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第2章 -少女期 復讐の決意-
61.婚約者候補のランチ会
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Side シャル
お嬢様のどこかガンディール様を彷彿させる、凛とした勇猛な姿に・・・私を含めセシル様も周囲の人々も魅入っていたが、クリス王子の鶴の一声で場が収束した。
初めて拝見するがクリス王子はまるで神話に出てくる神様の様な色彩をお持ちだ。・・・数年前に屋敷でお見掛けしたルーカス王子の方がより神秘的だったが。
しかしなぜお嬢様だけ抑えられたのだろうか・・・やはり王子様と言えど、公爵家という上位貴族に対して配慮しないととお考えなのだろうか。
元はと言えばあの奇天烈な髪の女が原因なのに・・・自分のせいでリリーナの名誉に傷がついたようで、本当に情けなくなった。
あの時普段温厚で穏やかなお嬢様が・・・初めて怒りをむき出しにする姿に、驚きと同時に不謹慎にも嬉しく思ってしまった。
自分の頑張りを、ずっと見てくださっていた。種族も関係なく、その頑張りを評価してくれた・・・。
しかも自分の敬愛する主であるリリーナ様が、私の今までの努力の為にあの様に激高していただけた事実に涙が出るかと思う程感激してしまった。
あんなに小さかった、己をバジル家という光へ導いてくれたリリーナ様の成長と、その優しすぎるお心を前に・・・リリーナ様を守る身でありながら逆に守られてしまった俺はただ感動に震え突っ立ってしまった。
いかんいかん、今日はバジル家じゃないんだ。
ガンディール様にもエマ様にも・・・それに屋敷の先輩達にも重々託されたじゃないか。
しっかりしろシャル。喜びをかみしめるのは今日が終わってからにしろ!!
こうしてシャルは一人反省し、更に身を引き締め王子の案内先へと向って行った。
---- Sideシャル END ----
「リリー、大丈夫?・・・リリーがあんなに怒りを露わにした姿、初めて見たわ。・・・リリーは思ってたよりも強い女の子なのね!私感心しちゃった!・・・私よく感情のままに動いてお母様に怒られるけれど、さっきのリリーの行動は称賛はすれど咎められるなんて有り得ないからね!────多分王子様も、話しが通じそうなリリーに話しかけただけだと思うわ。落ち込まないで大丈夫よ!」
道中、セシルがリリーに小さな声でフォローを入れてくれた。
妹分の思わぬ気の強さを見たセシルは、初めは心配していたものの堂々とした姿のリリーを見て目をキラキラさせながら応援していた。
しかし王子の仲介が入り、原因はあのピンク頭のせいであるのにリリーにしか声をかけられなかったことに、箱入り娘で育ったリリーが気にしているかもしれないと気遣いをみせた。
リリーはその優しさが嬉しくて、「うん、気にしてないわ。ありがとうセシルお姉様!」と小声で返した。
王子に案内されて、令嬢とその使用人達はランチのセッティングがされた部屋に入り、それぞれの名前が書かれた席についた。
王子は令嬢達が見渡せる上座に座り、その左右向かい合った状態でセシルとアイリーンの公爵令嬢がいる。
リリーナの席はセシルの隣で嬉しかったが・・・奴の顔が視界に入ってくるので複雑だった。
────道中もそうだが、アイリーンは王子に視線を向け何とか会話をしようと試みるも不発に終わっていた。
大きな声を出すのかという程口を開けるとカイトに遮られ、王子に近づこうとすれば別の令嬢や使用人と話し始め・・・。
本人は(まぁ時間はたっぷりあるし、虐められてたアイリを見てるし、後でフォローしてもらえるわよね!ふふふっあの茶髪地味女は終りねっいい気味!)とあまり気にしていなかったが。
「さぁ!お待たせして済まない。改めて、僕はクリス・ハーブリバ。この国の王太子だ。・・・今日は僕と同じ年代のご令嬢方と交流できるのを楽しみにしていた。プレデビュタントもある、今日は皆と話をして交友を深めていければと思っている。────今日のランチは王宮の料理長直々に作ってもらった!遠慮なく食べてくれ!・・・では、乾杯!」
水の入ったグラスを軽く上げ、ランチ会が始まった。
まずサーブされたのはナッツの入ったサラダだ。・・・なるほど、この国のシンボルでもある植物が豊富に使われており、とっても色鮮やかで目に楽しい。
マヨンは使われていないようだが、花油を使ったオリジナルのドレッシングの様なものがかかっていて・・・流石王宮料理長だと感心する。
