416 / 454
第九話 先輩後輩ごった煮戦線
40
しおりを挟む「三初も俺ぐらいわかりやすくキレればいいのによ」
「…………」
固く誓った回想を終えてボソリと独り言を呟き、俺は最後に取っておいた目玉焼きの黄身の部分を一口で食べる。
「まー……、うん。不機嫌にはなっても、俺はそうキレませんから。疲れますし」
「は? ってかそういう不機嫌の威圧じゃなくて、相手がふざけた野郎の場合は、間森マネージャーみてぇにぶちのめせよ」
「ゴミ箱に顔面突っ込んでやったりですかね?」
「怒りをあらわにしすぎだろ何十年代のヤンキーだよコラ」
軽いやり取りをしながら食べ終わった食器をお盆のまま持ち上げ、シンクに下ろした。
三初は椅子に座ったまま空のコーヒーカップを渡し、「次はそうしてみようかね」と謎のつぶやきを放つ。
次ってなんだ。一回キレたのかよ。
知らねぇけど、相手が悪いなら一発キメてやれ。
自分の食器とコーヒーカップを洗いつつ、まあいいかと話を切り上げた。
「つか、なんで休み取ったんだよ」
「そうですねぇ」
洗い物を終えた後。
そもそもの理由を尋ねると、三初は立ち上がり、「先輩は今日なにがしたいですか?」と珍しく俺の意見を聞く。
その殊勝な態度に、俺は訝しく睨んだ。
普段は勝手に計画して勝手に俺を連れていく三初なのに、計画段階から俺に意見を許すなんて。
これは、なにか悪だくみをしているに違いない。
ちょうど外の散歩から帰ってきていたのか、マルイが開けっ放しのドアからリビングへやってきた。
そーっと移動してマルイを確保し、怠惰にも横向きにソファーへ腰かける。
「平和的に家でゴロゴロしつつ、癒しを重視してモフる」
「んじゃ、今渡すからマテしてて」
「あ?」
「ナーウ」
革張りのソファーでマルイと俺は、揃って首を傾げた。
三初がいやに大人しいからだ。
頭上に?を飛ばす俺の心境を知ってか知らずか、三初はサッサとリビングを出て行き、すぐに戻ってくる。
そして俺に、正方形の箱を手渡した。
シンプルだがオシャレなラッピングが施された、シックな箱だ。
「……? なんだこれ? くれんのか?」
「どーぞ」
「ありがと、よ? ……なんでくれんだ?」
しかし俺には理由が思いつかず、終始?まみれで素っ気なく渡されたプレゼントを受け取る。
そんな俺を見下ろす三初は盛大に溜息を吐き、ソファーの背もたれに身を乗り出して、グッと顔を近づけた。
(っんだよ、近い……!)
アップに耐えうる造形の顔が近づいて、思わず肩を竦める。
鼻先が擦れ合いそうな距離感に息を詰めると、呆れたジト目に貫かれた。
「今日は何月何日ですか?」
「し、七月七日だろ」
「あんたの誕生日は?」
「七月七日だろ。…………あ」
ポカン、とマヌケに口が開いた俺を見て、ようやく三初が離れる。
「記念すべき三十路の仲間入り、おめでとうございます」
「……もうちょっと祝いらしい言い方しろよ、捻くれ大魔王」
開いた口を閉じるついでに、照れ隠しの悪態を忘れないのが俺だ。
なるほど。
これで全ての辻褄が急速にカチリと合う。
三初が〝来週中に〟と念を押していたのは、今日が俺の誕生日なので、仕事を残すとせっかく取った休みを返上しなければならないからだ。
となると、何度かもの言いたげにしていたが結局なにも言わなかったのは、たぶんこう。
『……先輩、なんか……あー……』
──欲しいものは、ありますか?
ということだろう。
けれど結局三初は俺に欲しいものを聞かなかったので、この箱の中身は三初チョイスということである。
20
お気に入りに追加
1,376
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる