転生した復讐女のざまぁまでの道のり 天敵は自分で首を絞めていますが、更に絞めて差し上げます

はいから

文字の大きさ
上 下
65 / 99
第2章 -少女期 復讐の決意-

85.閑話 Side天敵 ヒューの摘発 -2-

しおりを挟む
 店を離れた一同はステイン伯爵領を通り過ぎ、王国領からも出て隣国の領地に入った。


 (なるほど…王国内ではない所に拠を構えていたのか。通りで居場所が掴めないわけだ。)

 ショーンは馬車の中から変わりゆく景色を見つめ、これまで王国内を必死に捜索してくれた部下達に心で礼と謝罪をしながらもしっかりと現在地を把握していた。


 しばらく管理された道を進んでいたが、段々と整備されていない道へと変わり川を渡った。
(匂いが辿れないのはこのせいだったのかもしれない)

 気づけば景色は薄暗い森の中に変化しており、雰囲気的にそろそろか…と公爵家の者達は深呼吸をしながら神経をとがらせいつ、何が会ってもいい様に集中していた。


 「大変お待たせしました!!こちらになります!!──────おい!!俺だ!!お客様をお連れしたぞ!!挨拶しに出てこい!!!」
 緊張と今までの移動の疲れにより、被っていた猫が剥がれながらヒューは汚い言葉で、これまた大きさは中々あるが汚い建物に向かって声を荒げた。

 ヒューの叫びが届いたのか心配になるほど時間が空いたが、ようやっと一人の小汚い男が出てきた。
 酔っぱらっているのだろうか、顔が赤らんでいるが…その赤い顔は不機嫌に歪んでいた。


 「なんだなんだ、え??やっと金払いに来たのかヒュー!これ以上待たせるようだったら、お前のこの屋敷を商品共々売っ払っちまおうと思ってたところだ!!っひっく、命拾いしたなぁ、おい!こんなに待たせやがって、優しい俺様達に感謝しろ!!!」

 不機嫌そうに、最後はニタニタと意地の悪い笑みを浮かべながら喋る男はやはり酔っているらしい。
 滑舌が悪くてあまり聞き取れないが、どうやらこの男はお客様が来たことを認識していないようだ。


 あまりの醜態に、ヒューや男達は顔を真っ青にしてショーン公爵の顔色を窺いつつ、男に怒鳴った。

 「バカ野郎が!!お客様をお連れしたって言ってんだろうが!!ショーン様の前でくだらねぇ話をすんのは止めろ!!───ショーン様、申し訳ありません!お耳汚しをしましてっすぐ話が通じる奴に変えますので!!・・・おい!お前じゃ話にならん!他の奴はどうした?テメェは奴隷の世話でもしてその汚ねぇ声と顔を二度と見せんじゃねぇ!!別の奴呼んでとっとと消えろ!!」

 「あぁん?!俺様に向かってなんて口利いてんだゴルァ!!急に来ておいて随分生意気なこと言うじゃねぇか!!テメェ等が急に来たせいで人手が足りねぇんだよ!!お前の工場に法務?何たらってところから監査?がきた…来る??ってんで、何人か慌ててそっちに向かったんだよ、それで仕方なく、俺様も奴隷共の世話してやってるってのに、っひく、何だその言い草はぁああああぁ!!」


 酔っぱらい男がヒューに向かって殴りかかり、他の男達とヒューがボロボロになりながら何とかしようとしているのを鼻で笑いながらショーンは作戦が上手くいっていることを確認しつつ、後ろに控える部下達にサインを送っていた。



 (ガンディールの方も、予定通りに進んでいたみたいだな。しかしまぁ、こんな所にアジトを構えていたとは。…流石バジル海軍を1度すり抜けたトトマの息子だな。商売は凡人だが、姑息な才能はあるらしい。)

