転生した復讐女のざまぁまでの道のり 天敵は自分で首を絞めていますが、更に絞めて差し上げます

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第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-

54.閑話 Side天敵 公爵の伝言

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 花々が咲き誇り、風に運ばれた花のかぐわしい香りを堪能しているモリーは、知り合いの貴族夫人の邸宅で催されているお茶会に出席していた。
 サロンでお茶を嗜み、自分よりも身分の低い者達の話をにこやかに聞きながらも、内心では蔑んでいた。

 (貴女の夫の話など興味なくてよ。あのパッとしない子爵とよく結婚したものだ。自分だったら舌を噛んで死んでいる。・・・私の様にイイ男と結婚できずに、可哀想な女。)

 「モリー様は、最近タンジ公爵様とどこかお出かけになって?」

 自分に話を振られ、黙っている訳にもいかずに”幸せそうな”笑顔を浮かべながら答える。

 「いえ、それが旦那様は今任務で忙しいので・・・。ですがその代わりに、任務先で仕入れたこの宝石をあしらったジュエリーを頂きましたの。・・・私はいいと言ったのに、「君をデートにも連れて行けない僕の罪滅ぼしだと思って」と仰るので・・・。もう、筆頭公爵に嫁いだ時から、覚悟してますのに。旦那様ったら聞かなくて。」

 「まぁ!素敵っ!タンジ公爵の様な美丈夫な殿方にそんな言葉をかけていただけるなんて・・・羨ましい限りですわ!」
 「本当、素敵だわぁ!」「私ちょっと怖いイメージがございましたの。でも公爵様は奥様にお優しい方なのね、イメージが変わりましたわ!」

 モリーの嘘の言葉に、そんなこと知らないご婦人たちは色めき立つ。
 常に冷静沈着で真顔を貫く、どこか冷めた印象の公爵がそんな甘い言葉を発するなんて・・・!とサロンで聞いていたご婦人達の今日一のゴシップは決まったも同然だった。


 モリーは伯爵家へ出戻ったことを、ステイン伯爵家の者以外には決して漏らさなかった。
 流石に子どもを産んだことは既に話が出回りすぎて誤魔化せず、”娘は病弱で出歩けない”と設定をつけていた。
 マシューとの離縁を無くすため、モリーは周囲から固めていくことにした。
 こうして出たくもない低レベルなお茶会に出向き、夫婦仲の良い話をして噂を流す。
 少しでも離縁し辛い環境作りに、モリーは必死だった。

 それに、公爵家でも伯爵家でも満たされなかった承認欲求が、この低レベルな婦人達の中では満たされるのだ。
 この貴婦人たちは顔には出さないが、美しいモリーが見眼麗しい公爵と結婚したことに嫉妬しているのだ。
 それを知った上で、更に旦那様が私を大事にしているエピソードを話す度に、笑顔で賛辞を言う癖に内心では嫉妬や妬み嫉みで怒り狂うのだ。
 その姿を見るたびに、「この女たちよりも私は勝ち組なんだ」と実感できる。
 今までのウサを晴らすように、モリーは饒舌に嘘話を話していた。




 そんなモリーの話に、ご婦人達は内心嫉妬まみれで飽き飽きしていると執事に案内された一人の貴婦人がサロンに入ってきた。

 その姿を確認した途端、今まで座っていたご婦人達は一斉に立ち上がり、その貴婦人に駆け寄る。
 「チョウ様!まぁ、お忙しいのに来てくださったのですね!ありがとうございます!」
 「ポートマン公爵夫人、はじめてお目にかかります、私・・・」
 「ポートマン公爵夫人!私夫からマヨンについて伝言を預かってきておりまして・・・」
 「相変わらずお美しいですわチョウ様!この間私ポートマン領に旅行しに行きましたの!・・」

 物凄い勢いで一斉に話しかけてくるご婦人達に、持っていた扇子を開きながら嗜める。
 「まぁ、皆様お元気そうで何よりですわ。・・・私、先程夫の付き添いから戻ったばかりですの。よろしかったらそちらのテーブルで、ゆっくりお話しませんこと?」

 まさに鶴の一声、今まで勢いよく話していたご婦人達は恥ずかしそうに、静々とテーブルに着いた。


 そう、この場を見事に制した貴婦人こそグレンとセシルの母でありショーンの奥方のチョウ・ポートマン夫人である。
 その薄い灰色に同色の瞳を持つ、セシルによく似た勝気美人だ。
 一見性格がきつそうに見えるが、面倒見の良い姉御肌で貴族のご婦人間でも人気の貴婦人であった。


 テーブルに着くと、一人挨拶に来ていなかった・・・どこか気に食わない顔をしたモリーに向かって声をかける。

 「あら、モリー様。お久しぶりです。知らない間に伯爵家へ戻られていて、会う機会がございませんでしたね。お元気そうで何よりですわ。」
 ニッコリしながら、躊躇なく相手の急所を突いてきた。


 思わぬ事実に周囲の婦人達がザワザワする。
 焦ったモリーは言い訳するように言葉を発した。

 「あら??帰省していた時に見えられたのかしら?誤解を生むような言葉、止めてくださいまし。私はもう伯爵家でなく、公爵家で過ごしてますわ。・・・いくら同じ公爵夫人だとしても、無礼ではありませんこと?」

