上 下
48 / 98
第2章 -少女期 復讐の決意-

69.エマの一族

しおりを挟む
 リリーナは王宮で夜を明かした後、ガンディールの仕事が終わりすぐさまバジル領へと帰還した。
 ポートマン姉弟や王子様達は「しょうがない、また今後元気になったら遊ぼう。」と寂しそうに見送った。
 エディやナーデルだけでも王都に残るかとガンディールは尋ねたが、「リリー(姉さま)と一緒じゃないと嫌だ」と言って一緒に帰路についた。


 バジル家に戻って1日安静にすると、リリーナの熱も下がり・・・まだ本調子では無いが意識はハッキリしてきた。

 (良かった~!!リリー、やっと意識がハッキリしたわね!・・・さぁ!日課の神様への祈りをしましょ!何日もしてないんだもの、きっと神様も待ってるわよ~!!ねっ!)
 お・・・おぅ、そんなに神様も待ってないと思うけど・・・分かったわ。

 リベアに急かされながらも、”奴”に会いましたよーなんで一緒の国なんですかーと文句も加えながら、一日のお祈りをした。

 お祈りも終え、着替えを自分でしようとベッドから下りると ズキッ! とした痛みが右足に走った。
 ・・・奴のせいでくじいたのを忘れていた。捻挫していそうだな・・・とため息を吐いた。
 バジル家でお留守番していたシルバも、リリーナの痛そうな表情を見て クゥーーン と心配そうに鳴いている。
 そんなシルバを撫でながら、支度をする為にカヨを呼んだ。


 着替えと朝ごはんを部屋で済ませると、ガンディールが神妙な面持ちで入室してきた。

 「リリー、大分良くなったみたいで良かった。・・・戻ってすぐで悪いが、リリーは今から父様と母様と一緒に”コアスの森”へ行ってもらう。・・・母様の実家の先住民達に、会いに行くんだ。お前のお祖父様に、その体質のことを聞きに行こう。」

 「えっ・・・?お祖父様達って一定期間すると別の場所に移動するんでしょ?・・・会えるの??嬉しい!!」

 無理した様子もなく、それどころか嬉しそうにしているリリーナをみてガンディールはホッとした。


 程なくして、屋敷の門付近にはコアスの森へ向かう遠征部隊が揃っていた。
 その中には出身者であるエマ、シルバ、そして数人の獣人も、勿論シャルもハヤトもいる。
 今回は子ども達とキース達は留守番だ。またもや留守番のキースと、エディとナーデルは特に不服そうにガンディールを見つめていた。

 「すまないが、屋敷を頼んだぞ。・・・万が一のことがあった時は、子ども達とバジル領を頼む。」
 ガンディールは”バジル家の守護神”であるキースに託すように念を押した。

 「・・・旦那様、まだまだ死ぬに早いですよ。それに、こんなに大きくなったバジル家・・・私の細腕じゃ抱えきれません。滅多なことは言わず、さっさと和解してさっさと帰ってきてください。その間であれば、私の両腕で賄えますから。」


 キースの心強い言葉を聞き互いに頷き、ガンディール達は出発した。





 ◇




 馬車の窓から見るコアスの森は、見たこともない自然と鳥・・・?がいっぱいでいつまで経っても飽きない光景が広がっていた。
 獣の様な小動物の様な鳥の様な・・・不思議な鳴き声が聞こえたりして目も耳も忙しかった。

 うわ~!!アレみて!!口がある木があるよ!あ、あっちには猿の背中に花が咲いてる!
 凄い凄い!めちゃくちゃ異世界って感じする~!!
 (うげぇ、あの木の樹液私大っ嫌いなのよね~、獣臭くって!あ、あの小鳥は毛虫をいっぱい食べてくれるから後で捕まえましょ!!これでリリーの草イジリの時に絶叫しなくて良くなるわ!絶対よ!?)


