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第2章 -少女期 復讐の決意-
92.閑話 それぞれの想い
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Side ダラス
「この、子爵である、僕が、直々に!…交渉しに来ていても、難しいのかな?」
ダラスはバジル家の訪問帰り久々のモレッツ商会本店へ帰還途中に、まるで待ち伏せていたかの様なタイミングで接触されたこの貴族にイライラが募っていた。
「ですから、そう何度も申し上げております。いくら貴族の方でも、我々やワグナー商会と過去に取引のあった商会且つ、我々若しくはバジル家からの推薦が無い方とのお取引は出来かねます。」
何度目か分からない程再三説明した言葉を、一言一言に力を入れながら伝える。
ここ数年で急増した、自分勝手で横柄な面倒くさい…とっても困る貴族からの無理な”お願い”。
大分手こずったが、早々にガンディール様が対処してくれたお陰で静まったと思っていたのに。
久々に話の通じない、しかもしつこい質の貴族に旅の疲れもあり不機嫌な顔を取り繕えていない自信がある。
この男達は帰還途中に商会から手紙で報告があった”ピラカンサ子爵”だ。
何でもバジル家にお仕えして姪とも仲の良いカヨ様の父親で、レイナ様の元夫らしい。
それを盾に、”バジル家と仲が良い”と匂わせ商売の取引を持ち掛けてきた…と。
こちらを舐めているとしか思えない内容に、呆れてため息が出たものだ。
本当に、馬鹿馬鹿しい。
普段関わっているのがバジル家やタンジ家、ポートマン家など良識ある素晴らしい貴族ばかりの為、余計この様な小賢しい貴族に対して嫌悪感が出てきて拒絶したくなる。
(あぁ、こんな事なら”アイツ”を無理にでも一緒に連れてくればよかった。)
ダラスは内心深いため息を吐いて後悔した。
この北方地方への出張で、あの琥珀は勿論元々の支店業務の他にも見たことのない物・王国内では普及してない食べ物等色んな収穫があった。
その中でも突出して、我々にとってとても意義のある拾い物をした。
”アイツ”はトンデモナイ田舎者で常識が通じない所もあるが、滅法腕が立ちこの出張中何度も助けてもらった。
出会いは本当に偶然で、一応他所からのスパイじゃないか徹底的に洗ったが真っ白だった。
本人の望みと我々の望みが一致した為、専属契約を結んでいたが…中々自由人な”アイツ”は、バジル領に着いた途端コアスの森に行きたい!!と駄々をこねた。
まぁ、ここまでよく働いてくれたし…バジル家の後は商会に顔を出して解散する予定だったので、その申し出を飲んでしまったが。
あの時、止めていればと心底思った。
「私は、バジル家に長年仕えている忠臣と言っても良い、レイナと婚姻していてね?
──そちらのご令嬢とも仲良くさせてもらってる、カヨの実の父親なんだよ。
僕のせいで幼い頃から苦労を掛けたが、君達の様な素晴らしい商会のお嬢さんという親友がいて、本当に楽しそうで幸せそうでね。
・・・あの子達の為にも、親である僕等もこれから先の事を考えて仲良くしたいと思ったんだよ。
どうかな?せめて、あの子の親友であるララ嬢にお礼も言いたいし、一緒に商会の方に同行しても良いかな?」
有無を言わせない、さも承諾することが当たり前の様に圧をかけながら話す姿を、冷えた視線で見つめてしまう。
子どもを出して交渉してくる等、自分の品格を落としていることにも気づいてない…いや、気にしていないのか?とにかく、そんな奴等と商売なんぞしたくもない。
そもそも、バジル家御用達となった当初よりガンディール様から直々に”信用できる貴族”のリストを頂戴している。
その中身は王国内の貴族数に対して随分と少なかったが、勿論”ピラカンサ”のピの字もなかった。
勿論、リストに名前が無くても自分達で判断して商売は自由にしろ、と言われているが…こんなどう考えても非常識且つ信用置けない奴等なんぞ天地がひっくり返っても答えは変わらない。NO一択だ。
長旅で疲れてさっさと家族に会いたいダラスは、今まで一応貴族だからと丁寧に対応していたが我慢の限界だった。
「申し訳ありませんが、お断りいたします。
子ども達と私達大人の商売とは何の関係もありませんし、貴方とのことが無くてもうちの姪とカヨ様の友情は変わらないでしょう。
そもそも、子ども達の友情は彼女達自身の問題です。仲の良いままでも、疎遠になろうと私達が口出しすることではありません。
それに、いくらカヨ様の実父であっても貴方とバジル家の方々の間には何の関係もありませんよね?
