誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第九話 先輩後輩ごった煮戦線

05

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 ◇


 大人は恋をするにもプライベートを充実させるにも、まず仕事をこなさねばならない。

 人生を彩るために仕事をしているのに本末転倒な世の中だが、だからこそ仕事にやりがいを見つけて取り組む。

 新コンビの始動に際して準備期間に引き継ぎを作成し、マニュアルを用意して、俺と三初の仕事は新人コンビに明け渡した。

 一番大変なリサーチやら下準備やら計画やらを終わらせているので、これは経験を積ませるためである。

 なにかあったら聞けと言ってあるしな。

 俺なりに激励の意味を込めて、引き継ぎの時に「頑張れよ?」と肩をポンと叩いた。

 なぜか二人とも青ざめて吃りながら硬直していたが、理由は不明である。

 ちなみに正解は『死ぬ気でやれよ。ミスったら殺すぞ』という副音声が聞こえていた、だ。

 その時の俺は昔馴染みの冬賀や無敵の三初と接していて、最近自分の顔が怖いということを忘れていた。

 目つき、口が悪い。ガタイがいい。声が低い。笑わない。無愛想。

 頭一つ分小さい新入社員にウルトラコンボが決まっていることに、ちっとも気づいていなかったのである。

 そしてそのおっかないレッテルが貼られた俺は、竹本に渡された資料やらなんやらを熟読。

 概要を覚えて自分なりに調べたり、不慣れな仕事に備えることで、忙しい。

 会社には学ぶ環境や先達はいるわけだから、それを生かさないなら俺は無能だ。

 おかげで新コンビ始動を前に、俺と三初はゆっくりする時間なんてなかった。

 残業代や手当は出るけど、それでも頭が爆発しそうになる。

 三初なんて、まったく新しい役職を与えられたのだ。こいつは俺より大変。

 事務に任せられない仕事の雑用係であり、あちこちと企画を持ち寄り自社や外注と戦う俺たちの、総括でもある。

 元々課長や部長を絶妙に手助けして融通を利かせたり、空き時間にダラけるために全体の進捗を把握していた三初だ。

 総括は向いている。
 だが割り振りの改められた総括の仕事量は、膨大。

 普段から仕事が早いのも正確なのも下準備あってこそ、という三初は、その下準備に追われている。

 後で楽をするためには、今苦労しなければならないらしい。

 部屋で唸る俺と、入るなと言われた書斎にこもりっきりの三初とは、家であまり顔を合わせなくなった。

 食事の時間も合わないので、出来合いのもので各自済ませる。

 でも俺が菓子パンばかりかじっていると、三初はそれに気がついたようだ。

 資料を読みながらメモをしていたせいで目が痛く、ココアをいれようとキッチンに行った。

「あ……」

 いつの間にか、具沢山の野菜スープが入った鍋が置いてある。

 そして冷蔵庫には、プリン。
 ずるいだろ?

 そんなことをされたら、余計にあのまったりとした時間が恋しくなる。

 職場でも俺は竹本と一緒に行動しているし、三初は山本と行動しているから、尚更だ。

 二人っきりであまり会えてない。

 なのに、俺が食べてるものまで見てるか? 普通。なんだアイツ。

(ケッ、目ざとくて、いちいちムカつくぜ)

 俺はスープを食べた後不格好なおにぎりを握って、ラップをかけて置いておいた。

「コーヒーばっか飲んでんなよ。アホ」

 勝気に笑って、おにぎりに吐き捨てる。
 俺の小言ごと食いやがれ。

 スッキリとした頭で、俺は再度部屋で過去の資料を見ながら、傾向を学んだ。

 今こうやって基礎を叩き込んで企画を乗り切れば、次からは余裕ができる。

 そうしたらまた、文句を直接言い合いながら共に食事ができるだろう。

 ま、もうちっとだけ頑張るか。



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