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第2章 -少女期 復讐の決意-
96.リリーナVSアセビ -2-
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娘と同じくらいのリリーナから反論されたアセビは焦りからか、はたまた怒りからか冷や汗をかいていた。
”温室育ちのお嬢様”だと見下し、侮っていた小娘にまさかこうもハッキリと断られるとは…。
すぐさまいつもの様に”所有物”に当たり散らしたい欲をグッとこらえ、ニコリと余裕に見えるように表情を取り繕った。
「いやぁ、リリーお嬢様はとても博識でいらっしゃいますね。私達の知識など足元にも及ばない様です…お恥ずかしい限りです。
そうですね、私達が商売の取引先として繋がらなくても…お嬢様やララ嬢とカヨの関係は引き裂かれないですよね。父親として心配し過ぎてしまったようです…本当に、申し訳ありません。
───では、最後に一つだけお願いしてもよろしいですか?
今回商売仲間とはなれませんでしたが、どうしても直接”カヨの父親として”ララ嬢のご家族の方々にご挨拶がしたいんです。
リリーお嬢様には分からないかもしれませんが…幼い頃から一度も会えなかった我が子の為に、父親として何かしてあげたいし、堂々とあの子の友達とそのご家族に挨拶がしたいんです…!
自分勝手な願いだとは思いますが…少しくらい、父親として格好つけたいんです。どうか、カヨの為にも…お力添えいただけないでしょうか?
モレッツ商会に行ってもやはり取り合ってもらえず…せめて手紙だけでも、直接届くようリリーお嬢様の面会許可のサインをいただけませんでしょうか?」
そう言うと、控えていたアセビの従者がインクとペン、そして1枚の許可証とそれを乗せる板版をリリーナの目の前にスッと出した。
まったく、用意の良いことだ。何だかんだ言って、あわよくば…という下心もありそうだが父親として格好つけたいのも嘘じゃないかもしれない。
リリーナは念の為、紙の上から下まで記載してある文字を細かく確認する。
うん、さっきみたいなアホの様な事も書いてないし、本当に”直接言葉を交わす”事の許可証みたいだ。
子どもの私でも良いのか疑問だが、”バジル家”としてお父様が許可を出してるから、一応バジル家である私のサインでも効果があるのかもしれない。
変な事書いてないし、このくらいだったら許可してあげても良いかな。
リリーナがペンを手に取った時、「グルルッ」と喉を鳴らしてリリーナに訴えかけるようにシルバが唸った。
同時に、相棒であるリベアもリリーナの頭上から許可証を見ていたのだろう…忠告する。
(待ってリリー!!それ、何か怪しいわよ!!)
えっ??でも、リベア。どこにも可笑しい記述なんてないよ?小さい文字で書いてたりもしないし…。
(その”面”は大丈夫かもしれないけど、裏面とか細工がしてあるかもしれないでしょ?!?!
そんな怪しい奴等が用意したモノなんて信じちゃダメよ!!手に取って十分見聞して、最後にいつもいる影のハヤトとか大人に見てもらってサインしなさい!!)
