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第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-
17.閑話 Side天敵 執事長の憂鬱
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アイリーンはイライラした様子で歩いていた。
従者達はその様子をみて避けるように別の道に行ったり、アイリーンの存在など元から無いように無視して自分の仕事をしていた。
通常であれば、公爵令嬢への態度としては不敬にあたる態度だが、ここにはそれを咎めるものは誰一人いない。
アイリーンが生まれて数年が過ぎ、公爵家を取り巻く環境は様変わりしていた。
バンッと大きな音を立て、アイリーンは執事長とカイトがいる部屋へ入ってきた。
「ちょっとカイト!!なんでアイリの部屋にいないのよっ!!カイトはアイリの専属でしょ?!ずっと一緒にいなきゃダメじゃないっ!!!」
苛立った感情をそのままぶつけるように叫んだ。
執事長とカイトは眉間に寄せた皺を隠そうともせず、アイリーンに向かって不快感を露わにした。
「お嬢様その様にドアを開けるとは、貴族の風上にも置けない品位を疑う行動ですと何回言えばよろしいのですか。」執事長が強い口調で嗜める。
「併せて、カイトは”タンジ公爵家の執事見習い”です。お嬢様の専属と銘打っていますが、男手が必要な時以外は私の教育の時間にあてるとも何度も申し上げたはずです。いい加減聞き分けなければ、またお仕置き部屋行きになりますよ。」
執事長の言葉にアイリーンは喚いていた口を閉じ、忌々し気に睨みつけた。
執事長は当主であるマシュー様に見捨てられているとはいえ、伯爵令嬢である奥様の子ということで無下にできないアイリーンの世話に、ほとほと困っていた。
マシュー様が奥方のご実家である伯爵家へ”奥様の不貞行為による離縁”を申し出ているが、「娘が不貞行為する訳がない!」だの「おぞましい呪いのせいだ!」だの喚き、逆に王都法務局に異議申し立てをした。
法務局は勿論、その異議申し立ては却下していたが、反対に公爵家にも”不貞行為による離縁であるならば、その確証を提示すること”と通達された。
普段は冷静沈着で淡々とされているのに、その通達を聞いた旦那様は血管が切れてしまうのではというくらい怒りを露わにされていた。
「あの様におぞましい赤子がそなたらの娘から生まれたと、表に出ぬよう温情をかけてやったのにこの仕打ち・・・!!!あぁ、はじめから温情などかけず、公然で非難してやればよかった・・・!!」
いくら公爵家といえど、上位貴族相手の法的申立ては確固たる証拠が無ければ成立しない。
現在”ピンク髪の子が公爵家の血筋で生まれる訳がない”という立証の為、あらゆる方面から調査をしているが、未だに立証できていない。
そもそも髪の色があの様に珍妙な”ピンク”である人間など、初めて見た。(異民族の者でも、あの様なおぞましい髪色の者はいなかった。)
この様なお家騒動が外部に漏れれば、筆頭公爵家であるタンジ家の名に傷をつけてしまう。
慎重に、そして秘密裏に知識人からも力添えを貰っているが、成果はみられない。
王宮の特別顧問も担当されている王都学園の”マーリン学長”にも協力を得ようとするも、現在学長は研究の為遠い国へ出張されており、ご意見を伺うことができない。
執事長が頭を悩ませていると、メイド長から更に頭が痛くなることを相談された。
何でもあの赤子・・・伯爵令嬢のご息女であるアイリーン様が、世話中に耐えられない程の癇癪を起こすのだとか。
そんなバカなと思ったが、この仕事第一で自分にも他人にも厳しいメイド長がわざわざ相談してきたのだ。
無下にすることはできない・・・と、実際に様子を見てみることにした。
久しぶりに赤子の部屋に入ると、思わず顔をしかめてしまうほど、本当に癇癪を起こしていたのだ。
世話をしている嫁入り前のメイドだろう、腕や顔がひっかき傷で赤くなって泣いている。
この惨状を実際に見てしまっては、女性に対して「仕事だからやりなさい」と無理強いなどできまい。
