誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

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第九話 先輩後輩ごった煮戦線

02

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 兎にも角にも、だ。

 相方ではないのに俺や三初を見た理由はわからないが、この再結成は覆らないだろう。諦めろ。

 会社の決めたことには従うしかないのである。それがリーマンの悲しい性だ。

 ふう、と息を吐く。
 初夏が思ったより暑くて、早めの夏バテがきただけだしな。

 一応、この組み分けの理由がわからないことはない。

 俺が今までしてきた仕事は、あまり人前に出ないものだ。
 販促や営業的なイベントの企画ではなく、新商品やキャンペーンをネットや店頭でアピールする企画が多かった。

 しかし竹本の企画はバレンタイン然り、春祭りの企業出品然り、実際に物を買う顧客へ試食会やイベントを打ち出す仕事が多い。

 お互いの仕事がお互い経験不足なので、違う視点から仕事をさせてみようということだろう。

 そして俺と同じく裏方企画を熟していた三初は、企画課全体の補佐をしながら手の足りないところを助ける役目をしていた、山本と組ませられた。

 これも、上司の意図は〝再結成を機会に持て余していた三初を合法的にオペレーターとして起用し、全体の仕事をさせよう〟というものだ。

 でなきゃ全員が忙しかった時のために常に恒常企画担当として実質リーダーになっていた山本と、組ませるわけがない。

 アンケートをまとめるだけが山本ではなかった。

(これもまあ、理にかなってんだよな。……うん。別に、やっぱなにもおかしなことはねぇから、従うしかねぇけどよ)

 上司の意図をちゃんと理解して納得しているはずの俺は、それでも朝礼の最中で腕を組み、思考回路をグルグルと巡らせる。

 そうしていると不意にトン、と三初の肩が俺の肩に当たった。

「? ンだよ」
「あー……別に?」
「今忙しいってのに、わけわかんねぇやつだな」

 首を傾げる俺から目を逸らすので、俺も視線を前に戻す。

 朝礼もそろそろ終わりだろう。
 各々仕事の引継ぎがあるだろうということで、新チームの始動は来週からだ。

 うまくいくのかはわからないし、一社畜に覆せることではない。

 それに、七月中までは家に帰れば会える。

 そうじゃなくとも出勤すれば隣のデスクにいることは変わらないし、企画を練りあったり助け合うことができないだけで、仕事の話もできる。

 なにも問題なんかねぇんだ。
 そうだ。よく考えればそれほど今と変わる気がしない。

(なんだ、全然拗ねるこたねぇぜ。物足りなくなんかねぇ)

 そうに決まっている、のに。

 自分に言い聞かせながらなんだかモンモンとする俺は、ほんの少しだけ寂しいような、謎の喪失感に駆られていた。

 プライベートの距離が詰まったと思えば仕事に引き離されるなんて、俺はやっぱり絶妙に次から次へと振り回される呪いにかかってんのか?

「……どうしよっかなー」

 割と真剣にそう思った俺は、隣で先々を懸念してぼやく三初の姿なんて、気が付くわけがないのだ。



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