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第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-
43.閑話 Side天敵 ヒューの悲劇
しおりを挟むSide ヒュー
ありえないありえないありえないありえないありえない!!!
なぜこんな事になったんだ!!工場の奴等は何をしていたんだ!!
クソクソクソクソッ!!「クソッたれ!!!!どいつもこいつも使えねぇヤツだ!!!!!」
ヒューは父親に殴られた左頬を腫らしながら、公爵家への道のりを歩いていた。
それはマシュー達がバジル領への出張から戻ってきて3ヵ月程経った頃だった。
ヒューはマヨネーズによって腹を下し、立って仕事が出来る状態ではなかったが3日経って全快した。
このマヨネーズの安全性の確保と、材料の調達ルート確保を父親に命じられていたヒューは、工場の部下達に仕事を振りつつ、自分でも伝手を使って何とか準備していた時だった。
突然、”至急戻れ、今やっているどの仕事よりも優先されたし”という内容の鳥便がヒューのもとへ届いた。
(ついにあのデブ親父も寿命か?)と少しワクワクしながら実家へと向かったが・・・ついた直後に、まだまだ元気そうな父親から左頬を思いっきり殴られた。
ズサァァァァーーーーーーーーッと軽いヒューは転がった。
父親は顔を真っ赤にして・・・頭の血管が数本切れているんじゃないかというくらいの様子で、倒れたヒューを見下した。
「貴様っ・・・!今まで何をしていた?えぇ??貴様が「あの調味料は必ず売れる!今すぐ生産ラインを確保していないと損するぞ!」と言ったからあんな大金はたいて男爵家跡地を買ったんだろうが!!それが数日後には「やっぱり安全面に不安要素有」だの「体調を崩しているから商売の地盤固めができない」だのふざけおって!!!それでも将来性にかけて咎めずにいてやったというのにっ!!!」
あまりの怒りに、父親は息も絶え絶えになっていた。
・・・?コイツは歳のせいでこんなに情緒不安定になっていたのか。
ヒューは年寄りの説教話の為だけに呼ばれたのかと、イライラし始めた時だった。
「よりにもよってあの”ワグナー商会”に先を越されるなんて・・・!!しかもポートマン公爵領で工場を構えられて・・・!!貴様は一体今まで何をしてたんだ?!あれからずーっと寝ていたのか?!あんな大金はたいて買った土地や人材、工場も全部パーだ!!それとも何か?お前はワグナー商会の下請けでもやる予定なのか?!そん時は貴様の内臓でも何でも売っ払ってかけた金回収するからな!!息子だから見逃すと思ったら大間違いだ!!」
ヒューは初め、何を言われているか分からなかったが、この父親がこんなに激高している事実と話の内容に段々と嫌な予感が走り、冷や汗が出てくる。
「ちょ、ちょっと待ってください。一体何の話です??・・・買っていただいた土地や工場は、”マヨネーズ”の安全性をどうにか確保しながら進めていく予定で」
「だから!!!その”マヨネーズ”がワグナー商会に先を越されたんだよ!!!しかもお前が言う”ご立派な”マヨネーズとは違う”マヨン”として、”完璧なレシピ”とともにな!!・・・貴様、何だあのレシピは!!よくもあんな物で商売しようと思ったな!恥を知れ!!」
父親は自分もレシピを確認していなかった分際で、ここぞとばかりに叱責した。
「”マヨン”??何ですかそれは・・・。も、もしかして!!ワグナー商会がマヨネーズを模倣した商品を登録したんですか??バカな!!そんなことしたら奴等終わりだ!!訴えてやりましょう、”レシピを盗用された”と!!マヨネーズとそのままで販売するならまだしも・・・”マヨン”などと名称を変更して・・・浅ましい!!」
ヒューは立ち上がり、父親の機嫌を取るようにワグナー商会を蔑む発言をしたが、もう一度父親に左頬を殴られ、また同じように倒れた。
「浅ましいのは貴様だクソッタレ!!!何が訴えるだ!!そもそもあの登録書に貴様の名前などどこにもなかったじゃないか!!てっきり「確認者欄」に記名してると思っていたのに・・!!貴様はどうやら本当に寝ていたらしい。世間を知らぬ、クソガキのお前に、一から説明してやる。」
ヒューを煽るように、蔑んだ目で見ながら言葉を続ける。
「数日前、ワグナー商会がレセプションパーティーを王都で開いた。新しい調味料を商品としてこれから販売していくという、商品の紹介を目的に開催された。その商品こそが”マヨン”だ。何でも、独占法でレシピを登録し、受理されたらしい。俺も勿論そのパーティーに参加したよ。出てきて説明を聞くと驚いた。・・・お前から聞かされた内容の物に酷似していたからな!俺はもしやと思ったよ。」