すぐさま手の空いている男手を出した。
するとどうだろう、癇癪が止まったと報告があった。
何でも見眼麗しい美男子が世話をしている時だけ、大人しく世話を焼かれるんだそうだ。
なんて卑しい女子だ。ピンク髪も相まって、不気味度が増した。
世話をした男たちも、「赤子なのに愛らしいと思えなかった。」「どこか嘗め回すような不愉快な目で見られた。正直もう世話をしたくない。」と口をそろえて言っていた。
男たちからも、メイドたちからも「世話をしたくない」と詰め寄られ、ほとほと困った。
・・・・そろそろ若手の育成も必要だと思っていたところだ。一人若い男を”奴”の世話係として付けよう、と決心した。
・・・ちなみに、タンジ家の使用人はアイリーンのことは外では様付けで呼んでいるが、裏や心の中では偶然にも、上原家が呼んでいたように”奴”と呼んでいる。あんな奴に裏でも様を付けたくなかった故だ。
そうして王都学園で比較的美男子で、成績優秀者であり、公爵家の執事に相応しい家柄であるカイトを採用した。
初めは”奴”の世話を押し付けるために採用したカイトだったが、これが中々仕事のできる好青年であった。
一度説明すればすぐに仕事を覚えるし、アイリーンの世話もメイドの仕事が最小限で済むように気遣ってくれる。
最初は同情の目でみているだけだった使用人たちは、公爵家の男共で一番若いこともありカイトを皆で可愛がるようになった。
当初は”奴”が公爵家からいなくなるか、離縁できなければ嫁ぐまで彼一人で頑張ってもらおうと思っていたが、この好青年があの様な仕事にずっと耐えさせることに良心が痛み、”奴”が人の手を借りないで大丈夫になった頃合いを見て本格的に執事教育を始めた。
今では己の後任として、認められる存在となった。
一方、屋敷でも大きな変化があった。
まず、奥様とアイリーンを本邸から追い出した。二人には、”本邸の改修工事の為別邸に移ってもらう”と通達したが。
奥様は疑っているのだろう、納得されず「あの人に!あの人に会わせて!!!」と喚いていたが、一方のアイリーンはむしろ喜んでいた様子。本当に不気味な子どもだ。
使用人にも正式に通達された。
「奴等と公爵家は既に縁を切ったと思って良い。時間はかかるかもしれんが将来的に奴等とは確実に縁を切る。よって、奴等からこの屋敷の一切の権限を剥奪する。お前たちは、”伯爵令嬢”と”そのご息女”として接するように。その身分以上の命令があれば、俺の名において従わなくていい。まったく・・・。法務局も関わるとは面倒この上ない・・・。虐待だのと後から言われても面倒だ。苦労をかけるが、奴等に最低限の世話は保証してやれ。」
正式に”この屋敷の奥方とご息女ではない”とされてからは、使用人たちのストレスや困惑は薄れていった。
別邸に移され暫くした頃、アイリーンが歩けるようになってからアイリーンの態度は悪化していった。
食事が気に入らなければ皿ごとメイドに投げつけ、可愛らしい若いメイドとカイトが話しているとそのメイドを殴ったり蹴ったり、時には髪を切ろうとどこから見つけたのかハサミを持ってきたりもした。
平民や下位貴族出身者が多い使用人たちは、いくら公爵家のご息女でなくても伯爵令嬢を傷つけることはできない。
抵抗できないことをいいことに、アイリーンは好き放題していた。
あまりにも度が越えた行いに、子爵家出身の執事長の堪忍袋の緒が切れた。
アイリーンを地下牢の個室に投げ入れ、泣こうが喚こうが3日間出さなかった。
さすがのアイリーンも堪えたのだろう。それ以降、使用人を傷つけることは減っていった。
それでも見つからないところでちょっかいをかけていたりすると、執事長から「”お仕置き部屋(地下牢)”に入れますよ」と言われると、すっかり大人しくなるようになった。
ここまでの苦労を執事長が思い返していると、「お仕置き部屋」発言で黙ったアイリーンが口を開いた。
「使用人の分際で調子にのらないでよ!私は公爵令嬢なのよ?!立派な虐待だわ!!お父様に言いつけてやるんだから!!お父様はどこにいるのよ?!何年も愛娘に会わないなんてっ・・・!どんな遠い国に駆り出されてんのよ!」
