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 翌日、加琉音は通っている高校の正門で、凛音を待ち構えていた。

「痛ってーなぁ、チクショウ……」

 加琉音は手の甲に軽い傷を負っていた。性欲を抑え込むため、無意識的にかきむしっていたからだ。オナニーをしようとしては諦めるという地獄を経験したからこその、勲章のような傷。全ては凛音と性交するため。

 だがそんなことでは策など練られるはずもなく。

 結局、まともな策など思い当たらず真正面から突っ込むことにしたのだったが。
 しかし、朝、それも登校の時間帯から門の前に立っている者など早々いるものではない。加琉音の存在はそれなりに目立っていた。彼はイケイケのグループに目を付けられる可能性を考慮し始め、若干の焦りを見せ始めていた。

「早く来いよ……おっ」

 その矢先、正門から右方向、加琉音が待ち望んでいた九条凛音は、一人の友人を引き連れて登校して来た。
 これまで加琉音を気にしていた周囲の生徒などは、最早彼のことなど気に留めていなかった。

 無化粧でも当然のように保たれている端正な顔立ちは見る者を引き付ける。
 艶のある長い黒髪。
 大きく丸い綺麗な瞳。
 胸部には二つの大きな膨らみがあり、華奢な体に不釣り合いなほどだ。
 スラリと伸びた足から覗く健康的な太ももが際立つ、170以上はあろうかという長身。ストッキングとスカートの間からわずかに覗く肌色が、より太ももを引き立たせている。
 完成された美しさを持つ若き女性がそこにはいた。九条凛音その人である。
 連れの女性と凛音の二人が並び立つ姿は非現実的とも言える光景だった。
 凛音から才花と呼ばれているお連れも、非常に顔面偏差値が高い。
 健康的に焼けた肌は、彼女の元気の良さがはっきりと表にあらわれているよう。
 ボーイッシュですらあるほどに短い髪が、引き締まった体躯をさらに際立てる。控えめな胸部も、全体のバランスを考えれば妥当なサイズである。
 男性諸氏に至っては、そこかしこに性的な魅力を感じるであろう二人組。彼女達は楽しそうでもあり、それでいて余人を寄せ付けない不可侵の空気すら纏っていた。
 加琉音がある時期から凛音と距離を置き始めたのは、そのあたりに原因がある。幼少期ならともかく、現在では容姿や能力に大きな開きが出てしまったのだ。スクールカーストの悪夢に苛まれ、かつての元気をなくした加琉音はいつしかメインストリームから外れた物ばかりを性的に好むようになり、彼女に会うだけで勃起してしまう始末。
 猿のようなはつらつな性欲は思春期の男子を暗黒の道へと引きずり込むことすらある。つまり、加琉音は陰側の存在であるということだ。

 凛音が近付いて来たのを確認した加琉音は覚悟を決めた。

「よ、よう凛音。久し振りだな」

 過去数年間、まともに口を利いていなかった高嶺の花に馴れ馴れしく話しかける様を見て、周囲にいた何人かの生徒が驚きを隠せなかった。
 立派なスクールカースト下層に位置する一介の生徒でしかない加琉音が、学校最大の美女コンビと話しているのだ。驚くのも無理はないだろう。
 突如行われた声掛けに反応した才花は、怪訝な表情で加琉音を見ている。

「……凛音、こんなのと知り合いなわけ?」
「うん。えっとね、お家が隣なの。子供の頃はよく遊んでたんだ」

 これを聞いた才花は、興味もなさそうに軽く鼻をならして加琉音を睨み付けた。彼女の真意は不明だが、恐らく冴えない男が凛音と話している所を見たことがないゆえに出て来た興味であろう。
 幼なじみという特異な関係を想像し、俄然、加琉音への興味が湧いて来た彼女であったが――

「才花くん、よくノコノコとやって来れたものだな」
「げっ、ハゲ島!」

 いつの間にか背後にやって来ていた、ハゲ島と呼ばれる教員が才花の方にポン、と手を置いたのだ。

「やば、朝練サボったの忘れてた! ごめん凛音、あたしは逃げる!」

 走り出した才花。
 トップスピードに到達するまでの時間は僅か、老いた陸上部の顧問では追いつけるはずもないが、必死に食い下がって行った。

「こら、待ちなさい! あと、俺はハゲてなどいない、言いがかりはよせ!」

 そんな茶番を目にしながら加琉音が呆気にとられていると、彼にとっては望ましい展開となる。
 凛音から話しかけて来たのだ。

「あれ、加琉音ケガしてるよ。手の甲のところ」
「え? ああこれは今朝――おっと、なんでもない」

 説明しようとした直前で、加琉音はなんとか自制することに成功した。まさか目の前にいる本人を思いオナニーをしようとしたが、ある通知の存在からなんとか我慢しました。そして、負傷しました。
 などと言えるはずがない。

「そんなわけないよ。ほら、見せて」
「えっ、ちょっ」

 フワリと、いい香りが加琉音を包んだ。

 加琉音の手に、凛音の滑らかで透明な手が重ねられたのだ。
 柔らかく、透き通った手が。それだけで加琉音の脳内は性欲にまみれてゆく。
 そして加琉音の脳内には、昨夜の妄想がフラッシュバックしていた。
 ベッドの上で手を握られて、そのまま二人は絡み合いシーツの上へとなだれ込む光景が。
 そこから先は、愛しの彼女からの口淫が……と再び進行する脳内妄想。性的な妄想は留まることを知らず、気付けば加琉音は盛大に勃起をしそうになる。

 しかし目前の光景を目にしてはそうもいかない。

 加琉音には見えたのだ、一瞬ではあるが凛音が発光したのを。その光は、加琉音が昨晩見たアプリの発光と同じ色をしていた。

 加琉音はその後、凛音に絆創膏を貼ってもらい別れた。

「あの光……見間違えじゃないよな」

 そして呆けたような気持ちのまま一日の授業をこなし、加琉音は帰宅した。



 一週間が経過した。

 この一週間で、加琉音の性欲は爆発寸前まで高まっていた。無事にミッションの条件を全うしたのだ。偉い男である。

 それが功を奏したのであろう。

 日曜日の朝、加琉音はなんとなくテレビを付けた。リモコンの電池が切れかかっていることに気付き電池を探すと、見たこともなければ、当然身に覚えのないコンドームを見つけたのだ。
 ご丁寧に、小さめのサイズのゴムであった。

「やかましいわ、短小で悪かったな。しかし、これは……」

 この辺りで加琉音の疑念は確信に変わっていく。
 “なんとなく”家中を探していると、ローション、リモコンローター、アナルプラグなど、多種多様な性具が各地で見つかったのだ。
 着実に本番を迎えるために必要なアイテムが揃っていく様は、加琉音自信まるでゲームの世界のようだと感じていた。
 ミッションが受け渡され、それをクリアするために必要なアイテムを集めているかのようだと。

 極めつけは、来訪者を告げるチャイムの音だった。

 加琉音が居間のソファーから立ち上がり、備え付けのモニターで相手を確認した。
 そこにはやはりというべきか、九条凛音の姿があった。

「マジかよ……」

 加琉音はこの時、偶然にもアプリを手に入れたことに多大なる感謝をした。

「なんだかわからねぇが、ツイてる」

 加琉音の頭の中に、極々小さな音で『ミッション・コンプリート』という声が聞こえた。

 そして加琉音は、凛音を迎え入れるべく玄関のドアを開いたのだ。
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