。」

 「!!そうか、分かった。──すまないが、応接間を貸してくれ。少々リリーと話がある。」


 ────応接間にて、シャルに持ってもらっていたケースを受け取り、人払いした後ルーカスへ献上した。


 「????なんだ、これは?──??腕輪?これは宝石?いや、透けているな…違うのか?というか、この色…どこかで…。」

 「こちら、恐らくではありますが側妃様が身に着けられているネックレスと同じ”琥珀”で作られた腕輪でございます。」

 「あぁ!そうだ、母上のネックレスだ!!そうか、アレと同じ…でも、その様なものをなぜ?これ程立派な装飾品、とても高価だろう。今回のお礼のつもりかい?だったら、そんなもの要らないぞ?」

 「いえいえ!今回の事は本当に感謝しておりますが、こちらはお礼の品ではありません!というか、今回の事が無くてもルーカス王子がいらっしゃった時に渡そうと思ってた品ですので!

 ───本当に、恐らく、で…。一つの可能性としてお心に留めておきたいのですが…。こちらを側妃様が着用していただければ、もしかすると体調が回復なさるかもしれません。」


 ルーカス王子はリリーナの言葉に目を見開き、手元にある腕輪とリリーナを交互に身ながら興奮したように問いただす。


 「そ、それは誠か?!?!ほ、本当にっ母上の体調は良くなるのか?!?!」

 「お、落ち着いてくださいルーカス王子!!さっきも言ったように、あくまでも”恐らく”です!実際に着用していただくまで効果があるかは断言できません!
 しかし───私も触らせていただきましたが、確かに不思議な感覚があり同時に体調が回復していくのも感じました。

 ルーカス王子から色々と側妃様のお話を聞いた後、考えてみたのです。この体質の割に長命で、ルーカス王子まで出産された側妃様と私や他の方々の違いは何なのだろうと。
 勿論、その尊いお生まれもそうかもしれませんし、体質が違うからかもしれません。
 元も子もない条件以外で違うモノ、その一つがルーカス王子にもお伝えした”お祈り”そしてもう一つはいつも身に着けていらっしゃるという”ネックレス”です。

 国王陛下から側妃様へ送られたと聞きましたから、もしかすると特別なネックレスではないかと。すぐにお父様とモレッツ商会に調査をお願いしました。すると、そのネックレスに使われた琥珀が”とても貴重な代物”だと分かったのです。無理を言って買い付けていただいたのですが…予想した通りでした。」


 ルーカス王子を落ち着かせるように、所々端折りながら丁寧に説明するリリーナの様子を、ルーカス王子は冷静さを取り戻すように熱心に聞いていた。


 「そうか…そうだったのか…。あぁ、リリー!!俺も、誰も気づかなかった可能性に、君は気づいてくれた!!!本当に、君は何て素晴らしい人なんだっ!!

 ───しかし、リリー。これは受け取れないっせめて、半分に割ってくれ!!母上には勿論だが、俺は君にもあの苦しみから解放されて欲しいと願っているんだよ。」

 
 光の加減だろうか、ルーカス王子の瞳が水面の様にキラキラと光っているのを見ながら、リリーナは首を横に振った。


 「いいえ、ルーカス王子。私は大丈夫です。毎日お祈りをしているせいか、それ程体調は悪くないんです。それにその腕輪を割ってもし万が一効果が無くなったら大変です!その琥珀はもうその腕輪しか見つけ出せなくて。
 ───大丈夫です!今、効果がありそうなモノを別でキース達が捜索してくれてるんです!だから私も、もう少ししたら同じ様なモノが手に入ります。
 そちらは、ぜひ側妃様に。長年戦い続けた勇敢なる母君に、是非届けてください。」


 ルーカス王子は我慢出来ず、ガバッとリリーナに力強く抱き着き・・・涙を流した。

 「ありがとう、っありがとう!!リリー!!!母上を、やっと救うことが出来るっ!!ありがとう、ありがとう!!!」


 その後中々離してくれなかったが、回復した後リリーナの手の甲にキスを落とし…一夜明けた今日、颯爽と王都へ帰っていった。

 