 「ふふふっ、あら面白いことを言うわね。モリー様は1年も帰省されているの?・・・私、ここ1年は2月に一度は公爵家へ夫と訪問しているけれど、一度もお会いしてませんわよね?」

 「っ、それは、タイミングの問題でしょう?私だって暇じゃあないんです。お茶会や仕事で留守にすることもあります。そちらが私がいない時を見計らって来ているのではなくて?!」
 公爵家に定期的に訪問する相手がいることなど、知る由もないモリーは追撃の言葉に焦る。

 「お茶会に、仕事ですか・・・。公爵家からなにも言われていないのに、自主的にご苦労様ですこと。──ご自分の旦那様のパートナーを務めるより、このお茶会を大事になさっているのね。モリー様は本当にお茶会が好きなのね、私知らなかったわ。あぁ、大丈夫よ。マシュー様はここ数年、パートナー同伴のパーティーにはお一人で参加してらっしゃるから、皆さんご存じなの。まぁ、ここ数年は王族主催の小規模なパーティーにしか元々参加されてませんから、侯爵家や一部の伯爵家くらいまでしか知らないですが・・・。」

 (な・・・・なんてこと!!!上級貴族には、知られてしまっているの?!)
 モリーがひたすら嘘の夫婦仲の話を吹き込んでいたお茶会は、どの会もモリーが一番身分の高いものだった。
 自分が下々に対して地固めしている間、マシューがもっと権力のある上流階級の方々に対して”夫婦仲の破綻”をアピールしているなんて・・・!!!


 モリーは上手くいっていると思っていた自分の計画が、自分の知らないところで破壊されていたことに気付き茫然としてしまった。

 「もう一部・・・大多数の方々から「さっさと離縁すれば良い」だの「君の奥方はこの前のパーティーの時ドレスを仕立てに行っていたそうじゃないか、なぜそんな恥行為を見逃しているのだ」だのとご意見を頂いてましたわ。マシュー様は「法務局が不貞の子であるという確固たる証拠がないと離縁出来ぬ」と言うのでな。筆頭公爵として、法を破るなどできませんので。」とお答えしていらしたわ。・・・本当、出来た旦那様で私涙が出ますわ、ねぇ皆さん?」

 チョウの言葉に真っ青になっているモリーを見て、これは事実だと感づいたのだろう。
 先程まで内心嫉妬に駆られていたご婦人達は、怒りの表情や大層面白いモノをみた様な表情に変化していった。
 「まぁ・・・公爵家を追い出されていたなんて」「あのジュエリーも自作自演ではなくて?」
 「旦那様のパートナー役さえさせてもらえないなんて」「不貞の子ってどういうことかしら?」

 今まで散々バカにしていた婦人達に、チクチクチクチク棘のある言葉を浴びせられる。
 黙って聞いていたモリーだが、段々と怒りが抑えられず・・・とうとう爆発した。


 バンッ「黙って聞いていれば・・・!!貴方達如きの下級貴族が、公爵夫人である私を辱めていいとお思い?!貴方達全員法務局に訴えて罰してもらうわよ?!」

 「あらあら、公爵夫人にあるまじき行為ですわ。落ち着いてくださいな。・・・法務局は貴女に味方してくれるか分かりませんわよ?今、マシュー様のことで上級貴族達から圧力がかけられてますからね。──前の様に、言うことを聞いてくれるか分かりませんわよ?」

 チョウの冷え切った目線を浴びて、立ち上がっていたモリーは崩れ落ちるように椅子に座った。



 「あぁ、そういえば。クリス王子の10歳の誕生日に、プレデビュタントが王家主催で開催されるの、ご存じ?・・・あぁ、モリー様は伯爵家にいらしてるからまだ知りませんわよね、ごめんなさい。あら、私マシュー様から伝言を預かっているのを忘れてましたわ、ごめんなさいね。」

 マシューからの伝言と聞いて、モリーは持ち直した。
 出産後に貰った言葉は”自分からお前に会いに行く時間も意思も利もない”というものだけだ。
 一抹の希望を胸に、チョウの言葉を待った。

 「”プレデビュタントまでに離縁が成立していない場合に限り、貴様の子をプレデビュタントへ出席させろ”とのことでした。────えぇ、これだけですわ。本当よ?・・・ふふふっ、嘘なんかじゃありませんわ、コレですべてでしてよ?貴方も聞いてたわよね?」

 チョウは控えている自分の従者に尋ねると、「私が記憶している言葉も相違ございません」と返事をした。


 モリーは抱いていた希望も打ち砕かれ、放心状態で椅子に座っていた。


 「さぁ、私はこれで失礼するわ。────ごめんなさい、本当はこの伝言を頼まれたから今日お邪魔したの。この後も予定が詰まってるので、本日はこれで。皆様、御機嫌よう。」

 チョウは貴婦人らしい、丁寧な美しいカーテシーを見せ有無を言わさずに去っていった。



 今日一のゴシップは、盛り沢山で今後のお茶会が楽しみだ。

 参加していたご婦人達は、楽しそうに笑顔を浮かべ、放心しているモリーを見つめていた。



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