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第2章 -少女期 復讐の決意-

79.閑話 Side天敵 アイリ的画策 -2-

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 仏頂面のヒューに続き、数名のヒョロっとした男達が入室した。
 屋敷の者を初め貴族しか会った事がない(会っても記憶していない)為か、こんがりと日焼けし砂埃で汚れている庶民に拒絶反応が出た。

 (きったな~。もっとマシな人材いなかったの?髪もボサボサで・・・うっわ!汗臭っ!田舎庶民ってこんなに汚らわしいのね。・・・これなら別に来てもらわなくても良かったかしら。でもアイリの信者になるには一度この美しい姿を見せつけないとだし・・・。はぁ、女神も大変ね。こんな奴等にまで姿を見せないといけないなんて。・・・あらあらあら、そんなに目を見開いて!そうよね、アンタ達がいるクソ田舎にはいない美しさよね~。)

 他国の男達がアイリーンの姿を確認した直後、目を見開いた様子を見てアイリーンはのけぞった。
 さっさと終わらせて、ヒロインである自身に相応しい従者を探す様にヒューに手配しなければ。
 あぁ、でもそんなにハッキリ言ったらヒューも傷ついてしまうかもしれない。
 ずっと自分が一番の従者だと信じて疑わなかったことだろうし・・・でも仕方ないだろう、能力がヒロインに相応しくないのであれば、それは自身の力を驕ったヒューの問題だ。


 今会ったばかりなのに、早々に彼等が帰った後の事を考え始めるアイリーン。
 そんなどこかに意識が飛んでいる様子をいち早く察したヒューは、(誰の為にこんな面倒くさくて金のかかることしてると思ってんだこのドブ女め!!)とイライラしていた。



 「っんん!!・・・お嬢様、彼等が今度出店しますモンブ国の従業員です。モンブ国は王国に比べて国土も小さく貴族数も少ない為、高級レストランではありますが商人レベルも通える店に設定してます。その為従業員の質も王国程高くはありませんが・・・そこはご了承ください。」

 ──────などと尤もらしく言い訳をしているが、実際は身分の良い者達が求人を出しても集まらなかったからだが。
 なんでも周辺国等で条件の良い求人が出されていたらしく、教養も身分もある程度しっかりしている者達はこぞってそちらに流れていたとのこと。
 まったくタイミングが最悪だったが、俺の店の料理があればたかが給仕係、問題ないだろう。
 店の利益管理は流石にこんな奴等には任せられないので、こちらで人材を捻出するが・・・。


 「今回、こちらのお嬢様”たっての希望で”お前達の今後の働きに労いの言葉をかけたいと、ここまで来てもらった。・・・お嬢様、よろしければ彼等に一言もらえますと幸いです。」

 少々厭味ったらしく言葉をかけるヒューだが、そんなこと気づきもしないアイリーン。
 どこかへ飛んでいた意識を戻し、”そこまで言うなら挨拶でもしてやるか”といった雰囲気で立ち上がる。
 その様子に、ヒューのこめかみがピクピク動いたが誰も気づかなかった。



 「わざわざアイリに会いに来てくれてありがとう、アイリが”美食の女神”と言われてるアイリーン・タンジよ。公爵令嬢だけど、貴方達が敬語で話さなかったからといって処刑したりしないから大丈夫よ。優しいでしょ?ふふふっ♪貴方達が食べたことないような、美味しい料理を広めていく手伝いができること、光栄に思ってね?」

 ババーーーーン!っという効果音が見えそうな堂々とした様子で挨拶するアイリーン。
 その余りの・・・”色んな意味での”インパクトで驚いた男達は、ポカーンと口を開けたまま固まった。

 そんな男達の様子に(あぁ、美しすぎることも罪ね。コイツ等、私が言った言葉聞こえてないくらい見とれてるわ。)と能天気に思っていた。
 これだけ素直に見惚れてくれたら、いくら汚くて臭い奴等でも可愛く見えてくる。

 アイリーンはそれまでそこら辺の石ころの様に認識していた男達を、まじまじと見つめ始めた。
 すると、一人の青年に目が留まる。
 砂埃や日に焼けた肌に目がいって気づかなかったが、綺麗にしたら中々精鍛な顔立ちをしているのでは・・・?