「はぁ、お嬢様。虐待ではありません。これは躾です。現にお嬢様に手をあげた者なんかいないでしょう?お仕置き部屋だって、鍵が掛かってるだけで他の部屋と大差ございません。食事だって、きちんといつもと同じものを届けたでしょう?言いがかりはやめていただきたい。・・・旦那様は今お忙しいのです。当分は来られないと思いますよ。」
執事長が呆れながら答えた。
実際のところ、マシューはこれまで通り本邸に帰っている。
別邸と本邸は屋敷2個分離れているし、玄関口も別の為会うことも見かけることもないが。
まさか父親が自分に会わないのは仕事でいないからだと思ってるとは・・・・随分おめでたい頭だ。
執事長の答えを聞き、助けの頼みだった父親がまだ現れる気配がないことを悟ったのだろう。忌々し気に執事長を睨みつけながら踵を返していった。
その姿を確認した二人は、そろってため息をついた。
「あぁ、忌々しい。あの様に性格もあれだけ歪んでいるのだ。どこに旦那様の面影があるというんだ。伯爵家の目は腐っているに違いない。」
「本当ですね。マシュー様もお気の毒に・・・。最近聞いて驚いたのですが、旦那様は元々別の方と婚約されていたんですよね?どうしてあんな・・・失礼しました。あの伯爵家と婚姻されたんですか?」
「あぁ、聞いたのか。・・・実は元々婚約されていた方は病弱でね。婚姻の前に亡くなってしまったんだよ。・・・とても美しい、お優しい方だった。旦那様はそれはそれは塞ぎ込まれて・・・。昔は今よりも笑う方だったがね。数年たってもどこか沈んだ様子のままだった旦那様が心配だったんだろう、先代様方が伯爵家との縁談を持ってきてね。旦那様も公爵家の為にと、婚姻されたんだよ。・・・今でも、あの方が生きていればと思うよ。」
「・・・・そうだったんですね。残念だな、私もお会いしてみたかったです。・・・旦那様に今後、素敵な方が現れるといいですね。」
「・・・ふふふっ、それは心配しなくても大丈夫みたいだよ。」
執事長が意味ありげにほほ笑んだ。
「えっ?!もしかして旦那様・・・。それは、こんな事言うのもなんですが・・・嬉しいですね!」
「はっはっは、君が喜んでどうするんだ。真面目な堅物かと思っていたが面白い子だな、君は。さぁ、お喋りはこのくらいにして、勉強の再開だ。」
それから二人は真剣な眼差しで、教師と生徒に戻っていった。
従者達はその様子をみて避けるように別の道に行ったり、アイリーンの存在など元から無いように無視して自分の仕事をしていた。
通常であれば、公爵令嬢への態度としては不敬にあたる態度だが、ここにはそれを咎めるものは誰一人いない。
アイリーンが生まれて数年が過ぎ、公爵家を取り巻く環境は様変わりしていた。
バンッと大きな音を立て、アイリーンは執事長とカイトがいる部屋へ入ってきた。
「ちょっとカイト!!なんでアイリの部屋にいないのよっ!!カイトはアイリの専属でしょ?!ずっと一緒にいなきゃダメじゃないっ!!!」
苛立った感情をそのままぶつけるように叫んだ。
執事長とカイトは眉間に寄せた皺を隠そうともせず、アイリーンに向かって不快感を露わにした。
「お嬢様その様にドアを開けるとは、貴族の風上にも置けない品位を疑う行動ですと何回言えばよろしいのですか。」執事長が強い口調で嗜める。
「併せて、カイトは”タンジ公爵家の執事見習い”です。お嬢様の専属と銘打っていますが、男手が必要な時以外は私の教育の時間にあてるとも何度も申し上げたはずです。いい加減聞き分けなければ、またお仕置き部屋行きになりますよ。」
執事長の言葉にアイリーンは喚いていた口を閉じ、忌々し気に睨みつけた。
執事長は当主であるマシュー様に見捨てられているとはいえ、伯爵令嬢である奥様の子ということで無下にできないアイリーンの世話に、ほとほと困っていた。
マシュー様が奥方のご実家である伯爵家へ”奥様の不貞行為による離縁”を申し出ているが、「娘が不貞行為する訳がない!」だの「おぞましい呪いのせいだ!」だの喚き、逆に王都法務局に異議申し立てをした。
法務局は勿論、その異議申し立ては却下していたが、反対に公爵家にも”不貞行為による離縁であるならば、その確証を提示すること”と通達された。
普段は冷静沈着で淡々とされているのに、その通達を聞いた旦那様は血管が切れてしまうのではというくらい怒りを露わにされていた。