再三言ってますが、貴方方とは過去お取引がありませんし、こんなルールも礼儀もない方法で取引を持ち掛けてくる方々と商売したいとも思いません。
バジル家の方々から推薦状などお持ちじゃないんでしょう?だったらお話することなどありません。
長旅で疲れているので、私達はこれで失礼いたします。
もし!また推薦状もなく商会へアポイントを取られた場合は即、ガンディール様へ報告させていただきますので悪しからず。では、失礼。」
言いたいことをオブラートに三重包みするくらいで伝え、ダラス達は去って行った。
◇
Side アセビ
「どいつもこいつもっ!!!!低俗庶民の癖に貴族に逆らうなんて!!!!下手に出てやったのにこの仕打ち…!!!!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!!!!」
まだ屋外だから理性が残っているのだろう、ブツブツと不気味に呟きながら怒りを露わにするアセビに、これから部屋に戻った時に受けるであろう折檻を思い青ざめる従者。
淡い期待を持って対面したモレッツ商会長とは、最悪の結末で終わってしまった。
商売の取引が締結出来なかっただけでなく、あの様子では悪印象を持たれただろう…今後も関係修復に時間がかかりそう…いや、もう関係修復など不可能な程の拒絶だった。
商会規模が大きくなりはしたものの”所詮新米商会、どうとでもなる”と侮っていたが…やはり新米と言えど、ここまで商会規模を大きくした強者だ。
舐めてかかってはいけなかった…と従者は後悔した。
貴族という権力にも屈せず、身内の友人という情にも流されない…となると方法は彼等の言う通り、正規ルートで取引を申し込むか──暴力を以て脅迫するかだ。
後者の方が圧倒的に慣れていて得意分野だが…如何せんガードが固すぎる。
大商会になる前に、ララ嬢の誘拐未遂があったらしく商会周辺は勿論幹部達の自宅付近でさえ警備が行き届いていた。
時折バジル家の獣人兵も見回りしており、その徹底ぶりは舌を巻くほどだ。
しかし我等とてその道のプロ、厳しいが何とか成功したとしてもガンディール様率いるバジル家主力に見つかった時の事を考えると…馬鹿でも得策でないことが分かる。
バジル家にバラすなと脅しても、あのバケモノ集団であれば人質を取ってても救出し我々は一人残らずボコボコにされピラカンサ家は御取り潰しになるだろう…。
ならば残った方法はただ一つ──
血走った目で振り返ったアセビと、従者の目線がバチッと合った。
「レイナを呼べ…!!!必ずリリーお嬢様から紹介状を、サインを奪いっあのクソ庶民共を食い散らかしてやるっ!!!!!」
◇
Side カヨ
最近…お父さんと会ってから、お母さんの様子が可笑しい。
いつもニコニコしていた大好きな顔が青白く、何か思い詰めるようにボーっとしていて…何だかお母さんがどこかに行ってしまいそうで、心がザワザワと落ち着かない。
「お母さん…大丈夫?」
「あ、あら、どうしたのよ急に。大丈夫よ!ちょっと疲れただけだわ、私ももう年ねぇ。」
心配で声をかけても、はぐらかして取り合ってくれない。
こんな状態のお母さん、初めて見た。すぐにお爺ちゃんに相談したら、お爺ちゃんは覚えがあるみたいだった。
──私が赤ちゃんの頃、お父さんと結婚してる時と同じだ、って言ってた。
やっぱり、お父さんと何かあるんだろう。
思えば奥様やリリーお嬢様達と話している時から顔色が悪かったし、お父さんとご飯を食べた時なんて全然喋ってなくて…。
正直物心ついて初めて会う実の父親より、お母さんの様子にばかり気を取られていた。
初めは会った事のない”父親”という未知の存在に興味があったし、リリーお嬢様やララちゃん達の様に頼りになってカッコイイお父さんがいる皆が羨ましくて…。
勝手にガンディール様やダストンさんの様な”お父さん像”を思い描いていた。
でも、実際に会ってみると…何だか違った。
お父さんは初めて会った時も、私とよりお嬢様達とばかり話していたし…。