 いやぁ、良かった良かった。
 にしてもあんなに”恐らく”って言ってるのに、あの興奮具合…。あれで”効果ありませんでした”ってなったら怖すぎる。いや、私に効いたから大丈夫だと思うけどね…。


 リリーナは「ハハハッ」と内心乾いた笑みを浮かべながら、シャルとシルバ(とハヤト)を伴って庭が見える部屋で午後のティータイムをしていた。

 本当は天気も良いし、庭に出ていつもの様に草イジリでもしたいところだが…あんな事があってすぐは流石に自重する。
 いくら敷地内でも、お父様達がいない間は極力外に出ないようにすると決めた。
 自分の身も守れない私が、せめてお荷物にならないように…気を付けることしかできないが、やらないよりマシだろう。
 
 
 「リリーお嬢様は本当に庭がお好きですね。…自分が行って花でも持ってきましょうか?」

 「いやいや、大丈夫よ!気遣ってくれてありがとう、シャル!」


 まぁ昔から草イジリは大好きだった。何故か落ち着くし、心なしか元気にもなった。
 
 ───そう、だから私は疑問に思っていた。

 疑問に思いつつもその思考を忘れていたが…ルーカス王子との話で思い出した。
 ゴタゴタがあってゆっくり出来なかったが、一息つける今考えてみようと思う。
 

 魔素は長命の植物から排出される、と聞いたが…なぜ私は草イジリをしていると逆に体調が良いのか?


 思い返せばそうだ。小さい頃も庭で草をイジっていても体調不良にはならなかったし、体調は落ち着いていた。
 逆に貴族教育が始まりあまり庭に行くこともなく、草イジリから遠のいていたら体調を崩していた。
 

 …私の中ではもはや偶然とは思えない。リベアにも聞いてみたが、彼女も何故かは分からないそうだ。
 私の予想では、今回の琥珀の様な性質を持った植物があるのでは?と考えているが…どうだろう?
 
 実際に触ることは出来ないが、窓の外に目を向けてボーーッとひたすら考えていた。



 すると、今回の件の話し合いに来たのだろうモレッツ商会の面々が挨拶しに来てくれた。

 「お嬢様、今回は本当に大変だったみたいで。これから、二度とあんなこと起きないように会議で対策を話し合ってきますからね!いつもの様にララと遊んでやってください!
 ───あっ!そうそう、お嬢様も会った事があるかもしれませんが紹介しておきますね!
 彼はモレッツ商会の護衛として雇ってます、”イーサン”です。この様に見た目は不審者ですが、腕が立つ非常に心強い味方ですよ!今日は彼、ララに着けてますのでよろしくお願いいたします!」


 ダストンさんが口早に説明して去っていった後、ララとイーサンが部屋に残った。

 「イーサン、さんですね?あの時は助けていただいてありがとうございます。お礼が遅くなり申し訳ございません。本当に、助かりました。モレッツ商会の護衛ということは、これからもお会いする機会が多いと思います。よろしくお願いいたしますね。」

 「…わぁ、やっぱり綺麗だなぁ。まるでエルフみたいだ。」


 ボーーーっとリリーナを見て、ポツリと呟いた。リリーナはその言葉に驚愕するが、周囲は気にも留めていなかった。

 「もう!イーサン!訳の分からないこと言って!…ごめんなさい、リリーお嬢様!イーサンってばすんごい田舎者で、色々知らないことも多いけど私達の知らないこともいっぱい知ってるんです!

 ほら!!ゴーグルくらい取りなさいっていっつも言われてるでしょ?折角綺麗な目なんだから、お嬢様にご挨拶して!!」


 そういうと、ガッチリ目元をガードしていたゴーグルを上げその綺麗な黄色の瞳をリリーナに向けた。
 挨拶する為に少し近づき、リリーナにだけ見えるようにそっと右耳を隠していた布を上げ口を開ける。

 「初めまして、リリーお嬢様。イーサンと言います、よろしくお願いします。───ちなみに、エルフです。」


 最後はリリーナに呟くように、何と無しにボソッと伝えた。



 え、えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・。







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