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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
23(side三初)
しおりを挟む──夢は実際の記憶に基づくもの。
その理論でいくと、一応今の状況は納得がいくものかもしれない。
ふわふわと半透明の目視できないなにかしらになった俺は、風邪由来の不調から解放されて気分はいい。
寝室の宙に漂いながら腕を組み、ベッドを見下ろす。
そこにいるのは丸くなって眠る俺と、その俺のそばでうろうろと落ち着かない様子の黒い大型犬だった。
仮定するならまず間違いなく、俺を看病していた御割先輩だろう。
厚みのある耳がペタンと倒れている。
クゥーンクゥーンと鳴いて俺の手を舐める様は、まるっきり犬だ。
『うーん……でも触れないんだよなぁ。声も聞こえないし。理解できてるのに主の思いどおりにならないなんて、さ』
御割犬と化した先輩をなでてみても感触がない手を見つめ、呆れた息を吐く。
夢のくせに、不便なものだ。
もどかしいから半端に先輩を出さないでほしい。俺の許可取れって感じ。
先輩はどういう原理なのか物理法則を無視して背に食事や水を乗せて、俺のそばに運んでくる。
加湿器もつけたし、体温計も持ってきた。
犬に看護をされる貴重な体験の対価として起き上がってあげたいけれど、中身のない俺は起き上がれない。
こればっかりは、俺にはどうしようもないからね。
現実の俺の目が覚めなければ、戻れないし。マジで不便。
先輩はたしたし、とベッドに前足をかけ、丸くなった俺の上に顎を添え、クゥン、と鳴く。
拗ねているようだ。これだけ構い倒したのに、成果がふるわないからだろう。
アゥアゥ、ウォウ、となにか話しかけているが、犬語はわからない。
それはまぁ、ムカつくなぁ。
俺に伝わらないなら、それは先輩の使っていい言葉じゃないですよね、って気分。
俺の顔に鼻先をくっつけてペロリと舐めた先輩は、いつの間にか空になっていた食器を背に乗せてリビングへ向かった。
ふわふわ浮かぶ俺はそれについて行く。
やることないしね。
自分のつまらない寝顔を見ているより、御割犬の行動を眺めてるほうがよっぽど有意義だ。
先輩は踏み台を使ってシンクに顔を出すと、前足でふみふみと食器を洗う。
途中着信が入り鼻先でツンとスピーカーにすると、スマホの向こうからはキャンキャンと小型犬の鳴き声がした。
『あーね。美環ちゃんか。へぇ、美環ちゃんも犬化してんだ』
アウアウ、キャンキャン。
なんで成り立っているのかわからない会話をしながら、先輩は洗い物を済ませる。
つまり俺の脳は、完全に御割兄妹を犬系コンビと認識しているわけだ。
顔とか全然似てないのに性格は似てるって、兄妹って凄いね。
俺にも一応弟がいるけど、性格はあそこまで似てないと思う。
『ふー……』
自分の家族を思い出すと、夢仕様で消えたはずの熱が戻った気がした。
だるいな。うちの家は、めんどくさい。
そしてなにより、つまらない。
勝手な期待を押し付ける人間が大嫌いだ。
期待を外れると殺しにかかってくるから、反吐が出る。そんな家族。
期待を外れないために、なんでもある程度できるようになった。
俺は家族だろうが、気を許せない。
犬と犬の通話を聞いていると、言葉がわからなくとも空気はわかる。
先輩と美環ちゃんが本当に家族らしい家族をしているのが、よくわかった。
いいね。だから先輩はあけすけなんだなぁ。お互いが、大事にし合っている。
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