お貴族様だからしょうがないと思ったけど、その後の家族三人での食事の時も「普段リリーお嬢様とはどんな話をするんだい?」とか「ララ嬢はカヨ以外にご友人はいるのかな?…へぇ、友人の話は聞いたことが無いのかい。そしたらカヨがララ嬢の親友だね。」だの…リリーお嬢様やララちゃんの話しかしなかった。
いくら子どもの私でも分かる。
お父さんは私の事なんて全然興味なんかなくて、リリーお嬢様やララちゃんの情報の方がよっぽど大事なんだって。
多分、”お近づき”になる為にお母さんや私を使いたいんだろう。
私にはさっぱり分からないが、お貴族様には色々と事情があるのだろう…まさか自分が貴族の血を引いてるとは思わなかったが。
でもそんなことどうだっていい。
父親が貴族でも、私はバジル家に仕える単なるメイドのカヨだ。
それに、いくら私とリリーお嬢様やララちゃんの仲が良かろうと、家のお付き合いは関係無い。
バジル家もモレッツ商会も、気高くプライドを持って生きているカッコイイ人達だ。
そんな些細な事で、信念を揺るがすことなど絶対に無いだろう。
理想のお父さん像とは全然、似ても似つかない実際の父親への興味関心はとっくに失せた。
私の家族は、昔も今もお母さんとお爺ちゃんしかいない。…近い将来増えそうな気もするけどね?
とにかく!お母さんが早く元気になるように、お父さん早く帰ってくれないかなぁ?
カヨはため息をつきながら、ザインに母へ何か差し入れするモノを作ってもらおうとキッチンへ急いだ。
「この、子爵である、僕が、直々に!…交渉しに来ていても、難しいのかな?」
ダラスはバジル家の訪問帰り久々のモレッツ商会本店へ帰還途中に、まるで待ち伏せていたかの様なタイミングで接触されたこの貴族にイライラが募っていた。
「ですから、そう何度も申し上げております。いくら貴族の方でも、我々やワグナー商会と過去に取引のあった商会且つ、我々若しくはバジル家からの推薦が無い方とのお取引は出来かねます。」
何度目か分からない程再三説明した言葉を、一言一言に力を入れながら伝える。
ここ数年で急増した、自分勝手で横柄な面倒くさい…とっても困る貴族からの無理な”お願い”。
大分手こずったが、早々にガンディール様が対処してくれたお陰で静まったと思っていたのに。
久々に話の通じない、しかもしつこい質の貴族に旅の疲れもあり不機嫌な顔を取り繕えていない自信がある。
この男達は帰還途中に商会から手紙で報告があった”ピラカンサ子爵”だ。
何でもバジル家にお仕えして姪とも仲の良いカヨ様の父親で、レイナ様の元夫らしい。
それを盾に、”バジル家と仲が良い”と匂わせ商売の取引を持ち掛けてきた…と。
こちらを舐めているとしか思えない内容に、呆れてため息が出たものだ。
本当に、馬鹿馬鹿しい。
普段関わっているのがバジル家やタンジ家、ポートマン家など良識ある素晴らしい貴族ばかりの為、余計この様な小賢しい貴族に対して嫌悪感が出てきて拒絶したくなる。
(あぁ、こんな事なら”アイツ”を無理にでも一緒に連れてくればよかった。)
ダラスは内心深いため息を吐いて後悔した。
この北方地方への出張で、あの琥珀は勿論元々の支店業務の他にも見たことのない物・王国内では普及してない食べ物等色んな収穫があった。
その中でも突出して、我々にとってとても意義のある拾い物をした。
”アイツ”はトンデモナイ田舎者で常識が通じない所もあるが、滅法腕が立ちこの出張中何度も助けてもらった。
出会いは本当に偶然で、一応他所からのスパイじゃないか徹底的に洗ったが真っ白だった。
本人の望みと我々の望みが一致した為、専属契約を結んでいたが…中々自由人な”アイツ”は、バジル領に着いた途端コアスの森に行きたい!!と駄々をこねた。
まぁ、ここまでよく働いてくれたし…バジル家の後は商会に顔を出して解散する予定だったので、その申し出を飲んでしまったが。
あの時、止めていればと心底思った。
「私は、バジル家に長年仕えている忠臣と言っても良い、レイナと婚姻していてね?