「あの様におぞましい赤子がそなたらの娘から生まれたと、表に出ぬよう温情をかけてやったのにこの仕打ち・・・!!!あぁ、はじめから温情などかけず、公然で非難してやればよかった・・・!!」
いくら公爵家といえど、上位貴族相手の法的申立ては確固たる証拠が無ければ成立しない。
現在”ピンク髪の子が公爵家の血筋で生まれる訳がない”という立証の為、あらゆる方面から調査をしているが、未だに立証できていない。
そもそも髪の色があの様に珍妙な”ピンク”である人間など、初めて見た。(異民族の者でも、あの様なおぞましい髪色の者はいなかった。)
この様なお家騒動が外部に漏れれば、筆頭公爵家であるタンジ家の名に傷をつけてしまう。
慎重に、そして秘密裏に知識人からも力添えを貰っているが、成果はみられない。
王宮の特別顧問も担当されている王都学園の”マーリン学長”にも協力を得ようとするも、現在学長は研究の為遠い国へ出張されており、ご意見を伺うことができない。
執事長が頭を悩ませていると、メイド長から更に頭が痛くなることを相談された。
何でもあの赤子・・・伯爵令嬢のご息女であるアイリーン様が、世話中に耐えられない程の癇癪を起こすのだとか。
そんなバカなと思ったが、この仕事第一で自分にも他人にも厳しいメイド長がわざわざ相談してきたのだ。
無下にすることはできない・・・と、実際に様子を見てみることにした。
久しぶりに赤子の部屋に入ると、思わず顔をしかめてしまうほど、本当に癇癪を起こしていたのだ。
世話をしている嫁入り前のメイドだろう、腕や顔がひっかき傷で赤くなって泣いている。
この惨状を実際に見てしまっては、女性に対して「仕事だからやりなさい」と無理強いなどできまい。
すぐさま手の空いている男手を出した。
するとどうだろう、癇癪が止まったと報告があった。
何でも見眼麗しい美男子が世話をしている時だけ、大人しく世話を焼かれるんだそうだ。
なんて卑しい女子だ。ピンク髪も相まって、不気味度が増した。
世話をした男たちも、「赤子なのに愛らしいと思えなかった。」「どこか嘗め回すような不愉快な目で見られた。正直もう世話をしたくない。」と口をそろえて言っていた。
男たちからも、メイドたちからも「世話をしたくない」と詰め寄られ、ほとほと困った。
・・・・そろそろ若手の育成も必要だと思っていたところだ。一人若い男を”奴”の世話係として付けよう、と決心した。
・・・ちなみに、タンジ家の使用人はアイリーンのことは外では様付けで呼んでいるが、裏や心の中では偶然にも、上原家が呼んでいたように”奴”と呼んでいる。あんな奴に裏でも様を付けたくなかった故だ。
そうして王都学園で比較的美男子で、成績優秀者であり、公爵家の執事に相応しい家柄であるカイトを採用した。
初めは”奴”の世話を押し付けるために採用したカイトだったが、これが中々仕事のできる好青年であった。
一度説明すればすぐに仕事を覚えるし、アイリーンの世話もメイドの仕事が最小限で済むように気遣ってくれる。
最初は同情の目でみているだけだった使用人たちは、公爵家の男共で一番若いこともありカイトを皆で可愛がるようになった。
当初は”奴”が公爵家からいなくなるか、離縁できなければ嫁ぐまで彼一人で頑張ってもらおうと思っていたが、この好青年があの様な仕事にずっと耐えさせることに良心が痛み、”奴”が人の手を借りないで大丈夫になった頃合いを見て本格的に執事教育を始めた。
今では己の後任として、認められる存在となった。
一方、屋敷でも大きな変化があった。
まず、奥様とアイリーンを本邸から追い出した。二人には、”本邸の改修工事の為別邸に移ってもらう”と通達したが。
奥様は疑っているのだろう、納得されず「あの人に!あの人に会わせて!!!」と喚いていたが、一方のアイリーンはむしろ喜んでいた様子。本当に不気味な子どもだ。
使用人にも正式に通達された。
「奴等と公爵家は既に縁を切ったと思って良い。時間はかかるかもしれんが将来的に奴等とは確実に縁を切る。よって、奴等からこの屋敷の一切の権限を剥奪する。お前たちは、”伯爵令嬢”と”そのご息女”として接するように。その身分以上の命令があれば、俺の名において従わなくていい。まったく・・・。法務局も関わるとは面倒この上ない・・・。虐待だのと後から言われても面倒だ。苦労をかけるが、奴等に最低限の世話は保証してやれ。」