 今回ヒューの仲間や奴隷の規模数が完全には把握出来ていなかったため、少しでも敵の余力を割こうとガンディールも動いていたのだ。
 そう、”生姜焼きのタレ”の製造を許可する際にリリーとザインが提示した条件の”利益を従業員にも還元すること”が守られていないのでは?ましてや従業員ではなく、王国で禁止されている奴隷を使っているのでは??という情報をリークしていたのだ。


 まず影達に法務局の人間数人に噂話を聞かせ、疑惑を認識させた。
 その後、ガンディール本人から「その様な噂を耳にしたが…まさか、本当じゃないよな?法務局お前らちゃんと仕事してるよな??・・・な??」という読んだだけで圧がかかる手紙を出した。

 今ノリに乗ってるバジル家を敵に回したくない法務局は、それからてんやわんやだったようだ。
 対応が遅すぎると言われる彼等にしては素早い行動で、翌日には対応の会議が行われていた。
 その後、摘発のタイミングを合わせるため「影に聞いたけど、お前等まだ事実確認してないらしいじゃん。まぁ忙しいと思うし、今回は力を貸してやんよ。一緒に摘発しようぜ?」という手紙を送り、さも”お優しく寛大なバジル当主”だと思わせながらもダシに使ったのだ。

 タンジ家の事と言い、今回の事と言い・・・。
 法務局は少し体制や人材を見直した方が良さそうだ。あまりにもチョロすぎる。


 ショーンは自国の未来を思いながら内心ため息をつき、さっさと片づけてしまおうと気持ちを切り替えた。

 「まぁまぁ、そこまでにしたらどうかな?」

 まだ乱闘を続けていた男達に声をかける。
 いつの間にかヒューも酔っ払いも男達もボロボロになって、鼻血も出ている。
 自分達で首を絞めてくれて、大変有難い。一層スムーズにいきそうだ。

 「君の言う通り、突然来て悪かったね。私が我儘を言ったんだよ。自分の目で商品を見たいってね。・・・色々見れたら嬉しいんだが、ここにはどのくらい商品があるのかな?」

 「あ、ああ。なんだ客、お客様が…。こっちこそ、失礼しやした。え~~~っと、ここには…最近移った奴もいるから…今は7人っすね、最近西から商品が来なくて。」

 「ショーン様!!ここにいる7人の中には貴重な獣人もいますので!!」
 マイナスなことを言い始めた男を遮るように、ヒューが必死で補足する。

 それを冷めた目で見つつ、しかし男の方には同情的に言葉を続けた。

 「そうか…。しかし、仲間が数人いない状態で7人も世話をするなんて大変だったろう。そんな忙しい時に来てしまって、申し訳ないね。・・・そうだな、謝罪の意味も込めて差し入れでもしようか。今いる仲間は何人かな?」

 「い、いやいやそんな!へへっ、そ、そうですかぃ?それじゃあ遠慮なく。人数は~俺合わせて5人っすね!お貴族様からの差し入れなんて、期待しちまうなぁ♪美味い飯も良いですが、金とか女とかの方が嬉しいっすねぇ~♪」

 「おい!!!ショーン様に向かって!!口を慎め!!・・・申し訳ありません、ショーン様!こんな奴等の為に、お気遣いしなくても大丈夫ですよ!」
 「あ~??何言ってんだテメェ!!お貴族様がくれるって言ってんだ!!テメェは引っ込んでろ!!」
 「おいおい、お前等だけズリィじゃねぇか!俺等も金と女欲しいぜ!!」
 「そうだそうだ!!ヒューも最近は羽振り良くねぇし!!」



 低俗な争いを始めた男達を後目に、ショーンは部下達に合図をした。
 部下達は心得たと言う様に小さく頷くと、それぞれ動き始めた。

 荷台を屋敷から離れたところに動かし、馬を休ませるように見せかけ屋敷の周囲を見張る者。
 そして・・・荷台に隠れていた者達へ合図を送り、動き出す者達。


 そんな様子から気を逸らすように(彼等は争いに夢中で気づいていない様だが念の為)ショーンはパンパンッと手を叩いて自身に注目させた。

 「すまないね、私の言葉で君たちを争わせて。確かに不公平だろう、そこの5人にも差し入れをするから、どうかこの場を治めてくれないか?───ありがとう。そろそろ商品を見たいんだが、いいかね?あー、君たち傷が凄いし・・・荷台に行って先に差し入れを受けるかい?その時一緒に治療してもらうといい。──────ヒューは申し訳ないが、私に案内してくれないか?君が一番説明が上手そうだ。」

