誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
357 / 454
第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

25(side三初)

しおりを挟む


 生まれや育ち、環境、過ぎたことは本当に気にしていない。
 自分を哀れにも思っていない。強がりでも嘘でもなく、事実。

(…………だと思ってるんだけどなぁ)

 静まり返った部屋で、ほんの少しだけ、過去に飛ぶ。

 俺は常に笑って誰にも屈さず、本心を悟らせてはいけないと言われてきた。

 そこそこ大きな会社をひとつ運営する責任者になるなら、強かでなければならないのだ。

 今時世襲制なんてと笑うには、うちは徹底した家庭だった。

 毎世代会社に優秀な人材がいるとも限らないから、優秀な跡取りを育てておく。

 先々代からそうしてきたらしい。
 簡単に言えば、英才教育の極みだ。

 それも、俺は悪い面だけではないと良いように捉えた。

 能力値をあげる機会を与えられてきたのは、恵まれていると思っている。事実だ。

 ただそれは、先行投資。
 じゃあ、一度たりともしくじったらダメ、なんだよ。

 幸か不幸か、俺は大抵のことは学べば学んだだけ習得できた。

 お陰でしくじることなく要領よく生きられても、そんなお家ルールが、面倒くさくなることもある。

 仕事の出来高とか能力を〝俺〟と定義する世界だからだ。育った場所は。

 求められた期待を外れると、戦犯のようにあげつらわれる。

〝アイツならできるかもしれない期待〟というものが〝アイツがやって当然〟になったなら、それは都合のいい押しつけだろう。

 それが鬱陶しくて出ていった。
 それだけだ。

 自分で出て行って自分の決めた生き方をしているから、今更特に嫌悪もないし、実家に戻る気もない。

 だけど今日父親と話して通話を切った後に、ドッと疲れが出た。

 頭が痛くてそのまま突っ伏し、気が付けば起き上がれなくなっていたのだ。

『……思っていただけで、割と気にしてたのかねぇ』

 そっと過去から帰還する。

 高熱で倒れてテーブルの上のスマホの画面が光った時、過った。

 昔。倒れた日のこと。
 習い事や勉強をキャンセルして、一人で丸くなっていた。

 ため息混じりに一瞥され、なにも言わずに背を向けた父親。

 ──先輩には、そうされたくない。

 絶対に受け入れてくれるとなんとなくわかっていたのに、それが過ぎるとダメだ。

 先輩だからこそ、甘えてしまいたくなる。

 弱ってしまいたくなるから、絶対に、かっこ悪い俺は見せたくなかった。

 押し付けない先輩だからこそ俺は期待されたいし、その期待を外したくないし、甘やかす側でいたい。

(……まぁ、要するにただのかっこつけ、ですけどね)

 父親に嫌味言われて荒んで風邪でぶっ倒れたとか、ダサすぎる。

 はぁ、全部父親のせいだろ。
 本気でいつか泣かす。

 どれだけ心の中で父親に呪詛を唱えようとも、俺の気分は最悪だ。

 そもそも、なんで二度もこんなもん聞かされなきゃいけないのかねぇ。つまんねぇの。

 せっかくさっきまでリアル御割犬(まあ夢だけど)と戯れて愉快だったのに、気分に水を差された。

 俺はその場にしゃがみ込んで、何度目かの溜息を吐く。

 一応家族だと、はいはいシカト、ということはできない。

 だから仕事を手伝って関わり持つのを拒絶しないのに、なぜ釘を刺すのか。

 体が重くて、頭が痛かった。
 すぐに立とうと思っていたのだが、なぜか立ち上がることができない。

 夢なのに。風邪菌は夢まで侵食するってことか。めんどくせーな。はぁ。

 仕方なく立てるようになるまでじっとしていると、不意に──ペロ、と指先を舐められる感触がある。

『え……』
「クゥーン」

 顔を上げると、そこには静かにおすわりしていた先輩がいた。

 顔を上げた俺に、先輩はドンッと勢いよく飛びかかってくる。

『おっと』
「アゥン」

 いつの間に触れるようになったのやら。

 思いっきり飛びかかられたおかげで尻もちをついてしまったが、先輩はお構いなしに俺に身を寄せ、黙ってじっとしている。

 その表情は犬の身ながら、仏頂面だ。
 首をかしげると、いっそうグッと体を押し付けてくる。



しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

熱のせい

yoyo
BL
体調不良で漏らしてしまう、サラリーマンカップルの話です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

処理中です...