正式に”この屋敷の奥方とご息女ではない”とされてからは、使用人たちのストレスや困惑は薄れていった。
別邸に移され暫くした頃、アイリーンが歩けるようになってからアイリーンの態度は悪化していった。
食事が気に入らなければ皿ごとメイドに投げつけ、可愛らしい若いメイドとカイトが話しているとそのメイドを殴ったり蹴ったり、時には髪を切ろうとどこから見つけたのかハサミを持ってきたりもした。
平民や下位貴族出身者が多い使用人たちは、いくら公爵家のご息女でなくても伯爵令嬢を傷つけることはできない。
抵抗できないことをいいことに、アイリーンは好き放題していた。
あまりにも度が越えた行いに、子爵家出身の執事長の堪忍袋の緒が切れた。
アイリーンを地下牢の個室に投げ入れ、泣こうが喚こうが3日間出さなかった。
さすがのアイリーンも堪えたのだろう。それ以降、使用人を傷つけることは減っていった。
それでも見つからないところでちょっかいをかけていたりすると、執事長から「”お仕置き部屋(地下牢)”に入れますよ」と言われると、すっかり大人しくなるようになった。
ここまでの苦労を執事長が思い返していると、「お仕置き部屋」発言で黙ったアイリーンが口を開いた。
「使用人の分際で調子にのらないでよ!私は公爵令嬢なのよ?!立派な虐待だわ!!お父様に言いつけてやるんだから!!お父様はどこにいるのよ?!何年も愛娘に会わないなんてっ・・・!どんな遠い国に駆り出されてんのよ!」
「はぁ、お嬢様。虐待ではありません。これは躾です。現にお嬢様に手をあげた者なんかいないでしょう?お仕置き部屋だって、鍵が掛かってるだけで他の部屋と大差ございません。食事だって、きちんといつもと同じものを届けたでしょう?言いがかりはやめていただきたい。・・・旦那様は今お忙しいのです。当分は来られないと思いますよ。」
執事長が呆れながら答えた。
実際のところ、マシューはこれまで通り本邸に帰っている。
別邸と本邸は屋敷2個分離れているし、玄関口も別の為会うことも見かけることもないが。
まさか父親が自分に会わないのは仕事でいないからだと思ってるとは・・・・随分おめでたい頭だ。
執事長の答えを聞き、助けの頼みだった父親がまだ現れる気配がないことを悟ったのだろう。忌々し気に執事長を睨みつけながら踵を返していった。
その姿を確認した二人は、そろってため息をついた。
「あぁ、忌々しい。あの様に性格もあれだけ歪んでいるのだ。どこに旦那様の面影があるというんだ。伯爵家の目は腐っているに違いない。」
「本当ですね。マシュー様もお気の毒に・・・。最近聞いて驚いたのですが、旦那様は元々別の方と婚約されていたんですよね?どうしてあんな・・・失礼しました。あの伯爵家と婚姻されたんですか?」
「あぁ、聞いたのか。・・・実は元々婚約されていた方は病弱でね。婚姻の前に亡くなってしまったんだよ。・・・とても美しい、お優しい方だった。旦那様はそれはそれは塞ぎ込まれて・・・。昔は今よりも笑う方だったがね。数年たってもどこか沈んだ様子のままだった旦那様が心配だったんだろう、先代様方が伯爵家との縁談を持ってきてね。旦那様も公爵家の為にと、婚姻されたんだよ。・・・今でも、あの方が生きていればと思うよ。」
「・・・・そうだったんですね。残念だな、私もお会いしてみたかったです。・・・旦那様に今後、素敵な方が現れるといいですね。」
「・・・ふふふっ、それは心配しなくても大丈夫みたいだよ。」
執事長が意味ありげにほほ笑んだ。
「えっ?!もしかして旦那様・・・。それは、こんな事言うのもなんですが・・・嬉しいですね!」
「はっはっは、君が喜んでどうするんだ。真面目な堅物かと思っていたが面白い子だな、君は。さぁ、お喋りはこのくらいにして、勉強の再開だ。」
それから二人は真剣な眼差しで、教師と生徒に戻っていった。
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