 キラキラした目でずーっと窓に引っ付いて、隣にいるシルバと一緒に見つめるリリーナを、エマは苦笑しつつも好きにさせていた。
 初めて来るコアスの森は、それは魅力あふれた景色に見えるだろう。
 エマは初めてコアスの森に馬車で入ったので、多少緊張していたがリリーナの様子を見て癒された。


 リリーナの体調やケガを考慮して一台だけ馬車を引いて、実の父が長である先住民達の今の滞在地へ向っている。
 先住民の長の娘・・・姫である私が、勝手に現在のバジル領を占領した王国の男と結ばれるなど許さなかった父達に会えることが嬉しくもあり・・・穏便に再会できるはずがないと緊張もしていた。

 勿論今でも父達のことは大好きだ。
 自分の我儘で出ていったとは言え、今でも自然と共に生きていた昔の生活が恋しくなることもある。
 しかし・・・そんな大好きな場所を捨ててでも、ガンディールと一緒に生きたいと願ってしまったのだ。
 あの時決意したことに、後悔などしたことがない。

 今では3人も愛しいあの人との子どもが出来て・・・この上なく幸せだ。
 しかし・・・リリーナの病弱体質がその幸せな日常に陰りを見せる。
 自分が幼い頃に亡くなったお婆や父から聞いていた、我が一族の”祝福されし者”の体質を受け継いでしまった可愛い娘に、母として何もしてあげられず情けなくなった。

 我が一族では、稀に体の弱い子どもが生まれるという。
 私の代ではいなかったが、父の友人がその体質で生まれたと聞いた。
 なぜその様な体質を”祝福されし者”などと言い伝えられているのか、私は何も知らない・・・。
 あの頃の私は、獣や行った事のない未知の場所への関心しかなく、どれだけ自分勝手に生きていたか・・・今になって悔やまれる。

 だが、過去の事を嘆いても始まらない。
 今からでも、父に一族のことについて教えてもらおう。
 頑固ではあるが、決して見捨てる様な人じゃないことを知っている。
 ・・・初めは怒られるかもしれないが、ちゃんと向き合って力を貸してもらおう。


 エマは改めて気を引き締め、自分を鼓舞した。




 ──────それから暫く進んだが、リリーナ達が馬車の振動で眠くなってきた頃にピタッと止まった。

 従者達が馬車の周りを囲んで警戒している様子が分かった。
 エマはリリーナをすぐに窓側から避難させ、ギュウッと抱きしめた。
 シルバもそんな二人を守るように臨戦態勢を取っていた。


 何か害獣でも出たのか?と思ったが、聞こえてきた会話で目的地に着いたことが分かった。


 「・・・お久しぶりです、お義父様。まさか貴方自ら出迎えてくれるとは思いませんでしたよ。わざわざ入り口まで来て下さりありがとうございます。」

 「ふんっ、貴様の為である訳なかろうて。・・・獣達が次々に駆けていくから、とんでもない害獣でも現れたのかと思って出てきただけだわい。まさか貴様の様な”害虫”だったとは・・・。」


 実の父の声が聞こえたエマは、その懐かしさに涙が込み上げてきた。
 が、グッとこらえてシルバにリリーナを託し、馬車から下りて二人に駆け寄った。

 「お父様!!!・・・久しぶりです。お元気そうで、本当に良かった。・・・ずっと、会いたかったですっ!」
 エマはガンディールの隣まで来ると、父の顔をじっと見つめて話しかけた。
 先程我慢した涙が耐えきれずにポロっと頬を流れている。

 そんな十数年ぶりに会う実の娘の様子に、ギュッと眉間に皺を寄せそっぽを向いた。

 「・・・なんだ、お前もいたのか。今更なんだ、まさかそこの害虫と離縁でもしたのか?やっぱりワシ等と暮らしたいと、戻ってきたいとでも??」

 「いえ、それは違います。今でもガンディールとは仲良く暮らしていますよ。・・・皆が恋しくなる時は時々ありますけどね。」

 「・・・ふん!!!だったら何で今更帰ってきた!!さっさと侵略者共の家に帰れ!お前の居場所はもうここにはない!!・・・貴様等も、何をしているか分からんが、この森を刺激するな。何もせずにさっさと帰るんだな!────おい、お前達。さっさと戻るぞ。・・・ここにいては虫が湧く、すぐに拠点を移すぞ。」

