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第十話 誰かこの暴君を殴ってくれ!
05
しおりを挟む料理の準備が完了した後、スモッチでレースゲームをした。
配管工ブラザーズのアレだ。
かなり白熱した時間だったが、ここに関しては詳しく語りたくない。
本日の主役をもてなす気が全くない三初が周回遅れの俺の隣で並走したり、ハンデありで最下位スタートした後無敵状態で笑いながら俺を弾き飛ばしたり、とにかくあらゆる楽しみ方で俺を虐めた。
アルコール込みで負けず嫌いの俺は負ければ負けるほど熱をあげ、三初は「敗北を知りたい」だとか抜かしやがる。
「キングテレさんコラあぁぁぁぁぁッ! テメェクッペ様の部下だろうがァッ!」
「くっくっく。レースは無礼講ですから。ってかドリフト使ってくださいよ、クッペ様」
「使ってンだよ! 使ったら一回転して逆走したから今追いかけてんだろッ!?」
「それもう先輩だけ違うゲームしてんじゃないですか? 珍走選手権とか……まぁいいか。んじゃ、今から三十秒止まってあげましょう」
「その言葉後悔させてや、ッンでここにバナナァ!」
「あ、俺のです」
「うわあぁぁぁぁッ!」
数時間にも及ぶ激戦は後日リベンジすると固く誓って、終了だ。
夜になると交互に風呂に入り、まったりと過ごす。
世界一のショコラティエが作ったらしいチョコレートケーキも、じっくり一時間かけて焼いたローストビーフも、目を剥くほど美味だった。
ゲームで蓄積した恨みつらみが霧散してしまうくらいのバースデーディナー。
こういう豪華な料理をしれっと作ったりするところが、三初らしい。
今度は酔いつぶれてせっかくの記憶を失わないようセーブしながら、買い込んだフレーバーシロップでいろいろと試す。
食事とケーキを大事に食べ終わっても酒の進むつまみがあるせいで、俺の頭にはすっかり酔いが回っていた。
まだ潰れてねぇぞ? ただなんだ。ひたすら酒を飲んでいたい気分。
酔い初めと酔いどれの間のテンションだ。
「三初、シャンパン割り」
「見ての通り手が離せないんで、自分で作ってどうぞ」
「…………」
カチャカチャと洗い物を処理している三初におかわりを要求するが、あっさりと突っぱねられた。冷たい野郎だ。
仕方なく抱いていた一升瓶からグラスに中身を注ぎ、ちびちびと飲む。
見てわかる程度に赤く染まった顔をしている俺と違って、三初は多少頬が赤くとも足取りも口調もはっきりとしたシラフそのものだ。
料理を開始した時からすでに飲んでいたくせに、どういう肝臓をしているのやら。
アルコール耐性がロシア人並みだ。
こういう顔に出ないやつが突然アルコール中毒で倒れるのだろう。
(俺は……たぶんこの瓶を飲み干すと、一瞬寝落ちして、前後不覚になる気がする……)
自分のキャパシティを理解している俺は、テーブルに頬杖をついてしかめっ面で三初を睨む。羨ましい。俺も無限に飲みてぇ。
今日という一日はデートに出かけたり、高級ディナーに出向いたり、いわゆるロマンチックなバースデーではなかった。
けれど暴君である三初が俺の希望のほとんどを叶えた、レアで俺たちらしいハッピーなバースデーだっただろう。
となると、最後まで俺の希望を叶えてほしいものだ。
そう──誕生日だし一週間ぶりだし、せっかくだから三初から俺にデレデレと甘えるくらいの奇跡を起こせ、と。
もちろん俺は酔っている。酔っているが、このためにセーブしたのだ。
そこ。手遅れとか言うな。
まだ指の本数も理性も正常で、この一升瓶は俺のものだぜオラァ。
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