誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
419 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線

43

しおりを挟む


 クックック、と喉を鳴らす三初は手を伸ばし、俺の頬をムニュ、と摘んだ。

「はにゃふぇ」
「ま、一回目くらいは、それらしいもんあげようと思いましてね」
「みひゃじみぇ」
「クルージングディナーやらブランド物やらの高価なものも、ペアリングやらスウィートルームの一夜やらのロマンチックな痒いやつも、アンタは要らないですしね。だから合鍵」
「あにひゅんらっへ」
「無駄吠え。強情なのにほっぺは柔らかいな、って感じで堪能中なんで、黙ってて」
「んむ」

 人の話を聞かない上に文句を言っても一蹴され、眉間に皺を寄せたまま睥睨するに留めた。

 なんの脈絡もない行動に文句を言うことが無意味だということは、よくわかっている。

 よくわかっているし、一週間ぶりの三初にじっと見られていると、言えなくなった。

「先輩は……俺がいない時でも、家も、部屋も、好き勝手に踏み込んできていいですよ」

 機嫌よく細めている目に、優しさ的な甘みが混じっている気がしたからだ。

 素直に優しいセリフを言えない持病持ちの三初には、優しさなんて霞程度しか残っていないと思っていた。

 だから、本人じゃないからこそ、燃え尽きそうなくらいわかりやすいそれをヒシヒシと感じる。

 無自覚で無意識だろうが、このひねくれ天邪鬼野郎は、相当俺不足だったらしい。

 その結果の行動は、相変わらずいじめっ子そのものだが。

 つむじをつついたり、顔を近づけたり、顎を取ったり、そして人の頬を押しつぶしたり、よく考えるとちょっかいの頻度が爆上がりしている。

 不足分の補い方に難アリだ。
 三初の頬も引っ張ってやろうと手を伸ばすと、避けられた。

 相変わらずされるのは嫌がるアンフェアな性質にイラつき、自分の頬を摘まむ手を掴んで、力強く引きはがす。

「言われなくとも踏み荒らしてやる。先に土足で踏み込んできたのは、お前だかんな」
「だって、ね? 立ち入り禁止の場所って、不法侵入したくなるじゃないですか」
「まともな思考回路をどこに落としてきやがった性悪大魔王」

 手を掴まれても振り払うでもなく、三初はニンマリと考えの読めない笑みを浮かべるだけだ。

 けれどその目がやはり、俺にはこそばゆいような、面映いような、そういう温度を持っているように見える。

「……ンじゃ、どこでも勝手に入って踏み荒らしてろってんだ。不法侵入されるより、マシだわ」
「あらら……先輩こそ、素直にデレるスイッチをどこに落としてきたんですかねぇ……」
「うっせェ」
「あ、口貸して」
「んむぅっ」

 そっぽを向こうとした俺の顎が掴まれ、返事をする前に唇を塞がれた。

 元々ところ構わずキスをする男だが、やはりおかしい。

(と、十日ぽっちで、ンなに不足してたのかよ……ッ!)

 舌をねぶられ吸い尽くされる、気まぐれ暴君のスキンシップ補給。

 甘やかしでもなければ、甘えでもない。

 言葉と行動は相変わらずで、ただただ三初の空気が甘いだけの謎の糖分摂取。

 ダメだ。胸焼けだ。甘さを含んだ場合の愛情表現ですら、ひねくれ過ぎている。せめて言葉でデレろ。行動でもデレろ。

 目だけで伝える空気感のみが甘ったるいなんて、どんな特殊能力だ。

 それに連動してキスから解放された後の俺の顔色は、夏のトマトが青いような火照り具合だった。

「~~っ返事ぐらい聞けやッ」

 バシッ、と少々乱暴に掴んでいた手を離す。

 照れくさいじゃれ合いは、もう終わりだ。こんなことを続けると、俺の身が持たない。

「や。返事がどうでも、どうせしますし」

 俺の唇をさんざん弄んだ三初のはちみつ色の双眸は、すっかりいつも通りの色に戻っていた。

 満足したらしい。
 ……それはそれで、なんかムカつくッ!



しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...