27 / 99
第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-
27.閑話 Side天敵 天敵の幼馴染
しおりを挟むアイリーンは今、めちゃくちゃ機嫌が悪かった。
最近は王子の婚約者として(なってない)、嫌いな勉強も頑張っていた。
神玉という魔石みたいなものが存在することを知れたのはよかったけど、”害獣”しか魔法が使えないなんて聞いてない!!
通りで小さい時から魔法の練習してたのにアイリが使えないわけよ!
確かに神様には”魔法のある世界”ってしか言ってないけど、普通アイリも使えるようにするべきでしょ?!何考えてんのよ!全く気が利かないんだから!!
この世界が”人間は魔法が使えない”んだったら、アイリは特別に魔法が使えて”聖女”として崇められるってのが常識ってもんでしょ?!本当、神様って常識ないのかしらっ。
その事実もアイリをイライラさせたが、一番の理由ではない。
その最たる理由が・・・・今目の前で怯えた様子の、この”デブ”な公爵子息グレンだ。
ある日滅多に会うことがなくなったカイトが、「同じ公爵家である、同い年のご子息様が遊びに来られる」と言いに来た時は歓喜した。
あぁ!!きっと美少年が私に一目惚れして、ゆくゆくは王子様と幼馴染の私を取り合うことになるのね!!と期待していたのに・・・。
胸膨らませ、会った少年は・・・濃い銀髪に青目という、それだけなら麗しい容姿なのに・・・ぽっちゃりとしたその体型が、アイリからしてみればデブ体型が全てを台無しにしていた。
アイリは想像していた少年とかけ離れた容姿のグレンに、目を見開いて固まり「は、はじめましてっ!僕グレン・ポートマンです!5歳です!仲良くして下さい!」という精一杯の挨拶を聞き流していた。
どうやらこのデブが私の幼馴染になるらしいと理解すると、アイリは激高してグレンに怒鳴り散らした。
「アイリの幼馴染になるのになんでこんなにデブでブスなのよ!!!アイリの幼馴染なのよ?!もっと相応しいヤツいるでしょ?!」
突然怒鳴られたことと、今まで言われたことのない棘のある悪口にビックリしてグレンは泣き出してしまった。
「う・・・・うぅっひっく、ごめ、ごめなんなさいっえぇぇ~ん!!」
泣き出してしまったグレンに、従者の女が駆け寄る。
・・・アイリーンの傍に控えるヒュー対策として、グレンの従者は女にして影に腕利きの男を付けている。
泣き出したグレンに、興味がなくなったアイリーンは無視して自分の部屋へ戻っていった。
こちらを気にした様子ではあるものの、ヒューもアイリーンに続き部屋を出ていった。
その様子を見届けたカイトは、冷やしたタオルをグレンへ差し出した。
「グレン様、そのお心を傷つけてしまい、申し訳ありません。こちらお使いください。・・・グレン様は少し体格が良いだけです。健康的で良いではありませんか。それに、グレン様はお父様であるショーン様に似て、整った顔立ちでいらっしゃいますよ。これはお世辞ではなく、成長するにつれ精悍なお顔立ちになると思いますよ。」
カイトの優しい言葉に、それまでピリついていた従者・・・名を確かアンナといったか、が警戒を解いたのが分かった。
「・・・そうですよ、坊ちゃん。あんなピンク頭の言うことなんて聞き流していいのです。あの様な戯言に、そのお優しいお心を痛める価値なんてございませんよ!」
二人の慰めに多少落ち着いたのか、泣き止みだしたグレンはタオルを握りしめながらお礼を言う。
「う、うん。・・・ぐすっ二人ともごめんなさい。ありがとう、気を遣ってくれて・・・。お父様にあの子を見張っておくように言われてたんだ・・・。”なんで仲良くするだけじゃないの?”って聞いたけど、”あの子と仲よくしようとお前は思わないさ”って・・・。僕はそんなことないと思ってたけど、仲良くできないかも・・・。」
落ち込んだ様子で、また泣き出しそうになるグレンを、アンナは慌てて慰める。
「グ、グレン様!大丈夫ですよ、仲良くならなくていいんです!旦那様も、グレン様には仲良くなるのではなく、”見張っている”ようにおっしゃったんですよね?”奴”が何をしようとしているか、不審な様子を監視するだけでいいんですよ!」
アンナは事前に打ち合わせしていた、内情を知るカイトに”お前もフォローしろ!”と目配せた。
「・・・大丈夫ですよ、今頃あのヒューとやらに公爵家の血筋を教えてもらってることでしょう。今後、嫌でも近づいてきます。グレン様はお父様の言われた通り、無理に仲良くすることなく動向を見張っていれば大丈夫です。何か”奴”に言われたら、アンナ様でも影の方でも、自分でも良いのでおっしゃってください。必ずあなたをお守りしますし、微力ながら力を貸します。」
