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第2章 -少女期 復讐の決意-
62.プレデビュタントの準備中
しおりを挟むSide バジル家
「あっ!!あはははっ!!!クリス王子っ!!面白い人なんだね!!ルーカスの自慢話を聞いて、てっきり”ほんわか”した性格なんだと思ってたけど・・・そんなに面白い子だったなんてっ!!」
ランチ会からプレデビュタントの準備の為にバジル家も滞在しているポートマン家の屋敷で、着替えているリリーナに変わりシャルから報告を受けたエディは腹を抱えて爆笑していた。
その様子を一体何が面白いんだ?という様に首を傾げているシルバに、ナーデルはじゃれついて弟二人で遊んでいる。
因みにバジル一家総出で王都に来ており、バジル領の屋敷はキースと獣人(+兵士)達に任せている。
キースはリリーナの晴れ舞台に同行出来ないことを残念がっていたが、主力の多くを領から離れさせるわけもいかず、渋々承知してくれた。
因みに女性陣は一様に身支度で席を外しており、グレンは余りにも笑い続けるエディをみてオロオロとしている。
そして「はぁ、」と深くため息を吐くガンディールと、エディと同じく声にならない様な状態で爆笑しているショーンがその場にいた。
「・・・ステイン伯爵家の子の話はマシュー先輩から聞いていましたが、正直オーバーに言ってるんだと思ってました。彼女は本当に貴族令嬢ですか?いや・・・平民も含め、その様な奇天烈な性格の者に会ったことがないな。そう考えると、気に食わなかった連中も少しは教養があったようだ。きちんと理解できる言葉は操っていたからな。────にしても、クリス王子がその様な豪胆なお方とは・・・。先輩、知ってたなら言っておいてくださいよ。リリーナがビックリしてしまったでしょう。」
「・・・っ!!わ、悪いっ・・・!いや、クリス王子は正妃様ににて竹を割ったような潔い性格をされていてな。裏表がなく、思った事はすぐに口に出してしまうんだ!だからっ・・・今回もっ、”グモヌンの糞”などと・・・っぶはっ・・・!!!」
ショーンは余程ツボに入ったのか、中々正常に言葉を紡ぐことが出来ないらしい。
その様子を呆れた顔でガンディールは見つめる。そんな父を見て、フォローするようにグレンが話し始めた。
「あ、あの!クリス王子は悪気があって言ったのではないのです!!その・・・僕とルーカス王子と一緒に狩猟へ出かけた時に、偶々グモヌンの糞を見たことがあって!初めて見る奇妙な色で、すごく記憶に残ってたんです!それで思わず言っちゃったんだと・・・。それに、王子は普段は温厚なんです!ルーカス王子が癇に障る人をそもそも近づけないからかもしれませんが・・・。と、とにかく!普段接している仲の良い人間でない、人の悪口や自分の自慢ばかり話す人間に拒絶反応が出てしまったのだと思います!えと、それで・・・あの・・・」
何やら話している途中で自分でもフォロー出来ているか分からなくなった様子のグレンは、途中からモゴモゴと口を止めてしまう。
そんな自分の友人を精一杯庇おうとするグレンに、ガンディールは安心させるように微笑んだ。
「何、少し驚いただけで別に怒っても失望してもいないよ。・・・ただ、その様な性格のクリス王子と交流するのは、リリーナに少し刺激が強いかもしれないなと思っただけさ。俺個人としては、そんな面白い性格の王子様は大歓迎だよ。」
ガンディールの言葉にグレンはホッとした。
そんなグレンに、笑いが収まってきたエディはお願いした。
「グレン、クリス王子のこと紹介してよ!!俺、ぜひともお友達になりたいからさ!!!」
キラキラ笑顔のエディとは裏腹に、ガンディールは自分に似てやんちゃ坊主な息子が、王子を巻き込んで何かやらかさないか内心冷や汗を流した。
Side 天敵
パリーーーーンッガタガタッガシャン!
