420 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線
44
しおりを挟む教えてもいない誕生日を覚えられていて祝われた感動が、持続しない俺たちだ。
知ってもらえていたのは嬉しいが。
この四年間のどこで仕入れた情報かは、定かではない。
一応俺は出山車との会話に出てきた日付を、少し前に唸りながら思い出したので、こいつの誕生日を知っている。
「まぁ唇はくれてやるけどよ、俺の部屋の合鍵は十月三十一日までお預けだかんな」
「ん? なんで知って、あ、あー……」
悪戯心が刺激され、ちょっとした逆襲を込めて、ニヤリと笑いかけた。
サソリ座。似合いすぎか。
俺はカニ座なので、節足コンビだ。
俺の言葉を聞いた三初は意味のない声を出して、少し間を持つ。
ややあって、いつもの人を食ったような態度を滲ませた読めない瞳で、余裕綽々と笑った。
「とりあえず、今日に生まれ直したいですね」
「アホか。別にいいだろ? 来月になっても、週末とか普通に俺がこっちくるしよ」
「ふっ、そうね。じゃあ職場では俺が虐めに行きますよ。今回コンビ変えて、愉快なストレス発散相手がすぐ隣にいたありがたみがわかったんで、ね」
「そこは仕事仲間とか恋人とかそのへんのベクトルでありがたがれストレス発生源がッ!」
もう反射の勢いで赴くままに唸る俺と、それをせせら笑ってこき下ろす三初は、軽いテンポでやり取りを交わす。
職場の先輩後輩でしかなかった頃は、まさかこんな関係になるとは、考えもしなかった。
──思えば、あれからずいぶん、俺たちの距離は縮まったようだ。
ちょうど八月の下旬ぐらいだったような気がする。ということは、そろそろ一年が経つのか。
二人一組のコンビになってから、少しずつ構い倒してくるようになった後輩。
仕事での時間の大半を共に過ごしたが、職場の後輩の域を出たことがなかった。
突然「なんか勃ったんで、ヤらせてください」なんて最低な理由でうやむやと抱かれた時は、盛大な怒りと後悔を胸に抱いたものだ。
しかし三初の構い方が変わって、素肌を触れ合わせる無防備な関係になって。
めちゃくちゃな調教やプレイを施す割に、丁寧な抱き方をするな、と思った。
料理がうまいと知った。
食べ方が綺麗だと思った。
二人で出かけて、映画の趣味が合うとわかって、くだらないやり取りをしながら話をするのが楽しいと笑った。
それから俺をよく見ている。
変化に聡いこと、意外と世話焼きなこと。
俺の短所を短所と認めた上で、俺にとってはどうでもいいですね、とアッサリ流す。
自己中心的な暴君だから、人の都合を自分本意で無視する男だ。
俺がキレても、殴っても、泣いても、空回っても、間違っても、弱っても、どうしても離れていかない。
だから意地っ張りで負けず嫌いの俺も、からかわれても、振り回されても、捕まえられても、隠されても、どうしても抗ってやる。
そんな三初は、最近ようやく、弱みを見せるようになった。
気がつけば、それほど共にいたのだ。
ドツボにハマっている。
頭まで沈んだ後になって波が引くように離されると、物足りない。
職場でも私生活でも共にいて、それをうまく噛み合わせたところ、両方で離れることになった今は、本当は寂しい気分だ。
だけど家族を含めた誰しもを自分のボーダーラインから追い出していた三初が、いつでも来ていいと言って、鍵を渡した。
それだけで、うまく言えねぇけど、離れていても離れていないってか、なんつーか。
もし後々すれ違って長い間会えなかったとしても、その時考えればいいか、って、軽く考えられんだ。
「んー……先輩」
「ンだよ」
「今日ずっと目がデレ過ぎだから、ちょっと気ぃ引き締めてください。目つぶししたくなる」
「あ!?」
だから──縮まった距離がまた遠くなっても、会いに行く楽しみがあれば、悪くない。
新たな日常をきちんと受け入れられると確信した、初めてのバースデーだった。
第九話 了
20
お気に入りに追加
1,390
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる