転生した復讐女のざまぁまでの道のり 天敵は自分で首を絞めていますが、更に絞めて差し上げます

はいから

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第2章 -少女期 復讐の決意-

97.突然の終わり

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 「さぁ、お喋りはここまでだ。───リリーお嬢様をこっちに連れて来い!周りの奴等は全員皆殺しだ!!」

 
 アセビの命令に、黒影達が一斉に襲い掛かってきた。


 まず一目散にシルバが動き、その獰猛な牙を容赦なく向けていた。

 「ぐッ!」「っっ!!」

 噛みつかれた箇所からダラダラと血が流れ、噛まれた腕を身体ごと投げ出され…明らかに痛みや恐怖を感じているにもかかわらず、黒影達は一切大きな声を出さない。
 他にもバジル家の使用人達が繰り出す攻撃を受けているのに…聞こえるのは息を呑む音と時々漏れる微かな声だけである。

 そして、致命傷を負っていても構わずまた向かってくる黒影達に…言い知れぬ不気味さがバジル家の面々を襲った。


 豪快に敵を飛ばすシルバや、激しい戦いによりサンルームのガラスは大きく割れ、リリーナを含むほとんどの者達が外へ移動したが、敵の数が多い為先に逃げ道を塞ぐように周りを囲われてしまった。

 そんな乱闘状態の中、ハヤトは暗器を投げ一定の距離を絶対に保ちながらリリーナを守り少しずつ距離を空け逃げるタイミングを見計らう。
 

 雨で身体が濡れ、肌寒さとこれまでに感じたことのない危機感とでリリーナの身体は小さく震えていた。

 そんな姿を嘲笑うかのように、一向に敵の攻撃は止まらない。
 使用人達も善戦はしているが徐々に傷つき満身創痍になってきている…。

 こちらの抵抗が弱くなった隙をついたのだろう、リリーナの後ろに敵の手が迫ってきていた

 ───が、後ろにも目があるかの様な正確さでハヤトが暗器を投げ、敵はその場に倒れた。


 リリーナはハッと目を見開き、無意識に両手で口を覆った。
 そんなショックを受けているリリーナに気付いたハヤトは、気まずそうに…心苦しそうに声をかける。


 「リリーお嬢様、絶対にお守りしますので、目を閉じて耳を両手で覆ってください。貴女は何も見なくて、聞かなくていいです。全て終わらせて、綺麗なものだけをその目に映して下さい。」

 その言葉を聞いて、リリーナは違う意味でショックを受けた。

 あぁ、自分を守ってくれているハヤトに、皆に、とても申し訳ない…。こんな状況なのに、気を遣わせてしまうなんて…。
 ただ怯えて守られているだけなど、自分がこの先も本当にお荷物な存在にしかなれない気がして嫌だった。

 「いいえ、いいえハヤト。私は現実から目を背けません。何より、貴方達が必死に私の為に戦ってくれている雄姿を、この目にこの耳に焼き付けませんと!!」


 その儚い容姿に似合わない、勇ましくも堂々とした姿にハヤトやその声を拾った使用人達は目を見開き…こんな状況で思わず笑ってしまった。

 (何と逞しく成長されたことか。可愛いお姫様は、立派にバジル家の令嬢として大きくなられた。)

 小さかったお嬢様の成長に、少し寂しさも感じるが…それ以上にその成長が嬉しかった。
 
 

 だが、そんな微笑ましいバジル家の事情など知ったことではない敵達の勢いは止まらず、遂に使用人達もどんどん倒れていった。

 「うそ…皆っ!!!あぁ、だめっ、死なないでっ!!お願いっ!!」

 リリーナを抱えてすぐに安全地帯へと逃がしたいが、既に周りを囲まれていて不可能だった。
 ハヤトは焦る心をどうにか落ち着かせ、敵を仕留めながらグルグルと頭で最善策を模索している。
 
 明らかに優勢であるこの状況が楽しすぎると言わんばかりに、アセビは上機嫌で煽ってきた。

 「あははっ!無駄な抵抗を!そんなに頑張ってもどうせお前等は死ぬし、お前等の大事なリリーお嬢様は僕の玩具になるんだよ!!
 それに、この場を頑張ったところでもうすぐ屋敷の者達を倒して来た他の部隊が追加で応援にくるんだよ~?この人数と同じくらいの部隊が!また追加で!くるんだ!!
 あはっ!いくら馬鹿な君達でも、勝機が無いことくらい分かるだろ?───そろそろこの茶番にも飽きてきたよ。さっさと終わらせよう。」


