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超能力と不思議パワー、交わる

戦闘開始、そして……

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 そして、戦闘が始まる。
 一方的にも思える戦力差にさすがの二人も動揺を隠せず、初動が遅れてしまう。
 しかし敵兵は戦場で生きてきた者たち。鍛錬の度合いが違うのだ。土田一行が現れたのだといち早く認識した者から、着々と不思議パワーを解放して戦闘態勢に入っていく。
 
 だが、最初に動いたのはまさかの味方の方のおっさんだ。敵の方のおっさんが最も少ない方向へと駆けるが、それは愚策だった。敵の攻撃の手が迫る。最初にターゲットと認識されてしまったのである。
 迅速に対応してきた敵兵の一人は、当然その進路上に立ちふさがり殴打の体制に入った。
 しかし、土田はそれをカバーする。異様に早い足でおっさんを追い越すと、不思議パワーを纏った拳で敵兵を吹き飛ばす。どうやら、葛藤も消え、完全に戦闘態勢に入ることに成功したようだ。ブランクはあれど、彼とて戦場で生き残った人間の一人なのだ。
 おっさんの前に躍り出ておっさんに前後を挟まれる土田。そんな彼のことをメインのターゲットにしている彼らは、早々に土田へと狙いを定めた。周囲の敵が一斉に集まって来る。

「シンヤ・ツチダ! 邪魔をす――」

「どけ!」

 あっさりと一人を排除した土田だったが、如何せんその戦力差は否めず、あっという間に多勢に無勢となる。打開策は、力技しかないのだろうか。
 ここで動いたのは、高梨だ。

「土田、飛んで!」

 その声に反応した彼が地を蹴って上空に避難すると、すかさず上昇する力にブーストが掛かったことがわかった。明らかに土田が想定していたスピードを超えている。
 高梨は、土田のサポートとして重力操作レビテーションを選択した。
 そして一瞬で目の前から消えた土田を目で追おうとした集団に、高梨の次の一手が突き刺さる。強力な念動力サイコキネシスを行使したのだ。
 人間の四肢を引き裂かんばかりの出力を込めた一撃は、土田を取り囲んでいた全員に等しく襲い掛かった。圧倒的な出力だが、高梨は驚愕した。ここまで固い敵に使ったことはなかったのである。
 とはいえ、その攻撃は有効で、完全に身動きが取れなくなった敵兵団。既に天井を蹴って効果の範囲外にまで避難していた土田は、その力に畏怖を覚えた。
 土田が次に取った行動は、高梨のサポートだ。
 彼の目に映ったのは、高梨に迫り来る新たな敵だったのだ。

「くっ……硬い!」

「邪魔をするな、小娘」

 しかし、背後からの襲撃者によって高梨の念動力に対する集中力が切れて、霧散する。集中力が出力に変わる彼女の超能力は、一度に複数の作用を起こすのは非常に難しい。
 その彼女を襲った男の体には、衣服が纏われている。体には、土田と同じようなオーラが纏われていた。この不思議パワーも、本来ならば体外にまで干渉することは出来ないが、高い戦闘能力を持つ者のみが可能とする高等技術であることが示されたのだ。

重力操作レビテーション!!」

 間一髪で重力操作が間に合い事なきを得た彼女だったが、土田から聞いていた話をここで思い出し、愕然とする。襲い掛かって来た者だけではない。集団の奥に構えていたのは、いかにも強そうな屈強な男たちだ。
 そして、衣服を纏った者が三人もいることに気付いてしまう。

「高梨ぃ! 下がってろ!」

 土田が強烈な気合と共に幹部へと殴り掛かった。しかし、拳は空を切る。
 それもその筈で、周囲の敵が多すぎるのだ。一人では限界がある。無数の攻撃が彼らに迫る。
 すぐさま全方位からの攻撃を重力操作による浮遊で回避した彼ら。
 しかし、逃げ場は殆どなく、遂には倉庫の端まで追いやられてしまった。
 いつしか、敵兵達はおっさんに目もくれずに二人を狙うようになっていた。脅威ではないと判断したのだろう。

「諦めろ、シンヤ・ツチダとその協力者よ。貴公らに勝ちの目などありはしない」

 そう言いながら敵兵達の間を通り抜けて現れたのは、強者特有の強靭な肉体と
尊大な物言いだ。明らかに前日に戦った幹部よりもランクが上であることを見抜いた土田は、この緊急事態への打開策を見出すことで頭が一杯だった。
 せめて二人は逃がしてやらなければ、と漢の気合を入れる。

