上 下
26 / 99
第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-

26.閑話 Side天敵 公爵の思惑

しおりを挟む
 
 公爵家当主であるマシューは、久々に王宮で会った旧友である”ショーン・ポートマン”公爵と、ポートマンの屋敷の一室で酒を交わしていた。

 「しっかし、何年振りだ?最後にあったのは・・・あぁ、お前の奥方が産気づいた時だったか。あの時はお前も一人の父親になるんだと・・・期待してたんだがな。悪い、嫌なこと思い出させた。」

 「・・・・構わん。お前にはジュリアが死んでから、本当に心配をかけたからな。むしろ今まで俺を支えてくれていたことに、感謝したい。・・・ポートマン家がタンジ家を狙っていたネズミ共を駆除してくれていたことは知っている・・・遅れてしまったが、ありがとう。この借りはいつか必ず返す。」

 マシューは珍しく、顔を緩ませながらショーンのグラスに酒を注ぐ。
 その優し気な雰囲気に、ショーンは驚きながら声をかける。



 「・・・おいおいおい、どうしたんだ?この間の手紙では法務局への怒りがあふれんばかりで・・・正直今日もお前のガス抜きに誘ったようなもんだ。・・・その様子じゃいらない気遣いだったみたいだが。何があった?離縁が成立したとは聞いてないし・・・もしかして我慢できずにアイツ等殺っちゃった??」

 「・・・ふん、そんなに俺が上機嫌なのが珍しいか?・・・離縁はできてない。今は別邸に押し込めて、自主的に伯爵家へ帰るように誘導しているがなかなかしぶとくてな。マーリン学長も戻らないし・・・今は”夫婦関係の破綻期間”を長く続けることしかできておらん。まったく、どれだけあの伯爵は金を積んだのか・・・法務局まで出てきおって面倒くさい。今アイツ等を殺しても、疑惑の目はぬぐい切れまいて。」

 マシューはさっきまでの穏やかな顔をどこかに捨て、いつもの殺伐とした雰囲気に戻っていった。


 「だよなぁ・・・。じゃあ、何がそんなにお前を穏やかにさせたんだよ。・・・もしかして、女か?」
 ショーンは興味津々に、マシューに詰め寄る。

 「・・・・貴様には関係ない・・・いや、心配かけていたお前には関係あるか。・・・そうだ。ようやく俺にも愛しい存在が現れてくれた。今でもジュリアを想う気持ちがあることも受け入れてくれた・・・女神の様な女性が。」




 マシューの幸せそうな顔をみて、揶揄う気満々だったショーンは涙が出そうになった。

 「・・・・お前のその幸せそうな顔、久しぶりにみれたな。・・・よかった、本当によかった。俺は嬉しいよ。色々とあって、もうお前は女性に心を許すことが出来ないんじゃないかって心配してた。・・・本当に嬉しいし、安心した。誰かは知らんが、その女性と既成事実でも作ってさっさとアイツ等追い出せよ。・・・それともその女性はお前と結ばれるのに”相応しい”相手じゃないのか?あ、最近良い仲になったとか?」


 仕事が早く、そして抜かりのないマシューが未だその女性と一緒になっていないことに疑問を持ったのだろう、こみ上げた涙を誤魔化すように早口で理由を問い、グラスを傾けた。


 「・・・いや、知り合ったのは5年程前からで、良い仲になったのは3年程前からだ。・・・だが、相手は伯爵家よりも格下の家柄だ。それに、彼女との子が原因で離縁になったらヤツ等に手切れ金を支払わなければいけなくなる。そんなものくれてやる筋合いもないし、伯爵家が彼女に対して何をするか分からん。・・・もう二度と愛する人を傷つけたり、失ったりしたくない。彼女も俺の意見を尊重して一緒になることを待ってくれている。・・・彼女の為にも、盤石の体制で婚姻したいんだ。」

 「・・・なるほどな。悪かった。よく考えず、お前が色々と考えてるのに軽く話しちまって。・・・お前が真に愛する者と結ばれる様に、俺も力を貸すぜ。」
 マシューの話を聞いたショーンは、力強く伝えた。



 するとマシューは思案するそぶりをみせ、ショーンに相談した。

 「・・・実は頼みたいことがある。お前のところに”アイツ”と同い年の息子がいただろう?たしかグレンといったか。その子に”アイツ”の監視役として、接触してもらいたい。」


 思わぬ願いに面食らったショーンが尋ねる。

 「監視役?確か優秀な執事見習いがその任を受け持ってるんじゃなかったか?・・・とうとう我慢の限界がきて辞めちまったのか?」

 「いや、カイトは優秀で今でもよく働いてくれてる。・・・最近伯爵家の息のかかった教育係が付いてな。気づかれていないと思っているようだが、トトマ商会の息子らしい。今のところ公爵家をどうこうする予定はないみたいだが・・・”アイツ”を通して何か得られる情報があるかもしれんだろ?念には念を入れておきたいんだ。・・・まぁ誰もアイツの傍にいたくないと思うがな。同じ子ども同士だと、油断するかもと思ってな。いや、無理なら良いんだ。俺も無理なことを行ってる自覚があるからな。」


 なるほど、仕事と思考が早いこのタンジ公爵家当主は、今のうちから”情報源(スパイ)”を紛れ込ませたいらしい。確かに、子どもであればその教育係の目も緩むだろうし・・・。


 ショーンは自分の息子を想いながら考える。
 自分に似た濃い銀髪青目の、年の割にはふくふくとした心優しいグレンは、あのわがまま放題と聞く毒女に耐えられるだろうか。
 心配する気持ちが強いが、体格の良さに似合わず気弱で泣き虫な息子を、どうにかしないといけないと思っていたのも事実だ。
 ・・・可愛い子には旅をさせよと云うし、次期公爵家当主として成長してくれることを期待するのもいいだろう。
 それに・・・今の内から”毒女”に触れさせて、将来女に惑わされないように教育できるかもしれん。