もっともな意見をリベアに貰い、シルバを撫でながら内心でお礼を言う。
リリーナがペンを置き、紙を手に取った際アセビ側の人々が視線を強くした気がしたので、(やっぱり何かあるのかも…)と反省する。
ペラッと裏面を見ると───そこには白紙が広がっていた。
…やはり考えすぎだったか??と思ったが、持っていた紙に違和感を覚えた。
これは…と思い、すぐに紙の端を目の前に掲げて注視する。
「リ、リリーお嬢様!いかがされましたか?あぁ、許可証というものは初めてですかね?許可証などの公的な書類は、日常的に使用している紙よりも厚く丈夫な造りになってまして」
急に話し始めたアセビを無視し、いよいよその紙を指でこすってみた。
すると・・・端に小さな空洞が現れたので勢いよくピリッとめくった。
───その紙は2つに分かれ1枚は白紙、そしてもう1枚にはリリーナがサインをしようとしていた面の裏に、ビッシリと文字が書かれていた。
シンッ
と周りの音が消えた。
先程まで話していたアセビも今は黙り込み、シルバはリリーナにより近づき、周囲のバジル家の従者達はピラカンサ側の動きをより注視し警戒を強める。
そんな中、リリーナは塞がれていた許可証の裏面を温度のない表情で一文一文確認する。
そこには先程の馬鹿げたピラカンサ子爵家にしか得が無い様な要求を許可させる、何ともピラカンサ子爵家にとって都合の良い内容の文字が詰め込まれていた。
ピラッと汚い物を触れるように指先で摘まみながら、リリーナは問う。
「コレは、どういうことですか?」
何も言わないアセビ達に、不穏な空気を察したハヤトがシュタッとどこからともなく現れリリーナを後ろ手に守る体勢を取った。
「あはっ、あはっはははははっははははははははははは!!!!!!!」
不気味に笑い始めたアセビに、バッと立ち上がりアセビを囲むピラカンサ家の従者達。
バジル家の従者の一人が念の為応援を呼ぼうと踵を返した時だった。
全身黒い服装で顔も隠している不審な者達が、バジル家の従者の倍以上の数現れたのだ。
そして応援を呼ぼうとした従者を殴り気絶させた。
「うっ」ドサッ
突然現れた怪しい集団と、従者が倒れた音を聞きいよいよマズイ事態を察知した。
リリーナも立ち上がり、シルバとハヤトを中心に従者達もリリーナの守りを固める。
「く、くくくくっまさか、本当に”最悪の事態”になるなんてね!!
あぁ、本当…僕みたいに”万が一の備え”をしない馬鹿だったら本当に終わりだったよ。
流石僕、他の馬鹿共とは違うなぁ…こんなガキの戯言なんて、所詮は庶民に偏り媚びへつらった愚論だ。
あぁ、残念ですよリリーお嬢様。まさか貴女まで”バジル家”に染まっているなんて。
卑しい低俗な庶民である商人のお陰で、こんなクソ田舎に金が入り懐も温まったのでしょう。あぁ、実に嘆かわしい。高貴な貴族である貴方達が、私腹を肥やすために庶民商人の味方をするなんて!!
あぁ、本当に、可哀想に…。」
「ピラカンサ子爵、貴方がとても歪んだ考えをお持ちなのは分かりました。
貴族であることにプライドを持つことは賛成ですが、行き過ぎた階級主義は賛同しかねます。”生まれ”にばかり執着するなど…悲しく、そして同時に自分には”生まれ”しか優れた所が無いと自分で主張している様なものですわ。可哀想なのは、そちらの方です。」
「何だと?!?!たかだか十年程度しか生きてないガキの癖に、この僕に偉そうな口を聞くな!!!」
先程から”僕”と言ったり、爵位が上なリリーナに対して考えられない暴言を吐くアセビに益々警戒が募る。
それに…いつの間にこんな人数の間者が屋敷に?他の使用人達はどうしたのか、そっちの方がリリーナは心配だった。
いくら人員不足の事態でも、バジル家の警備はちゃんと…と思い始めたリリーナはハッと気が付いた。
「──まさか、今起こっているトラブルは貴方達の仕業ですか?」
目を見開き、幾分顔色が悪くなったリリーナの姿を見て、ニンマリと心から嬉しそうに笑うアセビが堪える。
「おや、やはりご令嬢の癖に冴えていらっしゃる。そうですよ、昨夜の盗賊も人攫いも他のバジル領で起きているトラブルは、全て僕が手配しました。
いやぁ苦労したよ。いくらガンディール様とキース様方がいらっしゃらなくても、”あの”バジル家ですからね。見たところ奥方もご嫡男も忌々しい程に鋭い人達の様ですし。
──屋敷に残った使用人共も、流石バジル家と言いますか…優秀の様ですし、ね?」
やはり嫌な予感は当たっていた、と更に顔色を悪くするが…アセビの言い方に疑問が残る。まさか!!!