 「勿論です!!お気遣い、ありがとうございます。───本当、使えない奴等ですいません(ボソッ)流石ショーン様、人間の動かし方が分かってらっしゃる!」

 「おっほー!差し入れ!!」「何があるんだ?肉か?金か?」「宝石かもしれねぇぜ??」
 「いや、美人な姉ちゃんがいるかもしれないぜ!ギャハハハッ」



 下品な言葉を吐きながら荷台へと進む男達を見もせず、ヒューは早速屋敷の中へショーンを案内した。

 「さっ!ショーン様、こちらです。念のため地下の隠し部屋に置いてますので、迷わないように着いてきてください。」


 意気揚々と進むヒューの後ろ姿を見た後、部下達に合図を出しつつ荷台に向かって呟いた。

 「熱~い”差し入れ”に満足するなよ?───後からもっと差し入れされるんだからな?」



 氷の様に冷たい目で呟くその様は、普段リリー達と接している気の良いオジサマの面影はなく・・・背筋が凍る程の殺気が漏れていた。

 ショーンは荷台から目を逸らすと、ヒューに続いてこの気味の悪い屋敷の中へと入っていった。




 *




 「こちらになります。」

 公爵家の兵士が、男達を荷台の前に案内した。
 ウキウキしている男達の後ろに見えるショーン達が完全に屋敷の中へ入ったことを確認すると、そのままスッと荷台から遠ざかった。


 「???なんだぁ~?入っていいのか?」
 「ほら、やっぱり女だ!へへへっ、あのお貴族様、綺麗な顔して結構なモン持ってんじゃねぇか!」
 「おい、さっさと開けようぜ!」「俺が先だ」「いや俺だ!!」


 勝手に期待して我先にと荷台の幕を開けると、そこには─────────綺麗な女性も宝石も金も、食料もなく。
 屈強な獣人が数人待ち構えていた。


 「あぁ、待ってたぜ?」


 その言葉を聞いた途端、男達は後ろから素早く口を塞がれた。

 「「「「「「んんんん~~~!!!!!」」」」」」」

 ジタバタと抵抗する男達を、後ろから口を塞いでいる者達と荷台にいた獣人達が一斉に殴りかかり静かにさせた。

 「おいおい、最初から飛ばしてたら後がキツイぜ??心配しなくても、時間はたっぷりあるからな?」
 「今まで俺等の仲間も随分と可愛がってくれたみてぇじゃねぇか…礼をしないとな?」
 「どれだけこの時を待ちわびたことか」
 「屋敷の方の部隊じゃねぇから出番も無いかと思ったが…ありがてぇな」


 大きな瞳をギラギラさせながら、まるで獲物を仕留める直前の獣の様に殺気立つ獣人達を見て、思わず公爵家の仲間達が忠告する。


 「分かってると思うが、屋敷に声が届かないように気を付けろよ?大丈夫だとは思うが、念には念を入れておきたい。それから、万が一の為に殺すなよ?コイツ等には色々と聞きたいことがあるしな。──────あぁ、一人残しておけば十分だがな。」

 殺されないという希望の光が男達に宿ったことが気に入らず、つい一言付け足してしまった。
 絶望に染まり、再び強い抵抗を始めた男達を見て腹の虫がおさまる。


 あぁ、自分も何だかんだ言いつつもしっかりと憎悪を抱いていたのかとしみじみ思った。


 忠告をした者は、もう何を言っても無駄だなと思い始めたので彼等に任せることにした。





 他の者達も、くぐもった汚いうめきを聞きながら自分の持ち場に戻っていった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。