 「ま、待ってお父様!!お願い、話を聞いて!お父様に聞きたいことがあるの!」
 「お義父様、俺からもお願いです。・・・俺達には今3人子どもがいるんですが、娘が幼いころから病弱で・・・薬も効かない体質なんです。エマが言うにはこの一族の血筋に関係があると・・・。お願いです、あの子を助けるためにも、お話をさせてはくれませんか?」

 控えていた一族の男衆とゾロゾロと背を向け動き始めた父に懇願すると、一瞬ピクっと動きを止めたが・・・何事も無かったかのようにまた動き出した。

 「お父様!!!お願いですっ!!話を聞いてください!あの子を・・・孫娘を助けて、お願い!優しくて素直ないい子なの、私あの子の母親なのにっ救ってあげられない!お父様、お願いっ・・・!リリーを、助けて!!」

 エマがとうとう号泣しながら父親に縋りついた。
 ・・・出ていったとはいえ、一族の姫であったエマの悲痛な叫びに、周りの男衆はオロオロとしていた。

 それでも動かない父を見て、ガンディールは土下座する。

 「お願いです、お義父様。この通りです。・・・自分がエマを愛してしまったせいで、貴方から奪う形でエマを嫁がせてしまったのは俺の責任です。あの子に・・・リリーには何の責任も過失もありません。俺が出来ることがあれば何でもやります、お願いです・・・リリーを、俺達の娘に力を貸してください。」

 ガンディールの姿を見て、エマも習って土下座する。


 2人のその姿を見つめながら、それでも父は動かない。



 皆が固唾をのんで見守っていると、キィッと馬車の扉が開いた。

 そこからシルバが降りてきて、ドアの中を心配そうに見つめる。

 
 先住民達は、まさか”銀狼(ジェンルーパ)”が出てくると思っておらず、一気にザワついた。
 「おいおい、なんで”銀狼(ジェンルーパ)”がここに!」「もしかして戦いに来たのか?」
 「獣達はアレの気配で逃げていたのか!」「お、おい・・・アイツ等全然怖気づいてないぞ?」

 ザワついている者達を後目に、シャルがドアの奥にいるリリーナを抱えながら馬車から出す。

 「お嬢様、どうなさったのですか?」
 「うん、自分の事だから、お父様やお母様だけにお願いさせてるのが申し訳なくて・・・。私もお爺様にお願いしなきゃと思ったから出てきたの!シャル、私をお爺様のところまで連れてって!」


 リリーナの言う通りに、シャルはリリーナを抱えながら長の下へ近づいていく。
 シルバもリリーナ達に続くように近づいてくるので、男衆たちは警戒を強めた。


 近づいてくるにつれ、段々とリリーナの姿が明らかになる。

 森の木々の間から差し込む光に当たり、どこか神々しささえ感じるリリーナの姿に・・・警戒を強めていた者達は、大きく口を開けて唖然としてしまっていた。

 長はというと・・・流石に口は開いていなかったが、両目を見開きただただリリーナを凝視している。



 シャルがガンディールのところまで来ると、ガンディールがリリーナを受け取りエマと長のところまで近づく。
 2人が着いたところでエマは立ち上がり、ガンディールとリリーナにキスを送った。


 「初めまして、お祖父様。私リリーナ・バジル、10歳です。お会いできて嬉しいです!よろしくお願いします!」


 リリーナは長・・・お祖父様に向けて、ニッコリと笑顔で挨拶をした。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです

雨野六月(まるめろ)
恋愛
「彼女はアンジェラ、私にとっては妹のようなものなんだ。妻となる君もどうか彼女と仲良くしてほしい」 セシリアが嫁いだ先には夫ラルフの「大切な幼馴染」アンジェラが同居していた。アンジェラは義母の友人の娘であり、身寄りがないため幼いころから侯爵邸に同居しているのだという。 ラルフは何かにつけてセシリアよりもアンジェラを優先し、少しでも不満を漏らすと我が儘な女だと責め立てる。 ついに我慢の限界をおぼえたセシリアは、ある行動に出る。 (※4月に投稿した同タイトル作品の長編版になります。序盤の展開は短編版とあまり変わりませんが、途中からの展開が大きく異なります)

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど

富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。 「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。 魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。 ――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?! ――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの? 私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。 今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。 重複投稿ですが、改稿してます

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。