誰かこの暴君を殴ってくれ!

木樫

文字の大きさ
上 下
356 / 454
第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ

24(side三初)

しおりを挟む


「ゥウォウ」
『ん?』

 少し自分の家族と対比させていたところ、通話を終えた先輩が俺の存在に気がついて鳴いた。

 見えるようになったのかね。
 一歩前進。俺の夢、もちっと気張れよ。

 チャッチャとフローリングを爪で鳴らして近づいてきた先輩が、アウウォンと話しかけてくる。

「ウゥーン? ウォン、ウアゥ」
『なに。なんか聞いてるんですか。もっとヒントちょーだい』
「ガウ、アォン」

 相変わらず触ることはできないけれど、視界に映れるのは気分がいい。

 じっと黒い瞳に見つめられると、自然に笑みが漏れた。

 くくく。犬になっても先輩はかわらねーなー。見てるだけで愉快だ。

 しゃがみこむ俺に言葉が通じなくてフン、とそっぽを向いたが、アウアウとくだを巻いている。

 まあそう拗ねずに。
 俺もわかってやりたいんですよ。

 そうして霊体の俺と犬の先輩が弊害がありつつもじゃれていると、突然ローテーブルの上に置いてあったパソコンが起動した。

 書斎に置いてあるはずのデスクトップだ。
 なぜここにあるのかわからない。夢だからだろう。

『──要』
『……夢、めんどくさいなぁ……』

 真っ白な画面のパソコンから聞き覚えのある声が聞こえ、ふうと溜息を吐く。

 それは今日突然会議に出ろなんて命令した、俺の父親の声だった。

 おかげでびしょぬれのまま頭を使って愛想笑いをしていたものだから、見事に風邪っぴきで先輩に世話を焼かせるはめになったわけだ。

 俺は父親に興味がない。

 仕事は少しだけ会社の臨時雇い的な扱いでまわされ、関りを持つようにされているけれど、それがボーダーラインだ。

 それ以上の関りは億劫。
 なにかあった時だけにしてって言ってるんだけどさ。

 もう跡取りを辞退して家を出たし、嫌いでも好きでもないから、関わらないでほしいと思っている。ノリが合わない。

 そんな感じだから、別に仲が悪いわけじゃないんだけどね。

 弟とも、他の家族とも、そんな感じ。

『要。私はお前を、幼い頃から手塩にかけて教育したのだ。なのに、なぜそれをうちの会社で生かさない? 全てが無駄だ。いい加減、気まぐれな放蕩も飽きてほしいものだな』

 電子音で構成された父の声は、実際に聞いたセリフだ。

 この人は俺よりも感情の抑揚がない。
 言ってることはいつも理解できるが、どういうつもりなのかは興味がなかった。

 俺が家を出て適当に決めた会社に入ったことを、道楽だと思っている。

 なんだろうな。めんどくさい。
 跡継ぎは弟で決定しているのだから、もう俺が帰らなくてもいいと思うんだけど。

 弟もその気で異存はないし。
 金と権力が大好きな弟と自由が欲しい俺とで、利害は一致している。

『あまり失望させないでくれ。要はやればできるだろう? できるなら、きちんと能力に見合ったところで発揮するのができる者の義務だ。やらないなら、お前はいないのと同義である。……わかったね?』

 いえ? 全然わかりません。内心で呟く。

 それがわかったなら──やってできなかった時、たぶん俺は死ぬんだろう。

『はぁ…………クソ親父。俺が一人の時にかけてきてほしいね』

 チッ、と舌を打って悪態を吐く。

 現実でもそうだったように、パソコンはブン、と音を立ててシャットダウンされ、画面が暗くなった。

 言い逃げか。これは大きな借金だ。いつか、仕返しする。



しおりを挟む
感想 137

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

処理中です...