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第1章 -幼女期 天敵と王子に出会うまで-
7.閑話 Side影の者 ハヤトの日常
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Side 影の者
俺はバジル家に仕えている影、名をハヤト。歳は16だが舐めてもらっては困る。これでも幼い頃から訓練を受けてきた、その道のプロだ。ガンディール様に仕えている先輩方には「まだまだだ」とか言われるが、あの人たちは俺が慢心しないように鼓舞してくれているのだろう。そんな必要ないのに。ちょっとは褒めてもいいと思う。
そんな優秀だが身の丈を知っている俺は、なぜか当主ではなく、ましてやご長男でもない、まだ赤子のリリーナ様の影に任命された。
それを聞いた時は、大変不躾ではあるがこの屋敷の影長に抗議した。
この国で“影”という存在は、“表に出て正々堂々と戦うことが出来ない卑怯者“と侮蔑されている。歴史の中で、我々影は重要な任務や役割を担ってきたというのに。ただ、その任務などは秘密裏に行われることが多く、大衆の目に映らなかったが。
目に見える華々しいものを美徳とするこの国の人々には呆れる。そんな中、ガンディール様は違った。他では忌避され、先の大戦以降行き場を無くした我々を引き入れ、他の兵士と同じようにいや、それ以上に重宝してくださっている。
「使えるものは何でも使う。能力があるものをなぜ使わない?俺には理解できんな。」
ガンディール様のお言葉に救われた。能力を評価し、歴史を認めてくれた。幼いながらに俺はこの人の為に働き、死のうと思った。
なのにガンディール様でなく、ましてやいずれ継がれるエディール様でもない、リリーナ様のお付という事実が、どうしても受け入れられなかった。
そもそも、貴族の子息に影という見えない護衛を付けるのは一般的だが、家を継ぐ予定のない女児に影を付けるなど前代未聞である。必要性を感じない。
あの合理的で常識にとらわれないガンディール様が、こんな無駄なことをするだろうか?理解できないのは、俺の修行が足りないせいだろうか・・・。
結局抗議は受け入れられず、俺は生後6ヵ月のリリーナ様のお付になった。
決まってしまったのであればしょうがない。俺は全身全霊で任を全うするまでだ。真面目に仕事をして、評価されてゆくゆくはガンディール様付きになることを目標に頑張る。
リリーナ様は病弱とのことだったので、万一にそなえベビーベットでの状況も把握できるように、屋根裏から見守る。
・・・・初めて見た時にも思ったが、リリーナ様は将来がめちゃくちゃ楽しみな容姿をされている。さすがエマ様とガンディール様の娘様。色素の薄い天使の様な姿は、見ていて全然飽きない。赤子のお付なんて、暇でしょうがないだろうと思っていたが、あの可愛らしい姿を見ていたら気づけば時間が過ぎている。この間なんて、朝日を浴びた天使を見て“今日も頑張るぞ”と思ったら交代の者が来てビビッてしまった。(夜間は手の空いている影が交代で護衛している)
(あ、また奇妙な踊りをしてる。)
リリーナ様は最近とても活発だ。あの様に指しゃぶりをしながら両足をうごうごと動かしたり、前よりもよく喋るようになった。この間なんて、エディール様のお名前を呼ばれており、エディール様は小一時間ほど興奮が収まらなかった。
「リリー!今度は“エディ兄さま大好き”って言って!!」
とずっとリリーナ様に引っ付いており、乳母のマリア様を困らせていた。
・・・・・自分もいつかあの可愛らしいお声で呼んで下さるだろうか。“ハヤト”は中々言いやすい名前だと思っているので、ひそかに期待している。・・・・いやいやいや、自分は陰ながらの護衛だ。ましてや将来的にはリリーナ様のお付を離れる身だ。そんな贅沢な願いなど・・・・。
悶々と考えていると、お昼の時間になったのか、料理長のザインが離乳食を持って部屋に入ってきた。後ろにメイドが睨んでいるのが見える。
(あのオヤジ料理長は、また勝手に持ってきたのか。)
初めはリリーナ様に近づこうともしなかったくせに、リリーナ様が拒否されないからと調子に乗って・・・。従者内で毎食ごと、誰が食べさせられるか血を見るほどの争いをしているというのに、あのオヤジは自分が作ったものをシレッと自分で持っていくようになったのだ。
本来サーブするのも、世話をするのも料理長の仕事じゃないのに。きっかけを作ってしまったメイドのレイナですら後悔しているほど、頻繁にリリーナ様へ餌付けしている。そう、お世話ではなく餌付けだ。ヤツは知らないだろうが、リリーナ様が食後お眠りになられた時に呟いた言葉を、俺はしっかりと聞いた。