「貴方っバジル家の使用人に何をしたの?!?!」
お茶と拭く物をお願いした後、未だにサーブしてこない使用人に疑問を持っていたが、アセビの言い方を考えると…この”ろくでなし”が何かしたに違いない。
「あぁ、気づきました?ふ、ふふふっ!!今頃使用人達は”何者か”によって意識を失ってるか死んでるでしょうね。あぁ、安心してください。流石に皆殺しはしませんよ、まぁこの場にいる彼等には勿論死んでもらいますが。
僕達の邪魔が入らない様に、レイナに従者棟で火事を起こせと言ってあるし…ただでさえ少なくなってる人数で、こんな大きな事故2つ同時に起きたら…流石のバジル家の警備も緩くなるだろう?」
「何てことを…!!!」
心配と怒りと大事な者達が傷つけられる恐怖と…様々な負の感情が、リリーナの身体を震わす。
しかし、どうにも理解できない。なぜこの様な無謀な、後先考えない愚行を実行したのだろうか。
「私をどうにかしたところで、今はいないお父様やお母様達に制裁されるのは目に見えているでしょう…貴方方は何をしたいのです…?」
「あははっ君を誘拐したり脅しの材料に使うと思っているのかい?おいおい、バカにしないでくれよ!そんな一時の得にしかならない事なんてする訳ないだろう?この僕が!!
お子ちゃまな君には分からないだろうけどね、世の中には記憶も理性も無くせる素晴らしいお薬があるんだよ?
大丈夫、死にはしないさ。むしろ嫌な事なんかすぐに忘れられて、とっても気持ち良くなるお薬だよ?
ただ、一度使うと中毒性があってね…君は”どんな手を使ってでも”この薬が欲しくて堪らなくなっちゃうんだ。
だからこの薬をあげる代わりに、この書類にサイン…いや、直接ピラカンサ子爵家とモレッツ商会の仲介をしてもらおうかな?うんうん、その方が良さそうだ。庶民の癖に手酷く袖にしたあの商会長の鼻っ柱を折りたいからね!
君は僕が帰還の挨拶をした後、他のご家族が留守の間に”何者か分からない集団”に火を放たれ側近達を殺されてしまうんだ。
そんなショックで悲しんでいる娘のお願いは、いくら猛獣と言われているガンディール様も無視しないだろう?」
”薬漬けにして言うことを聞かせる”と正面切って言われたリリーナは唖然とする。
そんな、たかだかモレッツ商会と商売をする為に…こんなことをしでかしたというのか?リリーナはアセビの考えが理解できなかった。
ハッキリと、バジル家の秘宝であり天使でもあるリリーナお嬢様を害する宣言をしたアセビ達に対して、バジル家側の者達は殺気を隠そうともしなかった。
シルバは全身の毛を逆立て「グルッグルルルルッ」と牙をむき出しに威嚇し、ハヤトは氷点下の温度で敵を牽制しつつ暗器を手に持った。
使用人達もそれぞれ給仕服に隠し持っていた武器を手に取り、臨戦態勢を取る。
しかし───自分達の倍以上いる敵を見て、嫌な汗が背中を伝う。
自分達の命を懸けたとしても、リリーナお嬢様を無事にお救い出来るか…難しい局面だった。
(せめて、せめてお嬢様だけは無事に安全地帯へ逃がさねば…!!我等が命に代えても!!!!)