「お嬢様、おやめください!」「準備が間に合いませんよ!」「誰かヒューを呼んで来い!」
プレデビュタントの支度の為にステイン伯爵家に戻ったアイリーンは、それはそれは荒れていた。
部屋で目についたあらゆる物に当たり散らし、花瓶は割れるは雑貨は転がるわで部屋中が散乱していた。
支度の為に近づこうとするメイドにも容赦なく攻撃するので、アイリーンの準備は滞っていた。
そんなアイリーンが大人しく言うことを聞く(?)カイトは、早々に公爵家へと報告に戻っていた。
元々公爵家の人間が監視できない婚約者候補の会のみ、カイトが付く予定だったのだ。
プレデビュタントへは伯爵家のしっかりした身元の従者が専属で付く手筈となっている。
しかし、その従者も日ごろアイリーンと接点がなく、荒れた様子のアイリーンをどう対処すべきか分からなかった。
その為、いつも世話を焼いているヒューをすぐさま呼びつけることになったのだ。
「・・・アイリーン様、どうなさいました?あれ程楽しみにしていた社交場ですよ?すぐに準備をしないと、間に合わないのでは?」
使用人に呼び出され、渋々嫌々現れたヒューはアイリーンを説得する。
子ども達が主役のプレデビュタントは、通常のパーティーよりも早めの時間からスタートし、終わるのも早めなのだ。
まぁ、子どもだからそれ程準備時間が無くても大丈夫だろうとランチ会を開いたと思われるが・・・アイリーンはどこぞの舞台女優かという程に着飾る予定らしく、今から準備しないと開始時刻に間に合わないだろう。
ヒューの言葉にキッと睨みつけ、先程まで暴れていたからだろう、荒い息を出しながらアイリーンは怒鳴った。
「うるさいわね!!!!待ち望んでいた王子様がっあんなクソガキだったなんて!!!!どうしてくれんのよ?!私の美しさも分からない、害獣の糞何て汚い言葉を平気で乙女に吐くケダモノ王子なんて、お呼びじゃないのよ!!!」
ご自慢の髪を掻きむしりながら言うアイリーンに、大体の事を察したヒューは笑いをこらえる。
(まさか・・・!王子に害獣の糞の様なヤツだとでも言われたのか???それはっ・・・!傑作だな!!王子の目は確かだなっ是非ともその場にいたかった・・・!)
「あんなクソガキの為に今まで頑張ってきたなんて・・・!意味わかんないっこれまでの苦労が台無しよ!!・・・ここは私が主役の世界なのに、どうして私が望んだ王子様が存在しないのよ?!ありえないっ・・・!ここは本当は夢の中だったりするの??あの聖子が死んだのも嘘??・・・冗談じゃないっ夢が覚めたらまたあの女の要る世界に・・・女に媚び売ってる奴が得する世界に戻らなきゃいけないわけ・・・??」
またいつものブツブツと自分の世界に入るアイリーンを後目に、支度担当のメイドが「さっさと着替えさせないとこっちが困ります。何とかなさい。」とヒューに凄んだ。
(やれやれ、いつも俺に押し付けてるからこうなるんだ・・・)
ヒューはいつもアレの処理を自分に押し付けてきた使用人達を鼻で笑いつつ、面倒事はさっさと終わらせようと口を開いた。
「・・・アイリーン様、クリス王子に何を言われたのか知りませんが、お忘れですか?───王子はもうお一人いらっしゃるんですよ?」
ヒューの言葉に苛立っていたアイリーンの動きがピタッと止まる。
「ルーカス王子という側妃のお子ではございますが、2歳年上のそれはもう凛々しい王子がいらっしゃいます。少々王族としての自覚が強く、冷酷さが伺えますがクリス王子よりも遥かに落ち着いた性格でいらっしゃることでしょう。」
続くヒューの言葉に、アイリーンはどんどんキラキラした表情になっていく。
実際はルーカスの方が気に食わない者に対して当たりが強いが、言い回しを変えれば多少引っかかりを覚える言葉でもフォロー出来る。
「プレデビュタントにはルーカス王子は勿論、アイリーン様よりも年上の貴族子息達も参加されます。”お友達”を作る為にも、準備に取り掛かった方がよろしいのではないかと存じます。」
「アンタ達何をボサっとしてるの!!!さっさと支度を手伝いなさいよ!!!アイリの美しさを100%引き出すのよ!!あのムカつく田舎娘なんか目もくれないような、人々の視線を独り占めする仕上がりにしなさい!!」
ヒューのダメ押しの言葉に、アイリーンは即座に準備に動き出す。
今はまだ見ぬ”大人っぽい”ルーカス王子と年上の美少年達を夢見て上機嫌だ。
(そうよ!!あんなガキ大将みたいな王子がアイリの運命の人なんて有り得ないじゃない!!側妃の子だから王宮で虐げられているルーカス王子が私の運命の人なのね!!あぁ、待っててルーカス王子!私があなたの冷え切った心を溶かして、愛情で包み込んであげる!!)
鼻歌も歌い出し、さっきの癇癪は何だったのかと言いたいほど態度が変わったアイリーンに、不機嫌さを隠しもしないメイド達が準備をしていく。
自分の仕事は終わったとばかりに、ヒューも早々に部屋から出ていった。
ヒューに王子や他の者も”マヨネーズ”の存在を知らなかったことを問いつめようとしていたアイリーンは、すっかり忘れて王子と美少年達との妄想に浸っていた。
──────こうして乙女達の準備が進みつつ、プレデビュタント開始時間まであっという間に時が過ぎていった。
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