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第八話 シスターワンコとなりゆきブラザーズ
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しおりを挟むせき込む高温の三初が腕の中で震えるのをなだめてやりながら、俺は内心ギクッと肩をすくめる。
だってよ、今日だけは俺の天下なんだぜ?
ここぞとばかりに当たり前に焼かれていた世話を、全力で焼き返してやんよ。
覚悟しやがれ、風邪っぴき。
そんで早く治せ。
治れ~治れ~、という念を込めてスリスリと頭に頬を擦り寄せて、抱きしめる腕の力を強める。
すると三初は盛大にゲホゲホと咳き込んだ後、布団の中から頭を出した。
そしてモゾモゾと身じろぎ、体を反転させて俺の頭を正面から抱きしめ返す。
オイ。なんで俺が抱きしめるのはダメで、テメェが抱きしめるのはイイんだよ。
なにルールだコラ。
視界がテメェの鎖骨一色じゃねぇか。
「ゲホッ……うぇ、や……バックハグ、は、あー……後日正式な回答をさせていただきますので、まず、なんだ……一連の担当者様の行動について、説明と弁明を……」
「黙って寝ろっつってんだよこの捻くれポンコツ野郎」
ハグのマウントを取り返した挙句に文句を言い始めた三初の背中を、ベシッと叩く。
コイツのこのビジネス対応は、確か取り繕えないほど動揺した時の反応である。
なんで俺が抱きしめたら激しく動揺したんだチクショウ。
俺にもたまには甘やかす権利をよこせ。本来俺も彼氏様なんだぞコノヤロウ。
「はぁ。名誉棄損で訴訟も辞さない」
「ケッ。風邪治してからならいくらでも裁判してやらぁ」
結局いつも通りの体勢になってしまい、不貞腐れた俺たちはケンカ腰で抱き合う。
抱きしめられるより抱きしめるほうが断固いいらしいが、追い出そうという気はないらしい。素直じゃねぇの。
(そういうところはイラつくけど、嫌いじゃねぇんだよな)
三初の言葉は、意味がない。
行動には、必ず意味がある。
それさえわかれば、三初はもう〝どうしても理解できない存在〟ではなくなっていた。
全部理解はできずとも、腕の中には収まるのだ。そういう恋人。
ようやく大人しくなった三初の背中をトン、トン、と叩いてやりながら、俺も特にやれることがないので、目を閉じた。
目を閉じると、聞こえてくるのは加湿器の音と二人分の呼吸音だけだ。
普段は俺のほうが体温が高いのに、今は三初のほうが高いので妙に安心感がある。
他人の体温ってのは、やっぱり安らぎ効果があるらしい。
「…………」
「……お……」
しばらくして、寝かしつけていた体がピクリとも動かず、頬を擦り寄せる胸が一定のテンポで上下することに気がついた。
顔をあげると、三初は真っ赤な頬を緩ませ、印象的な色香のある目を閉じている。
長いまつ毛が目元を縁どり、こびり付いた仮面がどれも跡形がないほど、表情筋は弛緩していた。
熱っぽさはあるものの眉間にシワはなく、辛苦のない穏やかなものである。
(やっと寝たか……つか、コイツの寝顔なんか初めて見たぜ。なんか、レアモノだよな)
ほっと胸をなでおろした。
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