バジル家の面々の心は一つだった。
この圧倒的不利な場面で、冷や汗をかき焦っているバジル家を見てアセビは今日一番の、嬉しそうな楽しそうな笑顔を振りまいた。
「あぁ!楽しいなぁ!!その生意気な顔が苦痛と恐怖と絶望に染まる姿を、早く見せてくれ!!」
”温室育ちのお嬢様”だと見下し、侮っていた小娘にまさかこうもハッキリと断られるとは…。
すぐさまいつもの様に”所有物”に当たり散らしたい欲をグッとこらえ、ニコリと余裕に見えるように表情を取り繕った。
「いやぁ、リリーお嬢様はとても博識でいらっしゃいますね。私達の知識など足元にも及ばない様です…お恥ずかしい限りです。
そうですね、私達が商売の取引先として繋がらなくても…お嬢様やララ嬢とカヨの関係は引き裂かれないですよね。父親として心配し過ぎてしまったようです…本当に、申し訳ありません。
───では、最後に一つだけお願いしてもよろしいですか?
今回商売仲間とはなれませんでしたが、どうしても直接”カヨの父親として”ララ嬢のご家族の方々にご挨拶がしたいんです。
リリーお嬢様には分からないかもしれませんが…幼い頃から一度も会えなかった我が子の為に、父親として何かしてあげたいし、堂々とあの子の友達とそのご家族に挨拶がしたいんです…!
自分勝手な願いだとは思いますが…少しくらい、父親として格好つけたいんです。どうか、カヨの為にも…お力添えいただけないでしょうか?
モレッツ商会に行ってもやはり取り合ってもらえず…せめて手紙だけでも、直接届くようリリーお嬢様の面会許可のサインをいただけませんでしょうか?」
そう言うと、控えていたアセビの従者がインクとペン、そして1枚の許可証とそれを乗せる板版をリリーナの目の前にスッと出した。
まったく、用意の良いことだ。何だかんだ言って、あわよくば…という下心もありそうだが父親として格好つけたいのも嘘じゃないかもしれない。
リリーナは念の為、紙の上から下まで記載してある文字を細かく確認する。
うん、さっきみたいなアホの様な事も書いてないし、本当に”直接言葉を交わす”事の許可証みたいだ。
子どもの私でも良いのか疑問だが、”バジル家”としてお父様が許可を出してるから、一応バジル家である私のサインでも効果があるのかもしれない。
変な事書いてないし、このくらいだったら許可してあげても良いかな。
リリーナがペンを手に取った時、「グルルッ」と喉を鳴らしてリリーナに訴えかけるようにシルバが唸った。
同時に、相棒であるリベアもリリーナの頭上から許可証を見ていたのだろう…忠告する。
(待ってリリー!!それ、何か怪しいわよ!!)
えっ??でも、リベア。どこにも可笑しい記述なんてないよ?小さい文字で書いてたりもしないし…。
(その”面”は大丈夫かもしれないけど、裏面とか細工がしてあるかもしれないでしょ?!?!
そんな怪しい奴等が用意したモノなんて信じちゃダメよ!!手に取って十分見聞して、最後にいつもいる影のハヤトとか大人に見てもらってサインしなさい!!)