「二人とも、逃げろ。ここは俺に任――」

「何カッコつけてんの? いいから、やろうよほら。全員叩きのめしましょう。そして私たちのグータラ生活を取り戻すのよ。こんな筋肉ダルマに負けてらんないし」

「つちだ、わたしはむこうでみてる。まけるな」

「……よし、やるか」

 この状況でも戦意を失わずに自信満々の高梨有里沙。これにはもちろん、ある程度の根拠があった。
 高梨には、秘策があるのだ。一同驚愕、奇想天外の作戦を解き放つ。

発火能力パイロキネシス!!」

「……お、お前それは、バカか! バカだったのかてめぇ!」

「き、貴様なんということを! ありえんぞ!」

 敵味方問わず一斉に非難を浴びた彼女は、悪びれもせずに言い放った。そして高梨が巨大な火球を上空に漂わせ、脅しを掛ける。その目は本気だ。燃えやすいものだらけのこの倉庫でそんな技を放とうとしている彼女に、場の全員が戦慄の目線を向けた。
 そして高梨は集中力を高め、脳に負担は掛かるが背に腹はかえられぬと、念動力を放った。鼻血が垂れ、唇を伝う。そんなことはお構いなしに入口のドアを念動力で捻じ曲げてロックを掛けると、鼻血を拭う。
 鼻血を出した恥ずかしさでいささか羞恥を覚えた彼女だが、久々に強力な力の発現を成し遂げたので、テンションが高くなっていた。

「さあ、死にたくなければ投降しなさい。もう入口は閉じたし、あんたら、私たちと一緒に死にたくないでしょ?」

 鬼だ。そこには戦闘の鬼がいた。勝つためならどんな手段もいとわない、異世界でも鬼のような女だと噂された戦闘者が、ここに蘇ったのだ。

「……正気か? このような者がこの世界にいるとは思いもよらなかった」

「でしょう? 私たちをあまり舐めないでよね」

「こいつマジかよ。正気の沙汰じゃねぇな」

 キッと土田を睨み付けた彼女。だが、土田に手招きして呼び寄せた高梨が、ぼそりと耳元で呟く。

「……あんたは、その力を溜めといて。火は放つから」

 怖い。率直にそう思った土田であった。なにせこの女、倉庫内に爆炎を解き放とうとしているのだ。敵の幹部ですら、火には弱く抵抗できない。生物とは、火に弱いのだ。

「致し方あるまい。全員、腕を下せ……」

「せい!」

「き、貴様バカなのか!? 自分も死ぬことになるのだぞ!」

 高梨は、ありったけの出力を込めた炎を解き放った。敵の中心に吸い込まれるように着弾した火球は、一蹴にして全てを焼き尽くす。それ程の業火を生み出した彼女が余裕を見せているのには、当然ながら理由がある。
 
 戦場においては致命的ともいえる隙を晒した連中に、高梨有里沙の策が光った。

「土田、今!」

「おう! ……おらあぁぁぁぁ!! くたばりやがれ!」

 土田は、全身全霊の気合を肉体に入れて不思議パワーを極大まで高めていた。火への根源的な恐怖にとらわれていた敵は、土田の高まる力に、気付くのが大分遅れることになったのだ。
 力を解放した土田は、全速力で敵兵達を狩っていく。
 凄まじいスピードと流麗な攻撃動作に、翻弄されるばかりの兵団。
 気付けば、敵は最早幹部の二名のみだった。
 しかし、灼熱地獄と化した倉庫内は、今すぐにでも炎が全体を覆ってしまう可能性があるほどの被害を受けていた。このままでは、全員焼け死ぬだろう。

「あちぃ! おい、本当に消せるんだろうな!」

「任せなさい、操水能力ハイドロキネシス!」

 高梨が発動したのは、水を自在に生み出し、操作する超能力だ。彼女の手によって生み出された大量の水が、一気に炎へと降りかかる。
 炎を包み込むように操られた水流が、あっという間に全ての炎を鎮火していく。彼女は本当に便利で、万能な超能力者だ。異世界にも、ここまで万能な能力者はほとんど存在しないのだ。

 しかし、油断が、遂に油断が生まれてしまう。残りわずかとなった敵に、策はないと踏んだのだろう彼女は意気揚々と腕を突き上げて喜びを表していた。

「はっはー! どんなもんよ……」

「高梨!」

 幹部は死んでなどいないのだ。
 強力な蹴りが彼女に直撃する。吹き飛んだ彼女は、動く様子がない。

「一人……獲った! 次は貴様だ、シンヤ・ツチダ!」

「クソっ!」

 二人の幹部は、生き残っていた部下と共に土田に飛びかかって来る。いくら土田といえども、これだけの強者を複数人相手にするのは厳しい。まさしくピンチというほかない状況に追い込まれた土田。
 だが、いつの間にか高梨の元までたどり着き彼女をおぶったおっさんが言う。

