誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
361 / 454
第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

29

しおりを挟む


「親父がフラフラしてたから、母さんは俺を厳しく育てたんだよ。長男だから下の子の面倒を見て、守りなさい。仕事にも勉強にも手を抜かず、責任をもってやりなさい」
「おかげで先輩は社畜脳に、甘え下手、と」
「ほっとけ。テメェに言われたかねぇ」

 茶化す三初に悪態を吐く。

 確かに必要以上に甘えなかったから、未だに体調不良で弱ると寂しくなりすぎて丸くなってしまう。

 だがそれは俺の元々の性格もあるのだ。
 友達にも恵まれていたので、ずっと気を張って生きていたわけじゃない。

 俺が弱ったらそばにいる、素直じゃない恋人もいるしな。結構、人生満ちてる。

「ゲホッ……年上だからってそんなことされたら、俺は一生面倒みられんの? 冗談でしょ。マジ勘弁」

 咳き込んだ三初はボソリと呟き、俺の頭を軽くなでた。
 母親の教育方針に不満があるらしい。

 よく聞くと、俺の父親にも「本人と会うことあったら、ま、ボディブロウでもキメておきます」と素知らぬ顔で呪詛を吐いた。

 なんだよ、甘やかしてんのか?
 ククク、と笑ってしまう。

 途端に髪をキツく掴まれた。病人のくせにクソ痛てぇ。足を蹴ってやる。

「今度はお前の話を聞かせろよ。俺だけってのはフェアじゃねぇだろ」
「俺の? 生まれて生きて、今。以上」
「ふざけろ」
「いて」

 素早くもう一度蹴ってやった。
 ちゃんと言い合うって決めたところなのに、これだ。

 ケッ。俺を舐めんなよ。どれだけヘビィな内容でも、キチッと受け止めてやらぁ。

「んじゃ、俺の家のこと、まぁ……掻い摘んで言うと、会社経営してる家で、俺はそこの跡取りだったんですよね。生まれつき。ガチガチの英才教育。自由なしで、将来強制。俺のこびりついた天邪鬼と弱みを握って保険かける癖は、そのへんから来てるんですけど」
「思った以上にヘビィだったわチクショウ」

 心に決めた矢先。

 ドラマのような話を聞かされ、途端に顔がクシャッとへちゃむくれてしまった。
 三初は愉快げに笑っている。

 いや、笑ってんな。自分ちのことだろ!
 人格形成にそこまで関わってくるとか、そんな家嫌だわ!

「はっはっはっ。昔の話ですよ? 今はなんか、こう、頭の線がある日突然ブチッとキレちゃって。そんで跡継ぎの権利とかぜーんぶ弟にあげて、地元離れてこっちで就職したんですよね」
「重いわァめちゃくちゃ重いわァ……ッ!」
「あっはっはっは! っぅえっ、ゲホッゴホッあはははっ」
「噎せるほど笑ってんじゃねぇよ風邪っぴきッ! 俺の苦々しい顔がそんなに面白いか三初ェ……ッ!」
「ぷっく、くくく、本人より重く受け止めてプルプル震えてんのとか笑うしかないでしょ」

 一番重く受け止めるべき当人があっけらかんと笑っているなんて、意味がわからない。

 ゴスッ! ゴスッ! と脛を蹴りあげて足をもだつかせるが、絶妙に脛を照準からズラされる。

 本来なら悲壮感たっぷりに実は俺の家は……っ、と涙ながらに語り始めてもおかしくない案件なのだ。

 もう父親とは離婚していて兄妹も成人済みで関わりのない俺は、正しく過去の出来事で処理済みである。

 しかし三初はそうではない。
 歪められた自分ごと捨ててなかったことにしても、多少は自分を哀れんでもいいと思う。

 三初が三初を大事にしねぇのは、俺は全然気に食わねぇ。

「ゲホッ……いや。それ丸ごとあんたのことね。愛護して、自分。先輩は俺を振り回せるから俺のダサいところ知ってて、わかってないと思いますが……俺は先輩が思ってるより、自己中で図太いですよ。マジで」
「あぁん? よくわかんねぇけど、マジなもんかよ」
「わかんなくていいですけど、マジですよ。ゴホッ」

 サイボーグ疑惑はあっても実際サイボーグではないとわかっている俺は、当然恋人を贔屓して、当然気にかけるに決まってる。

 図太くて自己中な暴君様だとしても、全てがそれで構成されているわけじゃない。



しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

上司と俺のSM関係

雫@更新予定なし
BL
タイトルの通りです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...