──そちらのご令嬢とも仲良くさせてもらってる、カヨの実の父親なんだよ。
僕のせいで幼い頃から苦労を掛けたが、君達の様な素晴らしい商会のお嬢さんという親友がいて、本当に楽しそうで幸せそうでね。
・・・あの子達の為にも、親である僕等もこれから先の事を考えて仲良くしたいと思ったんだよ。
どうかな?せめて、あの子の親友であるララ嬢にお礼も言いたいし、一緒に商会の方に同行しても良いかな?」
有無を言わせない、さも承諾することが当たり前の様に圧をかけながら話す姿を、冷えた視線で見つめてしまう。
子どもを出して交渉してくる等、自分の品格を落としていることにも気づいてない…いや、気にしていないのか?とにかく、そんな奴等と商売なんぞしたくもない。
そもそも、バジル家御用達となった当初よりガンディール様から直々に”信用できる貴族”のリストを頂戴している。
その中身は王国内の貴族数に対して随分と少なかったが、勿論”ピラカンサ”のピの字もなかった。
勿論、リストに名前が無くても自分達で判断して商売は自由にしろ、と言われているが…こんなどう考えても非常識且つ信用置けない奴等なんぞ天地がひっくり返っても答えは変わらない。NO一択だ。
長旅で疲れてさっさと家族に会いたいダラスは、今まで一応貴族だからと丁寧に対応していたが我慢の限界だった。
「申し訳ありませんが、お断りいたします。
子ども達と私達大人の商売とは何の関係もありませんし、貴方とのことが無くてもうちの姪とカヨ様の友情は変わらないでしょう。
そもそも、子ども達の友情は彼女達自身の問題です。仲の良いままでも、疎遠になろうと私達が口出しすることではありません。
それに、いくらカヨ様の実父であっても貴方とバジル家の方々の間には何の関係もありませんよね?
再三言ってますが、貴方方とは過去お取引がありませんし、こんなルールも礼儀もない方法で取引を持ち掛けてくる方々と商売したいとも思いません。
バジル家の方々から推薦状などお持ちじゃないんでしょう?だったらお話することなどありません。
長旅で疲れているので、私達はこれで失礼いたします。
もし!また推薦状もなく商会へアポイントを取られた場合は即、ガンディール様へ報告させていただきますので悪しからず。では、失礼。」
言いたいことをオブラートに三重包みするくらいで伝え、ダラス達は去って行った。
◇
Side アセビ
「どいつもこいつもっ!!!!低俗庶民の癖に貴族に逆らうなんて!!!!下手に出てやったのにこの仕打ち…!!!!ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!!!!!」
まだ屋外だから理性が残っているのだろう、ブツブツと不気味に呟きながら怒りを露わにするアセビに、これから部屋に戻った時に受けるであろう折檻を思い青ざめる従者。
淡い期待を持って対面したモレッツ商会長とは、最悪の結末で終わってしまった。
商売の取引が締結出来なかっただけでなく、あの様子では悪印象を持たれただろう…今後も関係修復に時間がかかりそう…いや、もう関係修復など不可能な程の拒絶だった。
商会規模が大きくなりはしたものの”所詮新米商会、どうとでもなる”と侮っていたが…やはり新米と言えど、ここまで商会規模を大きくした強者だ。
舐めてかかってはいけなかった…と従者は後悔した。
貴族という権力にも屈せず、身内の友人という情にも流されない…となると方法は彼等の言う通り、正規ルートで取引を申し込むか──暴力を以て脅迫するかだ。
後者の方が圧倒的に慣れていて得意分野だが…如何せんガードが固すぎる。
大商会になる前に、ララ嬢の誘拐未遂があったらしく商会周辺は勿論幹部達の自宅付近でさえ警備が行き届いていた。