「……まずい、このまま、やられる……つちだ、こい!」

「いつの間に……!」

 これまで静観していたおっさんが遂に動いた。その策とは一体。
 ゲートまで移動して来た三人は驚愕セリフを聞くことになる。

「げーとに、はいる! いまならとおれる!」

「ば、お前何を! 俺は……まさかこれは!?」

 おっさんがゲートに触れると、これまで拒絶されていたゲートが土田を受け入れるように広がった。空間に黒く広がったその異形が、土田を受け入れていた。
 そして、吸い込まれる。後には、敵の幹部しか残らなかった。

――

「イテテ……見覚えがあるな、ここはよ」

 土田が周囲を見渡すと、そこには荒れ果てた荒野が広がっていた。かつて彼も参加したとある戦争が行われていた地域で、元々あった自然は完全に死に絶えていた。死の大地だ。

「ていうか……大丈夫か、高梨。生きてっか?」

 気絶していた高梨は起き上がった。咄嗟にバリアを展開したことで、間一髪、無傷で済んでいたのだ。ダメージ自体はなかったが、衝撃を完全に殺すことが出来ずに、大きなダメージを受けた判断した彼女の脳は、意識を落とすことを選択していたのだ。通常ならあり得ないが、彼女の脳は特別だった。

「大丈夫だけど……ここどこ?」

「あー、すまん。咄嗟に飛び込んじまった。ここは異世界だ」

「は?」

「いやだから、ここは異世界……うおっ、アブねぇな!」

 高梨は自分が異世界にいるのだということを完全に認識した瞬間、途端に土田をはたこうとしたのだ。

「あ、あんたこんな所まで連れて来て、帰れるんでしょうね!」

「ふたりとも、きたぞ!!」

 おっさんが気付いたのは、時空間を切り裂き、ゲートが出現したことだ。
 地球に、日本に置き去りにしたはずの敵幹部が、元の世界へと帰還して来たのだ。

 折角逃げおおせたのにすぐに追いつかれたことに、おっさんと高梨は剣呑な表情を浮かべた。このままでは――

 だがしかし、土田だけが、一人不敵な笑みを浮かべていた。

「こりゃあピンチだ、と言いたいところだが、違うな」

「は? あんた何言って……ちょっと!」

「高梨、ひとまずよくやったとでも言っておくぜ」

「こ、この状況で何言ってんのよ!? 帰れなくなったらどうす――」

「まあ、見てな」

 一方的に会話を終わらせて敵勢力の前に一人躍り出た土田。

「お前ら、震えてるじゃねぇか? どうした、さっきまでの威勢は」

 そう、敵幹部たちは一同を追いかけてきたはいいものの、いつしか土田を見て、脅えたような視線を向けていたのだ。

「き、貴公、なんだそのパワーは。それではまるで……」

「お前らの親玉みたい、だろ?」

 その土田の肉体には、これまでとは違い二種類の力が宿っていた。
 土田に元々備えられていた不思議パワーは、強力なものだ。それだけで、敵の幹部クラスとも渡り合える。しかも、異世界ではそれがより強力に発現されるのだ。大気中に漂う不思議パワーを吸収できるのが、彼本来の強みだ。それによって、自身の限界を超えた戦闘能力を手にすることが可能だ。

 だが、敵兵たちが驚いているのは、それだけではなかった。雑魚クラスの兵隊は確証を得られていなかったが、幹部は早々に気付いた。
 これは、我々の大将が用いていた力だと。

「お前らの親玉がくれたんだよ、死に際にな。強い者が持つことこそが相応しい、とか言ってたな」

 腕を回し、足先をほぐしていく土田。それを見ていることしかできなかった場の全員が気付く。
 その不思議パワーはこれまでの数倍にまで高まっていた。

「じゃあ、あばよ」

「ま、待て……!!」

 土田の腕が振るわれる。凄まじい規模と威力の衝撃波が発生すると、敵は一瞬で遠方まで吹き飛んでいく。広大な荒野にも関わらず、あっという間に見えなくなった敵達を呆然として見つめていた高梨とおっさん。
 後には、何も残らない。
 
「俺達の、勝ちだ!!」

 高らかに宣言した土田は、無傷で勝利を収めたのであった。
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