転生した復讐女のざまぁまでの道のり 天敵は自分で首を絞めていますが、更に絞めて差し上げます

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第2章 -少女期 復讐の決意-

84.閑話 Side天敵 ヒューの摘発 -1-

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 「あぁ!ポートマン公爵様!お待ちしておりました、本日はわざわざご足労いただきありがとうございます。」


 ヒューはかつてない程の笑みを浮かべ、馬車から降りてきたグレンの父親であり公爵家当主であるショーンに向かって深々と礼をした。

 ここはポートマン領とヒューが常駐しているステイン伯爵領のちょうど間ほどにある街の、人目につかない酒屋だろうか?一見では入りづらそうな雰囲気の店の前だ。

 ショーンはチラリと視線を寄こし、冷めた声で返事をした。

 「初めまして、だね?以前からうちの息子を通して話を持ってきてくれていたからか…なんだか初めてあった気がしないくらいだ。今回は急な依頼で無理を言った、礼を言う。」


 もしここにリリーナがいたら、「どこのお貴族様ですか?!」と驚く程普段のショーンと雰囲気が違う。
 その銀髪・青目の姿も相まって、”氷の貴人”という言葉が良く似合う。
 流石”氷の薔薇”と呼ばれるセシルを娘に持つだけの事はある。そっくりだ。

 「とんでもございません!グレン様には幼い頃から仲良くさせていただいておりますし、少しでもお力になれればと思った次第で。…最近は特に、お忙しいとお聞きしましたので。」

 「ふ、そうだな。”マヨン”に始まり、最近は”チューノー”の工場も増やしたからな。要らぬ”虫”が出るわ出るわで敵わないよ。」

 「それはそれは…さぞ煩わしいことでしょう。ご安心ください。今回提供します”商品”はどんな汚れ仕事も対応しますし、費用もかさばりません。…つきましては、今回の”商品”で虫退治が終わりましたら、是非ともその”マヨン”や”チューノー”の生産の方にもお力を…」

 「おい、いつまでショーン様を外で立たせるつもりだ。貴様の様な気遣いも満足に出来ない者の所へわざわざご当主であるショーン様が足を運んでくださっているんだ。無駄口なんぞ叩かずさっさと案内しろ。」


 ここぞとばかりにポートマン領で生産している調味料の商売に一枚噛もうと躍起になるヒューに、ポートマンの護衛が口調を強めて制した。



 「…あぁ、これは大変失礼しました。ショーン様、お許しください。あらゆる人脈を持つと名高いショーン様にお会いできて、少々興奮していたようです。…ささ、こちらです。」

 (たかが護衛風情が偉そうに俺の言葉を遮りやがって!!……ポートマンの中核に食い込んだ暁には無礼な貴様は速攻クビにしてやるからな!…いやまてよ?こういうタイプは冤罪かけて犯罪者として名誉も奪った方が堪えそうだな…くっくっく、楽しみが増えた。)

 初めは折角のチャンスを踏みにじられ怒りを感じたが、脳内で惨めに泣きじゃくる護衛の妄想をして心を落ち着かせた。



 ─────店の中は薄暗く、光がまばらに差し込んだ明かりだけが部屋を照らしていた。

 中央にはヒューの仲間だろうガラの悪そうな男が5人程おり、輪になってニタニタと意地の悪い笑みを浮かべていた。
 こちらに背を向けた男達で確認出来ないが…恐らく中央に彼等の言う”商品”がいるのだろう。

 ショーンと護衛達は僅かに眉をひそめ、しかし悟られないようにポーカーフェイスを保つ。


 「おい、お前達。お客様がいらっしゃったぞ。その汚い頭を垂れてご挨拶しろ。」

 ヒューの言葉に、慌てた様子で男達は頭を下げ始めた。
 「へぇ、ご機嫌?よろしいですか?」「バカ違ぇよ、ご機嫌麗しいだ」「あ?何か違わねぇか?」
 などと言う男達に公爵家側は勿論、ヒューもこめかみを抑えながらため息を吐いた。

 「ショーン様、申し訳ございません。教養のない奴等でして…多少の無礼はご勘弁ください。」

 「ふん、端から期待などしてない。・・・ところで、そちらが”商品”かな?」

 ショーンは男達が頭を下げたことによって確認出来た、青年らしき3人の死んだ目をして縄で縛られている者達を見ながら問うた。

 「左様でございます。おい!こっちに連れてこい!」


 「へい!…おい、さっさと立て!この愚図が!」と言われながら、何の感情も見えない3人の青年らしき者達はショーンの足元に連れてこられ、跪かされた。

 ショーンはしゃがみ込み、ぞんざいに…見えるが実際は優しく一人の顎を持ち顔を上げさせた。
 青年は予想に反して痛みも強引さも感じられない手つきに、ピクッと一瞬反応したがただただ空間を死んだ目で見続けた。

 (これは…ある程度想像していたが、実際に見ると酷いな。…数年前、俺が強引に動いていれば彼等はもっと早く助けられてたと思うと…心が痛いな。)

 内心では同情と、自身への後悔等様々な感情を抱いていたが…表情は氷の貴人のままポーカーフェイスを保っていた。
 その無感情に見えるショーンの様子に冷や汗が出てきたヒューは、必死で己の商品のプレゼンをする。