 アセビの言葉に、静かに絶望していた時だった。



 ───私達を囲んでいた黒い景色に、速すぎて見えない”何か”が通り過ぎた。

 ”何か”の気配を感じ取ったと同時に、どういう訳かドサドサッ!と周りの敵がうめき声を上げながら蹲ったのだ。

 「…は?お、おい!!何をしてる!!早く立て!!」

 「???い、一体何が?シルバ…じゃないのね?」

 「お嬢様、俺に引っ付いて絶対に俺から離れないでください。」


 混乱するリリーナに、ハヤトが緊張感のある声で忠告する。

 アセビも混乱しているようだが、突然倒れた黒影達への怒りが勝っているのか叱咤している。
 倒れた者達も、何とか力を振り絞って命令を聞こうと立ち上がるが…明らかにダメージを受けているのだろう足が震えていた。


 「間に合ったみたいだな。本当に聞いた通りだ。…君がリリーナ・バジルだろう?薄い色素で目を見張る程の美少女と聞いた時は、もっと具体的な特徴を寄こせと思ったが…。」


 不意に、しっかりとした芯のある声が聞こえた。
 
 声の聞こえた方を見ると、そこには…怪しい色付きのゴーグルを掛けフードを被った旅人の様な出で立ちの男が一人、立っていた。
 随分と近い距離に佇んでいた男に、ハヤトはリリーナと男の距離を空けながら武器を向けた。


 「貴様、何者だ。誰にお嬢様のことを聞いた。目的はなんだ。」

 「おいおい、そんなモン向けないでくれないか?俺はただ」

 謎の男に対して問いただしている最中、これ幸いと言わんばかりにリリーナ達に攻撃が繰り出されたが、またもやその攻撃は阻止された。

 今度は、見覚えのある影によって。


 ドゴッボコッ!!!!
 「んもぅ~~~!!ハヤトも君も、隙を与えちゃダメだから~~~!!いくら攻撃防げるとは言っても、リリーお嬢様もいるんだよ~~???そんなん防ぐ前に攻撃させちゃいけないでしょ~~~!!」

 「ダイス!!!」
 見知った顔に、思わずリリーナの笑みがこぼれる。
 
 「げっ!!!せ、先輩…っ」
 絶対に今会いたくなかった顔に、ハヤトの顔が死んでいった。


 思わぬ再会を果たしている最中、ザザザザッ!!ガチャガチャッ!!!という喧噪と共に───誰もが知っているであろう、紋章を付けた集団が介入し、ピラカンサ子爵家の面々を囲み始める。

 それに慌てるのは勿論アセビ達だが…その紋章を目にした瞬間、「な、なぜっどうしてっ…!!」と狼狽えることしかできず…黒影達は命令が無い為只々突っ立っているままだった。


 リリーナ達を守るように陣取り、また倒れているバジル家の使用人達の手当てを始めたのを見て、リリーナ達は一気に警戒心を解いた。
 今まで緊張で気が付かなかったが、いつの間にか雨も止んでいる。


 「リリー!!!無事か?????!!!!!」


 奥の方から、見知った銀色が見えた瞬間…リリーナは思わず叫んでいた。

 
 「ルーカス王子!!!」

 
 そう、いきなり現れたこの集団には───この国の王族の印である紋章が刻まれていた。

 ルーカス王子はリリーナの傍まで来ると、その勢いのまま抱きしめた。

 「リリー!!怖かっただろう!!もう大丈夫だ!!おい!倒れているバジル家の者達を早急に医者の元へ運べ!!
 ───大丈夫、ドリトンとか言ったか?バジル家の専門医師なんだろう?そいつが既に屋敷の方にいるからな。すぐに治療が受けられるぞ。」

 「ル、ルーカス王子…なぜここに…そ、それに彼は一体…??あ!!や、屋敷は!!他の皆は!!それから兄様や盗賊の討伐に向かった者達は!!!」


 あまりの急展開に思考が追い付かないリリーナは、矢継ぎ早に質問してしまう。
 そんな興奮気味のリリーナの背中を宥める様に擦り、ルーカス王子は落ち着かせる。


 「あぁ、リリー。そんなに必死にならなくても大丈夫だ。今から全部答えてあげよう。」

 元気そうなリリーナに安心したルーカス王子は、ふわりと笑みを浮かべながら答えた。
 
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