普段はお兄様やナーデルを中心に男衆からの熱烈な支持のあるマヨンが使われることが多いが、やっぱり女子だもの、ドレッシングでサラダを食べたくもなる。素直に嬉しい。
リリーは早速食べてみると、ナッツのカリカリした触感にビヌガーも入っているのだろう、酸味の効いたしかし食べやすいドレッシングの味で美味しかった。
・・・まぁザインの料理の方が好きだけど、これはこれで有だ。
今度ザインとドレッシングの研究でもするか~とリリーが思案している時だった。
「くすくすっ、王子様はこの料理でご満足されていらっしゃるんですか?」
不愉快な声が左斜め前の・・・ピンク髪から聞こえてきた。
「見たところ野菜を切って盛り付けただけじゃないですか!────それに、食の革命とさえ言われた”マヨネーズ”が無いじゃない!・・・あ!王子様は女子の為に遠慮なさったのかしら?そうよね、皆さんもマヨネーズの虜になって毎日摂取してるわよね・・・でも大丈夫ですわ!マヨネーズで太ってしまうのは、その女の管理不足のせい!・・・だから遠慮せず、料理に使っていただいて大丈夫ですわ!・・・なんなら私、腕の良い料理人の知り合いが多くいますのっ!その者が作る絶品料理を、ぜひ王子様にも食べていただきたいわ!こんなこの国のまず・・・失礼、昔の料理食べさせられているんですもの、きっと気に入りますわ!」
どこか上目遣いで、媚を売るように王子に放たれた言葉は、とても公爵令嬢が発したモノとは思えない程配慮に欠ける言葉だった。
しかし本人はそのことに全く気づいていないのだろう、キラキラとした瞳で王子の返事を待っている。
───そんな王子は思いっきり眉間に皺を寄せ、アイリーンを冷めた目で見ていた。
そりゃあそうだろうなぁ・・・。私もザインの料理がそんなこと言われたらマジ切れするわ。
(奴ってあんなにバカな女だったのね。あれでよく前世で生き残れたわね、周りが放置してたの?)
う~ん、多分だけど奴は今世の方がバカというか・・・周囲の反応が分かってないように思う。
もしかして、今世をどこか”ゲームの世界”とか思ってるんじゃないのかな?容姿も世界も自分で決めたと思い込んでるし。自分が願えば全て叶うって本気で思ってそう・・・。
(わぁ・・・そりゃ自覚ない分質が悪いわね。言わば言葉が通じないのと一緒ってことでしょ??)
などとリベアと内心で会話しつつ、サラダをモグモグ食べていると・・・周りは一旦食べるのを止めていたようで、私に視線が集中していた。・・・やっば、何?流れが分かんないんだけど。
「ッハ!田舎者にはこんな料理も美味しく感じたようね。貴女は知らないんでしょうね、マヨネーズという奇跡の調味料も、ショユーやミソンを使った料理も!・・・何だか哀れに思ってきたわ。貴女にも、私の”美食の姫”の料理を・・・あら!ごめんなさい、”私の知り合いの”美食の姫の料理人の料理を振舞って」「ゴホンッ!!」
戯言をつらつらと続けるアイリーンに、流石に堪忍袋の緒が切れたカイトが咳をして止める。
・・・本来は貴族同士の会話を咳で止めるなど、あってはならないことだったが思わず行動してしまった。
・・・なんだか奴程のバカに仕えなくてはならん彼が不憫に思える。
哀れに思ったリリーは、奴の相手を買って出た。
「・・・えぇ、私このサラダとても美味しく感じました。殿下、こちらナッツの触感が楽しく、ビヌガーの酸味も丁度よくて・・・サラダがより美味しくなります!流石王宮料理長様です。私こんなサラダ初めていただきましたわ!───それからアイリーン様、私実はその”マヨネーズ”とやらは確かに知らないんですが、”マヨン”という調味料なら知ってますわ!濃厚で味わい深いもので・・・何の食材にも合う素晴らしい調味料ですわ。──────あと、私はそのお知り合いの料理人の料理は結構でございます。・・・折角王宮の料理長様がお作りになられたものを味わえるんですもの。大変貴重で、こんなに心躍るお食事はありませんわ。」
リリーの心からの賛辞に、王子はパァッと顔を明るくさせ笑顔になった。
「ありがとう!!リリーナ嬢とお呼びしてもいいかな?・・・実は僕がサラダを好きじゃないと知った料理長が、僕でも食べれるようにとこのサラダを考案してくれたんだ!僕もマヨンは一等好きだが、サラダはこの味の方が好きでね・・・。嬉しいよ、”あの”バジル領出身の君にそう褒めてもらえて!・・・ね、良かったね料理長!」
クリス王子が後ろに控えていたコック姿の男性に声をかける。
・・・恐らく料理長だろうその男性は、リリーナにニコリと笑いかけ会釈してくれた。
料理長いたんかーーーーい!!
