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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
33(side三初)
しおりを挟むなにも知らないおおらかな男の仮面を被る俺は、困ったように再度眉を下げる。
「えっ、そうなんですか? まいったな。竹本先輩や御割先輩は、二人にメニューの作り方を教えてくれなかったんですね」
「や~それがそうなんだよね~。各種作り方のラミネート渡されて、一回実演されただけで開店よ? 有り得なくない?」
「覚えられねっての! だから注文来たら、俺らができねぇのは前担がしてたってゆーかぁー? 適材適所?」
(教育済みなの知ってたけど……フローチャートラミネートと実演ありきの実践が〝教えた〟じゃなかったら、なにが教えたになるんだっていう。アホらし)
大学生にもなって頭が哀れすぎるコンビに、タマゴでも失礼な気がしてきた。
目の前にうっかり空っぽのドタマをかち割りたい願望を叶えようか血迷う大人がいることを、俺が仕事の代わりに教えてあげようかね。
もちろん冗談だ。
ジョーシキテキな大人はそんなことしない。したらうるさい先輩がいる。
けれど表向きは「そうなんですかー」と笑顔で言って、専用カップを取り出そうとする。
そしてわざとらしく、声を上げた。
「すみません。カップが切れたみたいで……ここに置いてあるのってすぐ作る用のストックですよね? 補充用のカップはどこにあります?」
「嘘! あーでも場所知らね~わ~」
「タイミング悪すぎ~。もー誰か補充しといてよ~」
「ははは。そうですかー……ウケる。アンタら、なんも知らんでなにしに来たん?」
「「えっ?」」
その返事は、引き金だ。
抑揚のない声で本音を吐き捨てた途端、空気が変わる。
ポカン、と間抜けな表情で俺を見る二人だが、男のほう、タマゴAがしどろもどろと言い訳を始めた。
「うぇ? あ、いや? 何マジになってんの? 知らねぇって別に、やったことないだけだし……」
「ぷっ。クソ忙しいのに注文一回も入らないとかある? 俺今日何十個って作ったけど? それ全部前担当に任せてたの? 過労死推奨委員会? いや、給料泥棒目的か」
「は!? そんなんじゃ、ッ!?」
だけどそれも、ノイズだ。
うるせぇな。鬱陶しい。
口にブロックアイスを詰め込みたい衝動を、押さえ込む。
「っな……!」
「……黙れ?」
「ひっ……!?」
ただグッと一歩踏み込んで、人目に見えないように相手のシャツを掴み、顔を近づけただけだ。
その一瞬が無表情だったからか、Aからは短い悲鳴があがり、離れた後も静かなままだった。そう。永遠にお黙りあそばせて。
俺はすぐそばに立つ二人によく見えるよう、手を伸ばして調理スペースのミキサーをコン、とノック。
「なぁ、そんなんじゃねーならなんのつもり。その節穴からちゃんと見えてんのかね? 答えがあるのに、なんで作れないの?」
「……っ……」
文句が聞こえないのは、質問の意図くらいは理解できたからだろう。
ここの調理器具からトッピングの入れ物から、全部、メニューごとに分量や使い方のメモがテプラで貼ってある。
テープが切れたのか、一つだけ手書きのものがあった。見覚えのある、御割先輩の字。
これらはコミュニケーションがうまくできなくて初期教育に躓いた先輩が、恐らくひっそりと作成したものだ。
大きな背中を丸めて、ちまちまとテプラを打つところを想像すると、自然と舌打ちが漏れた。
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