 「ちょっとヒュー!!この人達をすぐに浴場へ案内しなさい!こんなきったなくて臭いままだなんて、嫌に決まってるわよ!綺麗になってからまたアイリのところに来なさい、いいわね!・・・さぁ、さっさと行ってちょうだい。」

 どうせ綺麗にしないと分からないんだ、ちょうどコイツ等の汚さに我慢出来なかったから一石二鳥だ。


 そうしてヒューは頭の血管が数本切れる勢いで頭に血が上りつつ、男達を浴場へ案内した。




 ◇



 「あらあらあらあら!!やーーーーっぱりそうっ!貴方ガリガリだけど、すっごくカッコイイじゃない♪ねぇ、貴方お名前何て言うの?年は?家系は?」

 男達は訳も分からず浴場へ案内され、見たこともない高級品を使って身を清めた。
 サッパリした男達が部屋に戻ると、アイリーンは男達の中でも一際ガリガリの青少年へと一目散に近づき質問攻めした。

 その少年は茶髪にグレーっぽい色の眼をして、整った顔立ちをしていた。
 無遠慮に近づかれた少年は、一瞬眉間に皺を寄せたがすぐに真顔に戻り、渋々返事をする。

 「・・・タクト、です。年は今年13で、見ての通りモンブ国の庶民です。」

 「タクトって言うのね♪へ~、同い年位だと思ったけど3歳年上なのね。んー、庶民って言うのがちょっとネックだけど、それを言ったらヒューだってそうだものね。・・・うん、問題ないわ!タクト、貴方そんなクソ田舎なんか捨てて王国に来なさい!アイリの専属執事にしてあげる♪」


 まさかの言葉にタクトは勿論、他の男達もギョッとした。
 ただ一人ヒューだけが(また訳の分からないことを・・・)とため息を吐いている。
 ただ上司の命令で強硬スケジュールの中連れてこられ、ましてやこんな詐欺の様な事を言われ・・・さぞ困っていることだろう。
 先程から自分に助けを求める視線を送るタクトを見つめ、渋々ヒューは仲介に入った。


 「お嬢様、彼等はあくまでも”モンブ国の”従業員です。雇入れの際も、モンブ国での勤務ということで説明してあるのです。その様なざれ・・・失礼。世迷言を言われても、困ってしまうだけですよ。」

 「はぁ、ヒュー。やっぱり、貴方は反対すると思ってたわ。・・・でも、残念ながらアイリは本気なの。タクトをここで一人前の執事として教育するわ。大丈夫、タクトが一人前になるまではヒューがアイリの専属従者であることは変わりないわよ?安心して、すぐにアイリから離れるわけじゃないんだから。そう、これを機にヒューも色々と勉強してくれたら、今後も一緒にいられるからね?頑張りましょう?」


 ヒューは仲介したことに激しく後悔した。
 このドブ女は何を言っている?理解したくないが、この俺様を下に見て・・・ましてや捨てようとしている?
 逆だろ!!!!!俺様が!!!!お前を!!!!!捻り潰して捨ててやるんだよ!!!!!!!

 わなわなと怒りで震えるヒューの姿を、男達は正しく理解しているが・・・アイリは全く違うように解釈しているのだろう、哀れんだ目で見つめている。


 何となく力になりそうにないな、と感じたタクトはハッキリと自分の口から拒否する。

 「すいませんが、それは無理です。俺は自分の国から出ることはしません。故郷に大切な姉貴がいるんで。姉貴は体が弱いから、俺が稼いで飯食わせないと。今回も、ココまで来るなんて聞いてなかったし・・・研修の為に、今回だけだと聞いたから来たんです。今後俺がこの国に来ることは無いです。」

 身なりの割にはしっかりとした言葉遣いをしており、これには怒りに震えるヒューも驚いた。
 外ればかりの人材だと嘆いていたが、案外悪くない者達が集まったのかもしれない。


 「なに?姉の癖に弟に働かせてるの?可哀想に、いい様に使われてるのねタクトは。大丈夫よ、その人でなしも一緒に王国に連れてくればいいわ?本当は嫌だけど、その女もこの屋敷でメイドとして雇ってやるわよ。そしたらタクトも安心して王国に来れるでしょ?」

 「いや、だから・・・」

 「まずはその日焼けした肌をどうにかしないとね!!屋敷に来たら肌の出る服は暫く着ちゃダメよ?あともうちょっと筋肉付けて~あ!服はアイリと一緒に買いに行きましょうね!それからそれから~」



 全く話が通じていない様子に、タクトは茫然とする。
 もしかしてこの国の言葉はモンブ国と違う意味合いを持ってるのか?共通言語だと思っていた、今まで使っていた言葉はこの国では伝わらないのだろうか?

 男達もざわざわしだしたが、アイリーンの妄想は止まらず未だに戻ってこない。

 ヒューは”こうなったら長い”ことをよく理解しているので、はぁと何度目か分からないため息を吐いた後タクトに助言をする。


 ぼそっ
 「大丈夫だ、”一旦国に戻って検討する”とでも言っておけ。後はこっちで何とか話を合わせる。───これ以上長引いて、帰るのが遅くなっても嫌だろう?」


 ヒューの言葉に渋々頷き、アイリーンの意識が戻ってきたところで言われた通りに答えた。




 若干求人に応募したことを後悔しつつ、タクト達とアイリーンの初対面は終了した。






 
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