そりゃあんなボロクソ言われて立場無かったろうなぁ。
リリーナも微笑み「まぁ、料理長、美味しい料理をありがとうございます。・・・ご本人にお礼を直接言えて良かったですわ。」と返した。
「私も!サラダにナッツが入っているなんて初めて食しましたが、とっても合いますわね!今度屋敷でも作ってもらいますわ!メイン料理も楽しみですっ美味しい料理をありがとうございます!」
続けてセシルも料理長へお礼の言葉を述べると、他の令嬢も続き・・・先程アイリーンの言っていることにちょっと頷いていた令嬢も、慌ててサラダを食べてお礼を言っていた。
・・・マヨンが大好きなのか、サラダが嫌いなのか・・・それともアイリーンの様な際物か。
判断が付かないが、後者でないことを切に祈った。
するとまさか作った本人がいるとも、王子に同意されないなんて思っていないアイリーンは慌てて
「んなっ、ち、違います!私は王子の為を想って言っただけで・・・!というか、何でマヨネーズ知らないのよ?!グレンが王子はマヨネーズ好きって言ってたじゃないっ何よマヨンって!話が違うじゃないっ・・・!と、とにかく!まぁ、料理長の料理も美味しいですけれど、私の知り合いの料理人の所で勉強すれば今より美味しい物が」
と途中小声になりながら、つらつらと言い訳染みた・・・またしても侮辱する内容を話し始めると、顳顬をピクピクさせ殴って止めようとするカイトを制して、クリス王子は言った。
「んーーーーー、何て言うか・・・・君は”ウザイ”な!!!!」
ドーーーーーンッという効果音が見えるように、堂々とクリス王子が言い放った。
アイリーンも含め、その場にいる令嬢もその使用人もポカーンとしていたが、料理長をはじめ王宮の使用人達は”あちゃ~”といったようなリアクションを取っており・・・王子の素が出た様子だった。
「ルーカス兄様が使っていた”ウザイ”という感情が、今までイマイチ分からなかったが、理解できたぞ!君の様な相手を尊重しない、人の話を聞かない者のことを”ウザイ”というんだな!!僕は家族も王宮で働いている使用人達も皆大好きだ!!そんな大好きな人達を侮辱されることが、こんなに腹が立つということを初めて知ったぞ!!今日は初めてだらけだな!お父様やお母様から、皆をよくもてなすように言われて緊張していたが、何だかその緊張が吹っ飛ぶくらい怒りが湧いてきてしまった!」
怒っていると言っているのに、”初めての感情が嬉しい”といった様子でニコニコ笑っている姿が、純粋なんだろうが少し怖く映ってしまう。
初めて王子様に会ったが・・・こんな性格だったんだなぁ・・・と未だに唖然として思考停止しているアイリーン以外の令嬢とその使用人は考えていると・・・更に爆弾発言が落とされる。
「君の髪色、初めに見た時から思っていたが”グモヌン”という害獣の糞の色にそっくりだな!!いやぁ~、初めてあの糞を見た時は驚いたが、まさか人の髪色でまた相見えるとは思わなかったぞ!!・・・ここまで気を抜いたら笑ってしまいそうで、大変だった!出来るだけ視界に入れないようにしていたが、この席だと絶対に視界に入るからな!!我慢できなかった!!」
・・・因みにグモヌンとは、豚とコアラを掛け合わせたような害獣でドギツいピンク色の糞をする生き物だ。
まさか王子様の口から、しかも貴族令嬢がいる場で、更に食事中にその様な言葉が出るなどと誰が予想しただろうか。
アイリーンは石化し、令嬢達は時が止まった様に・・・思考も止め、使用人達はただただ(これは悪い夢)と思い込もうとしていた。
そんな中カラカラと笑っている王子を見て、シャルは(この王子は大物だぞ~)と感心し、カイトは(ホレ見たことか。国王が奴を招待したから大変なことになってしまったぞ)と国王に責任転嫁していた。
こうして皆が茫然と意識が戻らぬまま、婚約者候補のランチ会は終了したのである。
お嬢様のどこかガンディール様を彷彿させる、凛とした勇猛な姿に・・・私を含めセシル様も周囲の人々も魅入っていたが、クリス王子の鶴の一声で場が収束した。
初めて拝見するがクリス王子はまるで神話に出てくる神様の様な色彩をお持ちだ。・・・数年前に屋敷でお見掛けしたルーカス王子の方がより神秘的だったが。