もっともな意見をリベアに貰い、シルバを撫でながら内心でお礼を言う。
リリーナがペンを置き、紙を手に取った際アセビ側の人々が視線を強くした気がしたので、(やっぱり何かあるのかも…)と反省する。
ペラッと裏面を見ると───そこには白紙が広がっていた。
…やはり考えすぎだったか??と思ったが、持っていた紙に違和感を覚えた。
これは…と思い、すぐに紙の端を目の前に掲げて注視する。
「リ、リリーお嬢様!いかがされましたか?あぁ、許可証というものは初めてですかね?許可証などの公的な書類は、日常的に使用している紙よりも厚く丈夫な造りになってまして」
急に話し始めたアセビを無視し、いよいよその紙を指でこすってみた。
すると・・・端に小さな空洞が現れたので勢いよくピリッとめくった。
───その紙は2つに分かれ1枚は白紙、そしてもう1枚にはリリーナがサインをしようとしていた面の裏に、ビッシリと文字が書かれていた。
シンッ
と周りの音が消えた。
先程まで話していたアセビも今は黙り込み、シルバはリリーナにより近づき、周囲のバジル家の従者達はピラカンサ側の動きをより注視し警戒を強める。
そんな中、リリーナは塞がれていた許可証の裏面を温度のない表情で一文一文確認する。
そこには先程の馬鹿げたピラカンサ子爵家にしか得が無い様な要求を許可させる、何ともピラカンサ子爵家にとって都合の良い内容の文字が詰め込まれていた。
ピラッと汚い物を触れるように指先で摘まみながら、リリーナは問う。
「コレは、どういうことですか?」
何も言わないアセビ達に、不穏な空気を察したハヤトがシュタッとどこからともなく現れリリーナを後ろ手に守る体勢を取った。
「あはっ、あはっはははははっははははははははははは!!!!!!!」
不気味に笑い始めたアセビに、バッと立ち上がりアセビを囲むピラカンサ家の従者達。
バジル家の従者の一人が念の為応援を呼ぼうと踵を返した時だった。
全身黒い服装で顔も隠している不審な者達が、バジル家の従者の倍以上の数現れたのだ。
そして応援を呼ぼうとした従者を殴り気絶させた。
「うっ」ドサッ
突然現れた怪しい集団と、従者が倒れた音を聞きいよいよマズイ事態を察知した。
リリーナも立ち上がり、シルバとハヤトを中心に従者達もリリーナの守りを固める。
「く、くくくくっまさか、本当に”最悪の事態”になるなんてね!!
あぁ、本当…僕みたいに”万が一の備え”をしない馬鹿だったら本当に終わりだったよ。
流石僕、他の馬鹿共とは違うなぁ…こんなガキの戯言なんて、所詮は庶民に偏り媚びへつらった愚論だ。
あぁ、残念ですよリリーお嬢様。まさか貴女まで”バジル家”に染まっているなんて。
卑しい低俗な庶民である商人のお陰で、こんなクソ田舎に金が入り懐も温まったのでしょう。あぁ、実に嘆かわしい。高貴な貴族である貴方達が、私腹を肥やすために庶民商人の味方をするなんて!!
あぁ、本当に、可哀想に…。」
「ピラカンサ子爵、貴方がとても歪んだ考えをお持ちなのは分かりました。
貴族であることにプライドを持つことは賛成ですが、行き過ぎた階級主義は賛同しかねます。”生まれ”にばかり執着するなど…悲しく、そして同時に自分には”生まれ”しか優れた所が無いと自分で主張している様なものですわ。可哀想なのは、そちらの方です。」
「何だと?!?!たかだか十年程度しか生きてないガキの癖に、この僕に偉そうな口を聞くな!!!」
先程から”僕”と言ったり、爵位が上なリリーナに対して考えられない暴言を吐くアセビに益々警戒が募る。
それに…いつの間にこんな人数の間者が屋敷に?他の使用人達はどうしたのか、そっちの方がリリーナは心配だった。
いくら人員不足の事態でも、バジル家の警備はちゃんと…と思い始めたリリーナはハッと気が付いた。
「──まさか、今起こっているトラブルは貴方達の仕業ですか?」
目を見開き、幾分顔色が悪くなったリリーナの姿を見て、ニンマリと心から嬉しそうに笑うアセビが堪える。
「おや、やはりご令嬢の癖に冴えていらっしゃる。そうですよ、昨夜の盗賊も人攫いも他のバジル領で起きているトラブルは、全て僕が手配しました。
いやぁ苦労したよ。いくらガンディール様とキース様方がいらっしゃらなくても、”あの”バジル家ですからね。見たところ奥方もご嫡男も忌々しい程に鋭い人達の様ですし。
──屋敷に残った使用人共も、流石バジル家と言いますか…優秀の様ですし、ね?」
やはり嫌な予感は当たっていた、と更に顔色を悪くするが…アセビの言い方に疑問が残る。まさか!!!