 「見た目は若干小さく貧弱に見えるかもしれませんが、あらゆる殺人技術を仕込んでますのでご安心ください!拷問にも慣れておりますので、万が一敵に捕まっても自殺する様に教育してますし、万が一の盾にピッタリです!反抗しないように躾も完璧ですし、不安であればと思いまして血縁者がいる者達を選んでおります。万が一反抗した場合はこちらにいる血縁者を惨殺すると脅していますので…」


 「っはっはっは!!!!」


 ヒューの聞きたくもない様な説明の途中で、ショーンは立ち上がり手で顔を覆う程大声で笑い始めた。
 なんの悪びれもない様子で、非人道的且つ陰湿で残虐な所業の数々を恥ずかし気もなくペラペラと喋るこの男に、そしてそれを何とも思ってない…むしろニヤニヤと笑っている男達を見て、憤怒を通り越して一層笑えてきたのだ。

 (殺人の強要に、拷問虐待恐喝…コイツ等と同じ人間だと思いたくないな。見たところ彼等は異民族と…一人は獣人か。色や姿形が違うだけで、どうしてこうも非道な行為が出来るのか。─────あぁ、バジル家に協力要請をしていて本当に良かった。これは同族である彼等に、きちんと復讐を果たしてもらいたい。)

 ショーンは彼等と同じ目にあっていたと聞くバジル領の獣人達に思いを馳せながら、絶対にコイツ等を逃がさない、許さない、相応の裁きを受けさせると心に誓った。


 一方男達はショーンの異常さに気味が悪くなり、言い知れぬ恐怖を感じていた。
 ヒューも気づいてはいないが、後退りしておりショーンから距離を取っている。

 
 「ショ、ショーン様?」

 「ふ、ふふふ。いやぁ、ヒュー君。…これは何かの冗談かな?」

 「え?冗談、と申しますと?」


 ショーンは「はぁ、」と大きなため息を吐きながら、鋭い眼差しで問いかけた。

 「…随分と私は舐められているみたいだね。それとも、君の所にはこんな低レベルな商品しかいないのかな?あぁ、残念だよ。グレンから君は優秀な人材だと聞いていたから、期待し過ぎてしまっていたようだ。」

 そういうとショーンは護衛達を引き連れて出口へ向って行く。
 ショーンからの言葉と、興味を失った様子の公爵達に慌てて縋りついた。

 「おっお待ちください!!ショーン様!確かに見た目は頼りないですが!!コイツ等は私の商品の中でも優秀な人材で!」

 「一番!!!、優秀な者達なのかな?」

 「そっそれはっ!…ぁっ」


 突然痛い所を突かれ取り繕うことも忘れ詰まってしまったヒューは、その自分の失態に口を覆い真っ青になってしまった。

 そのヒューの様子を見て、ショーンはニッコリと今日初めての笑顔を見せた。


 「どうやら本当に、舐められていたみたいだね。本当に、残念だよ。」

 「ち、違うんです!!最近は商品の仕入れが滞っており!!コ、コイツ等はもう少し成長するととんでもなく優秀な!それこそ一番の人材に!」

 「君に選ばせてあげるよ。1つ目は、その五月蠅い口を閉じて我々の帰りを黙って見送る。2つ目は、さっさとその”1番優秀な”人材を我々に差し出す。──────さぁ、どうする?」


 ショーンのマントに縋りついているヒューを鋭い目で見つめながら問うショーンに、脳内で勘定しつつ公爵家への投資と資産を天平にかけた。
 それも束の間、一瞬で上り調子の公爵家を選んだヒューはハッキリと返事をした。

 「勿論!!!す、すぐに別の商品を連れて来ますのでっ」

 「その必要はないよ。我々も一緒にそこに行くから。───自分の目で商品を一つ一つ確かめてみたくなったしね?」


 有無を言わさない口調で、ピリピリとした威圧をかけながらヒューに脅しをかけると・・・効果は絶大だったようで、ヒューはコクコクッと首を縦に振った。

 「もっ勿論です!!!──────おい!!聞こえただろう!さっさと動け!公爵様方をアジトへお連れするぞ!!」



 慌てた様子でヒューと男達が出発の準備をし始めた様子を、公爵家側は冷めた目で見ていた。

 (おい、準備は?)
 (抜かりなく。獣人も荷台に隠れており彼等にバレておりません。)
 (そうか・・・バジル領の者達も、随分と殺気立っていたからな。早く発散させてやらんとな?)

 護衛とアイコンタクトで会話しつつ、思ったより早く事が運べて良かったと安堵していた。


 そんな様子をジーーーーーーっと見つめる3人の奴隷達にショーンが気づくと、バッと一斉に下を向いてしまった。

 カタカタと震える3人に、ショーンと護衛は苦笑しつつ・・・ポンポン、と頭を撫でてやる。


 いつもの様に「何見てんだよ!!」と殴られるもんだとばかり思っていた3人は、ポカーンとした表情でショーン達を見つめた。


 「大丈夫だ、お前達は何の心配もいらないぞ。」



 ボソッと小声で、ヒュー達に悟られないように呟いた言葉に「「「????」」」となりながらも、3人の目は初め会った時よりも光が宿っていた…様に感じた。


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