しかしなぜお嬢様だけ抑えられたのだろうか・・・やはり王子様と言えど、公爵家という上位貴族に対して配慮しないととお考えなのだろうか。
元はと言えばあの奇天烈な髪の女が原因なのに・・・自分のせいでリリーナの名誉に傷がついたようで、本当に情けなくなった。
あの時普段温厚で穏やかなお嬢様が・・・初めて怒りをむき出しにする姿に、驚きと同時に不謹慎にも嬉しく思ってしまった。
自分の頑張りを、ずっと見てくださっていた。種族も関係なく、その頑張りを評価してくれた・・・。
しかも自分の敬愛する主であるリリーナ様が、私の今までの努力の為にあの様に激高していただけた事実に涙が出るかと思う程感激してしまった。
あんなに小さかった、己をバジル家という光へ導いてくれたリリーナ様の成長と、その優しすぎるお心を前に・・・リリーナ様を守る身でありながら逆に守られてしまった俺はただ感動に震え突っ立ってしまった。
いかんいかん、今日はバジル家じゃないんだ。
ガンディール様にもエマ様にも・・・それに屋敷の先輩達にも重々託されたじゃないか。
しっかりしろシャル。喜びをかみしめるのは今日が終わってからにしろ!!
こうしてシャルは一人反省し、更に身を引き締め王子の案内先へと向って行った。
---- Sideシャル END ----
「リリー、大丈夫?・・・リリーがあんなに怒りを露わにした姿、初めて見たわ。・・・リリーは思ってたよりも強い女の子なのね!私感心しちゃった!・・・私よく感情のままに動いてお母様に怒られるけれど、さっきのリリーの行動は称賛はすれど咎められるなんて有り得ないからね!────多分王子様も、話しが通じそうなリリーに話しかけただけだと思うわ。落ち込まないで大丈夫よ!」
道中、セシルがリリーに小さな声でフォローを入れてくれた。
妹分の思わぬ気の強さを見たセシルは、初めは心配していたものの堂々とした姿のリリーを見て目をキラキラさせながら応援していた。
しかし王子の仲介が入り、原因はあのピンク頭のせいであるのにリリーにしか声をかけられなかったことに、箱入り娘で育ったリリーが気にしているかもしれないと気遣いをみせた。
リリーはその優しさが嬉しくて、「うん、気にしてないわ。ありがとうセシルお姉様!」と小声で返した。
王子に案内されて、令嬢とその使用人達はランチのセッティングがされた部屋に入り、それぞれの名前が書かれた席についた。
王子は令嬢達が見渡せる上座に座り、その左右向かい合った状態でセシルとアイリーンの公爵令嬢がいる。
リリーナの席はセシルの隣で嬉しかったが・・・奴の顔が視界に入ってくるので複雑だった。
────道中もそうだが、アイリーンは王子に視線を向け何とか会話をしようと試みるも不発に終わっていた。
大きな声を出すのかという程口を開けるとカイトに遮られ、王子に近づこうとすれば別の令嬢や使用人と話し始め・・・。
本人は(まぁ時間はたっぷりあるし、虐められてたアイリを見てるし、後でフォローしてもらえるわよね!ふふふっあの茶髪地味女は終りねっいい気味!)とあまり気にしていなかったが。
「さぁ!お待たせして済まない。改めて、僕はクリス・ハーブリバ。この国の王太子だ。・・・今日は僕と同じ年代のご令嬢方と交流できるのを楽しみにしていた。プレデビュタントもある、今日は皆と話をして交友を深めていければと思っている。────今日のランチは王宮の料理長直々に作ってもらった!遠慮なく食べてくれ!・・・では、乾杯!」
水の入ったグラスを軽く上げ、ランチ会が始まった。
まずサーブされたのはナッツの入ったサラダだ。・・・なるほど、この国のシンボルでもある植物が豊富に使われており、とっても色鮮やかで目に楽しい。
マヨンは使われていないようだが、花油を使ったオリジナルのドレッシングの様なものがかかっていて・・・流石王宮料理長だと感心する。
普段はお兄様やナーデルを中心に男衆からの熱烈な支持のあるマヨンが使われることが多いが、やっぱり女子だもの、ドレッシングでサラダを食べたくもなる。素直に嬉しい。
リリーは早速食べてみると、ナッツのカリカリした触感にビヌガーも入っているのだろう、酸味の効いたしかし食べやすいドレッシングの味で美味しかった。