時折バジル家の獣人兵も見回りしており、その徹底ぶりは舌を巻くほどだ。
しかし我等とてその道のプロ、厳しいが何とか成功したとしてもガンディール様率いるバジル家主力に見つかった時の事を考えると…馬鹿でも得策でないことが分かる。
バジル家にバラすなと脅しても、あのバケモノ集団であれば人質を取ってても救出し我々は一人残らずボコボコにされピラカンサ家は御取り潰しになるだろう…。
ならば残った方法はただ一つ──
血走った目で振り返ったアセビと、従者の目線がバチッと合った。
「レイナを呼べ…!!!必ずリリーお嬢様から紹介状を、サインを奪いっあのクソ庶民共を食い散らかしてやるっ!!!!!」
◇
Side カヨ
最近…お父さんと会ってから、お母さんの様子が可笑しい。
いつもニコニコしていた大好きな顔が青白く、何か思い詰めるようにボーっとしていて…何だかお母さんがどこかに行ってしまいそうで、心がザワザワと落ち着かない。
「お母さん…大丈夫?」
「あ、あら、どうしたのよ急に。大丈夫よ!ちょっと疲れただけだわ、私ももう年ねぇ。」
心配で声をかけても、はぐらかして取り合ってくれない。
こんな状態のお母さん、初めて見た。すぐにお爺ちゃんに相談したら、お爺ちゃんは覚えがあるみたいだった。
──私が赤ちゃんの頃、お父さんと結婚してる時と同じだ、って言ってた。
やっぱり、お父さんと何かあるんだろう。
思えば奥様やリリーお嬢様達と話している時から顔色が悪かったし、お父さんとご飯を食べた時なんて全然喋ってなくて…。
正直物心ついて初めて会う実の父親より、お母さんの様子にばかり気を取られていた。
初めは会った事のない”父親”という未知の存在に興味があったし、リリーお嬢様やララちゃん達の様に頼りになってカッコイイお父さんがいる皆が羨ましくて…。
勝手にガンディール様やダストンさんの様な”お父さん像”を思い描いていた。
でも、実際に会ってみると…何だか違った。
お父さんは初めて会った時も、私とよりお嬢様達とばかり話していたし…。
お貴族様だからしょうがないと思ったけど、その後の家族三人での食事の時も「普段リリーお嬢様とはどんな話をするんだい?」とか「ララ嬢はカヨ以外にご友人はいるのかな?…へぇ、友人の話は聞いたことが無いのかい。そしたらカヨがララ嬢の親友だね。」だの…リリーお嬢様やララちゃんの話しかしなかった。
いくら子どもの私でも分かる。
お父さんは私の事なんて全然興味なんかなくて、リリーお嬢様やララちゃんの情報の方がよっぽど大事なんだって。
多分、”お近づき”になる為にお母さんや私を使いたいんだろう。
私にはさっぱり分からないが、お貴族様には色々と事情があるのだろう…まさか自分が貴族の血を引いてるとは思わなかったが。
でもそんなことどうだっていい。
父親が貴族でも、私はバジル家に仕える単なるメイドのカヨだ。
それに、いくら私とリリーお嬢様やララちゃんの仲が良かろうと、家のお付き合いは関係無い。
バジル家もモレッツ商会も、気高くプライドを持って生きているカッコイイ人達だ。
そんな些細な事で、信念を揺るがすことなど絶対に無いだろう。
理想のお父さん像とは全然、似ても似つかない実際の父親への興味関心はとっくに失せた。
私の家族は、昔も今もお母さんとお爺ちゃんしかいない。…近い将来増えそうな気もするけどね?
とにかく!お母さんが早く元気になるように、お父さん早く帰ってくれないかなぁ?
カヨはため息をつきながら、ザインに母へ何か差し入れするモノを作ってもらおうとキッチンへ急いだ。
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