 そこまで考えたショーンは、マシューに是と答えた。
 その答えに感謝の言葉をショーンに返し、またグラスに酒を注ぐ。







 今後の話を進めるうちに、その夜は更けていった。











 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界漫遊記 〜異世界に来たので仲間と楽しく、美味しく世界を旅します〜

カイ
ファンタジー
主人公の沖 紫惠琉(おき しえる)は会社からの帰り道、不思議な店を訪れる。 その店でいくつかの品を持たされ、自宅への帰り道、異世界への穴に落ちる。 落ちた先で紫惠琉はいろいろな仲間と穏やかながらも時々刺激的な旅へと旅立つのだった。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

聖女召喚に巻き添え異世界転移~だれもかれもが納得すると思うなよっ!

山田みかん
ファンタジー
「貴方には剣と魔法の異世界へ行ってもらいますぅ~」 ────何言ってんのコイツ? あれ? 私に言ってるんじゃないの? ていうか、ここはどこ? ちょっと待てッ!私はこんなところにいる場合じゃないんだよっ! 推しに会いに行かねばならんのだよ!!

冤罪で断罪されたら、魔王の娘に生まれ変わりました〜今度はやりたい放題します

みおな
ファンタジー
 王国の公爵令嬢として、王太子殿下の婚約者として、私なりに頑張っていたつもりでした。  それなのに、聖女とやらに公爵令嬢の座も婚約者の座も奪われて、冤罪で処刑されました。  死んだはずの私が目覚めたのは・・・

溜息だって吐きたくなるわっ!〜100賢人仕込みの龍姫は万年反抗期〜

ぽん
ファンタジー
 ロンサンティエ帝国・・・龍に愛された国は待ちに待った時を迎えていた。  国を上げての慶事に王城は湧き立っていた。   《龍より贈られし巫女が国に繁栄を齎す。》  先代の巫女が亡くなってから500年。  その間、栄華を貪り尽くした王族や貴族は堕落し民に苦行を強いていた。    龍気が宿る宝樹を復活させよ。  強欲に塗れた王侯貴族が巫女の登場を首を長くして待っている。   「面倒臭い・・・。」  これは、龍に愛された1人の娘が国を引っ掻き回すお話。  100人の賢人にスキルを叩き込まれた完全無双な美しい娘。  ちょっと口が悪いが、大好きな龍達と共に後宮を生き抜く娘の姿をご覧あれ。 ーーーーーーーーーー  世界観は西洋と中華を織り交ぜたいと思います。  違和感を感じる方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。  広い心で見逃して下さいませ。  ゆるりと投稿して参ります。  どうぞ、最後まで気長にお付き合い下さい。 ※念の為にR15をつけております。 ※誤字脱字を含め、稚拙な部分が御座いましたら、呆れながらもご愛嬌とお許し下さい。 以下の作品も投稿しております。 暇なお時間にどうぞ覗いて頂けると嬉しいです。 《拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜》 《続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜》 《地獄の沙汰も酒次第・・・街に愛された殺し屋達に会いたいのならBar Hopeへようこそ》

危険な森で目指せ快適異世界生活!

ハラーマル
ファンタジー
初めての彼氏との誕生日デート中、彼氏に裏切られた私は、貞操を守るため、展望台から飛び降りて・・・ 気がつくと、薄暗い洞窟の中で、よくわかんない種族に転生していました! 2人の子どもを助けて、一緒に森で生活することに・・・ だけどその森が、実は誰も生きて帰らないという危険な森で・・・ 出会った子ども達と、謎種族のスキルや魔法、持ち前の明るさと行動力で、危険な森で快適な生活を目指します!  ♢ ♢ ♢ 所謂、異世界転生ものです。 初めての投稿なので、色々不備もあると思いますが。軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 誤字や、読みにくいところは見つけ次第修正しています。 内容を大きく変更した場合には、お知らせ致しますので、確認していただけると嬉しいです。 「小説家になろう」様「カクヨム」様でも連載させていただいています。 ※7月10日、「カクヨム」様の投稿について、アカウントを作成し直しました。

異世界に召喚されたんですけど、スキルが「資源ごみ」だったので隠れて生きたいです

新田 安音(あらた あのん)
ファンタジー
平凡なおひとりさまアラフォー会社員だった鈴木マリは異世界に召喚された。あこがれの剣と魔法の世界……! だというのに、マリに与えられたスキルはなんと「資源ごみ」。 おひとりさま上等だったので、できれば一人でひっそり暮らしたいんですが、なんか、やたらサバイバルが難しいこの世界……。目立たず、ひっそり、でも死なないで生きていきたい雑草系ヒロインの将来は……?

万分の一の確率でパートナーが見つかるって、そんな事あるのか?

Gai
ファンタジー
鉄柱が頭にぶつかって死んでしまった少年は神様からもう異世界へ転生させて貰う。 貴族の四男として生まれ変わった少年、ライルは属性魔法の適性が全くなかった。 貴族として生まれた子にとっては珍しいケースであり、ラガスは周りから憐みの目で見られる事が多かった。 ただ、ライルには属性魔法なんて比べものにならない魔法を持っていた。 「はぁーー・・・・・・属性魔法を持っている、それってそんなに凄い事なのか?」 基本気だるげなライルは基本目立ちたくはないが、売られた値段は良い値で買う男。 さてさて、プライドをへし折られる犠牲者はどれだけ出るのか・・・・・・ タイトルに書いてあるパートナーは序盤にはあまり出てきません。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。