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第九話 先輩後輩ごった煮戦線
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しおりを挟む黄色付箋の書類を見て、確認のサインをする。
電卓を取り出し、データ計算の確認。
これは二人以上で確認してサインしなければならない系統のものだ。
相方が忙しいコンビの二人目は、山本がしていた。総括の業務だ。
どこへ逃げてもひょっこりと現れる神出鬼没が相方だったので、俺は総括に回したことはない。
やってることはいつもと同じだ。
すぐに熟す。
「A企画からD企画までの昨日の報告書は、確認済み。事務メンツが作った前年度比較データ、確認済み」
仕事を終わらせるたびに、パソコン画面のチェックをつける。
以前三初が作った課内の企画の進捗を一括で確認するツール。
書類の進捗も、今どこで止まっているのか、どこまで終わっているのか、それがシステム上で見られるようになっているのだ。
三初の怠惰な下準備のおかげで、結果的に宣伝企画課は無駄な手間を省かれている。
そうやってなんでも熟す三初を昔は鼻持ちならないと思っていたが、今はその裏の努力も知っているので、もっと頑張ろうと思うくらいだ。
でも、別にこれは、アイツに報いたいとか思ったわけじゃねぇぞ。
アイツばっかり成果を上げるのがムカつくってだけだ。先輩の沽券ってやつだぜ。
「本当は、書斎に俺が入るのを嫌がるわけ、勘だけど、わかってんだよなぁ……」
周囲の忙しい声も耳に入らないくらい視線やペンを走らせ、キーボードを打ち込む俺は、無意識にボソリと呟く。
三初が俺を書斎に入れないのは、あの膨大な書籍の数や、資料を見られたくなかったからだと思う。
『……先輩に情けないとこはあんま、ね』
俺の名推理。
基本的になんでもそつなく熟す三初だが、熟した結果のクオリティを上げるために、最低限の努力はしていた、ということで。
それが俺にバレるのは、やはりかっこ悪いと思っているわけだろう。
そんな三初がこの膨大な仕事に追われている現状を俺に見られるとわかっていて、俺の助っ人に行ったことが、なんとなーく俺のやる気、じゃなくて負けん気を燃やす。
自分のあれそれを、こうやって遠回しにだが、ちゃんと俺に開示するようになった。
部長は手の空いている人を適当に向かわせる、って言ったんだぜ?
三初の手が空いていたようには見えねぇってのによ。なんだ、コラ。アホ。
眉間にシワを寄せて画面を睨む俺に、用があったらしい同僚たちはそっと踵を反していく。
そんなことにも気がつかない俺は、ターゲットを見つめる殺人鬼の如き目つきだ。
「天邪鬼クソ野郎め。知れば知るほど、ムカつくぜ」
本当に、夏なんてろくなものではないと思う。頭は熱いし、クーラーは効かない。
三十路目前の大人なくせに気持ちの歯止めは奪われ、際限がなくなる。
すぐに思考回路は仕事へ戻っていったが、つじつま合わせを終えた瞬間の俺は、おそらく七月の暑気で立派な熱中症になっていたのだろう。
壊滅的に素直でなくて口が悪く、照れ屋な俺の頬が、しばらく熱を孕んだままだった理由。
──かっこ悪いアイツは、もしかして世界一かっこいいんじゃねぇか? だなんて。
頭の茹った中学生のようなことを、真剣に考えてしまったのだ。
直後に地獄の穴へ埋まりたくなったので、これは永久に俺の黒歴史として墓場まで持っていく所存である。
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