「この調子でお嬢の舌を育てて“ザインの料理しか食べたくない”って言われるように頑張っちゃうぜ~♪」
ふんふ~んっ♪とスキップしながら出ていくのを、蛆虫でも見るかのように見送った。煩悩の塊の様な男だ。
彼の料理は確かに美味い。バジル家に仕えてよかったと思うランキングTOP10にいつも入っているほど、影の者にも人気が高い。彼の料理には感謝しているが、リリーナ様の教育上少しでも悪いと感じたら、容赦はしない。とりあえずブラックリストに載せておき、ガンディール様へ報告できるようにしている。
「お嬢~♪今日も新作作ってきたよ~♪」
いつもの悪人面はどうしたと言いたいほど、しまりのないデレデレとした顔でリリーナ様に話しかけている。クソほどムカつくのはなぜだろうか。イライラしながら見守っていると、ドア付近が騒がしくなってきた。
バンッ!と開いたドアから、エディール様が現れた。
「リリー!兄さま来たよ!!」
「ぼ、坊ちゃん、お勉強はどうしたんですか?」
「先生の体調が悪いみたいで今日は終わったよ!あっ!リリー今からご飯なの?兄さまが食べさせてあげるね!」
エディール様はそう言ってザインが持っていた匙と離乳食を奪った。
「坊ちゃん!自分が食べさせますんで!坊ちゃんもおやつにしましょ?!ね?!」
「いいよ、さっきご飯食べたばっかだもん!リリーの世話は兄さまがするの!」
エディール様はリリーナ様が“エディ”と話せるようになって、今度は“兄さま”と呼んでもらう!と張り切っておられる。リリーナ様と接するときは、「兄さま」という様になった。
(エディール様も成長なされた。)
リリーナ様が生まれる前は、やんちゃ坊主であったのに。目を離したらすぐにいなくなったり、毎日どこで何をしているのかと思うほど洋服を泥まみれにしていた。年齢が一番近いからと、よく捜索やお相手に駆り出されていたなぁ。
しみじみとエディール様の成長を感じながら、ザインに向けて“ざまぁみろwwwww”と笑う。よく見ると、先程まで恨めしそうにザインを見ていた従者たちも同じように嘲笑っていた。
ふとリリーナ様を見ると、“きょとん”と大きなお目目をパッチリ開け、エディール様とザインのやりとりを見ていた。やっと食べられると分かったのか、エディール様に向かってキャラキャラと笑っている。
そんな天使なリリーナ様を見て、落ち込んでいたザインが復活し、嘲笑っていた従者たちが柔らかい笑顔を浮かべていた。
下の様子を見て、案外この任も悪くないな、と感じていた。
・・・・・・自分も笑みを浮かべていると気付かずに。
俺はバジル家に仕えている影、名をハヤト。歳は16だが舐めてもらっては困る。これでも幼い頃から訓練を受けてきた、その道のプロだ。ガンディール様に仕えている先輩方には「まだまだだ」とか言われるが、あの人たちは俺が慢心しないように鼓舞してくれているのだろう。そんな必要ないのに。ちょっとは褒めてもいいと思う。
そんな優秀だが身の丈を知っている俺は、なぜか当主ではなく、ましてやご長男でもない、まだ赤子のリリーナ様の影に任命された。
それを聞いた時は、大変不躾ではあるがこの屋敷の影長に抗議した。
この国で“影”という存在は、“表に出て正々堂々と戦うことが出来ない卑怯者“と侮蔑されている。歴史の中で、我々影は重要な任務や役割を担ってきたというのに。ただ、その任務などは秘密裏に行われることが多く、大衆の目に映らなかったが。
目に見える華々しいものを美徳とするこの国の人々には呆れる。そんな中、ガンディール様は違った。他では忌避され、先の大戦以降行き場を無くした我々を引き入れ、他の兵士と同じようにいや、それ以上に重宝してくださっている。
「使えるものは何でも使う。能力があるものをなぜ使わない?俺には理解できんな。」
ガンディール様のお言葉に救われた。能力を評価し、歴史を認めてくれた。幼いながらに俺はこの人の為に働き、死のうと思った。
なのにガンディール様でなく、ましてやいずれ継がれるエディール様でもない、リリーナ様のお付という事実が、どうしても受け入れられなかった。
そもそも、貴族の子息に影という見えない護衛を付けるのは一般的だが、家を継ぐ予定のない女児に影を付けるなど前代未聞である。必要性を感じない。
あの合理的で常識にとらわれないガンディール様が、こんな無駄なことをするだろうか?理解できないのは、俺の修行が足りないせいだろうか・・・。
結局抗議は受け入れられず、俺は生後6ヵ月のリリーナ様のお付になった。
決まってしまったのであればしょうがない。俺は全身全霊で任を全うするまでだ。真面目に仕事をして、評価されてゆくゆくはガンディール様付きになることを目標に頑張る。
リリーナ様は病弱とのことだったので、万一にそなえベビーベットでの状況も把握できるように、屋根裏から見守る。