「貴方っバジル家の使用人に何をしたの?!?!」
お茶と拭く物をお願いした後、未だにサーブしてこない使用人に疑問を持っていたが、アセビの言い方を考えると…この”ろくでなし”が何かしたに違いない。
「あぁ、気づきました?ふ、ふふふっ!!今頃使用人達は”何者か”によって意識を失ってるか死んでるでしょうね。あぁ、安心してください。流石に皆殺しはしませんよ、まぁこの場にいる彼等には勿論死んでもらいますが。
僕達の邪魔が入らない様に、レイナに従者棟で火事を起こせと言ってあるし…ただでさえ少なくなってる人数で、こんな大きな事故2つ同時に起きたら…流石のバジル家の警備も緩くなるだろう?」
「何てことを…!!!」
心配と怒りと大事な者達が傷つけられる恐怖と…様々な負の感情が、リリーナの身体を震わす。
しかし、どうにも理解できない。なぜこの様な無謀な、後先考えない愚行を実行したのだろうか。
「私をどうにかしたところで、今はいないお父様やお母様達に制裁されるのは目に見えているでしょう…貴方方は何をしたいのです…?」
「あははっ君を誘拐したり脅しの材料に使うと思っているのかい?おいおい、バカにしないでくれよ!そんな一時の得にしかならない事なんてする訳ないだろう?この僕が!!
お子ちゃまな君には分からないだろうけどね、世の中には記憶も理性も無くせる素晴らしいお薬があるんだよ?
大丈夫、死にはしないさ。むしろ嫌な事なんかすぐに忘れられて、とっても気持ち良くなるお薬だよ?
ただ、一度使うと中毒性があってね…君は”どんな手を使ってでも”この薬が欲しくて堪らなくなっちゃうんだ。
だからこの薬をあげる代わりに、この書類にサイン…いや、直接ピラカンサ子爵家とモレッツ商会の仲介をしてもらおうかな?うんうん、その方が良さそうだ。庶民の癖に手酷く袖にしたあの商会長の鼻っ柱を折りたいからね!
君は僕が帰還の挨拶をした後、他のご家族が留守の間に”何者か分からない集団”に火を放たれ側近達を殺されてしまうんだ。
そんなショックで悲しんでいる娘のお願いは、いくら猛獣と言われているガンディール様も無視しないだろう?」
”薬漬けにして言うことを聞かせる”と正面切って言われたリリーナは唖然とする。
そんな、たかだかモレッツ商会と商売をする為に…こんなことをしでかしたというのか?リリーナはアセビの考えが理解できなかった。
ハッキリと、バジル家の秘宝であり天使でもあるリリーナお嬢様を害する宣言をしたアセビ達に対して、バジル家側の者達は殺気を隠そうともしなかった。
シルバは全身の毛を逆立て「グルッグルルルルッ」と牙をむき出しに威嚇し、ハヤトは氷点下の温度で敵を牽制しつつ暗器を手に持った。
使用人達もそれぞれ給仕服に隠し持っていた武器を手に取り、臨戦態勢を取る。
しかし───自分達の倍以上いる敵を見て、嫌な汗が背中を伝う。
自分達の命を懸けたとしても、リリーナお嬢様を無事にお救い出来るか…難しい局面だった。
(せめて、せめてお嬢様だけは無事に安全地帯へ逃がさねば…!!我等が命に代えても!!!!)
バジル家の面々の心は一つだった。
この圧倒的不利な場面で、冷や汗をかき焦っているバジル家を見てアセビは今日一番の、嬉しそうな楽しそうな笑顔を振りまいた。
「あぁ!楽しいなぁ!!その生意気な顔が苦痛と恐怖と絶望に染まる姿を、早く見せてくれ!!」
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