・・・まぁザインの料理の方が好きだけど、これはこれで有だ。
今度ザインとドレッシングの研究でもするか~とリリーが思案している時だった。
「くすくすっ、王子様はこの料理でご満足されていらっしゃるんですか?」
不愉快な声が左斜め前の・・・ピンク髪から聞こえてきた。
「見たところ野菜を切って盛り付けただけじゃないですか!────それに、食の革命とさえ言われた”マヨネーズ”が無いじゃない!・・・あ!王子様は女子の為に遠慮なさったのかしら?そうよね、皆さんもマヨネーズの虜になって毎日摂取してるわよね・・・でも大丈夫ですわ!マヨネーズで太ってしまうのは、その女の管理不足のせい!・・・だから遠慮せず、料理に使っていただいて大丈夫ですわ!・・・なんなら私、腕の良い料理人の知り合いが多くいますのっ!その者が作る絶品料理を、ぜひ王子様にも食べていただきたいわ!こんなこの国のまず・・・失礼、昔の料理食べさせられているんですもの、きっと気に入りますわ!」
どこか上目遣いで、媚を売るように王子に放たれた言葉は、とても公爵令嬢が発したモノとは思えない程配慮に欠ける言葉だった。
しかし本人はそのことに全く気づいていないのだろう、キラキラとした瞳で王子の返事を待っている。
───そんな王子は思いっきり眉間に皺を寄せ、アイリーンを冷めた目で見ていた。
そりゃあそうだろうなぁ・・・。私もザインの料理がそんなこと言われたらマジ切れするわ。
(奴ってあんなにバカな女だったのね。あれでよく前世で生き残れたわね、周りが放置してたの?)
う~ん、多分だけど奴は今世の方がバカというか・・・周囲の反応が分かってないように思う。
もしかして、今世をどこか”ゲームの世界”とか思ってるんじゃないのかな?容姿も世界も自分で決めたと思い込んでるし。自分が願えば全て叶うって本気で思ってそう・・・。
(わぁ・・・そりゃ自覚ない分質が悪いわね。言わば言葉が通じないのと一緒ってことでしょ??)
などとリベアと内心で会話しつつ、サラダをモグモグ食べていると・・・周りは一旦食べるのを止めていたようで、私に視線が集中していた。・・・やっば、何?流れが分かんないんだけど。
「ッハ!田舎者にはこんな料理も美味しく感じたようね。貴女は知らないんでしょうね、マヨネーズという奇跡の調味料も、ショユーやミソンを使った料理も!・・・何だか哀れに思ってきたわ。貴女にも、私の”美食の姫”の料理を・・・あら!ごめんなさい、”私の知り合いの”美食の姫の料理人の料理を振舞って」「ゴホンッ!!」
戯言をつらつらと続けるアイリーンに、流石に堪忍袋の緒が切れたカイトが咳をして止める。
・・・本来は貴族同士の会話を咳で止めるなど、あってはならないことだったが思わず行動してしまった。
・・・なんだか奴程のバカに仕えなくてはならん彼が不憫に思える。
哀れに思ったリリーは、奴の相手を買って出た。
「・・・えぇ、私このサラダとても美味しく感じました。殿下、こちらナッツの触感が楽しく、ビヌガーの酸味も丁度よくて・・・サラダがより美味しくなります!流石王宮料理長様です。私こんなサラダ初めていただきましたわ!───それからアイリーン様、私実はその”マヨネーズ”とやらは確かに知らないんですが、”マヨン”という調味料なら知ってますわ!濃厚で味わい深いもので・・・何の食材にも合う素晴らしい調味料ですわ。──────あと、私はそのお知り合いの料理人の料理は結構でございます。・・・折角王宮の料理長様がお作りになられたものを味わえるんですもの。大変貴重で、こんなに心躍るお食事はありませんわ。」
リリーの心からの賛辞に、王子はパァッと顔を明るくさせ笑顔になった。
「ありがとう!!リリーナ嬢とお呼びしてもいいかな?・・・実は僕がサラダを好きじゃないと知った料理長が、僕でも食べれるようにとこのサラダを考案してくれたんだ!僕もマヨンは一等好きだが、サラダはこの味の方が好きでね・・・。嬉しいよ、”あの”バジル領出身の君にそう褒めてもらえて!・・・ね、良かったね料理長!」
クリス王子が後ろに控えていたコック姿の男性に声をかける。
・・・恐らく料理長だろうその男性は、リリーナにニコリと笑いかけ会釈してくれた。
料理長いたんかーーーーい!!