カイトの力強い言葉と、自分に寄り添ってくれるアンナをみて、グレンは腹をくくった。
「・・・分かった。僕、頑張る。頑張ってお父様の期待に応えて見せる!」
そうしてグレンは、度々アイリーンと遊んだり勉強したりするようになった。
そして冒頭に戻る。
アイリーンはこんなデブ!と未だにグレンを認めていないが、あの後ヒューから教えてもらったグレンの血筋には価値を感じて、嫌々ながらも一緒に行動することを拒否しなかった。
ハーブリバ王国の王族は、光の様な綺麗な銀髪に金色の瞳を持つ、色素の薄い高尚な容姿が有名だという。
若干濃いながらも銀髪を持っているポートマン公爵家は、グレンの祖父が王弟であるそうだ。
ということは、グレンは王子様の親戚なのである。
実際、グレンは王子様とも交流があるそうなので、幼馴染なら早めに王子様に出会えるかもしれない!とグレンといることを我慢している。
今日も同じ公爵家として、この王国の貴族について勉強していたが、まったく面白くない。
グレンと勉強する内容は、ヒューも分からない知識らしく先生は別だ。
この先生、言ってることが全然分からないっ!本当、もっと腕のあるやつ雇いなさいよ。
・・・・唯一、そういった貴族の勉強の際は、カイトが付いてくれるようになったから気分が良い。
グレン付きのアンナという女がいなきゃ、もっといいのになぁ・・・と思いながら、休憩中のお茶とお菓子を嗜みながらカイトを眺める。
だが、そのカイトは私じゃなくてグレンの世話を焼いている・・・まったく、私にヤキモチ焼いてほしいからって、グレン何かの世話をして・・・そっちがその気なら、私もヤキモチ焼かせてあげる♪
「・・・アンタ・・・グレンは王子様の親戚なんでしょ?何か王子様の好きなものとか話しなさいよ。ビクビク怯えてるだけじゃなくて、そんぐらい私に貢献したらどう?」
アイリは鼻で笑いながらグレンに向かって言葉を吐いた。
本人的には王子様を気にしている自分をみて、カイトがヤキモチを焼くと思っているが当の本人は白けた目でアイリーンを見ていた。
「・・・た、確かに王子様達とはよく会うけど・・・。えっと・・・クリス王子のこと?それともルーカス王子のこと?」
「はぁ??正妃の息子の方に決まってんでしょ!!アイリと同い年なのよ??少しは頭使いなさいよ!!」
アイリの態度にある程度慣れたグレンは、泣きはしなかったがやはり涙目で答えた。
「ご、ごめん。・・・クリス王子は、ルーカス王子が1番好きかな。お二人は本当に仲が良いんだ。あとご家族だけじゃなくて、王宮の使用人達とも仲が良いかな。この間なんて、一緒に食べたお菓子がとっても美味しくて、わざわざ料理長に一緒にお礼を言いに行くぞ!って言われて・・・」
「へ~、クリス王子は美味しいものが好きなのね・・・。でもここの料理ってイマイチじゃない。それとも王宮ではやっぱり美味しいものばかりが出てくるのかしら・・・。」
アイリは最後まで、というか満足にグレンの話を聞いておらず、話しを続けた。
「・・・いや、そんなことないよ。ここで出るお菓子やお茶は、本当に美味しいものばかりだよ?それこそ王宮のものと引けを取らない程・・・」
「はぁ??!!これが?!えっ、ちょっと待って。最初は幼児用に味薄めて出されてると思ってたけど全然美味しくならない料理に、てっきりここの料理人の腕が悪いと思ってたのに・・・。まさかこの世界、メシマズ世界なんじゃない??えっラッキー!!ここで私無双できるじゃない!!まずは王道の・・・マヨネーズよね!!早速作って商会にプレゼンしなきゃ!!」
なんだかブツブツと小さな声で独り言を言い始めたアイリに、一同不気味な者を見るように怪訝な視線を向けた。
すると突然立ち上がって、「ヒュー!!カイト!!今から調味料を開発するわよ!!今から言うものを一式用意しなさい!厨房へ行くわよ!!」と言いながら走り去っていった。
カイトは怪訝な視線を外さず、何か良からぬ事があるかもしれないと思いアイリに着いて行った。
ヒューはうんざりしながらも、顔に出さずアイリに続いた。
こうしてアイリ達がいなくなったテラスで、グレンはアンナに「今日もよく頑張りましたね!」と慰められていた。
17
お気に入りに追加
8,717
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。