・・・・初めて見た時にも思ったが、リリーナ様は将来がめちゃくちゃ楽しみな容姿をされている。さすがエマ様とガンディール様の娘様。色素の薄い天使の様な姿は、見ていて全然飽きない。赤子のお付なんて、暇でしょうがないだろうと思っていたが、あの可愛らしい姿を見ていたら気づけば時間が過ぎている。この間なんて、朝日を浴びた天使を見て“今日も頑張るぞ”と思ったら交代の者が来てビビッてしまった。(夜間は手の空いている影が交代で護衛している)
(あ、また奇妙な踊りをしてる。)
リリーナ様は最近とても活発だ。あの様に指しゃぶりをしながら両足をうごうごと動かしたり、前よりもよく喋るようになった。この間なんて、エディール様のお名前を呼ばれており、エディール様は小一時間ほど興奮が収まらなかった。
「リリー!今度は“エディ兄さま大好き”って言って!!」
とずっとリリーナ様に引っ付いており、乳母のマリア様を困らせていた。
・・・・・自分もいつかあの可愛らしいお声で呼んで下さるだろうか。“ハヤト”は中々言いやすい名前だと思っているので、ひそかに期待している。・・・・いやいやいや、自分は陰ながらの護衛だ。ましてや将来的にはリリーナ様のお付を離れる身だ。そんな贅沢な願いなど・・・・。
悶々と考えていると、お昼の時間になったのか、料理長のザインが離乳食を持って部屋に入ってきた。後ろにメイドが睨んでいるのが見える。
(あのオヤジ料理長は、また勝手に持ってきたのか。)
初めはリリーナ様に近づこうともしなかったくせに、リリーナ様が拒否されないからと調子に乗って・・・。従者内で毎食ごと、誰が食べさせられるか血を見るほどの争いをしているというのに、あのオヤジは自分が作ったものをシレッと自分で持っていくようになったのだ。
本来サーブするのも、世話をするのも料理長の仕事じゃないのに。きっかけを作ってしまったメイドのレイナですら後悔しているほど、頻繁にリリーナ様へ餌付けしている。そう、お世話ではなく餌付けだ。ヤツは知らないだろうが、リリーナ様が食後お眠りになられた時に呟いた言葉を、俺はしっかりと聞いた。
「この調子でお嬢の舌を育てて“ザインの料理しか食べたくない”って言われるように頑張っちゃうぜ~♪」
ふんふ~んっ♪とスキップしながら出ていくのを、蛆虫でも見るかのように見送った。煩悩の塊の様な男だ。
彼の料理は確かに美味い。バジル家に仕えてよかったと思うランキングTOP10にいつも入っているほど、影の者にも人気が高い。彼の料理には感謝しているが、リリーナ様の教育上少しでも悪いと感じたら、容赦はしない。とりあえずブラックリストに載せておき、ガンディール様へ報告できるようにしている。
「お嬢~♪今日も新作作ってきたよ~♪」
いつもの悪人面はどうしたと言いたいほど、しまりのないデレデレとした顔でリリーナ様に話しかけている。クソほどムカつくのはなぜだろうか。イライラしながら見守っていると、ドア付近が騒がしくなってきた。
バンッ!と開いたドアから、エディール様が現れた。
「リリー!兄さま来たよ!!」
「ぼ、坊ちゃん、お勉強はどうしたんですか?」
「先生の体調が悪いみたいで今日は終わったよ!あっ!リリー今からご飯なの?兄さまが食べさせてあげるね!」
エディール様はそう言ってザインが持っていた匙と離乳食を奪った。
「坊ちゃん!自分が食べさせますんで!坊ちゃんもおやつにしましょ?!ね?!」
「いいよ、さっきご飯食べたばっかだもん!リリーの世話は兄さまがするの!」
エディール様はリリーナ様が“エディ”と話せるようになって、今度は“兄さま”と呼んでもらう!と張り切っておられる。リリーナ様と接するときは、「兄さま」という様になった。
(エディール様も成長なされた。)
リリーナ様が生まれる前は、やんちゃ坊主であったのに。目を離したらすぐにいなくなったり、毎日どこで何をしているのかと思うほど洋服を泥まみれにしていた。年齢が一番近いからと、よく捜索やお相手に駆り出されていたなぁ。
しみじみとエディール様の成長を感じながら、ザインに向けて“ざまぁみろwwwww”と笑う。よく見ると、先程まで恨めしそうにザインを見ていた従者たちも同じように嘲笑っていた。
ふとリリーナ様を見ると、“きょとん”と大きなお目目をパッチリ開け、エディール様とザインのやりとりを見ていた。やっと食べられると分かったのか、エディール様に向かってキャラキャラと笑っている。
そんな天使なリリーナ様を見て、落ち込んでいたザインが復活し、嘲笑っていた従者たちが柔らかい笑顔を浮かべていた。
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