そりゃあんなボロクソ言われて立場無かったろうなぁ。
リリーナも微笑み「まぁ、料理長、美味しい料理をありがとうございます。・・・ご本人にお礼を直接言えて良かったですわ。」と返した。
「私も!サラダにナッツが入っているなんて初めて食しましたが、とっても合いますわね!今度屋敷でも作ってもらいますわ!メイン料理も楽しみですっ美味しい料理をありがとうございます!」
続けてセシルも料理長へお礼の言葉を述べると、他の令嬢も続き・・・先程アイリーンの言っていることにちょっと頷いていた令嬢も、慌ててサラダを食べてお礼を言っていた。
・・・マヨンが大好きなのか、サラダが嫌いなのか・・・それともアイリーンの様な際物か。
判断が付かないが、後者でないことを切に祈った。
するとまさか作った本人がいるとも、王子に同意されないなんて思っていないアイリーンは慌てて
「んなっ、ち、違います!私は王子の為を想って言っただけで・・・!というか、何でマヨネーズ知らないのよ?!グレンが王子はマヨネーズ好きって言ってたじゃないっ何よマヨンって!話が違うじゃないっ・・・!と、とにかく!まぁ、料理長の料理も美味しいですけれど、私の知り合いの料理人の所で勉強すれば今より美味しい物が」
と途中小声になりながら、つらつらと言い訳染みた・・・またしても侮辱する内容を話し始めると、顳顬をピクピクさせ殴って止めようとするカイトを制して、クリス王子は言った。
「んーーーーー、何て言うか・・・・君は”ウザイ”な!!!!」
ドーーーーーンッという効果音が見えるように、堂々とクリス王子が言い放った。
アイリーンも含め、その場にいる令嬢もその使用人もポカーンとしていたが、料理長をはじめ王宮の使用人達は”あちゃ~”といったようなリアクションを取っており・・・王子の素が出た様子だった。
「ルーカス兄様が使っていた”ウザイ”という感情が、今までイマイチ分からなかったが、理解できたぞ!君の様な相手を尊重しない、人の話を聞かない者のことを”ウザイ”というんだな!!僕は家族も王宮で働いている使用人達も皆大好きだ!!そんな大好きな人達を侮辱されることが、こんなに腹が立つということを初めて知ったぞ!!今日は初めてだらけだな!お父様やお母様から、皆をよくもてなすように言われて緊張していたが、何だかその緊張が吹っ飛ぶくらい怒りが湧いてきてしまった!」
怒っていると言っているのに、”初めての感情が嬉しい”といった様子でニコニコ笑っている姿が、純粋なんだろうが少し怖く映ってしまう。
初めて王子様に会ったが・・・こんな性格だったんだなぁ・・・と未だに唖然として思考停止しているアイリーン以外の令嬢とその使用人は考えていると・・・更に爆弾発言が落とされる。
「君の髪色、初めに見た時から思っていたが”グモヌン”という害獣の糞の色にそっくりだな!!いやぁ~、初めてあの糞を見た時は驚いたが、まさか人の髪色でまた相見えるとは思わなかったぞ!!・・・ここまで気を抜いたら笑ってしまいそうで、大変だった!出来るだけ視界に入れないようにしていたが、この席だと絶対に視界に入るからな!!我慢できなかった!!」
・・・因みにグモヌンとは、豚とコアラを掛け合わせたような害獣でドギツいピンク色の糞をする生き物だ。
まさか王子様の口から、しかも貴族令嬢がいる場で、更に食事中にその様な言葉が出るなどと誰が予想しただろうか。
アイリーンは石化し、令嬢達は時が止まった様に・・・思考も止め、使用人達はただただ(これは悪い夢)と思い込もうとしていた。
そんな中カラカラと笑っている王子を見て、シャルは(この王子は大物だぞ~)と感心し、カイトは(ホレ見たことか。国王が奴を招待したから大変なことになってしまったぞ)と国王に責任転嫁していた。
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