誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
446 / 454
番外編 眠り狂犬と暴君王子

02(side三初)

しおりを挟む


「ね……先輩、なにが好きなんですか?」
「なにって……そりゃ、好き……冬賀だ、ろ……」
「…………」

 ピクッ、と無意識に片眉が上がった。

 手を強く握ると、反射的にかもしれないがやんわりと握り返してくる。その甘ったれに免じて、不問にしてあげることにした。

「どういう好きなのかねぇ……」
「冬賀は……ともだちでよ……チョコのともだち……だか、好き……」
「そ?」

 手の力を緩める。
 チョコをくれる友達だから、赤毛の友人が好きらしい。

 緩めてもにぎにぎとしてくるので、その手を引き寄せて頬に当てた。

 熱い手だ。この人は自分より体温が高い。触れていると心地よく、もっと熱くさせたくなる。

 予想したものと好きの種類が違ったので、機嫌よく指先にキスをし、ゴロゴロとすりつく。

 三初は年季の入った天邪鬼であるからして、ギャラリーもなく本人に伝わらないのであれば、スキンシップが好きなのだ。特にキスが好きだ。

 意味はないが触れていたい。飽きたら離れる。勝手に触られるのはノーサンキュー。相手の都合はどうでもいい。

「おしゃべり、しようか」
「しようかよ……うぅん……」

 ごつい指にまとわりつく飴細工じみた爪に軽く歯を立てて、噛み付くふりをして笑った。

 三初の取扱には細かなルールがある。
 御割はほとんどそれを無視できる、奇特な存在だった。……特別、とも言う。

「周馬先輩は、友達ね。じゃあ他は? 最近近くにいた人、どう思う?」
「あぁ……? ほか……あー……出山車、かわいい……」
「なるほど。それはどういうかわいい?」
「かわ……狸、みてぇ……あと、弟……」
「年下でペットな存在か。犬が狸飼ってもねぇ……釘は刺さなくていいか。他はどう?」
「犬がたぬ……ぁ、ん……あれ、中都は……わけわからん……でも、かわい……いいやつだよ、なぁ~……」
「あらら。あれもかわいいの? うぜぇけどなぁ。好きじゃないですか?」
「すき……ちげぇし……」

 御割の手の甲に頬を寄せて、むにゃりと緩む寝顔を観察する。

「んっ……俺は、三初が……」
「ん? 俺?」

 自主的に自分の名前が出され、首を傾げた。先を促す前に語り始めるとは、飼い犬らしいことである。

「三初……が……」
「俺がなに?」

 そう尋ねる声が微かに弾んでいることを、眠っているこの人は気づいていない。

 御割は「うぅん……」と唸り、眠たげに身をひねって三初の首を抱き込むように腕を伸ばした。

「も、っるせぇなぁ……」
「っと」

 逞しい腕に捕まえられたせいで、マヌケな寝顔が至近距離にやってくる。

 強面と言われるに値する太い眉に三白眼、凶悪な口元が、ゆるりとやわらぐ無防備な寝顔。

「俺は三初が一番好きなんだから……ガタガタ言うんじゃねぇよ……」

 ……やはり、さっさと両手を縛っておくべきだった。

「……はぁ……」

 御割の寝顔を前に、三初は心底そう思って、静かに深いため息を吐いた。

 眠っている時ばっかりストレートに表現してくるこの人の言葉は、いつも心臓の内側の小さなつぶを、プチンと潰す。

 まんまと黙り込みそうになるほど効果は抜群なのだが──やられっぱなしは性にあわない。

「ね、先輩。ガタガタ言うから……もっかい言って?」
「んっ……」

 負けず劣らず天邪鬼なこちらとて、眠っている時くらいしか素直に甘えてなんかあげないのだ。

 無防備なのをいいことに好き放題御割の唇を蹂躙しつつ、三初は心で、ペロリと舌を出した。


 了


 いつも誰殴や他の作品、恐れ多くも木樫を見守って下さりありがとうございます!
 嬉しさがモコモコと湧いてくる。短い話ですが、お礼になっていれば幸いですぞ(照)
 これからも、よろしくお願いいたします!

 木樫



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R-18】クリしつけ

蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

ドSな義兄ちゃんは、ドMな僕を調教する

天災
BL
 ドSな義兄ちゃんは僕を調教する。

穴奴隷調教ショー

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 穴奴隷調教済の捜査官が怪しい店で見世物になって陵辱される話です。

僕が玩具になった理由

Me-ya
BL
🈲R指定🈯 「俺のペットにしてやるよ」 眞司は僕を見下ろしながらそう言った。 🈲R指定🔞 ※この作品はフィクションです。 実在の人物、団体等とは一切関係ありません。 ※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨 ので、ここで新しく書き直します…。 (他の場所でも、1カ所書いていますが…)

処理中です...