「それからワグナー商会へ”レシピの盗用じゃないか”と聞いたさ。・・・あのレシピを確認する前だったからな。とんだ恥をかいた。「確かにインスピレーションは受けているが、材料から違う全く別物だ。それに、これは安全性も確保されてますよ。」と言われたよ。・・・事実、その日にマヨンを食べたが、お前の様に腹も下さずピンピンしてた。・・・俺は納得できなくてな、法務局に抗議しに行ったんだ。そしたら何て言われたと思う?「この商品は過去にないレシピですし、マヨネーズのレシピと比較して、確かにインスピレーションされてはいますが全くの別物と判断されてます。それに、確認者欄には公爵家の方の署名を貰っている、正統なものだ。」と言われた。」
話しているうちに、その時の怒りや羞恥心も甦ったのだろう、苦々しい顔に変わる。
「それでも食い下がった俺に、「マヨネーズのレシピをみろ」と言われてな。・・・しぶしぶ金を払って見て驚いたよ・・・あんなレシピが登録されていたとはな!!!」
クシャクシャになった・・・恐らくマヨネーズのレシピだろう物を、ヒューに向かって叩きつける。
「貴様はレシピを確認してから俺のところへ話を持ってきたんだろうな?!そうだよな、商人の息子の!!お前だったら!!そうだったらもう一度赤子からやり直してこい!!なんだこのレシピは!!こんな分量も材料も正しく書かれていないレシピ!あってないようなもんだろう!!そりゃあ”マヨン”ってヤツの申請が通るはずだ!味も美味いし、お前が言ってた油でなくクリーム状だったしな!・・・・まんまと出し抜かれよって・・・!!あんな物世に出回ったら、誰もこんなマヨネーズなんぞ食うわけがない!!」
ヒューは父親の叱責と・・・この、クソみたいなレシピを見て震えが止まらない。
嘘だ・・・なんだこのレシピは・・・!
お酢??ビヌガーと
、俺はちゃんと言ったはずだ!本当に分量も書いてないっ・・・!
嘘だ、これは売れると・・・!新しい食文化を、トトマ商会で俺が先導して・・・!
レシピを持つ手が震えている。
顔を青ざめ、いつも変わらない表情が絶望した表情になっている。
そんなヒューの様子に幾分か溜飲が下がった父親は、少し落ち着いたトーンでまだ話し続ける。
「貴様、それだけじゃないからな。」
まだ何かあるのか?俺はなにを見落としてしまったのか?
ヒューは出来ることなら、続く言葉を聞きたくなかったが、無常にも耳が拾う。
「お前のマヨネーズのごたごたのせいで、西大陸との商売が出来なかった。それどころか、あのバカな海賊共が、西大陸の戯言を真に受けてあのバジル領で仕入れしようとしたらしい。・・・あの海賊共も西大陸の商人達も捕まった!!獣人奴隷もあのバジル家に保護されたそうだ・・!!!貴様のせいだぞ!!今年奴等に接触していなかったから何とか捕まらずに済んだが、折角の獣人奴隷をみすみすバジル家に持っていかれるとは・・・!!!3年前に見つかってから、俺は一切手を出さずに貴様に任せていたのに・・・!!こうも失敗するなど・・・貴様の身の振り方も、考えねばな。」
この父親は、3年前まで”仕入れ”や海賊達との連絡等していたが、・・・そう、リリーナの3歳の誕生日付近で目撃されたという情報は、海賊ではなくこのトトマ商会だったのだ。
優秀なバジル軍に見つかったが、その時は商船としてギリギリ捕まらずに逃げおおせていたのだ。
それから顔や記録に残された父親から、ヒューに役目が交代されていた。
だが、今回の失態と何の関係もない。
単にすべての失敗を自分に擦り付けようとしているだけではないか・・・!
ヒューは奥歯をギリッと噛みしめた。
「息子は貴様だけじゃないんだ。ちょっと優秀だから好きにさせてきたが、今後は貴様に仕事は振らん。せいぜい、未来の商品の管理でもして過ごすがいい。・・・あぁ、だからといって今回の損害がなくなったとは思うなよ。貴様の内臓を売ってでも、全て回収するからな。・・・さっさと出ていけ!!もう二度とその顔を見せるなよ!!!」
最後に虫けらを見つめるような視線を、父親から浴びた。
ヒューは、最後に実家から出る時に見た、弟の嘲笑う顔を思い出し、力任せにその辺の木を殴り、蹴り上げる。
(ふざけるなふざけるなふざけるな!!!!誰のお陰でここまでバレずに、商売してこれたと思ってんだ!!!何が仕事は振らんだ!!!・・・俺がいなきゃこんな商会、仕事などまわるはずもない!!!)
ヒューは今後、自分の名誉をどうやって修復していくか・・・あの工場をどうしていくか、頭を回転させながら公爵家へ帰っていった。
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